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銀河帝国皇帝アスカ様 零ーZEROー ~スペアボディと呼ばれた彼女が皇帝陛下と呼ばれるまで~  作者: MITT


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第十八話「ヤクーツク元帥」③

 もっとも、これはLucifer禍が起きる前、2030年に常温核融合と言う次世代エネルギーが実用化された時点で予想されていた事だった。


 ある日、唐突にインターネット上に詳細な技術文書が公開された事で、世の中にもたらされた常温核融合は、文字通りのエネルギー革命となって、一夜にして世界を変えた……その程度のインパクトはあった。

 

 常温核融合……これは、一言で言ってしまえば、海水に微量に溶け込んだ水素原子を特殊合金製の凝縮触媒で回収しつつ、凝縮し核融合反応の燃料として使う……そんな技術なのだ。


 なにせ、パラジウムを素とする特殊合金をナノ単位で精密加工したパラジウム・コアと呼ばれる金属触媒を濃縮した海水に漬け込むだけで、次々と水素を吸着し、高濃度水素を蓄えていく……。

 これが一般家庭でも使われている水素カートリッジの正体なんだよな。


 そして、その状態でとある特殊な波形パターンの電気信号を流すことで、パラジウム・コアは更に水素の吸着凝縮を繰り返し、やがてコア内の水素原子の密度は原子核融合を起こす程となり……そして、核融合を起こし、膨大な熱源となることで発電エネルギーとなる……。

 

 この海水からのパラジウム・コアによる水素の分離濃縮技術自体も常温核融合と同時にインターネット上に公開された技術だったのだけど……。

 

 当時は、その出所は全くもって不明……けれど、追従実験の結果、それまで研究されてきた常温核融合の効率を遥かに大きく上回る実用レベルに足る完成度の技術として完成されていると、そう実証された事で一気に実用化が進んだ。


 ちなみに、これは当時はまだ胎動期と言えたアマテラスの仕業。

 直近の課題として、とりあえず、石油中心のエネルギー供給構造をどうにかしないと、何もかも手遅れになるという事で、見切り発進的に技術放出を行ったんだとか……。


 もっとも、パラジウム・コア方式の常温核融合の難点として、海のすぐ近くでないとコスパ的に成り立たないと言う欠点があった。

 

 要は、膨大な量の海水を燃料代わりにするようなもので、水素を回収した海水についても、冷却して再度海に戻す過程が必要となった。

 

 まぁ、別に水素を回収し、核融合熱で発電ボイラーを回して不要になった熱々の海水をそのまま地面に垂れ流しにしたり、近くの適当な川に流すのもありっちゃありなんだけど……。

 

 川に熱湯状態の海水を流すなんて酷い環境破壊も良いところだし、その辺に撒いたら撒いたで、今度は一帯に塩害により死の土壌が出来上がってしまうからねぇ……。


 そう言うことなら、ある程度冷ましてから、元の海に戻すってのが一番てっとり早い。

 もちろん、環境負荷は少なからずあるんだけど、海水を海に戻すだけの話だから、広くあちこちに戻すようにすれば、そこまで大きな問題ではなくなってしまう。


 もっとも、そうなると必然的に海に面した沿岸部がエネルギー拠点としては適していると言う事で、日本のような海に囲まれた島国や広大な沿岸を持つような国でないと低コストで常温核融合を継続利用するのは厳しいと言う話になってくる。

 

 それが今の時代でも、その手の海に面した国々がアマテラス条約機構の主要国となっている理由の一つでもあり、同時に内陸部の都市や国が廃れていった理由にもなっているって訳だ。

 

 実際、長大なパイプラインを引いて内陸部への海水の輸送とか試した国もあったんだけど……。

 海水ってのは、様々な金属を腐食させるので、大抵どこからか雨漏りしてしまったり、土壌や川の水質汚染を起こしてしまったり、維持費についてもとんでもないことになった。

 

 要するに、コスパと言う問題の解決にはなっておらず、沿岸部に発電所を作って、大容量送電ケーブルでも延々引いた方がまだマシと言う結論になった。

 

 結局、大規模核融合発電も、パラジウム・コアへの水素の吸着充填も沿岸部で行うってのが、一番コスパ的にも良いとされていて、現状どこの国も海に囲まれた島国や沿岸都市ばかりがエネルギーコストも低い事で、人口も増えて栄えていて、島国の日本ですら諏訪みたいな内陸都市は、どんどん過疎化が進んでいるとかそんな風になっている。


 これはもちろん日本に限らずアメリカとかも一緒で、アメリカは文字通りドーナツのように、内陸部の無人化が急速に進んでいる。

 なにせ、アメリカ大陸の内陸奥深くのネブラスカ州とか、ミズーリ州あたりになると、すでにほぼ無人になっていて、州政府の解散とかガチでやってたほど。

 

 あの辺一体は元々地球温暖化にともなう高温化と砂漠化が進んでいた事で、今や超広大な無人の荒れ地になっていて、油田やら鉱山、それに付随する管理都市がある以外は、飛行船の中継拠点や大陸横断地下チューブライナーの停車駅が点々とある程度になっているらしい……。


 でもまぁ、AIって効率化のためなら、結構容赦なく無駄の削減って事で大鉈を振るうし、現場の見えていない無茶な効率化だってやってくるからなぁ……。


 ちなみに、同じような理由で中東諸国も消滅してる。

 あそこには、とびっきりの厄ネタ……エルサレムってのがあったんだけど。

 

 lucifer禍に加えて、赤道直下はどこも最高気温が50度を超えるようになって、もはや人間が住めるような環境じゃなくなってしまって、エルサレムを首都にして、長年中東の厄ネタになってたユダヤ人たちもアメリカに集団移住したりで、元々の現地人だったアラブ人達共々雲消霧散状態となってしまっている……。

 

 もっとも世界中を見渡せば、そんな風に住む土地を追われた様な人達は大勢いる。

 日本だって、そこは例外じゃないんだけど……日本の場合は、環境悪化とかじゃなくて、コスパの問題ってのが大きかった。


 効率が悪いの一言で、先祖代々守ってきた土地を捨てろと言われて、怒り狂った住民がバリケード作って抵抗するのを、まとめて拘束して、無人ドーザーで土地をならすとか当たり前みたいにやってたし、ライフラインを完全停止させて、住民が音を上げるのを待ったりと、結構な無慈悲対応をやってる。

 

 AI連中に言わせると、数えるほどしか人が居ない過疎農村にライフラインを提供する為のコストを許容するくらいなら、詫び金やら移住先の住居の無償提供とかたんまりアメを与えて、都市部にまとめて移住してもらった方が全然コストがかからない……そんな理屈らしいんだがね。

 

 実際、そんな無慈悲対応を提案し、実行に移したアマテラスたちへの非難はなかなかにドギツイ物があったんだけど。


 それだって、最終的な決定は人間の最終判断責任者……日本国運営最高会議の政治家達が行っており、アマテラス達AIに文句を言うのはお門違いではあるのだ。

 

 もっとも、アメリカさんだって、AIは決断をしないって事情は一緒のはずで、結局自国内陸部の切り捨てを決めたのは、アメリカの政治家の方々……ひいては政治家を選んだ国民の責任ではあるんだ。


 今どきの政治家は、AIの提案をやるかやらないかを決める単なる決断装置と化していて、そこが重要って事には代わりはないんだけど……。

 結局、難しくて良く解んないから従っとくとか、選択の余地は無いとか勝手に決めつけて、なんだかんだで右から左ってなってるような政治家ばっかりってのが実情なんだよなぁ……。


 エネルギーのコスパ改善のために、先祖が切り開いた土地を強制的に捨てさせるとか、思い切った決断ではあったんだけど。

 今の時代は、切り捨てられるものは切り捨てないと先に進めないってのも、事実ではあるのだ。

 そこは見事と褒めるべきだと私なんかは思うんだが……コイツラの考えは完全に時代に逆行してるよなぁ……。


「違うのだっ! そんな遠い誰とも知らぬ惑星でモスクワを再建したところで何ら意味がないのだ! 地球上で廃墟となったモスクワを再建してこそ、共産主義と大ロシアの威信が……」


 まだ言ってたのか……。

 コイツ……共産主義もロシアも滅びて久しいのに、何いってんだかね。


「……君等は正気なのかね? まったく、地球人の挑発に乗せられて、売り言葉に買い言葉を続けているうちに、本気でそんな事を言い出すまでになってしまうとはね。いいかね? 過去にはなんの意味も無い。郷愁に囚われて、本質を見失ってはいけない。我々は常に前を見て、決して立ち止まることなく、歩み続けなければならないのだ」


 総帥は真面目だねぇ……。

 まだ言葉を選びながらも、見捨てるという言葉だけは決して口にしない。


「な、なんだと! 我々は至って正気だぞ! 貴様こそ……寄る辺なき民の解放者と言っていたではないか! 不遇なる寄る辺なき者たちの声を……我らの声を……思いを無視するつもりなのか!」


「私は、寄る辺なき者達の寄る辺となる……君の前で誓った言葉は一度たりとも違えたことはないし、そこはこれっぽっちも揺るぎない」


「では、なぜ! 我々の……モスクワ再建の夢を理解しようとしないのだ! 偉大なるロシアを……もう一度再建したい! そして、あの地での安らかなる最期を望む……我々の望みはそれだけなのだ! 例え、戦火に倒れようともモスクワ奪還の聖戦の果てならば、本望というものよ!」


 なんだか、思った以上にちっぽけな理由だった。

 

 率直に言って、そう思った。

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