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【嫉妬の章】重ねる力

 音が、戻ってきた。


 拠点の外に出た瞬間、世界が広がる。


 人の気配。


 足音。


 遠くの話し声。


 だが、それでも抑えられている。


 シレヴァルトの空気は、どこまで行っても変わらない。


「……やりづれえな」


 サミエムが肩を回す。


「声出せねえってだけで、こんなストレス溜まるとはな」


「出さなきゃいいだけだ」


 ヘリオは淡々と返す。


「簡単に言うなよ」


 軽口。


 だが、その裏にはわずかな緊張がある。


 ヘリオは足を止めなかった。


 人通りの少ない道を選び、さらに外れへ。


 やがて、建物の影が薄くなり、開けた空間に出る。


 整備されていない空き地。


 誰もいない。


 いや――


 “来ない場所”だ。


「ここならいい」


 ヘリオが言う。


 サミエムが眉を上げる。


「いいって何が」


 ヘリオは振り返った。


「やるぞ」


 短い一言。


 サミエムの表情が変わる。


「……マジか」


「今のままじゃ足りない」


 即答だった。


 サミエムは小さく笑う。


「分かってるよ」


 そして、剣を抜いた。


 金属音が、やけに大きく感じる。


 だが、誰も来ない。


 この場所は、そういう場所だ。


 灰崎は少し離れて立った。


 邪魔にならない位置。


 そして、見る。


 色を見る。


 ヘリオの感情は、相変わらず薄い。


 だが、その奥にあるのは――厳しさ。


 サミエムの色は、濃い。


 焦り。


 悔しさ。


 そして、越えようとする意思。


「まず確認だ」


 ヘリオが言う。


「二属性」


「問題ねえ」


 サミエムは即答する。


 魔力を流す。


 剣に集める。


「風――炎」


 同時発動。


 刃が軽くなる。


 炎が纏う。


 揺れる。


 だが、安定している。


 ヘリオは頷いた。


「及第点だ」


「上からだな」


「事実だ」


 即答。


 サミエムは苦笑する。


「で、次だろ」


「ああ」


 ヘリオの目がわずかに細くなる。


「三つ重ねろ」


 空気が張る。


 サミエムは一瞬だけ黙った。


 そして。


「……やってるっての」


 低く返す。


 だが、その色は揺れている。


 不安定。


 まだ掴めていない証拠。


 サミエムは深く息を吸う。


 吐く。


 集中。


 魔力を整える。


「風……炎……」


 ここまでは問題ない。


 そして。


「……雷!」


 瞬間。


 魔力が弾ける。


 三つがぶつかる。


 混ざらない。


 反発する。


「――っ!」


 暴発。


 爆ぜる。


 衝撃が走る。


 サミエムの体がわずかに弾かれる。


 足がずれる。


 剣がぶれる。


「遅い」


 ヘリオの声。


「順番を意識するな」


「同時にやれ」


「無茶言うな!」


 サミエムが吐き捨てる。


「同時にやってるつもりだ!」


「“つもり”だ」


 ヘリオは一歩踏み出す。


「ズレてる」


「風が先に走ってる」


「炎がそれを追う」


「雷が遅れる」


「だから衝突する」


 サミエムは歯を食いしばる。


「じゃあどうしろってんだよ」


 ヘリオは即答した。


「一つにしろ」


 沈黙。


「……は?」


「三つを別で考えるな」


「一つの現象として捉えろ」


 サミエムの理解が追いつかない。


 だが、ヘリオは止めない。


「炎と雷で何が起きる」


「……爆発、か」


「風を混ぜたら?」


「……拡散?」


「違う」


 ヘリオの目が鋭くなる。


「制御だ」


 その一言で、空気が変わる。


「広げるんじゃない」


「まとめる」


「暴発させるな」


「閉じ込めろ」


 サミエムは黙る。


 思考が回る。


 灰崎はそれを見ていた。


 色が変わる。


 焦りが、少しずつ整理されていく。


 理解へ向かう色。


「……やってみる」


 サミエムが低く言う。


 再び構える。


 今度は、ゆっくり。


 急がない。


 魔力を練る。


 まとめる。


「一つ……」


 呟く。


 意識を変える。


「現象として……」


 そして。


「――重ねる!」


 三つの魔力が動く。


 今度はぶつからない。


 絡む。


 まとまる。


 刃に収束する。


 赤。


 紫。


 透明な風。


 それらが一つの塊になる。


 不安定。


 だが、崩れていない。


「……いける!」


 サミエムが踏み込む。


 振るう。


 空を裂く。


 その瞬間。


 爆ぜる。


 だが、さっきとは違う。


 制御された爆発。


 一点に集中し、前方に叩きつけられる。


 地面が抉れる。


 土が吹き飛ぶ。


 衝撃が遅れて広がる。


 静寂。


 サミエムはその場に立っていた。


 剣を握ったまま。


 呼吸が荒い。


「……できたか?」


 ヘリオは首を横に振った。


「未完成だ」


 サミエムが顔をしかめる。


「だろうな」


 自分でも分かっている。


 安定していない。


 一瞬だ。


 持続しない。


「だが」


 ヘリオが言う。


「入口には立った」


 それは、評価だった。


 サミエムは小さく笑う。


「そりゃどうも」


 だが、その目はまだ諦めていない。


 もっと先を見る目だ。


 灰崎はそれを見ていた。


 色が変わっている。


 さっきまでの焦りが、確信に変わり始めている。


 まだ弱い。


 だが確実に。


「オールエンチャント」


 ヘリオが呟く。


「それは、その先だ」


 サミエムは何も言わない。


 だが、理解している。


 これはまだ途中だ。


 完成ではない。


 ただの入口。


 それでも。


 確実に一歩、前に進んでいた。

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