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銀河帝国皇帝アスカ様 零ーZEROー ~スペアボディと呼ばれた彼女が皇帝陛下と呼ばれるまで~  作者: MITT


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第十四話「カール・ミラー総帥」①

 和平会談の一月ほど前、毎日のように発生していたアステロイド帯の小競り合いの最中、私の乗機……長距離侵攻重攻撃機「イフリート・ドライ」は撃墜された。


「……ふむ、全電源喪失……バッテリー残量もいよいよ30%を切ったか。非常用ソーラーパネルを展開しても、160時間後には全機能停止……か。どうやら、いよいよ年貢の納め時って奴かな……それにしても、こんなところで漂流してた20mm弾の流れ弾に当たるなんて……どんだけ私もツイてないんだかね」


 そう言って、先程外に出て被弾箇所を目視チェックした際に見つけてきた20mmレールガン弾頭を手の中で転がしてみる。


 要するに、こうなった原因は母艦への帰還中に、はるか遠くの戦場で放たれた一発の流れ弾の直撃だった。

 

 すっかり黒ずんでいて、長年宇宙を漂っていたものだとひと目で解るくらいで、この分だと1年とか2年……それくらい前にどっかの戦場でぶっ放したのが今頃になって、ここに飛んできて、私の機体に直撃した……と。


 最初は伏兵を疑ったのだが、そんなものはどこにもいなかった上に、殺気も何の前触れもなかった。


 はっきり言って、天文学的な確率の不運でもあったのだが。

 例え天文学的な確率であろうが、事故と言うものは起きる時は起きる。


 そして、状況は最悪……全電源を喪失し、母艦も仲間も完全に見失ってしまった。


「さて……。困った状況だね。イロハ……イフリート・ドライの復旧の見込みはあるかい?」


「残念ながら……打ちどころが悪かったようでして……。完全にジェネレーターが駄目になってて、一度工場に送りかえしてオーバーホールでもするか、或いは予備機のジェネレーターに載せ替えでもしない限りは……とても。このままバッテリーの残電力を使い果たしたら、もうどうしょうもないですね」


 イロハが淡々と現実を告げる。

 まぁ、予想通りだった……私だって、これがどんなに絶望的な状況かなんてとっくに理解できていた。


「まいったね……。ナビゲーションシステムも死んでるから、現在地もまるで解らない。まぁ、地球と木星の方向くらいはなんとか解るけど……」


 ちなみに、アステロイドベルトから見る木星はもの凄く解りやすい。

 太陽の次くらいに明るく光り輝いてるし、うっすらと輪っかのようなものも見えてるし、何よりもデカい。


 火星は……流石によく良く解らないが、地球も光点ながらそれらしき姿がはっきり見えている。

 もっとも、だからと言って、それで現在地が解るかと言えば、そんな事はない。


「困ったことに電波ビーコンもジェネレーター破損時の逆流電流で一緒に壊れてしまってます。味方に見つけてもらうにしても、これでは至難の業ですよ」


 アステロイドベルトと言うと、所狭しと小惑星が溢れてると思われるだろうが、その中にいる分には、とてもそんなふうには見えない。


 ちなみに肉眼では、小惑星なんて暗すぎて見えやしない。

 当たり前の話ながら、周りに空気もなにもないから、もう一面が星の海で一際大きく輝く木星がよく見える……それくらいだな。


「いかんせん、状況的にすでにKIA認定されてても不思議じゃないしなぁ。被弾の衝撃で結構流されたけど、こんな調子で救援なんて来るのかな?」


「うーん、とにかくバッテリー残量が心許ないのが問題です……。被弾時の損傷がバッテリーセルにも及んでおり、爆発の危険があったので投棄したのですが……。あれは痛かったですね」


 ブースターも作戦終了時に最大加速をかけた後に投棄している上に、機体各所のスラスターも戦闘機動で派手に吹かしたから、すでに燃料切れ……割とどうしょうもない。


 ちなみに、基本的に帰りは慣性航行で宇宙を漂いながら、指定ポイントの指定時刻にやってくる母艦に拾ってもらうと言うのが現状のイフリートの運用だったんだが……。

 一歩間違えたらあっさり遭難する……恐ろしく危なっかしい運用だったのは事実だった。


 ……今の艦載型宇宙戦闘機では、圧倒的に航続距離が足りないが為の苦肉の策ではあったのだが。

 

 漂流している分には噴射光で敵に見つかる可能性もないので、意外と生存率も高い……前線での評価は決して悪くなかった。

 悪くはないのだが、やはりもう少し改善が必要だとは思っていたんだ。

 

 開発中のイフリート・フィアについては、機体が大型化してもいいから、電源も二重系統にして、ガイドビーコンも複数搭載するべきだな。


 衛星落着以来、アマテラス条約機構軍もそれなりに宇宙艦隊を再建し、なんとか火星圏の維持はできている状況ながらも、すでに火星防衛艦隊はレッドフリートに要らぬちょっかいを出した結果、壊滅しており、その状況は芳しくない。

 

 悲しいことにもはや、火星域の失陥は確実な情勢だった。

 

 だからこそ、その日を少しでも先送りにすべく、アステロイドベルトに虎の子の長距離航行型の最新鋭宇宙空母を送り込み、艦載機によるゲリラ戦線を構築し、人類統合体の宇宙艦隊の補給ラインに圧迫を加えることでの遅滞戦闘を挑む。

 

 果たして、その程度で地球への侵攻を遅らせることが出来るのかは甚だ疑問だったが、事実として人類統合体は、火星の防衛艦隊の主力を壊滅させて以来、火星コロニーに攻撃を仕掛けることもなく、その攻勢を停止させている。


 明らかに手を抜いている……そんな風に思うのだけど、火星と木星間の距離は約6億キロ……火星と地球の距離の8倍近くはあるのだ。

 

 そんな長距離の補給線の構築と言っても如何に人類統合体といえど、簡単なことではない。

 

 そんな状況で、アステロイド・ベルト帯に地球側の戦力が入り込んで、輸送艦などを襲撃しているとなると、まずはそちらへの対応が先となるだろう。


 実際、私達の奮戦が、全面侵攻を妨げているとも言われており、このアステロイドゲリラ戦線構築には、それなりのリソースが投入されている。


 数々の新兵器や新造艦……私も新兵器の開発者としてこのアステロイド・ベルト戦線に一兵士として乗り込み、最前線での戦いの日々を過ごしており、この機体……イフリート・ドライについてもかつてのライジング・サンの系譜に当たる最新鋭の高速宇宙戦闘機でもある。


 なお、コンセプトはライジング・サンとまるで一緒で、ステルスで身を隠しながら至近距離にまで忍び寄って、核融合弾による一撃反転離脱……正面切って宇宙戦闘機とやりあえるだけの性能なんて初めから無いのもやはり一緒だ。


 違いとしては、コスト上昇の原因になっていた高機動ドックファイトモードのオミットだった。


 対艦攻撃機に高機動力を与えて、迎撃機とのドックファイトも可能にする……そんな事をしても、結局意味がなかったし、そうするくらいなら旋回式レーザーキャノンで牽制でもしながら、一目散にブースターを吹かして逃げた方がまだ生き延びられる可能性が高い。


 もっとも、ライジング・サンのコンセプト自体はそう間違ったものでもなく、現状人類統合体の宇宙戦艦に唯一対抗できる兵器になってしまっており、イフリート・ドライも試作初号機がロールアウトするなり、すぐさまアステロイドベルト戦線へと投入されており、実際そこそこの戦果も出ている。


 私自身は、本来は新兵器でもあるイフリート・ドライのインストラクター将校として派遣されていたのだが。

 

 そんな立場にも関わらず、すでに何隻もの人類統合体の輸送艦や護衛艦を沈めており、もはや問答無用のエースパイロット……と言うことで、短期間の派遣のはずがもう半年近くも滞在している。


 そして、今回もいつものように人類統合体の輸送船への爆撃に成功し、母艦とのランデブーポイントを目指していたら、不意打ちの流れ弾でジェネレーターがぶっ壊れて漂流中……と言うわけだ。


 イロハも私も周囲の小惑星や大きめのデブリには十分警戒していたんだが、まさか派手に加速の付いた20mm口径のレールガン弾頭が直撃コースで迫っているなんて、思ってもいなかったのだ。


「そうか……だが、このままだと3日も持たないな。食料や水もそれくらいがせいぜいだ。いっそ、自決でもするかね……。飢えて乾いて、酸素欠乏症でもがき苦しみながら死ぬよりはよほどマシかもしれない」


 そう言って、お守り程度ながら常に携行しているハンドコイルガンに視線を送る。


 考えてみれば、私はずっと死に場所を探していたようなものだった。

 この任務だって、人類統合体に一矢報えるだけの戦力を生み出す……そのために、志願した。


 なお、母艦も含めて帰りのことは一切考慮されていない。

 敵地で、出来るだけ多くの敵と戦い、戦闘データを収集しつつ、その先進兵器群に対抗できる可能性を探し、本国にデータ送信を続ける……それこそ、最後の戦い……その時まで。


 実際は、誰一人としてそんなことは言っていないのだけど、艦長ですら帰還の予定は未定としか聞いていないと言っていたし、実験(モルモット)部隊ってのは、所詮そんなものだ。


 要するに、使い潰して全滅するのが前提。


 それが私達であり、それが私なりの贖罪……といえば聞こえは良いのだけど、要は自己満足だった。


 そして、その最期はつまらないことで孤立して宇宙を漂流し、水も食料も尽きての野垂れ死に……。


 その前に酸素切れで酸欠死の可能性もあるのだけど、餓死よりは少しはマシかも知れないが……つまらない死に方には変わりない。

 

 そうなるくらいなら、潔くハンドガンで頭をブチ抜いて、この世からオサラバする。

 それだって、一つの手ではある……。


 そう思って、ハンドガンに手を伸ばす。


「駄目です! ハルカさん! それだけは駄目ですって! ……ご、ご安心をこのワタシが付いてるんですから、絶対に助かりますよ! うん、これ絶対! 大丈夫まーかせてっ!」


 相変わらずのドット絵妖精のアバターがモニター画面いっぱいになって、下品に中指を立てて、そんな事を告げる……。

 イロハはいつまで経ってもイロハなんだなぁ……つくづく思った。

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