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【嫉妬の章】魂の臨界

 空気が、沈んだ。


 重い。


 ただそれだけで、呼吸が浅くなる。


 ガルド・ヴェルガは、動かない。


 だが、その場に立っているだけで分かる。


 “変わった”。


 サミエムが一歩引く。


 無意識だった。


「……なんだよ、これ」


 喉が渇く。


 さっきまでとは明らかに違う。


 強さじゃない。


 もっと根本的な何か。


 ヘリオが低く言う。


「……来るぞ」


 灰崎は目を細めていた。


 見えている。


 色が。


 ガルドの内側。


 歓喜が、限界を越えている。


 戦い。


 強敵。


 壊し合い。


 その全てが一点に集まり――


 “燃えている”。


(……到達したか)


 魂術。


 感情の臨界。


 それを越えた先。


 ガルドが、ゆっくりと息を吐いた。


「……いい」


 声が低い。


 だが、その奥にあるものは、さっきとは別物だった。


 純粋な喜びではない。


 もっと鋭い。


 研ぎ澄まされた狂気。


「最高だ」


 その瞬間。


 ガルドの足元が弾けた。


 消える。


 いや――


 速すぎて見えない。


「――ッ!!」


 サミエムが反応する。


 遅い。


 視界の外から、衝撃。


 横から叩きつけられる。


「がっ……!」


 吹き飛ぶ。


 地面を転がる。


 何が起きたか分からない。


 次の瞬間。


 ヘリオが動く。


 直感で。


 背後へ。


 短剣を振るう。


 ――弾かれる。


 重い。


 完全に上から叩き潰される。


 体勢が崩れる。


 ガルドが、そこにいた。


 さっきまでいた場所から、一歩も動いていないような顔で。


「遅い」


 低い声。


 蹴り。


 ヘリオが吹き飛ぶ。


 泥を跳ね上げながら滑る。


 灰崎だけが、動いていた。


 予測。


 ではない。


 “見ていた”。


 色の動き。


 感情の流れ。


 その先。


 そこに合わせて動く。


 ガルドの背後に回る。


 拳を叩き込む。


 だが――


 当たる直前。


 ガルドが振り向く。


 速い。


 反応ではない。


 “知っていた”ような動き。


 腕で受ける。


 止まる。


「いいな」


 ガルドが笑う。


 次の瞬間。


 衝撃が返ってくる。


 ただの防御じゃない。


 打ち返された。


「……ッ!」


 灰崎の体が浮く。


 地面に叩きつけられる。


 息が一瞬止まる。


(……違うな)


 理解する。


 さっきまでとは別物だ。


 力も。


 速度も。


 そして――


 “精度”。


 無駄がない。


 全てが研ぎ澄まされている。


 サミエムが立ち上がる。


 血を吐く。


「クソが……!」


 だが、目は死んでいない。


 むしろ燃えている。


 恐怖と興奮。


 その両方。


「まだだ!」


 踏み込む。


 もう一度。


「風――炎――雷!」


 三属性。


 今度は迷いがない。


 まとまっている。


 だが。


 ガルドは、避けない。


 その場で。


 拳を振るう。


 正面から、叩き潰す。


 爆発が弾ける。


 消し飛ぶ。


「なっ……!?」


 相殺じゃない。


 上から潰された。


 力で。


 サミエムの目が見開かれる。


 ヘリオが低く呟く。


「……完成している」


 違う。


 これは“発動しただけ”じゃない。


 “使いこなしている”。


 灰崎はゆっくりと立ち上がる。


 体は痛む。


 だが、問題ない。


 それよりも。


 目の前の存在。


(……ここまでか)


 頂点。


 ガルドは、そこにいる。


 歓喜は変わらない。


 だが、その質が違う。


 荒れ狂うものじゃない。


 静かに燃える。


 制御された狂気。


「いい」


 ガルドが言う。


「最高だ」


 一歩踏み出す。


 それだけで、圧が来る。


 空間が歪む。


 湿地が沈む。


「もっとだ」


 その一言で分かる。


 まだ終わらない。


 こいつは、さらに求めている。


 灰崎は息を吐いた。


 ここから先。


 真正面からぶつかるしかない。


「サミエム」


「……ああ」


 短い返事。


 理解している。


 もう小細工は通じない。


 ヘリオも構える。


 わずかに姿勢を低くする。


 その目は冷静だ。


 だが、その奥にあるものは別だ。


 覚悟。


 三人。


 全員が理解している。


 ここからが、本当の戦いだと。


 ガルドが笑う。


 静かに。


 だが、確実に。


「来い」


 その一言で。


 戦いは、次の段階へと進んだ。

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