第十四話「カール・ミラー総帥」②
あの落着事故でのアマテラスへの抗命により、長年私のサポートを努めてくれていたイロハも没収と思ったんだが。
どう言う訳か相も変わらず、黙ってても私の乗る機体や携帯端末に勝手に入り込んで、相棒面していた。
元々AIとしては純正アマテラス系列の準超AIクラスで、かれこれもう10年以上の付き合いになる……ここまで来ると確かに相棒だろうな。
考えてみれば、コイツが居る限り、ハンドガンを遠隔操作で不発にする程度のことはやってのけるだろうし、それこそ打つ手がなくなるまで、こいつは私の生存に全力を尽くしてくれるだろう。
なんとも複雑な気持ちながらも、ため息をひとつ吐いて、腕組みをしてシートにもたれかかる。
「お前のだーいじょうぶって、相変わらず何の根拠もないよなぁ。でも解った……最後まで諦めない。じゃあ、とりあえず……寝るっ! あとは任せた!」
「ええっ! 遭難した時に寝るとか普通に死亡フラグですよ!」
「どうせ、今の私に何か出来るわけでもないじゃないか……。言い方が悪かったね……要は休眠モードへの移行ってとこだよ。幸い私も生身じゃなくて、すっかり強化サイボーグ体になってしまっているからね。省電力モードに移行すれば、酸素も電力も消費は最低限で済む……。それなら3日程度と言わず、一ヶ月くらいまでなら粘れるはずだ」
まぁ、あくまでカタログ値ってヤツで、実際に強化サイボーグが休眠モードでどれくらい生存できるかなんて、実験データは存在しないんだがね。
言ってみれば、技術者としての推測ではあるんだが、一週間から二週間……それくらいなら、なんとかなるだろう。
「確かに……ハルカさんが省電力のスリープモードに入れば、生命維持装置を最小限にしても良くなりますので、生存可能期間はそれくらいまで伸びますね……。解りました! とにかく、一日でも長く生き延びて、救いの手を待つ……その方針でいきましょう! いいですか? 絶対に諦めない……ええ! 生存プランを制定しましたので承認を願います!」
なんだか、長々とタイムスケジュールみたいなのが表示されてるけど、意味あるのか? これ。
ターンとタッチパネルを一番下までスクロールさせて、承認をタップする。
まぁ、こんなもんでいいだろ。
「ひとまず、イロハ……機体の生き残った全機能を停止、非常用ソーラーセルを展開して、お前も省電力モードに移行して、定期的に起動して発光信号を送って、誰かが見つけてくれることに期待する……これでどうだ?」
「ここは、人類統合体の勢力圏内なんですよ。発光信号なんて出したら、むしろ、敵に見つかる可能性が高いんじゃ……」
まぁ、そんなもんだ。
宇宙ってところは、光はどこまでも突き進んでいくから、フラッシュライトでピカピカなんてやってたら、いくら遮蔽物が多いアステロイドベルドでも、高確率で観測されて居場所がバレる……けど、今の状況ではむしろ、その方が好都合だった。
「その時はその時だよ。このまま人知れず宇宙を漂い続けることに比べたら、敵に捕まって捕虜にでもなった方がマシだろ。もしも、敵が来たら、もう何も出来ないから命ばかりはお助けをーって、土下座でも命乞いでもなんでもするさ」
もっとも、実際にそれで助命してくれるかはなんとも微妙だった。
名実ともにエース・パイロットだからって、整備兵が悪乗りして機体を真っ赤に塗装してくれて、もう無駄に目立つのなんの。
おかげで敵にも私の機体がエース機だって事くらいは認識されているだろう。
戦争で捕虜になったエースパイロットがどうなるかなんて、想像に難くない。
実際、第二次世界大戦の頃とかは、敵のエースパイロットに賞金賭けるとかそんな話もあったくらいだからな……。
良くて、その場で即座に銃殺。
最悪、拷問フルコースで、徹底的に苦しめてから殺す。
まぁ、そんなものだろうさ。
「確かにそうですね……。この状況では味方の救援よりも、敵のパトロールとの遭遇の方が確率としては現実的ですからね。では、そのようにします。発光信号のパターンはSOSのモールス信号でいいですかね? トントントンツーツーツートントントンで合ってます?」
「うん? 多分あってるんじゃないかな。まぁ、宇宙ってのは何も無い分、星以外でチカチカ光るものがあれば目立つし、SOS信号なら救難要請って解るだろう。もう誰でもいいから、見つけてもらうことを祈ろう……じゃあ、おやすみ」
「解りました! 安心して一時のまどろみを……。いーいですか? 絶対に助けは来ます! だいじょーぶ! まーかせてっ!」
最後はやっぱり中指立ててのだいじょーぶ! どうも20世紀の古い漫画が元ネタらしいんだが、すっかりイロハの持ちネタになっていた……。
そして、宇宙空間を当てどもなく、漂流し続ける事……一週間あまり。
休眠設定と言っても、時々意識が半覚醒になる事もある。
何せ、完全に休眠してしまうとむしろ、コールドスリープみたいになってすぐには何も出来ないとか、そんな調子になる。
だからこそ、半日おきくらいに一時間ほどあまりの半覚醒状態に持っていく半休眠設定とした。
もっとも、覚醒したからと言って、何もすることもないことには変わりなかったのだけど、私も私なりに、色々と考える時間が出来た。
これまでの私の人生と、これからの生き方について。
死に場所探しとかやってたくせに、いざとなれば、こんな風に生き延びるために悪あがきをする。
矛盾してるけど、人間なんてそんなものだろう。
そして、そんな風にギリギリの漂流生活を送る中。
……奇跡は起きた。
「ハルカさん! 起きてください! 助けが! 助けが来ますよ! うひゃあああっ! さすがワタシ、さすがハルカさん! これはもう豪運どころじゃないですってば!」
この一週間……時々、覚醒しながら代わり映えのしない星空を見ながら、微睡む……そんなことをくりかえしていたのだけど、いきなりのイロハの絶叫で強制的に叩き起こされた。
「ちょっと待て……。今しがた寝落ちしたばっかりで、まともに体も動かないし、頭もボケボケなんだが……ああっ? 何が……なんだって?」
すでに、機体の省電力モードも解除されており、外部モニターにも機外の拡大映像が表示されていた。
そこには、こちらに向かってきている超巨大な宇宙戦艦が映っていた。
「な、なんだありゃ……。まさか、人類統合体の船なのか!」
デカいなんてもんじゃないぞ……軽く2km以上はある。
来るとしても、小型の無人パトロール艦が精々と思っていたのに、いくらなんでも、こんなもの……見たことすら無いぞ!
「はい! 船名は「グランティア3」……人類統合体の宇宙艦隊総旗艦だそうです! こ、これはとんでもない当たりを引きましたねぇ……」
人類統合体の総旗艦だって? まさか、まさかの救援だった……。
よりによって、なんでこんなのが……。
「待て待て待てッ! そんな大物がなんで、私なんかを救助しようとしてるんだよ!」
「どうも……たまたま近くを通りがかって、こちらの発光信号を見つけてくれたようでして……。向こうもこっちの通信機が使えないと解っているようで、ワタシの方で先方と発光信号で相互通信を行い交渉を行いましたが、先方は「人道に基づき、直ちに救助する」との事です。いやぁ、良かったですね! これで助かりますよ!」
「まぁ、確率的に味方より敵に見つかる可能性が高いとは思ってたけど。やれやれ、こうなるとしばらく、宇宙での虜囚生活やむ無しか……。じゃあまぁ、こっちもお出迎えの準備くらいするかぁ……」
幸いと言っては何だが、わざわざ人道に基づきとか言ってくる辺り、いきなり銃殺ってのはなさそうだった。
「そうですね……。顔くらい洗って、髪くらい整えましょうか……ちょっと人様にお目にかかれるような顔じゃないですよ。水もそれくらいなら残ってますし、一応女子なんですから、少しでも小綺麗にいたしましょうよ」
そう言われて、貴重な水を使って顔を洗って、髪も洗浄剤で軽く洗って、櫛を通す。
笑ってしまうような話なんだが、これでも女子の端くれだけに櫛くらいは持ち歩いてる。
本当は宇宙服も脱いで身体も洗いたかったけど、こんな狭いコクピットでそこまでは無理な相談だった。
やがて、先方が送り込んだ無人の宇宙救難機が機体とドッキングする。
こっちは20mくらいの大型機なのだけど、マグネットチェーンで機体各所と接続されて、電源コネクタが接続されたことで、バッテリーも充電中になる。
私の預かり知らぬところで、イロハと先方とで話も付いてるようで、そのまま牽引されて、為すすべなく連行される。
やがて、グランティア号の格納庫に着艦し、格納ハッチとエアロックが閉じて、格納庫にエアが満たされる。
まぁ、この辺はこっちも似たようなものか。
それを確認した上で、コクピットのキャノピーを開いて、ヘルメットを被ったまま立ち上がる。
案の定、宇宙服を着て銃を構えた兵士たちがずらりと並んで周囲を取り囲んでいた。
けど、人類統合体の一般兵の赤いジャケットではなく、揃って白いマントみたいなのを付けている……何と言うか、儀仗兵とかそんな風にも見える。
同じ人類統合体の兵士だと思うんだが、雰囲気がまるで違って、少々戸惑う。
「……アマテラス条約機構宇宙軍……アマカゼ少佐だ。この度はお手数おかけいただき、心より感謝する。何よりも……このような遭難者に迷わず手を差し伸べていただいたその心意気。敵ながら見事と称賛させていただこう。見ての通り、私には抵抗の意思も術も無い……なにせ、命あっての物種って言うだろう?」
そう言って、ヘルメットを脱ぐと周囲の兵士たちも肩の力が抜けたように、銃口を下げてくれる。
さすがに、女性だとは思っていなかったようだ。
ちなみに、階級は嘘は言っていない。
ただし私の軍内部での正式階級は技術が前につく……要は、本来は実戦部隊にいるような人間ではなく、あくまで裏方軍人なのだ。
最前線に居るのは、新兵器の実戦テストに際しての現場兵士達のインストラクターと言う建前になっているのだが。
最新兵器を簡単に扱えて、それでいて人類統合体の先進機動兵器と互角にやりあえるような技量と実戦経験を持つようなパイロットを現場が歓迎しないはずがない。
もちろん、危険な前線にいつまでも留まらず、適当に実戦データを集めたら、補給艦に便乗して帰還しろと命じられているのだけど、私にはそのつもりはなかった。
まぁ、そう言う事情もあって、私は最前線で着実に戦果をあげながら、エースとして味方にはもちろん、敵にもその名を知られる程度には有名になっていた。
この分だと、私についてはどちらかと言うと悪名高いと言う枕詞くらい付いていそうだった。
些か、空気は緩んだものの、案の定向こうもどう答えるべきか窮しているようで、しばしの無言と共に、緊張に満ちた時間が過ぎていく。
けれども、唐突にやはり白いマントを羽織った細目の神父さんみたいな格好のおじさんが前に出てくると、誰もが一斉に揃った敬礼をすると場の空気があからさまに変わった。




