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プロローグ「ロズウェル准将、最後の戦い」②

「くどいぞっ! これは私が決めたことだ……。すまんが、私は部下だけに犠牲を強いてのうのうと生きのびたいと思うほど、面の皮も厚くないし、恥知らずでもないのでな……。なぁに、あの方も解ってくださるだろうし、すでに私の役目は終わっていたんだ。それに、私も随分と長生きしていたのでな……そろそろいい加減、死に場所を探していたんだ。まぁ、ここは命の捨て所としては悪くない戦場だろう?」


 私の言葉に、副官も申し訳無さそうに下を向く。

 なにせ、死が確定しているのは、彼も私も同様なのだが、私は好き好んで最後までこの場に留まる事を決めていて、コイデ少佐達は撤退命令を拒否して、私と運命を共にすることを選んだ。


 もっとも、すでに母艦は沈められており、我々の退路はかなり早い段階で絶たれていた。

 そして、仮にもっと早いタイミングで作戦を中止し撤退していたとしても、結局母艦と運命を共にしていただけだろうし、例え降伏したところであの殺人人形は止まらないと実証されている。


 なにせ、国際戦時協定で規定されている白旗も降伏信号の送信もまるで通じなかったのだからな。

 動くものが居なくなるまで、ひたすら人間を殺し続ける……まったく、奴らも実に狂った兵器を作ったものだ。


 もちろん、この作戦で誰もが無事に生還できる可能性はあった。

 何よりもあのお方から求められた戦果もささやかなもの……。

 

 この作戦の本来の目的は、そもそもが単なる嫌がらせ程度だったのだ。


 陽動作戦を仕掛けた上で、手薄になった銀河守護艦隊の根拠地に、誰も知る由もないブラックロードを抜け、ステルス揚陸潜航艦より人知れず特殊戦隊を上陸させ、銀河守護艦隊の物資集積庫を爆破し、混乱に乗じて速やかに潜航艦へ撤収……。


 然るべき後、陽動艦隊に引き回された敵艦隊が戻ってくる前に速やかに元来たルートで脱出する……当初の作戦計画ではそうなっていた。


 この作戦自体は、アスカ陛下がその原案を考案し、作戦参謀本部の幕僚達や戦術AI群とも検討を重ね、もっとも少ない犠牲で最大限の損害を与えうると言うことで、実行される運びとなったのだ。

 

 そもそも、破壊工作についても多くは求められておらず、根拠地を脅かされ、集積された物資を失うことで、その活動に制約を課す……その程度の戦略的効果しか期待されておらず、その時点でも十分な戦果だとされていたのだ。


 そして、その程度で混乱を来す程度には、銀河守護艦隊の兵站は脆弱であり、最初の一撃は敵も備えがない以上、確実に成功するだろうと判断されていた。


 だが、我々の想定が些か甘かったのは否めなかった。

 

 まず、作戦支援艦隊による陽動により、根拠地駐留艦隊の釣り出しに成功したものの、支援艦隊は撤退中に先回りしていた敵艦隊の待ち伏せにあい、足止めされているうちに、駐留艦隊の追撃を受け包囲殲滅の憂き目に会いあっさり全滅。


 我々上陸部隊も上陸して早々に、周囲に隠れ潜んでいた潜航艦の集中雷撃により、揚陸潜航母艦を失い敵地に孤立した上で、新型の地上戦闘無人兵器群に圧倒され、まともな戦果を挙げることもなく壊滅しつつあった。


 どうやら、我々は銀河守護艦隊の潜航艦の厳粛性能と、その対潜索敵能力を過小評価していたようで、かなり早い段階でこちらの作戦は見抜かれていて、敵の存在に誰も気付かないまま、肝心要の母艦が真っ先に沈められてしまったのだ。

 

 この時点で、もはや我々は袋の鼠と言う状況であり、部下達も懸命に血路を開くべく奮戦に奮戦を重ねたのだが……もはや刀折れ、矢尽きと言う状況に陥りつつあった。

 

 作戦当初の兵力は、歴戦の特殊戦歩兵200人からなる精鋭部隊だったのだが。

 退路確保と物資集積庫の破壊工作のために母艦周辺に残していた第二中隊は、母艦撃沈に続いて上陸してきた殺人兵器の奇襲を受けて全滅した。


 そして、私の直率する第一中隊も本来は管制室を一時占拠の上でシステムに破壊コードを流し込み、当分の間ゲートを開けなくする……本来はそんな目的だったのだが。


 この管制室に来るまでにすでに半数が倒れ、そこまで生き残っていた連中も足止めと通路の閉鎖を命じた結果……任務自体は達成したようだったが、すでに全滅したようだった。

 

 この時点で部隊損耗率はすでに8割を超えている。

 これでまともな戦いが出来るほど、陸戦は甘くない。

 

 そもそも、損耗率が3割を超えた時点でもはや戦える状況ではなくなると言うのが戦闘の常識なのだ。

 

 だが……。

 奴らの根拠地……資源星系「Ω384」の心臓部と言えるゲート管制室……ここまでたどり着くことが出来たのは、まさに僥倖だった。


 この様子だと、こちらの陽動艦隊の奇襲を陽動と見抜いた上で、敵は敢えて根拠地を手薄にすることで、これまで何かと暗闘を重ね、散々手を焼かせた我々、第三帝国特殊戦隊を殲滅するチャンスと見たのだろう。

 

 そうでもなければ、ここまで鮮やかに対応出来るわけがない。

 はっきり言って、準備が良すぎる。


 おそらく、どこかで情報が抜き取られた上で手ぐすね引いて待ち構えていたのだろう。

 

 いずれにせよ、ここまで追い込まれた以上、我々が取りうるとすれば、破れかぶれの玉砕戦もしくは、ゲート前でありったけの火力を使っての自爆……それくらいしか打つ手もなかった。

 

 だが、携行爆薬程度の火力では、数日ほどばかりゲートを使用不可にする程度が関の山だ。

 少なくとも、歩兵が携行できる程度の火力では、常識的に考えて超空間ゲートを完全破壊するなどとても出来ない……。

 

 だからこそ、敵は敢えて我々をその懐に誘い込んだのだろう。

 

 敵ながら、見事な作戦だった……戦略目標を我々特殊戦の殲滅という一点に絞り、敢えて損害覚悟で懐に誘い入れて、確実に追い込んだ上で殲滅する……肉を切らせて骨を断つ……実に見事だった。


 まぁ、この場合肉すら切れていないのだがな。

 そして、敵は我々特殊戦歩兵の制圧用にARMSと呼ばれる無人対人兵器を投入し、その新型兵器を前に、こちらはほとんど一方的にやられていた……。

 

 端的に言って、我々は為すすべなく全滅……それはもう避けられなかった。

 だが、私の左足には、いざという時の自爆用に用意していた超小型重力爆弾が仕込まれていた……これがたったひとつの勝機と言えた。

 

 それも、私が自ら改良に改良を重ねた戦略兵器と言ってもいいほどの代物だ。

 もちろん、こんな戦略兵器を自爆用に常備しているなど、普通に考えて頭がおかしいとかそう言う話なのだが。


 なんとなく……いつか、こうなる予感があったのだ。

 

 いや、違うな……私は、自らの命を捨ててでも、あの宿敵と言える銀河守護艦隊に……その首魁たるハルカ・アマカゼに一矢報いるべく、その機会を探していたのだ。

 

 だからこそ、今回の作戦に挑むに当たって、こんな事もあろうかと思って、極秘裏に製造させた極小重力爆弾を左足に仕込んだ上で、敢えて陣頭指揮を買って出たのだ。

 

 当然、この事はあの方にも秘密であり、それ故に敵も私の切り札を把握していないはずだった。


 ……瞬間的にマイクロブラックホールを生成する人類史上最大最強の破壊力を持つ広域破壊兵器を超空間ゲートの目の前で起爆する……それも通常なら威力を抑えるためのリミッターを解除した上での無制限解放ともなると、軽く周囲50kmくらいの範囲が空間ごと消し飛ぶだろう。


 そして、タダでさえ不安定なエーテル空間内での重力爆弾の起爆ともなれば、少なくともこの銀河守護艦の根拠地は、周辺のエーテルストリームも含めて、完璧に消滅するだろう……。

 

 そして、その周辺流域も幾多もの重力断層の発生や、マイクロブラックホールの残骸が撒き散らされることで、向こう100年単位で、誰も近づけない閉鎖領域となるのは、確実と言えた。


 エーテル空間そのものを破壊する……その時点で禁じ手中の禁じ手ではあるのだが。

 結果として、銀河守護艦隊はその生命線と言える根拠地と生産拠点を半永久的に失うこととなる……。


 たかが200名程度の特殊戦隊の全滅と引き換えの戦果としては、お釣りが出る程の大戦果となるのは確実と言えた。

 

 なお、これは全て私の独断だ……。

 もちろん、生還の見込みがあるうちは、当初の作戦計画に従うつもりではあったのだが。

 奴らは、こちらの想定を上回り、我が第三帝国特殊戦隊はこの戦いで全滅することが確定していた。


 ならば、窮鼠猫を噛む……それも出来るだけ、深く鋭く。

 出来る限り高い代償を支払わせる。


 つまるところ、それだけの話だった。


 あのお方……アスカ様は、とてもお優しい方だ……。

 

 銀河帝国の皇帝ならば、持ち合わせているべき皇帝としての判断力を完璧に身に着け、あらゆる責任を背負い込んで平然としている胆力を持ち……そして、自分よりも他人を優先出来る究極レベルの利他主義者としての気質をも持ち合わせていた。


 そんなアスカ陛下の人となりは私もよく把握している。

 

 なにせ、本来、名前すらも持たなかった彼女の素質を見出し、皇帝としての教育を施し、その候補者として推挙し、あの選定の儀を勝ち抜かせ皇帝の座に着けたのは、他ならぬこの私なのだから。

 

 アスカ陛下は、まかり間違ってもこのような配下を犠牲にするような作戦など容認するはずもない……そこは私も理解しているのだ。

 

 そもそも、事前想定でもこのように部隊が包囲され、全滅の危機を迎える可能性も想定されていたのだが……この場合の対応としては、即時降伏するように言いつけられていた。


 だが、その想定はいささか甘い。

 我々は第三帝国特殊戦隊は、その数々の悪行と悪名故に、降伏したところで、受け入れられないだろうと言うことは薄々解っていたのだが、敢えてそこは告げずに居た。


 そして……結果は予想通りだった。

 なにせ、我々を殲滅するためだけに、こんな手の込んだ舞台を用意し、対人戦闘の切り札と言えるARMS等という殺人兵器をわざわざ開発し、その圧倒的な戦力を投入してきたのだ。

 

 なお、当然のようにARMSは敵兵が降伏する可能性など想定していないようだった。

 なにせ、我々も死んだふりをしての騙し討やら、民間人に偽装しての騙し討だの、まっとうな戦いをする事の方が少なかったのだから、その対応はごもっともだと頷ける。


 降伏したからと言って、それが本当に降伏したかどうかなど、無人兵器では判別できない……だったら、シンプルに人間だと認識したら、微塵の容赦もなく、完全に動かなくなるまで……或いは原型を留めなくなるまで徹底的に切り刻む……そんな風にプログラミングされているようだった。


 なんとも短絡的で、民間人と軍人が入り交じる混沌とした市街戦などではとても使えない兵器と言えるが、この状況下で投入するとなれば話は別だ。


 人間だけを殺す機械……そんなものをわざわざ開発してくる辺り、連中も大概非人道的だったが、こちらもラースシンドローム罹患者との戦いで、動くものはすべて殺すとかそんな戦いを経験している。

 

 アレと一緒にされるなんて、心外も良いところだが、少なくとも私は降伏する気などサラサラ無かった。


 もっとも……部下達は別だ。

 重力爆弾の起爆による広域破壊を実施した時点で、全員未帰還確実となる。

 

 むしろ、万に一つも生還の可能性も望めない。


 だからこそ、私と心中する覚悟を皆に問うたのだが……。

 まさか、全員一致で私と運命を共にする……総員玉砕を選択するとは思わなかった。

 

 元々、この特殊戦隊を練成したのは、この私だと言えるのだが。

 些か、教育方針を間違えたと思わなくもない。

 よもや、こんな死をも恐れぬバーサーカーの群れを練成してしまっていたとは……。


 これもまた、私の業と言えるだろう……まさに地獄行きが相応しいッ!


 いずれにせよ、我々の作戦目的は、現場判断で変更されることとなった。

 

 私の持つ重力爆弾の無制限解放によるゲート破壊。


 そして、総員決死で無制限解放までの時間稼ぎの戦いを挑む……そんな戦いとなった。

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