第九話 コカトリュフ、討伐!
日が赤く染まりはじめた頃、ボーガンは回復した。
「すまねえ、待たせちまった。ありがとう、もう大丈夫だ」
ボーガンの傷は跡がなくなる程、完治していた。やはり、この世界の回復液の性能は前の世界の治療法では考えられない程良いようだ。
「ボーガン、どうする? やれそうか?」
念のため、聞いておく。
回復しているとはいえ、戦う意志が消えていないかは重要だ。
「ああ、大丈夫だ、だが、さっきの戦闘でわかったことがある。俺の攻撃はあのコカトリュフには通らねえ。……苦しいが、俺は防御に徹する。だから、イッシン。俺の代わりに、コカトリュフに攻撃をしてくれないか、その代わり、俺がお前をコカトリュフから全力で守る」
「いいのか? ボーガン?」
攻撃が通らないから防御に徹する。それは現実的に考えれば正しい行動だろう。
だが、戦士として考えれば、それは敗北にもなりえる。ボーガンの戦士としての心に納得がいくのか、それを問うていた。
「いいんだ。ナビィのためにあのコカトリュフを狩る方法があるなら、俺はこんなブライド、いくらでも捨ててやる。確かに、他の奴らからしたら、ただの負け越しに見えるかもしれねえ。だが、俺にとって重要なのは自分の戦士としてのプライドを守ることじゃない。俺を家族として認めてくれたガーデン家の復興のために、ナビィをマスターランクのハンターにすることだ」
その言葉に、その目に、立派な闘志を感じた。
「わかったよ、ボーガン。俺は認めるぜ、あんたの闘志を。あんたはまだ、負けてねえ」
ボーガンに手を差し出す。
「ありがとよ、イッシン。お前がパーティーにいてよかった」
互いに振手を交わした後、俺達はキャンプ場で作戦を立てることにした。
テントの中で、作戦用の紙のボードをナビィが広げる。
モンスターの形をした駒と、人の形をした駒がいくつかあった。
ボードに書かれているマス目にモンスターの駒と人の駒を配直する。
「いい? まず、ボーガンはイッシンの防御に徹する。イッシンはボーガンの盾に隠れながらコカトリュフの隙をついて攻撃して、私とフリルはコカトリュフの背後から援護射撃。この戦い方をベースに、状況を見て戦い方を変えましょう」
「ああ、わかった」
だが、フリルが言いたいことがあるのか、手を上げた。
「すみません、お嬢様。先程、私と話していた射撃の合図の件はどうなさいますか?」
「ああ、そうね。忘れていたわ。イッシン。まず、あなたに謝らなければいけないことがあるの」
ナビィとフリルは二人で頭を下げてきた。
「「ごめんなさい」」
「えっ……どうしたんだよ二人共! 顔を上げろって!」
「さっきの戦闘はあなたに頼りきりになっていた。今度は私達もちゃんと援護できるようにするから」
「いやっ、いいって気にするなよ」
「実はね、今までボーガンに注意を引いてもらってその隙に遠距離で射撃をしていたの。でも、今回はボーガンが離脱したことでイッシンの動きに合わせて援護しなきゃならなかったから、下手に撃つと誤射しちゃうと思って撃てなかったの。事前に話しておけば防げたミスだわ。ごめんなさい」
「ああ。だから俺が援護の合図をするまで撃たずに待っていてくれたのか」
「うん。まさかイッシンがあんな速さで戦うと思ってなくて……それに、ボーガンがあんな簡単に吹き飛ばされたのを見たのは初めてで、動揺しちゃっていたわ。もし、三人で挑んでいたらって思うと……」
「ええ。私達は死んでいたかもしれません。イッシン様。ありがとうございます」
「いや、いいんだ。俺もあのままだったら危なかったし、ナビィの麻痺矢がなければ死んでいたかもしれない。援護してくれてありがとう」
ナビィとフリルは笑って頷いた。
「そう。でもね、あの麻痺矢はもう無い。あれは、本当に危険な時にだけ使うって決めている高級な麻痺矢なの。だから、あれは一回切り。次の戦闘では使えないからそこは注意して」
「ああ、わかった。悪いな、そんな高級な麻痺矢を使わせちまって」
「いいのよ、あのコカトリュフを狩ればたんまり報酬がもらえるんだから、がんばりましょう!!」
「おう!」
俺達はキャンプで細かな作戦の確認をしてから、さっきまで戦っていたコカトリュフの場所まで戻った。
歩いている時に夕日は落ち、暗い草原を月の光が照らしている。
草原の奥にある森の中を進み、コカトリュフがいた場所までたどりついた。
茂みに隠れて、コカトリュフの様子を観察する。
コカトリュフは月の光をあびるように夜空を見ていた。
強者ゆえの孤独なのか、その目はただ遠くを見つめている。
モンスターだから何を想っているかはわからない。
だが、その光景は見惚れる程にどこか、幻想的だった。
「イッシン……どうしたの?」
ナビィの言葉でハッとした。
そうだ……俺はあいつを狩るためにここにいるんだ、気合を入れなおそう。
顔を両手でパンと小さく叩き、気合を入れなおした。
「ごめんナビィ。少し、ボーとしてたみたいだ」
「そう……でも何かあったら言ってね、すぐ引き返すから。あいつを狩るより、命の方が大事よ」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、作戦通りお願いね、まずは私とフリルで死角から狙撃、イッシンとボーガンはそれに合わせて攻撃して。でも、さっきの戦闘みたいにいきなりジャンプしてくる可能性もあるから気をつけてね」
「わかった」
各々、作戦通りの配置についた。
ナビィとフリルはコカトリュフの背後の茂みに。
俺とボーガンは、コカトリュフにばれないよう、正面ではなく右横の茂みにかくれた。
草木を揺らす風が吹き、緊張の空気が流れる。静かにその時を待つ。
茂みからナビィが手を上げた。狙撃の合図だ。
俺とボーガンは身構え、いつでも攻撃できるよう心の準備を整える。
ナビィは手を降ろすと同時に、狙撃の準備を開始した。
ナビィの武器、『ヘビィ・クロニクル』は弓を折りたたみ、銃形態へと変形させることができる。銃身の先に矢をはめ込み、点火スイッチを押して火薬を点火させることで銃身内部の爆光石が爆発。爆発の威力を使って超威力の矢を射出することができる変形機構が備わっていた。
ナビィは武器を銃形態へと変形させ、アロンダイトの矢を銃身の先へとはめ込む。
「ブラストモード、展開!」
スイッチで火薬を点火させ、爆光石によって紫の炎が銃身から漏れ出した。
コカトリュフに標準を定め、炎と共にアロンダイトの矢を射出する。
「変形機構、紫炎の弩弓!!」
空気が破裂するような爆発音と共に紫の炎を纏いながら矢が空を裂く。
強烈な一撃がコカトリュフの背に直撃した。
「クギャアアアアアアア!!!!」
今までに聞いたことのないコカトリュフの悲鳴、続けてナビィが指示を出す。
「フリル、お願い!」
「わかりました、お嬢様!」
フリルはカスタムバレルガンを構え、ライフルバレルからガトリングバレルへと切り替える。
フリルの武器、カスタムバレルガン『竜撃の砲声』は通常時は扱いやすいライフルモードだが、威力を高めたい場合はガトリングモードが有効である。
ただし、ガトリングモードでは威力が高い代わりに反動が大きく、誤射の危険が高い。更に、一度撃ち切るとリロードの代わりに銃身の過熱を抑えるための冷却時間が必要なため、しばらく弾が撃てなくなってしまう。
だが、アサルトバレルとガトリングバレルを連結させた変形機構により、アサルトモードで使用できる特殊弾、麻痺、火炎、氷結、毒、混乱、鈍足など、本来、複数回弾を当てないとモンスターに影響を与えられない弾をガトリングモードで一秒五十発の連射速度で射撃することができる。
フリルはコカトリュフに標準を合わせ、反動に備えて体制を整えた。
「いきます! みなさん、伏せてください!」
トリガーを一気に引き、射撃の反動を体で抑え込む。
「変形機構、七竜の激唱!!」
連続発射された特殊弾が七色の線を描いて空を裂き、コカトリュフに命中する。
「クギュエエエエエエエエ!!!!」
コカトリュフは悲鳴を上げて体を縮め、羽で体を隠すことで守りの体勢に入る。
だが、フリルの七竜の激唱は止まらない。羽の上から弾丸の雨が降り注ぐ。
一秒に約五十発。約五百発込められた弾丸を撃ち尽くした頃にはコカトリュフの羽はボロボロになっていた。
麻痺、火炎、氷結、毒、混乱、鈍足、様々な状態異常を羽に受け、羽には凍った跡や火傷の跡が多数あり、麻痺の痺れで痙攣していた。
だが、コカトリュフは動物の本能で毒を食らったことを感じ取ったのか、暴れたりはせず、じっと動かなくなっていた。
「おかしい……混乱の弾は撃ったはず、本来なら暴れたりしてもいいはずなのに……。イッシン様の言っていた知性があるというのはこう言うことなんですね」
俺は中間キャンプの作戦会議の中で全員にアドバイスをしていた。自分が戦っていた時に感じたこと。コカトリュフには知性がある。正確には危険を察知する動物としての直感が優れているということだ。その甲斐あってか、フリルはコカトリュフの不自然な硬直に気を取られず、すぐに指示を出した。
「イッシン様、ボーガン。弾を撃ち切りました!! お願いします!」
「「おう!!」」
俺達は茂みから飛び出し、コカトリュフの背後を取った。コカトリュフの攻撃に備え、ボーガンは俺の近くで盾を構える。俺は攻撃の構えを取った。
両腕を十字に重ね、腰を落として重心を体の後ろに預ける。
腰をひねり、体に回転を加えながら両腕に力を集中させた。
限界まで引き絞った力を両拳に溜め、槍のように一気に前面に突き出す。
「豪魔獣王流、騎士の構え、聖騎士の剣鎗!!」
伸ばした両拳が突き刺さり、コカトリュフの肉をえぐる。更に内部からガントレットの爆発が起こり、コカトリュフに大きなダメージを与えた。
「クガアアアアア!!!!」
コカトリュフは攻撃に耐えきれず、顔を上げて閉じていた羽を広げた。
その隙に、もう一度攻撃を食らわせようとしたが、コカトリュフは大きく飛び上がる。
「くそっ……またか!! ボーガン、頼む!!」
「おうよ!!」
俺はボーガンの後ろに隠れ、ボーガンは盾を構えて守りの体勢に入った。
「キュエエエエエエエエ!!」
飛び上がったコカトリュフが奇声を上げながら降りてくる。着地と同時に地面が割れ、岩片が飛び散っていた。ボーガンの盾が岩片を防いだが、更にコカトリュフが巨大な足の爪で攻撃を仕掛けてくる。
ボーガンはその動きを読んでいた。コカトリュフが飛び上がった後、必ず攻撃を仕掛けてくるだろうと。ボーガンは自分の剣をあえて盾の中にしまう。
「さっきはよくもやってくれたな! 見せてやるぜ、俺の変形機構!!」
ボーガンの武器、プロテクトソード『鋼鉄の巨人』は、剣と盾、両方の性質を扱える武器であり、剣を盾の中にしまった状態の時に発動できる大技が存在する。内部の剣が鍵となり、取っ手についているグリップを左に一回転させることで解錠し、盾に仕込まれている拡張シールドが出現、人を覆う程の巨大な盾に変形させることができる。拡張パーツには大量の爆光石が埋め込まれており、モンスターの攻撃と同時に爆撃を食らわせる反撃の盾となる。
「変形機構、巨人の爆鉄!!」
コカトリュフの爪先が盾に当たる瞬間、拡張パーツに埋め込まれた大量の爆光石が一気に爆発。辺りが見えなくなるほどの光と共に爆発がコカトリュフを襲った。
「クギュエエエエエエエエエエエエエ!!!!」
コカトリュフは不意に食らった爆発に思わず仰け反り、大きな地響きと共に、全身が地に着いた。足の爪は半壊し、半分砕けたクチバシから舌が出ている。目は虚ろになり、そのまま動かなくなっていた。
「……やった……のか?」
しばらく待っても動かないコカトリュフにボーガンは確信し、俺の肩を組む。
「やったな、イッシン! 討伐成功だ!」
「あ……ああ! やったな、ボーガン!」
茂みからナビィとフリルも出てきた。
「やったわね!」
「お見事です!!」
みんなで肩を抱き合わせた。初めての討伐に俺は胸を躍らせる。
だが、心のどこかで何かの違和感があった。
(なんだろう……この違和感。いやっ……きっと気のせいだ……そんなわけない)
一通りみんなで喜んだ後、ナビィは剥ぎ取り用のナイフを取り出した。
「じゃあ、早く剥ぎ取ってギルドに帰りましょ」




