第七話 初クエスト、コカトリュフ討伐!
「スミス〜いる〜?」
工房の奥にある部屋の扉をコンコンとノックする。だが、返事が無かった。
「あれ、鍵が開いてる」
部屋の扉を開けると、作業机に顔を伏せながらスミスが眠っていた。横には装備立てに飾られている見事に完成された武器と防具が二つある。
「これが……」
自分達の装備だと俺とナビィはすぐに気づいた。ナビィは武器のアルターボウガンを手に取り、感触を確かめている。
「相変わらず、すごいわね……トリガーの位置も私の体に合った設計になってる。弦も引きやすいし、完璧だわ」
「当たり前じゃない。私が作ったんだから」
いつの間に起きたのか、スミスが口に手を当ててふああとあくびをしていた。
「ごめんなさい、起こしちゃったかしら」
「良いわ、気にしないで。どうせ説明しなきゃだしね。そいつはアルターボウガン『ヘビィ・クロニクル』ナビィの前の武器を素体に組んであるわ。ヘビィーピッグの素材は硬くて重いことが特徴だからそれを活かして作ってある。弓の弦もヘビィーピッグの髭を利用しているから、しなりが良くて相当なことが起きない限りは千切れることはない。本体部品と矢は骨から、装飾とカバーは毛皮から作ったわ。後は矢の先にアロンダイトっていう鉱石が使われていて、威力も高く貫通能力に優れているの」
「へえ〜なるほどね」
「変形機構は前と同じよ。強力だけど三発までしか撃てないからそれだけは気をつけてね」
「ありがとう、スミス。助かるわ」
「いえいえ、幼馴染だもんね。次はイッシンの方だけど……」
スミスは装備立てに付いている手甲と靴を外し、俺に装着させた。
サイズも完璧で、しっくりくる。自分の感覚が損なわれない、良い武器だ。
「イッシンはハンターになったばかりだから、まずはガントレットファイターという武器について説明するわね」
「ああ、よろしく頼む」
「イッシンの武器はガントレットとシューズ、両方合わせてガントレットファイターっていう武器の種類なの。この武器はすごく昔からある武器でね。まだまともな武器が作れなかった頃、手に火薬を詰めて殴ったら戦えるんじゃね? って考えたバカがいたらしいの。それで手甲に火薬を入れてモンスターを倒していた時代があったんだけど、反動がすごくてね。モンスターを倒したのに火傷はするし、腕はボロボロになる。だから、まともな武器が出てくると共に時の流れで使う人がいなくなったわ。でも、全ての武器の原点でもあるから。私達鍛治師にとっては馴染み深い武器でもあるの」
「へえ〜」
「でも、それは昔の話。今では耐熱性の装備もたくさん開発されてきたから、爆発のダメージもハンターには届かないし、自分の感覚で好きに扱えるからコアなファンもいる武器よ。まあでも、遠距離で戦った方が安全だし、人気がなくて使われないのは事実ね」
「そうなのか……でもよかったよ、無くなっていなくて。この武器は俺に合ってる」
「そうみたいね、採寸していてわかったわ。相当鍛えられているもの。筋肉だけじゃない。異常なまでに体の感覚が研ぎ澄まされている。不思議だわ。毎日モンスターと素手で戦っていたのかってくらい。今まで何をしていたの?」
「いや、まあ……」
「言えないなら無理しなくてもいいわよ。じゃあ、本題のイッシン専用の武器、ガントレットファイター『エクス・ブレイク』の説明をするわね」
「エクス・ブレイクか。かっこいい名前だ」
「でしょ? 男の子が好きそうな名前にしといたわ、見た目もね。この武器は、ヘビィーピッグの皮を何重にも超圧縮してできているの。頑丈さはそのままで、重さを感じないくらい重量を軽くしてあるわ。並大抵の攻撃は弾くし、剣で切っても切り傷が入ることは滅多に無い。後、ガントレットとシューズにX状の爆光石が付けられていて、敵を殴ったり、蹴ったりする瞬間に体の内部まで衝撃が入る爆発を与えられるわ。とはいっても、鉱石で特殊コーティングしてあるから、大きな摩擦じゃないと爆発はしないから安心して。ただ、使い方次第では自分の意思で地面を蹴って、爆発の衝撃を活かした超高速移動なんかもできるようになる。ただし、使う場合は超、体幹が必要だから気をつけてね」
「なるほど、面白いな。つまり、自分の思うままにスピードも攻撃力も爆発で底上げ出来るってことか」
「そういうこと。でも、衝撃は強いからマジで体幹だけは鍛えておいてね。攻撃する度に体がぶっ飛んだら使い物にならないから。まあ、その点は心配なさそうだけどね」
「ああ、大丈夫だ。ありがとう」
「じゃあ、後は二人の防具ね。見た目は違うけど作りはほとんど一緒。違うのは男性用か女性用かってだけで、動きやすいようにあらゆる素材を超圧縮して重さを感じさせないようになっているわ。更に、鉱石による特殊コーティングを防具全体にすることで耐久力も格段に上がってる。大抵の攻撃は防いでくれるけど、防御力に任せて油断だけはしないでね」
「すごいな……完璧じゃないか」
「ええ、だって私だからね。でも、注意して。この装備はあくまでもFランクモンスターの素材を使ってる。もし、ランクの高いモンスターの攻撃を受けたら……流石に私でもどうなるかはわからないわ。自分より明らかに強い敵に出会ったら即逃げること、いいわね」
「おう、ありがとう」
「ふぅ〜じゃあ、これで私の仕事は終わり! 後はクエスト頑張ってね! 私は寝るから、よろしく!」
スミスはそのまま倒れるように部屋のベッドで布団も被らずに眠ってしまった。
「あっ……」
余程疲れていたのか、一瞬ですやすやと眠りについている。
「……どうする?」
「寝かせてあげましょ。いつもこうなの。お礼は後で私から言っといてあげるわ」
「わかった」
俺はそっと、近くにある布団をスミスに被せた。
「ありがと。でも、そいつ寝相悪いからすぐはがれるわよ」
「まじかよ……まあ、そんな気はしてたけど。あっ、装備はどうする?」
「ギルドに言っておけば装備はクエストの時に持ってきてもらえるから気にしなくていいわ」
「へえ〜便利だな。じゃあ、この後は?」
「そうね、やることは済ませたし、クエストの受注に行きましょうか。イッシンは何か、やりたいことはある?」
「いやっ、特にないかな」
「じゃあ、ギルドに行きましょ。多分みんないるから」
「わかった」
俺とナビィはスミスの部屋の扉をそっと閉めて、ギルドに向かうことにした。
ギルドに着くと、酒場が賑わう声が聞こえる。
酒場に入ると、みんながクエストボードの前に集まっていた。
「あっ! 丁度、クエストの張り替え時期だったようね」
「張り替え?」
「ええ。毎月、クエストは張り替えられるの。みんな、ランクを上げるために自分が討伐出来そうなモンスターを探すのに必死なのよ」
「そういうことか。どうする? 俺達も行くか?」
「ううん、大丈夫。それよりも……」
ナビィが酒場を見渡していると、酒場の奥でボーガンとフリルが酒を飲んでいるのを見かけた。
ボーガンがジョッキを片手に手を振り、「おーい、こっち来いよ〜」と叫んでいる。俺達は手を振って、ボーガン達のいる席に向かった。
「よお、イッシン。三日ぶりだな」
「お久しぶりです。イッシン様」
「ああ。ひさしぶり、二人共」
挨拶を交わす際に、テーブルの上にある一枚のクエスト用紙に目が行く。
「例のクエスト、取っておいたぜ。ナビィ」
「ありがとう、ボーガン」
例のクエスト。ということは前からそのクエストに行くことが決まっていたのだろうか。クエストの紙に鳥のような絵が描かれている。内容はわからない。気になるが、今はボーガンの話を聞くことにしよう。
「さて、今回はイッシンが加入して初のクエストだが、ナビィに説明してもらった方が早いだろう。俺は口下手だからな」
「いきなり説明放棄?」
「いいだろ? このパーティーのリーダーはお前なんだから、よろしく頼むぜ、リーダー」
「なんかムカつく。後で腹筋百回ね。リーダー命令だから」
「マジかよ!?」
「さて、じゃあ本題に入るわね。今回のクエストは私達が何度も挑戦したけど失敗し続けたクエスト、Fランクモンスター、コカトリュフの討伐よ。正直、他のクエストのモンスターでも良いのだけれど、現状、一番狩りやすいのがこいつしかいないから我慢して」
「わかった」
「コカトリュフは強靭な羽と脚力、それに鋭いクチバシが特徴的な鳥型のモンスター。筋肉が大きく発達していて、生半可な攻撃じゃビクともしない上に攻撃力も高いわ」
「へえ~なるほどな」
鳥型のモンスターか。
どうりでクエスト用紙に鳥みたいな絵が描かれているわけだな。
「でも、失敗したっていうのは今までの話。三人で戦っても勝てなかったけど、今ならイッシンがいる。期待しているからね」
「……まあ、頑張るよ」
人から期待していると言われるのは慣れないな。初めてだし不安もある。
だけどまあ、出来る限りがんばろう。
「ボーガンとフリルは準備大丈夫? 私とイッシンは既に済ませているけど」
「大丈夫だ」
「ええ、大丈夫です」
「そう、わかったわ。じゃあ、早速受注しちゃいましょう」
ギルドの受付までクエスト用紙を持っていくと、ライスさんが出迎えてくれた。
「あら、ナビィさんにイッシンさん。それに、ボーガンさんとフリルさんまで、どうなされましたか?」
「クエストの受注をしたいの」
ナビィはライスさんにクエスト用紙を渡す。
「なるほど、コカトリュフの討伐ですね。では、皆さんのハンターズライセンスを拝見させていただきます」
「はい、お願いします」
ライセンスの確認を終えると、ライスさんがクエスト用紙にハンコをポンと押し、クエストが受注された。
「かしこまりました。では、パーティー『ホワイト・ガレオン』のコカトリュフ討伐依頼を承認します。出発はいつになさいますか? 今からでも可能ですが」
「明日にしてもらってもいい? 今日は体を休めて、明日出発するわ。あと、スミスの工房に装備があるから手配してくれると助かるの、いい?」
「ええ、大丈夫ですよ。それではご武運を祈っております」
「ありがとう。そういうことだからみんな、今日は体を休めて、明日コカトリュフの討伐に行くわよ」
「わかった」
「わかりました、ナビィ様」
「おう、今日は明日に備えて飲むとするか!」
がははと笑っているボーガンにナビィは注意した。
「ちょっと! 飲みすぎないでよ! 明日酔っぱらって怪我したらエアリア草原に置いてくからね!」
「いやいや、わかってるよ。俺もさすがにクエスト前に飲みすぎねえって」
「もう~気を付けてよね」
こうして、俺達四人はクエストの受注をして明日に備えて体を休めた。
――翌日。ギルドに向かうと、昨日言っていた通り、俺達の装備が届いていた。
俺達はギルド専用の更衣室で装備を装着する。
準備を終えたナビィが俺達に向けて掛け声をした。
「よし。じゃあ、行くわよ! コカトリュフ討伐へ! レッツゴー!!」
「「「おお~~!!」」」
俺達は指揮を上げ、エアリア草原に向かうことにした。




