【嫉妬の章】狩る側と狩られる側
空気は、まだ重い。
だが――
もう“押し潰される”ほどではない。
サミエムが息を吐いた。
血の味が口に広がる。
「……いけるな、これ」
視線の先。
ガルド・ヴェルガ。
確かに強い。
だが、さっきまでの“手も足も出ない存在”ではない。
ヘリオが低く言う。
「精度を維持しろ」
「分かってる」
短く返す。
灰崎は何も言わない。
ただ、見ている。
色を。
流れを。
そして――
“次”を。
「来るぞ」
その一言。
三人が同時に動く。
ガルドが踏み込む。
速い。
だが、もう見失わない。
サミエムが先に動く。
「風――炎――雷!」
拡散。
面制圧。
逃げ場を削る。
ガルドの動線を限定する。
その先に――
ヘリオ。
最短距離。
無駄のない踏み込み。
短剣が閃く。
狙いは同じ。
足。
機動の要。
ガルドが受ける。
腕で。
その瞬間。
“止まる”。
「――そこだ」
灰崎が踏み込む。
迷いはない。
一直線。
拳を叩き込む。
衝撃。
今度は明確に。
ガルドの体が“後ろに動いた”。
泥が跳ねる。
距離が開く。
サミエムが笑う。
「効いてんじゃねえか!」
追撃。
止まらない。
三人が、流れるように動く。
サミエムが面を押さえる。
ヘリオが一点を削る。
灰崎が決定打を入れる。
繰り返す。
精度が上がる。
無駄が消える。
連携が“噛み合う”。
ガルドの体に、傷が増えていく。
浅い。
だが、確実に。
「……いい」
ガルドが呟く。
息は荒い。
だが、その目は死んでいない。
むしろ――
さらに輝いている。
「いいぞ」
踏み込む。
さっきより速い。
だが、追える。
サミエムが制圧。
ヘリオが斬る。
灰崎が打ち抜く。
また通る。
また削る。
確実に、追い詰めている。
「終わりだな」
サミエムが笑う。
だが、その瞬間。
灰崎の目が細くなる。
(……違う)
色が。
ガルドの内側。
変わっている。
歓喜はそのまま。
だが――
深い。
さらに深く。
沈んでいる。
「サミエム、下がれ」
「は?」
間に合わない。
ガルドが、笑った。
静かに。
だが、今までで一番“冷たい”笑みだった。
「足りん」
その一言。
空気が、歪む。
重さが増す。
湿地が沈む。
次の瞬間。
ガルドが消えた。
今までと違う。
“完全に”消える。
「――ッ!?」
ヘリオが反応する。
だが遅い。
背後。
衝撃。
サミエムの体が弾かれる。
「がっ……!」
地面を転がる。
さっきまでとは桁が違う。
重い。
速い。
見えない。
ヘリオが踏み込む。
迎撃。
だが。
空を切る。
次の瞬間。
横から衝撃。
体勢が崩れる。
灰崎が動く。
予測。
色を追う。
だが――
(……追えない)
さっきまで見えていた“前兆”が、消えている。
ガルドの感情は変わらない。
だが、その出力の仕方が違う。
内に沈んでいる。
外に漏れない。
だから、読めない。
「どうした」
ガルドの声。
どこから聞こえるか分からない。
「さっきのはどうした」
挑発。
だが事実だ。
連携が、崩れている。
サミエムが立ち上がる。
息が乱れる。
「……クソが」
理解する。
相手が、さらに上に行った。
「第二段階ってか……」
ヘリオが低く言う。
「いや……違うな」
視線を巡らせる。
「“慣れた”だけだ」
その一言。
重い意味を持つ。
魂術。
発動しただけじゃない。
“戦闘の中で最適化している”。
灰崎は歯を食いしばる。
(……読みが通らない)
だが。
終わりじゃない。
見えなくなっただけだ。
なら――
もう一度、見つける。
ガルドが笑う。
楽しそうに。
心底。
「いい」
その声は、歓喜そのものだった。
「もっとだ」
求めている。
さらに上を。
その欲望が――
戦いを、さらに激しく歪ませていく。




