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第六話 最後の頼み、ガントレットファイター!?

終わった。……どうやら、俺は試験を合格できなかったらしい。


ナビィになんて言えばいいのだろうか……。


そもそも、なら俺はこの世界でどう生きればいいのだろう……。


色んな考えが頭をよぎる。


俺が肩をすくめていると、教官が見かねたのか修練所の倉庫で何か探し物を始めていた。


どうせ、なんの武器も使えなかったんだ。見向きもしないのは当然だろう。


だが突然、教官が倉庫から大きな声を出した。


「おう! あったぞ、イッシン! これならどうだ!」


教官は大きな赤い竜の装飾が入った箱を俺の前に持ってきた。


「これは……?」


「こいつは昔、扱いが難しくて誰にも使われなかった武器なんだが、お前がヘビィーピッグを素手で倒したとライスから聞いていたからな。もしかしたらこいつが適正かもしれん。開けてみろ」


箱を開けると、中には鉱石がはめ込まれたガントレットとシューズが入っていた。


「その武器の名はガントレットファイター。ガントレットとシューズの両方に爆光石(ばっこうせき)という爆発する石が埋め込まれた武器だ。攻撃時に爆発することでモンスターに大きなダメージを与えることができる。移動時にも爆発を利用することで高速移動が可能だが……爆発に耐えられる強靭な体幹や、爆発耐性の高い防具など、使い手が限られるせいで試験用の武器からは外されていたんだ。だが、お前なら使えるかもしれん。どうだ? これでやってみるか?」


「……はい」


ガントレットとシューズをはめてみる。拳を握りしめると、今までで一番しっくりしている気がした。


「なんだこれ……なんか……いける気がする!」


「よし。じゃあこれが、本当に最後の試験だ。ハコビモモンガ達ーハコモモ人形を頼む!」


「はーいだモーン!」


ハコビモモンガ達はさっきのデカいハコモモ人形を用意した。


人形の前に立ち、拳を握り、構えを取る。緊張の空気が走った。


ここで終われば、何もかも無駄になっちまう。


せっかくこの世界に来たんだ! 絶対にぶっ壊す!


スゥー……。呼吸を小さく、浅く、目をつぶり、感覚を研ぎ澄ませる。腰をひねり、できる限りの力を腕に溜めて、引き絞る。


溜めた力を爆発させ、一気に拳を放った。


「豪魔獣王流、戦騎(せんき)(かま)え! 戦乙姫(ヴァルキュリア)()剛弓(ブレイク)!」


拳は人形に突き刺さり、めり込んだゴム皮は衝撃を吸収しきれず、パン! とはじけ飛んだ。


「なっ!? あのハコモモ人形をこうもたやすく!?」


「やっ……やったぁ!」


教官が喜んで俺の背中を叩いて来た。


「すっ、すごいなイッシン! やったじゃないか。」


「ありがとうございます」


よかった。これで壊れなかったら本当にどうしようかと。


「ん? イッシン。そのガントレット、よく見せてくれないか?」


「え、いいですよ?」


教官はまじまじと俺のガントレットを見始める。


すると驚いた様子で俺に言った。


「イッシン。本当にこれで殴ったんだよな?」


「え? そりゃそうですけど」


「このガントレット……爆光石が機能してないぞ? 何十年も使ってなかったからか、劣化していたんだろう。ってことは、素手でハコモモ人形を壊したのか?」


「げっ、そうなんですか。じゃあ、俺失格?」


「いやいや、そんなことはないぞ。ただ……驚いただけだ。試験は合格だ。良かったな」


「やったぁ! ありがとうございます!」


どうやら、ライスさんの言う通り、ゴッズ教官は優しい人らしい。なんだかんだ教え方も丁寧だし、最後まで俺を気にかけてくれた。感謝しなければ。


「すみません。いろいろと世話かけてもらって、ありがとうございます」


「いいってことよ。俺も、未来あるハンターが潰れちまうのは見たくない。これからはライセンスを持った立派なハンターだ。よかったな。クエストにも行けるし、武器や防具も作れるようになるぞ。あと、お前の武器はガントレットファイターだが、珍しい武器といっても作れない鍛冶師はいない。だから安心しろ」


「わかりました。ありがとうございます」


「おう! これで試験は合格だ。ライセンスは受付で受け取ってくれ。お前が立派なハンターになれるよう願っているぞ!」


「はい、ありがとうございました!」


俺は敬意を表して礼をした。教官は「またな!」と笑顔で俺を見送ってくれる。


修練所を出て、ライセンスをもらうためにギルドの受付に向かう。


受付ではライスさんがいつものように接客をしていた。


「ご利用ありがとうございました~。あっ、イッシン様! おかえりなさい! 教官から聞いていますよ、合格おめでとうございます! 今、ライセンスを発行いたしますので少々お待ちくださいね」


「はい、わかりました」


しばらく待っていると、ライスさんはハンターズライセンスのカードを俺に手渡してくれた。


「こちらが、イッシン様のハンターズライセンスになります。イッシン様Fランクのハンターになりますので、Fランククエストへの依頼を受けることができます。更にFランク指定区域であるエアリア草原(そうげん)、ラッテル()に派遣調査が可能になります。ご希望でしたら受付に申し出てください。なお、FランクからEランクへとハンターズランクを上げるためには、Fランクのモンスターを三種類以上討伐する必要がございます。更に上のランクに上げたい場合は、ランクごとに討伐条件をクリアする必要がございますので、是非奮闘してください。それではこれからのご活躍を楽しみにしております。頑張ってくださいね、イッシン様」


「はい、ありがとうございます」


受け取ったライセンスはプラスチックのような少し硬い材質だった。


タケダ・イッシン、Fランクハンター、ガントレットファイター使いと書いてある。いつの間に撮ったのか、顔写真までついていた。


まあ、とりあえずこれでナビィのパーティーに入れる。そういえば、ナビィがライセンス講習終わったら一緒に武器と防具を見に行こうと言っていたな。待たせたら悪いし、酒場に行くか。


俺は酒場に寄ると、ナビィは知らない女性と話していた。


「待たせたな、ナビィ。終わったよ」


「あっ! イッシン、お疲れ様! ハンターズライセンスはもらったの?」


「ああ、これのことだよな?」


俺はハンターズライセンスをナビィに見せた。ナビィはライセンスをまじまじと見始める。


「へえ~やっぱり……使用武器はガントレットファイターなのね。そんな気がしてたわ」


「ああ。他の武器は全然合わなくて困ったよ。危うく試験に落ちる所だった」


「ふふ……まあ、イッシンなら大丈夫って思ってたけどね。あっ、そうだ!」


ナビィは向かいの席で話していた女性を俺に紹介し始めた。


「彼女はスミス! 私の幼なじみで鍛冶師をやっているの。今日は私とイッシンの装備を作ってもらうために来てもらったんだ。腕は良いから安心して!」


スミスは少し会釈をしてから俺に握手を求めた。


「こんにちは、スミス・カインドです。スミスでいいわ。よろしくね」


「こちらこそ、よろしく」


ブロンドの瞳に、水色のロングヘアー、それにゴーグルを頭にかけている。


握った手から凄まじい力を感じた。女性とは思えないほどの握力だ。


「すごい力だな……良く鍛えられている」


「でしょ? まあ仕事してたら勝手にこうなるんだけどね。あっ、さっきまでナビィから装備の相談を受けていたの。あなたは……ガントレットファイターの装備を作りたいってことでいいのかしら?」


「ああ、そうしてくれると助かる」


「わかったわ。装備の素材はどうする? 確か、ヘビィーピッグを倒したって聞いたんだけど、その素材でいいのかしら?」


俺が答える前にナビィが「それでいいわ」と答えてくれた。


「じゃあ、この後どう? 私の鍛冶屋に来るならもう取り掛かっちゃうけど」


「俺はいいけど、ナビィはどうする?」


「私もそのつもりだわ。みんなで行きましょ」


話がまとまり、俺達はスミスの案内で鍛冶屋に向かった。


鍛冶屋につくと、看板にスミス工房と書いてある。


洞窟のような構造で入口は吹き抜けになっていた。外にいるにも関わらず、熱気で空気の温度が一気に上昇した気がする。中では職人達がかまどの熱を使い、熱した鉱石をハンマーで叩く音がよく響いていた。


「結構、広いんだな」


「でしょ? これでも村一番の工房だからね。一番奥に私の工房があるの。道中は暑いけど我慢してね」


「わかった」


スミスに連れられて工房の奥まで進むと、一番奥に部屋の扉があった。


扉には『私の部屋! ノックしないとハンマーで叩いちゃうぞ☆』という看板がぶら下がっている。


スミスは扉を開けて俺達を中に入れてくれた……はずだった。


「あっ! ノックしなかったからハンマーね!」


スミスは急に近くにあるハンマーを持ち上げて俺に殴りかかろうとしてくる。


「ええ!? ちょっ、待ってくれよ! 今、大丈夫な流れだったろ!?」


「大丈夫! 一回なら致命傷で済むわ!」


「致命傷じゃねえか!」


俺が慌ててハンマーを降ろさせようとすると、ナビィが「そこまでにしてあげて」とスミスに声をかけた。


「ええ〜ナビィ。ここに来たら恒例じゃない」


「それ面白いと思ってるのあなただけだからね?」


「そうなの? ざんねん」


スミスはハンマーを降ろした。ナビィが俺に謝ってくる。


「ごめんね、イッシン。ただの冗談だから。まあ、一回間違えてぶつけそうになったことはあるけどね」


「怖すぎるだろ、スミスちゃん」


「うん、よく言われてる」


可愛い見た目で奇想天外な性格をしているが、きっと仕事は出来るのだろう。


スミスの部屋には武器や防具の構図が山のように置かれており、大量の試作品が置いてあった。テーブルには作業途中の設計図が敷いてあり、何度も研究を重ねた努力の跡がある。ナビィの言う通り、腕の良い鍛冶師なのだろう。


「それじゃあ、採寸するから服を脱いで」


「え? 脱ぐのか?」


「当たり前でしょ! 大丈夫、目はつぶっててあげるから」


「いや、そういう問題じゃ……!」


「いいから脱ぎなさい!」


「はうん!!」


スミスに強引に服を脱がされた俺は抵抗も虚しく、裸にされてしまった。パンツすら履かせてもらえず。


「くそっ……せめてパンツは履かせてくれ……」


「何を恥ずかしがってるの? 自分の命よりはマシでしょ。あなたは今からモンスターと戦うための防具を作ろうとしているの。一瞬の動きのズレが命に関わる。そのためにあなたの体格を正確に測らなきゃいけないの。これは必要なことなのよ」


「そっ……そうなのか」


「まあ、私もナビィも見ないようにはしてあげるから。ね、ナビィ?」


「ええ」


「……じゃあ……わかった」


スミスは作業机に置いてある採寸用の計りを使い、俺の体を計測しはじめた。メジャーのようにリール式になっている計測器を使っている。計測器から出たメモリがついた茶色の厚紙を俺の体に巻き付けていた。


「この計りはAランクモンスター、ライドウクジラの髭を使って出来ているの。高級だから手に入りにくいけど、すごく頑丈で扱いやすいのよ」


「へぇ〜」


片目をつぶりながら計りを使い、俺の体を隅々まで計測している。恥ずかしいが我慢することにした。


「あなた……結構大きいのね」


「何が!?」


「太もも」


「えっ……ああ……うん、そうだな」


「何か変なこと言った?」


「いや、何も」


しばらくして計測が終了した。


「はい、これで終わり!」


素肌の背中をパンと手で叩かれ、思わず仰け反ってしまう。


「いてえ……」


「何言ってんの! 男なんだからシャキッとする!」


「はい……」


「じゃあ、次は武器の製造の為にヒアリングさせてもらうわね」


スミスは作業机から手帳とペンとメガネを取りだし、メガネをかけて手帳を片手にヒアリングを始めようとする。


「メガネはなんのために?」


「雰囲気よ」


「雰囲気かよ!」


「それじゃあ、ヒアリングを始めるわね」


スミスはメガネをクイッと上げる所を見せつけ、俺に質問を始めた。


「あなたはガントレットファイター使いなのよね。じゃあ、戦闘スタイルはどういう感じ?」


「戦闘スタイルか……基本的に俺は型を決めてから攻撃をするスタイルだが、速攻もあればカウンターもできるかな。寝技はあまり無いと思う」


「寝技……? 寝技って何かしら?」


「あっ……すまん、なんでもない。忘れてくれ」


そうだった、この世界ではモンスターと戦うための装備を作っているんだ。寝技なんて対人用の戦い方は基本的に使わないのだろう。


「じゃあ……とりあえず接近戦が得意なのね。一応、遠距離で戦えるようにすることも出来るけど、どうする?」


「遠距離で?」


「例えばだけど、ガントレットから特殊な弾丸を発射したり、色々と好みによって合わせられるわ」


「う〜ん……そうだな……俺の戦い方だとあまり使う機会は無さそうだからいらないかも。必要だったら後から頼みに行くよ」


「わかったわ。後は要望があれば聞くけど何かある?」


「あー……ガントレットの指は出す形にしてくれ。とにかく動きやすい形にしてくれると助かる」


「そう、わかったわ。じゃあ、三日後に来てちょうだい」


「三日か、早いな」


「私を誰だと思ってるの? まあ徹夜だけどね」


「支払いはどうしたらいい?」


「え? もうナビィからもらってるわよ?」


「……は? ナビィが?」


「ちょっとスミス! 内緒にしてって言ったでしょ!」

 

「あ……ごめん。つい……」


ナビィは照れくさそうに顔を手で隠していた。


「その、パーティーの加入祝いだから……気にしないで」


「いいのか?」


「だって、あんたそんなにお金ないでしょ? こっちとしてはパーティーに加入してくれるだけで嬉しいから。それで貸し借りは無しにしましょう」


「ありがとう」


「いいわ。その代わり、活躍してよね」


「ああ、頑張るよ」


「話は済んだようね。じゃあ、三日後に受け取りに来て。待ってるから」


「わかった」


 俺達はスミスに見送られながら工房を後にした。スミスはナビィの姿が見えなくなるまで手を振っている。かなり仲が良いのだろう。さすがは幼馴染だ。


「じゃあ、次は道具屋に行きましょうか」


「道具屋? 何を買うんだ?」


「ハンターの必需品をいろいろとね」


「へ〜どんなのがあるんだ?」


「そうね、例えばだけど。私の付けているこれとか」


 ナビィは自分の腰に巻き付けているベルトを見せてきた。剥ぎ取り用のナイフや道具を入れるための袋が付いている。


「これはハンターズベルトっていうの。ハンターに必要な剥ぎ取り用のナイフとか道具を入れる袋、いろんな物を自分好みに付けられるようにできるベルトよ」


「へ〜便利だな。それは確かに欲しいかも」


「でしょ? 良い所を知ってるから案内してあげる」


 俺はナビィの案内で道具屋につくと、おすすめのハンターズベルトをナビィが選んでくれた。


「ずっと前からイッシンに似合うと思ってたのよね。はいこれ」


 ナビィに渡されたベルトは赤と黒の装飾が入ったかっこいいベルトだった。付け心地も悪くない、道具用のポーチやナイフ用のポケットにも装飾が入っている。かっこいい、これは男心がくすぐられる。


「どう? 気に入らなかったら違うのでも良いけど」


「いや、すげえ良いよ! 気に入った!」


「ほんと? 良かった! 道具はベルトに付いているポーチに入れられるわ。ナイフ用のポケットもあるからそこにナイフは差し込んでね。カバー付きでも入るようになってるから」


「おう、ありがとう!」


「へへ、良かった。じゃ、これも私が払うから。パーティー加入祝いってことで、よろしくね。イッシン」


「良いのか? そんなに払ってもらって」


「うん! 言ったでしょ。加入祝いだから、これから頑張ってね!」


「じゃあ、遠慮なく受け取るよ、ありがとう」


 俺達はハンターとして必要になりそうな道具を調達し、三日後の装備が完成するまで休むことにした。

 

 その三日後、スミスから連絡が入り、ナビィと共に工房に向かうことになった。

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