第三話 パーティー加入!そして温泉に入る!
「ねえ、イッシン。そういえば、どこのパーティーに入るかはもう決めた?」
「えっ? ああ、まだ決まってないけど……」
「その……あんたが良ければだけど、私達のパーティーに入らない?」
「え?」
ナビィの言葉を聞いて驚いたが、一番驚いていたのは俺の横でステーキを食べているボーガンの方だった。
ブホッと食べていた物を吐き出し、興奮した様子でナビィに言う。
「っな!? 本気か!? ナビィ!!」
「っちょ、汚いわよボーガン!」
「あっ……すまない」
ナビィはボーガンの吐き出した食べ物をテーブルにある布で綺麗に拭き取った。
ボーガンは落ち着くために一息ついてからナビィに聞く。
「……でっ、なんでイッシンをパーティーに入れるんだ? イッシンのことを俺達は何も知らないだろ?」
ボーガンの言う通りだ。ナビィと面識はあるが、ボーガンとフリルと知り合ったのはさっきが初めてだ。特に会話も交わしてない。だが、それはナビィにもわかっているはず。何か考えがあるのだろうか。
「確かに、私達はイッシンのことを良く知らないわ。でも、知っていることもある。私を助けてくれた実力、それを買っているの」
「だが、ヘビィーピッグを素手で倒しただけだろ? そんなの……俺だって!」
「本当に? 本当に出来ると思うの?」
「…………ぐっ」
ボーガンは苦い顔をしていた。もしかしたらボーガンの筋力量ならヘビィーピッグを倒せるのかもしれない。
だが、それはヘビィーピッグが動かなかった場合の話だ。
熟練の格闘家になれば、相手の体を見ればどんな動きが得意かは見るだけでわかるようになる。俺の見立てからすると、ボーガンの体は恐らく、瞬発力のある素早い相手には不向きな、重い一撃を得意とする近接格闘型の体だ。
例え、一撃が重くても当てられなければ意味が無い。それに、会心の一撃を当てるにはヘビィーピッグの動きを完全に止めなければならないだろう。
だが、ヘビィーピッグの突進を受け止めたとしてもそれを踏ん張りで耐えることはボーガンの体では不可能だ。
腕力を鍛えることに集中するあまり、足の筋力が少し足りてない。あれでは、ヘビィーピッグに突進されても止めることができず、何度も吹っ飛ばされるのが落ちだろう。それが、本人にもわかっているようだった。
「だけどよ! いくらヘビィーピッグを討伐したからって、実力を判断するには早すぎるんじゃないか? もう少し、イッシンの実力を判断してからでも……」
「それじゃダメなの!」
ボーガンの言葉にナビィは大きな声を出して机を叩く。何か理由があるようだ。
「そうやって、理由をつけて待っていたからいつまで経っても、メンバーが揃わないんじゃない! いっつも、他のパーティーに取られて……」
「……ナビィ。焦る気持ちもわかるが、これは大事な決断だ。イッシンの気持ちだって、他のパーティーを見たら変わる可能性もある。ここですぐに決めさせるのはイッシンの為にもならないんじゃないのか?」
「……でも」
ナビィはそこから黙ってしまった。楽しいご飯の時間が少し気まずくなったが、話題を変えるためにもナビィの話を聞いてみることにした。こういう時は全て吐き出させる方がいい。
「なんでナビィはそんなに焦っているんだ? 何か理由があるのか?」
俺の問いかけにナビィは少しため息をつく。ボーガンは落ち着きを取り戻し、ナビィに話させるために静かに座った。
「あのね……私がハンターになった理由はお父さんが原因なの。私のお母さんは『黒変病』っていう体が黒く変色して動けなくなる病気を患っていて、ずっと家で寝たきりの状態なんだけど、その病気を治すためには黒変病を作り出したマスターランクのモンスター、『ブラック・ガレオン』の素材が必要なの。お父さんはお母さんのために、ブラック・ガレオン討伐のクエストを受けたんだけど、それ以来、帰ってきてないの」
「……亡くなったのか?」
「ううん、まだわからない。でも、お母さんを治す人がいなくなっちゃったから。お父さんの代わりに、私がブラック・ガレオンを討伐しようと思って。そしたら、お父さんの手掛かりだって見つかるかもしれないから。それに……お父さんがもし遭難しているんだとしたら……」
「早く助けに行きたいってことか……」
ナビィは小さく首を縦に振る。確かに、ナビィの気持ちもよくわかる。
一刻も早く助けに行きたいのは仕方ないことだ。
だが、冷静に考えればわかる。マスターランクのモンスターを討伐に行くのはそう簡単ではないだろうと。恐らく、ヘビィーピッグでさえこの世界では一番ランクの低いモンスターのはずだ。とすれば、マスターランクのモンスターが強大な力を持っていることは確実。パーティーの人選だって、簡単に選べることではない。
だからこそ、ナビィやボーガンも人選には気をつけていたのだろう。
だが、それが仇となりパーティーの最後の一人が集まらなかったってことか。
「私達三人じゃ、ヘビィーピッグを討伐するのが限界。あれより強いモンスターを討伐しようとしたんだけど、全然勝てなくて……もし、あと一人いたらっていつも思うんだけど……でも……」
ナビィの焦りと悔しさが入り混じった感情が、震えた声から伝わってきた。
だが、実の親の安否が気になるのは無理もない。
「その一人が集まらないってことか。いいぜ、入るよ。ナビィのパーティーに」
「えっ!?」
ナビィは驚いたが、すぐに慌てた様子で訂正した。
「ご……ごめん! 私……そんなつもりなくて……知って欲しかっただけなの。パーティーに強要するつもりはなくて……だから……えっと……」
「大丈夫、わかっているよ。俺だって、今の話を聞いて同情したから入ろうと思ったわけじゃない。今までずっと、考えていたんだ。自分が入るならどんなパーティーがいいかって。それで今決めた、ナビィのパーティーがいいって」
「どうして?」
「強くなる奴に必要な諦めない心を持っているパーティーだからさ。どんなに才能があろうと、どんなに優れた体を持っていようと、諦めたらそいつは強くなれない。だが、最初は弱くても諦めない心さえ持っていれば、どんな強敵だろうといつかは打ち勝てる強者になれる。ナビィはそのブラック・ガレオンに挑むのを諦める気は無いだろ? 例え、どんなに時間がかかっても」
「う……うん。諦めたくない……」
「ならいいさ。その心があるかどうかが、俺の一番の条件だ。正直、どうせやるならマスターランクを目指すぐらい、戦う覚悟のあるパーティーに入りたいって思っていたんだよ」
「でも、本当に良いの? 私達のパーティー以外にも強いパーティーはきっとあるよ?」
「大丈夫。どんなに強くても、心の強さまでは話してみないとわからない。ナビィ達なら大丈夫。そう、俺が判断したんだ。まあでも、ボーガンとフリルが嫌なら無理に入ろうとは思わないぜ」
「いや……俺は大丈夫だ。ちゃんと考えた上での決断なら文句は言わない」
「私も、ボーガンに同意です」
二人の言葉にナビィはホッと胸をなでおろしていた。
「そっか……じゃあ、ありがとう。イッシン、これからよろしくね」
俺はナビィと信頼の証に握手を交わした。
ただ、一つだけ気になることがある。
「そういえば、パーティーの名前ってなんなんだ?」
「ああ、言ってなかったっけ。私達のパーティー名は『ホワイト・ガレオン』よ。良い名前が思いつかなくてね。打倒ブラック・ガレオンのパーティーだから、反対の色の名前をつけたの。安直でしょ?」
「へえ~まあいいんじゃないか? 俺は呼びやすくて好きだぜ」
「そう言ってもらえると助かるわ。じゃあ改めて。ようこそ、ホワイト・ガレオンへ」
「ああ、よろしくな」
改めて、ボーガンやフリルとも固い握手を交わす。
後にギルドの申請も通り、俺はホワイト・ガレオンへのパーティー加入が決まった。
日も落ちたのでギルドのすぐ近くにある『クロイス亭』という宿屋に向かう。
ナビィによるとほとんどのハンターはここに泊まるらしい。
宿屋は高級旅館のような木造の綺麗な建物で、館内はとても広く、提灯の温かい光が明るく照らしていた。どうやら食事処や温泉までついているらしい。
とりあえず俺は、早く温泉に入りたかった。
ヘビィーピッグでの戦いや、裸で村を歩いていたせいで体が汚れている。この世界に温泉が無ければ最悪、寒空の中で水浴びをしなければいけない所だった。
俺は温泉に胸を躍らせながら受付へと向かう。
「いらっしゃいませ~。クロイス亭へようこそ~」
「あ、どうも。一泊したいんですけど」
「でしたら、五百ゴールドです。こちら、タオルと浴衣、あと、泊まるための部屋番号付きの鍵です。温泉や食事処はこの先にありますので是非ご利用ください」
「ありがとうございます」
言われた通り受付の先にある温泉に向かうと、旅館の奥にのれんがあった。
どうやら、この世界にも男湯と女湯ののれんはあるらしい。
のれんをくぐり、更衣室に荷物を預けてタオルを持って裸になる。
浴室の扉を開けた瞬間、湯気が一気に体を包みこんだ。よく見ると、小岩で囲まれた温泉から湯気が立ち、屈強な体つきをした男達が湯に浸かっている。
温泉に入りたい欲求が膨れ上がる。
だが、焦ってはいけない。まずは汚れを落とさなければ。
俺は体を洗える場所を探すと、男達が大きな桶に湯を入れて体を洗う場所を発見した。どうやらシャワーはなく、みんな桶に湯を入れて体を洗っているようだ。
俺も同じように桶に湯を入れて体を洗い流す。ザパンと湯を浴びるだけで気持ちよかった。入念に体の汚れがついている所を湯で洗い流し、体が綺麗になったら、タオルを持っていざ、温泉へ。
ゆっくりと足先から入り、湯に浸かる。タオルは湯につけないように頭の上に乗せ、温泉の中に体を預けた。
「くあ~~。気持ちいい~~」
強張っていた筋肉がほぐれて血が全身をめぐり、体が温まる。
心も体も温まり、全身から溶けるように力が抜けていった。
うつろな目で眠ってしまいそうな心地良さを感じながら空を見る。
「うわぁ~きれいだな……」
星空が、世界を包んでいた。前の世界では見られないであろう無数に輝く満天の星空。まるで一つの映画を見ているような、そんな気分になった。
この世界に来て、初めて心が安らいだ気がする。
だがそれもつかの間、突然、見覚えのある男が声をかけてきた。
「よお、イッシン。隣りいいか?」
声をかけてきたのはさっき別れたばかりのボーガンだった。
俺が「……ああ」と返事をすると、ボーガンは温泉に入り、俺の横に座る。
「そのっ……悪かったな、巻き込んじまって」
「……何かあったか?」
「聞いただろ、ナビィの両親のこと。本当は俺達だけで解決しなきゃいけねえ問題だと思っていたんだ。でも、現実は厳しくてな。お前に頼るしかないみたいだ」
「気にしなくていい。ナビィには世話になったからな」
「そうか、そう言ってもらえると助かるよ」
「……そういえば、ボーガンとフリルは、ナビィとどういう関係なんだ?」
「俺達か? 俺達は執事とメイドだ」
「執事とメイド!?」
「ああ、ナビィはガーデン家のお嬢様だ。知らなかったのか?」
知らなかった。まさか、お嬢様と話していたなんて……。
いや、待てよ?
なんでお嬢様が執事とメイドを連れてハンターなんてやっているんだ?
金があるなら他の奴に任せたっていいはずだ。
「なあ、ボーガン。なんでナビィはハンターをやっているんだ? 金があるなら他の奴らにまかせたっていいはずだろ?」
「いや、それがそうもいかねえんだ。ナビィの両親は報酬のほとんどをギルドの運営と慈善活動に使っちまってる。だから、他にハンターを雇う余裕もない」
「……そうなのか、ナビィの母親は大丈夫なのか?」
「ああ。一応、家には俺やフリルと同じようにナビィの母さん専用の執事とメイドがいるからな」
「でも、金が無いんだろ? そんなに執事とメイドを雇って大丈夫なのか?」
「それは大丈夫だ。無償だからな」
「え、なんで?」
「ガーデン家にいる執事やメイドは、俺やフリルも含めて身寄りのない子供達だったんだよ。だから、俺達は執事やメイドとして世話をする代わりにガーデン家に住まわせてもらっているんだ。まあ、家族みたいなもんだな」
「そういうことか……」
「今は事情があってガーデン家の状況は良くないが、俺達がパーティーとして名が売れれば、ガーデン家も復興できるし、ナビィの両親のこともなんとかできるかもしれねえ」
「なるほどな」
「こっちの事情ばっかで悪いな」
「いや、いいさ。戦う理由はあった方がいい。それだけ覚悟があるってことだろ」
「まあ、そうだな」
しばらく湯に浸かり、体が温まったのかボーガンはタオルを肩に乗せて立ち上がった。
「あ、そうだイッシン。ちゃんと言ってなかったよな」
「……ん?」
「パーティーに入ってくれてありがとう。歓迎するぜ」
ボーガンは俺に手を差し出す。
「ああ」と俺は手を受け取り、握手を交わした。




