プロローグ「ロズウェル准将、最後の戦い」③
奴らは、この可能性を想定しておらず、生命線と言えるこの星系を敢えて無防備のまま放置する事で、我々を殲滅する囮として使うなどと言う小細工に走った。
たかが200名足らずの特殊戦を始末するためだけに、随分と大げさな話ではあったのだが。
実際のところ、我々はまんまとそれに引っかかってしまった。
我々が生還を前提としていたならなら、これは完璧な罠だったと言えるだろう。
だが、全員生還を諦める……総員玉砕前提で考えるならば、これはアスカ様が見抜いていたように、兵站に弱点を抱える銀河守護艦隊の補給線を完璧に断ち切り、その命運を決する千載一遇のチャンスだった……そして、恐らくこんな機会は二度と訪れることもない。
だからこそ、私は追い詰められ絶望しつつあった兵達へ、私が持つ重力爆弾によるゲート破壊作戦を提案し、その上での決死の時間稼ぎの戦闘を命じていた。
その戦闘は凄惨なものとなり、第二中隊は一歩も引かずに最後の一兵まで戦い抜き、全滅。
そして、私の副官だったグロウ大尉に任せた第一中隊は先程、通路の閉鎖と引き換えに全滅したようだった。
グロウ大尉は私の子飼の腹心の一人であり、長らく私の副官として従事していたのだが……「先に逝って、お待ちしている」との通信を最後に音信不通となった。
もう一人の私の息子同然の存在だったゲーニッツ少佐は、留守居役の第三中隊を預けた上で後方待機を厳命してきたので、生き残ってくれるのは確実だった……まぁ、これは数少ない安心材料だった。
未来を託せる者がいる……死に逝く者にとっては、それは何よりの慰めになる。
グロウ大尉も同じく我が子同然に可愛がっていたのだが……先に逝ってしまった。
……バカな奴だ。
いくら、私に命じられたからと言って、親より子が先に死んでどうするのだ……。
すでに第二中隊に続いて、第一中隊のバイタルは全消失……この本部小隊の者達以外は、もう誰一人として生き残りはいないようだった。
ARMS……一時間に満たない戦闘で、特殊戦の猛者たちがあっさり殲滅される時点でおよそまともな兵器ではなかった。
ここで新型の対人用機動兵器を投入すると言うのもなかなかに粋な計らいだったが。
敵は、これまで何度も我々とやりあってきた向こう側の特殊戦に相当する……「アギト」とか言う再現体が率いる「Ζ艦隊」だろう。
だが「アギト」と言えば、なかなかの大物だった。
ハルカ・アマカゼの薫陶を受け、「Z艦隊」……ステルス潜行艦隊を率い、神出鬼没の戦場の裏方として、あちこちで暗躍していた……銀河守護艦隊の多くを占めるモブ提督あたりとは訳が違う有能な敵だった。
敵の首魁……ハルカ・アマカゼは元々が情報戦隊を率いる絡め手専門の指揮官であり、その直弟子と言う話で、要するに我々とは同じ穴のムジナであり、このアギト提督もいい感じに狂った奴だった。
本来ならば、銀河守護艦隊のスターシスターズは対人殺傷行為については禁忌事項としている。
この言わば絶対原則を覆すには、強制命令プライマリーコードで無理やり殺しをさせるしかない。
だが、それ故に対人類戦力としては、スターシスターズはいまいち使えない……明らかに向いていないのだ。
なにせ、いちいち命令しないと歩兵一人も殺せない……戦場でそんなものを戦わせる時点で多分に無理のある話で、要するにそれが向こう側の弱点だったのだ。
それが我々の認識であり、これは簡単には克服できない弱点だった。
戦闘兵器が人を殺せない……そんなバカな話があってたまるかと思うのだが。
連中はあくまで地球外戦闘生物兵器相手を想定した戦闘兵器群であり、人類と戦う事は始めから想定しておらず、万が一にも反逆されようものなら人類ではとても勝てない……その程度にはスターシスターズ艦と言うものは、驚異的な戦闘力を持っている。
伊達に、銀河人類の要……エーテル空間の守護者は名乗っていないのだ。
だがそれ故に、反抗防止策として、心理原則と言う形で、そう言う対人殺傷制限要項を組み込まれたと聞くし、連中のメンタリティは酷く人間じみている。
だからこそ、これまで私の率いる特殊戦は、その弱点を徹底的に突くべく、敢えて生身をさらけ出して、時に艦隊戦の最中に正面から殴り込み、その侵攻を阻止したり……。
スターシスターズ艦相手に指揮系統を分断した上で艦内白兵戦を挑む事で一方的にその頭脳体を撃破したり、拠点防衛戦でも生身の人間相手に本気を出せないスターシスターズ相手に、敢えて有人部隊をぶつけることで、優位に戦ってきたりしていた。
実に卑怯極まりない戦術であるのだが、実のところ帝国軍は真っ当な艦隊戦では各地で連戦連敗を続けており、正面切っての戦いではまるで勝負になっていないというのが実情だったのだ。
まぁ、これは純粋にハードウェアの性能差。
要するに、こちらの主戦力……無人エーテル空間戦闘艦の完成度が低いことに起因する……。
なにせ、こちらのエーテル空間戦闘艦自体が、元を正せばスターシスターズ艦のデッドコピーに過ぎないのだ。
それ故に、オリジナルとの差は天地ほどの差があり、いかに年月が経ちこちらが地道にアップグレードを進めたとしても、向こうは更にその上をいく……いつの時代もそんな調子だった。
もっとも、数の優位で言えば、こちらは10隻程度の銀河守護艦隊の一個艦隊に、常にその十倍以上の100隻単位の艦隊をぶつけるなど、当たり前にやってきた。
こちとら、工業力や資金力の桁が違うのだ。
質より量……戦いとは数! それが帝国軍のドクトリンなのだ。
だが、いくら数を揃えても、質で敵わず、挙げ句に電子浸透ハッキングでまとめて乗っ取られてしまっては、話にもならない。
こちらも当然のように対策は行っていたのだが、スターシスターズと言う者たちは純粋な演算力では、揃いも揃って化け物揃いで、その首魁……ハルカ・アマカゼは電子戦闘の名手でもあるのだ。
このハードウェアの根本的な性能差と、数の不利を覆す、乗っ取り戦術の巧みさの前に、我々は敗退を余儀なくされていたと言うのが実情だった。
もっとも、我々もやられっぱなしではなく、その対抗戦術として、敢えて生身の歩兵を前に出すゲリラ戦を挑むことで、局所的には健闘していたのだ。
と言うよりも、銀河守護艦隊も艦隊戦では無敵なのだが、我々特殊戦が絡んできた戦いでは、完全勝利とはとても言えない辛勝や、事実上の敗北を幾度となく喫していた。
つまり、常に最前線に立ち続け、帝国にささやかな勝利をもたらしてきたのは、我々第三帝国特殊戦隊だったのだ。
もっとも、こちらも卑劣な勝ち方ばかりでは、そのうちしっぺ返しが来ると覚悟はしていたのだが、向こう側のアギト提督やハルカ提督も、いい加減腹に据えかねたのか、真っ向からその対抗策を編み出してきた。
奴らは、対人殺傷要項を始めから持たない独自の無人対人兵器を作り出すことで、その状況を逆転させにかかってきたのだ。
モノ自体はAL装甲と超振動ブレードを持つ1m程度の昆虫のような羽を持つ……キラーブレードと呼ばれる空中機動兵器が、前線に投入されてきたのだが。
人間相手に微塵ほども容赦などしない殺人兵器の大量投入により、我々はそれまでのように優位ではなく、むしろ狩られる側に回ることになった。
もっとも、このキラーブレードについては、すでにこちらも何度も交戦しており、我々も電磁ワイヤーネットや、高出力ジャミング兵器による無力化システムなどの対抗策を作り出し、そもそも飛行タイプの機動性重視の兵器という時点で、その脆弱性は明らかで、こちらも弾丸の雨や広範囲攻撃による面制圧と言うゴリ押し対応により、そこまで不利な状況ではなかったのだが。
ここに来て、こちらが所詮陸戦歩兵に過ぎず、軽火力しか持たない事を念頭に入れた上で、新型の重防御型の自律型近接戦闘機動兵器……ARMSを投入してきたようだった。
第二中隊が送ってきた映像では、ガチガチの黒い西洋甲冑を着込んだ兵士のような機動兵器のようだったが。
とにかく、装甲が優秀で、歩兵のプラズマライフルやアサルトレールライフル程度の火力ではまるで刃が立たず、敢えて近接白兵戦用としたことで閉所戦闘にも圧倒的に強く、弾切れの心配も要らないというインチキ臭い兵器に仕上げてきていた。
アレを仕留めるとなると、最低限対装甲重プラズマランチャーなり、対戦車レールガンあたりの重火力が必須になるだろうと予想された。
実際、プラズマグレネードをダース単位で束ねて腹に抱えた兵が特攻をかけて、一体消し飛ばしたらしいが……それが今のところ唯一の撃破事例のようだった。
想定戦力としては、地上戦用重戦車の小型版と言ったところだ。
遠距離武装を潔く捨てて、近接専用のソニックブレード一本と言う割り切った兵器だったが。
その重装甲は歩兵用の携行火器ではまるで刃が立たず、同じ土俵の白兵戦での対抗はもっと厳しいようだった。
残念ながら、今の我々には、そこまでの重兵器に対抗できる重火力については持ち合わせがない。
予備弾薬など補給物資も、重火器もとっくに母艦諸共灰になっている。
一人一殺の覚悟で特攻すれば倒せなくもないようだが……プラズマグレネードも無限ではないし、兵の命もまた同様だった。
どうやら、私達は相当恨まれており、徹底した対策兵器を用意した上で罠にハメてきた……そう言うことのようだった。
状況はすでに必敗と言えた。
損害ももはや全滅とみなして良い状況であり、出来ることとしても、もはや時間稼ぎがせいぜいだった。
そして残り時間は……恐らくギリギリ。
第一中隊が体を張って敵を食い止めて、こちらに繋がる第六通路を爆破封鎖することで、時間稼ぎをしてくれたが、それでなんとか計算上ギリギリだった。
だが、敵もまさか我々が自分達諸共、重力爆弾を起爆するとは思っても居ないようで、明らかに手を抜き始めている。
当然といえば当然の話だ。
すでに、こちらの揚陸潜航艦は撃沈され、我々は帰りの足を失い完全に袋の鼠だった。
上陸支援用の数機ばかりの艦載ナイトボーダーも大型艦艇相手では蟷螂の斧で、砲火集中で撃破され、空戦ドローン群もすでにあらかた撃墜され、兵員にしても当初の9割近くが失われていた……。
増援についても、支援艦隊が壊滅し周囲からも続々とスターシスターズ艦隊が押し寄せてきているだろうから、そんなものはとても望めないだろう。
現時点で、まともな戦力を維持しているのは、この管制室に私と共に立て籠もる本部小隊の者達……それも20人にも満たない程度で、そんな彼らですら、すでに私も含めて、ここに来るまでの度重なるキラーブレードや自律ガーディアンシステムとの交戦で、満身創痍だった。
……潔く降伏するか、或いは、戦って全滅するか……そのいずれかだと、誰もがそう判断する。
まさにそんな絶体絶命の状況だった。
だが、それこそが我々の勝機なのだ……まさに、死中に活ありッ!
故に、我々は誰ひとりとして絶望していなかった。
「ロズ准将……敵包囲艦隊旗艦重巡青葉のアギト大佐より、最終降伏勧告通信が入っているようです。如何がなさいますか? 勧告を無視するのであれば、直ちに艦砲集中射撃で皆殺しにせざるを得ないとのことですが……」
「まぁ、ハッタリだろうな。連中もいくらなんでもゲート諸共艦砲射撃等という無茶はすまい。だが、敵を前に舌なめずりとはまさに三流のやる事だな。もう勝ったつもりになって、宿敵たるこの私に余裕を見せ、嘲笑いたい……そんなところだろうな……ハハハッ! 馬鹿なヤツだ!」
いや、ついつい笑ってしまうな。
もう少し時間がほしいと思っているところへ、呑気に降伏勧告とは……ARMS等という狂った兵器を作り出す辺り、なかなか狂った野郎だと思っていたが、存外考えが浅い将帥としては三流の人物のようだった。
対人専用の兵器を大量投入すれば、特殊戦だろうが軽く殲滅できる……その為に、敢えて自分たちの弱点をさらけ出して誘い込む。
なかなか手の込んだ策だったが、敢えて敵を自分たちの弱点に誘い込むとか、その時点でまさに愚策と言えた。
超空間ゲートへの直接攻撃は、銀河守護艦隊も禁忌としているようで、すでに陥落した中継港についても、ゲート閉鎖後のゲート施設攻撃は一切行われおらず、そこについては少なからぬ良識を感じさせるものがあったのだが。
まぁ、あの連中にゲート向こうの億単位の住民を百年単位で孤立させ、事実上の大虐殺を行えるほどの度胸はあるまい。
なにせ、それをやってしまえば、我々を虐殺者呼ばわりなど到底出来なくなるし、何よりも奴らの大義名分が消えることになるのだからな。
だからこそ、連中はすでに制圧済みの帝国の首都星系ゲートについても、周囲に監視の為の艦艇を配置する程度でお茶を濁しているのだ。
だが、ゲートへの直接攻撃を避けると言う良識を、我々が同様に持っていると思いこむなど、こちらを舐めているとしか思えない。
追い込まれた人間が何を仕出かすか、まるで解っていない……。
いいだろう、そのツケは自らの死でもって精算していただくとしよう。




