第十七話「宇宙戦争」③
「……なるほどねぇ。確かに、地球地上での戦いに勝つとなると、君の言うように日本列島が狙い目って事なんだね。その場合の侵攻戦略はどうなるんだろう?」
「まぁ……こんな感じになるかな」
東日本……それも手薄な東北方面に地上降下部隊を降下させて、まずは一気に太平洋沿岸へ進出し一帯を支配地域化する。
当然ながら、日本国防軍も黙ってみているはずがなく、西日本方面からの地上部隊が進撃してくるはずなので、諏訪湖の辺りと浜名湖辺りに防衛ラインを構築してから、まずは名古屋まで部隊を前進させる。
理想を言えば、琵琶湖辺りを決戦の地にしたいところだけど。
さすがに、中日本の最大都市でもある阪神シティから目鼻の距離な上に、進軍レースの結果、名古屋あたりで戦端が開かれると言う想定だった。
いずれにせよ、この場合……かなり早い段階で撤退することになるのだが。
東海道と中央道方面へ退くことで、敵戦力を二分することになる。
もちろん、敵にしてみれば、東海道方面に戦力を集中し一気呵成に関東平野を目指すと言う手もあるのだが。
中央道方面へ撤退していった敵を追わないと言う選択肢はない。
放置していくと、中央道方面から逆襲されるので、最低限でも諏訪に防衛線を張った部隊と相対できるだけの戦力は奪われることになる。
なので、防衛軍側の主力は東海道沿いに展開されるんだが、浜名湖と諏訪湖でそれぞれ足止めを食らうことになる。
そして、諏訪湖方面は狭隘な地形で攻めるに難く、守るに易いを地で行ってるので、少数の地帯防御部隊を送り込む程度で、足止め出来るだろうし、東海道にしても、旧静岡から東は難所だらけで、進軍は簡単なことではない。
とにかく時間稼ぎに徹すれば、そう簡単には拠点化した関東平野への突入は許さないだろう。
その間に東京湾や東北地方の太平洋側に、発電ユニットや生産ユニットを分散投下して、新規の無人兵器部隊と海上艦隊を生産して編成。
日本海方面は一見手薄なように見えて、大陸側からの侵攻を想定した地下拠点やら、地雷原やらがあちこちにあって手に負えないから、もう潔く無視。
とにかく、ある程度の規模の海上艦隊が編成できたら、それを使って西日本沿岸部の発電施設群を片っ端から、ぶっ壊して回る。
ある程度壊せば、無人兵器群へのエネルギー供給が滞るようになるだろうから、航空優勢を確保の上で、空爆で徹底して残ったエネルギーラインを破壊する。
まぁ、これで大勢は決するはずだった。
「……これは凄いな。当初は無人兵器の数では圧倒されていたのに、あっという間にまとめて無力化……その上で、有人の歩兵部隊により、主要市街地をあっという間に制圧……。良いのかい? こんな結果を出してしまって……我々がこのシュミレーション結果を見て、その気にならないと言う保証はないよ?」
なんとも鮮やかすぎる勝利に、総帥も思わず呆然って感じだった。
「なぁに、これはアマテラス条約機構軍で、随分前から研究してた最悪想定のシュミレーションだし、何よりも私は日本列島の防衛体制を知り尽くしてる……だからこそ、これも想定のひとつってことさ。当然、今はこれに対する備えくらいはあるだろうからね。だから、いくらこんな結果が出たからと言って、丸パクリじゃあね……結局、話にもならないだろうさ」
まぁ、事実上海上戦力による制圧プランなんだけど。
宇宙からの目線では、この沿岸部の制圧=国家レベルでの制圧って考えにはなかなか行き着かないのかもしれない。
なにせ、日本列島の極端なまでの太平洋側重視って戦略も、日本海側でヤバイくらいに雪が降るようになったこともだけど、対中露残党戦略って意味も大きかった。
実際、日本海側は中国が崩壊した2030年代頃から何度も上陸やら、弾道弾攻撃を受けていたし、日本海でも何度も海戦が勃発していたんだからなぁ。
だからこそ、侵略者に対して、乗っ取られると向こうに利用されてしまうことで、防衛戦略上の脆弱性となる発電施設も作ろうとしなかったし、住民被害が出ないようにと、居住地も一切合切放棄させて、住民を強制移住させるなんてこともやってた。
もっとも、実際は中露連中が勝手に息切れして、そのまま力尽きたって感じだったんだけど……。
実際、なんとか上陸出来ても、拠点化もままならないうちに猛反撃食らってあっさり殲滅とか、もう負けっぷりもパターン化してたくらいだった。
なんか知らないけど、中露連中ってのは、陸戦になると目標までの最短距離をがむしゃらに突撃強行突破ってのが基本みたいで、その辺第二次世界大戦の頃からあんまり変わってない。
ヤクーツク元帥も中露系だけに、そこは一緒で、戦略的迂回とかそう言うのって考えてないのかもしれないな。
「……解った。ヤクーツク元帥には、この最初の戦略シュミレーションでの敗退の結果だけ伝えるとするよ。まぁ、この戦略シュミレーションのその後の戦況を見る限りだと、日本列島を取ったところで、結局負けてるみたいだしねぇ……宇宙人がどんなに頑張っても地上戦になったら、負ける……そう言うことみたいだね」
ちなみに、日本制圧を完了した後も戦略シュミレーションは律儀に継続していたようなんだけど。
一路、アメリカを目指していた艦隊がハワイ沖で三方向と宇宙から、集中攻撃を食らって壊滅すると、そのへんで攻勢限界を迎えて、あっさりと日本列島に逆上陸されて、結局負けてる……。
まぁ、このパターンだと日本列島は、しこたま弾道弾打ち込まれて、壊滅ってなってるんだけど……。
アメリカ軍ってのは、最初は微妙なんだけど、追い込まれると、手段を選ばなくなるから粘り強いんだよなぁ。
アマテラスもアメリカ勢については、自分の眷属を送り込んで、中から突き崩すことで従属化させてたし、まともに戦ったら今も昔もアメリカ軍は掛け値無しで最強。
実際、日本が失墜してから、一番元気がいいのはアメリカ勢だからなぁ……。
なにせ、Lucifer禍でも一番ダメージが少なかった上に、同じくダメージが少なかったイギリスやオーストラリアも頑張ってるんだけど、EUの他の国がまとめて息してないので、アメリカ様がナンバーワンって状況は、20世紀末の頃から余り変わってないと言える。
現状、アマテラス条約機構の代表議会でも一番発言力があるし、アマテラスの眷属も軍部の抑え込みに苦労してるって話は聞いてるし、アメリカは前世紀から陸、海、空……すべての軍隊が普通にまんべんなく強い。
だからこそ、多少おかしなのが大統領になろうが、世界の番犬と言う地位は揺るがずに、世界最強の覇権国家で居続けていた。
もっとも、戦場が無人兵器主体となってからは、その優位はあっさり覆ってしまったのだけど……。
軍事テクノロジーの研究や軍の運用については、そこら辺はやっぱりアメリカが一日の長があるってのが現実で、アマテラス条約機構軍とは別口のアメリカ大陸連合軍って独自の軍事組織すら持っているし、日夜研究や技術開発にも余念がない……。
特に、宇宙の技術開発にかける貪欲さは、もはや清々しいほどだった。
「結局、最終的に負ける……そう言う展開になるみたいだね。多分、これは長期戦になるとほぼ確実に負けパターンになるみたいだね」
まぁ、戦略シミュレーションの結果を見ると、概ねそんな感じだった。
宇宙の戦いってのは、割とシンプルなんだけど、地上戦とか……ぶっちゃけ戦場の多様性が激しすぎて、無人兵器だけじゃ結局無理があるんだよなぁ。
「……地上の戦争は、なんだかんだ言って人間が強い……って事かな。この結果から読み取れるのはそう言うことだね。いかんせん、我々人類統合体は頭数に関しては、地球側に圧倒的に劣る……それ故に、軍勢も無人兵器主体となっているんだが。だからこそ、地球の地上戦ともなると返り討ちになるってことか」
「まぁ、そんなところだね。と言うか、地球地上へ侵攻しても、人類統合体にとって、良いことなんて何も無いだろ。そもそも、地球侵攻自体が今、一番勢いのあって好戦的なアメリカ様を叩き起こして、結果的にアメリカの天下になってしまって、割と手に負えない事になるから、ぶっちゃけ悪手中の悪手。そう言う認識でいて欲しい」
まぁ、地球側ってのはそんな調子ではあるのだ。
いかんせん、アマテラス自身は、戦争を無駄の極致と嫌っていて、専守防衛を潔しとしているので、地球人類側の抗戦派とはまるで意見が一致していない。
もしも……アマテラスが実存存在だったら、とっくに暗殺とかされて、この世から強制退場ってなってただろうけど、アマテラスをどうにか出来る手段は未だ人類には存在しなかった。
「なるほどねぇ……要は、より一層面倒くさい状況になるから、地球への手出しは控えるのが最善ってことか。けど、アメリカって国は、未だにそこまで発言力があるのかい? 私はヨーロッパ人だから、アメリカがそこまで強いって認識はなかったな。むしろ、日本が事実上の世界の宗主国……そんな風に思ってたよ」
「まぁ、相対的なものなんだけどね。日本を含めて、他が沈んでアメリカだけが元気。そうなると、当然のように地球人類の盟主として、名乗り出ると思ったんだけど……。今の今まで、全然大人しくしてて、イギリス辺りは、不気味な沈黙と言ってるほどだよ」
まぁ、実際は議会とかでも色々吠えてたりするんだけど。
アマテラスの退陣要求とか、議会の要職をアメリカ勢で独占させろとか、そう言う露骨な行動には出てない。
「なるほどね……。アメリカはそもそもアマテラス体制となる前から、地球上の事実上の覇権国家だった。だからこそ、従属国家としての立場に甘んじているはずがないと思ってたけど、虎視眈々と覇権国家として名乗り出る準備をしてるって訳か……」
まぁ、実際……アマテラスもそんな風に分析してる。
今、それをやらないのは、今の情勢で盟主国として名乗りを挙げても、デメリットしか無いから……なんだろうな。




