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第二話 村に到着! 絶品の肉を食らう!

 森を抜けて草原に入ると、道の先に石の壁で囲まれた大きな門が見えた。


「あそこが私の加入しているギルドがあるクロイス(むら)よ。あの石門の中に村があるの」


「へえ~」


 石門の前に二人の鎧騎士の憲兵がいたが、ナビィの説明で葉っぱ一枚の裸男でも通してくれた。門が開かれた瞬間、町の中の軽快な音楽が耳に入ってくる。


 音楽家が楽器で軽快に音色を奏でていた。他にも、果物やナイフの道具などが売っている市場や道化師、駆け回る子供達など。賑わっているのがよくわかった。よくわかったのだが……。


「ママ~あの人裸だよ~」


「しっ、見ちゃだめよ!」


 子供連れの家族から厳しい視線が向けられている。周りからの視線がいたたまれない。一刻も早く、服が欲しくなった。


「なあ、ナビィ。まだギルドにつかないのか?」


「しっ! 話しかけないで! 同族だと思われるでしょ!」


「あっ……はい。すんません」


 俺は重い足取りでナビィについていくしかなかった。


 しばらくすると、町の中心近くにある木造の大きな建物が見える。


 建物の入り口の看板に『ハンターズギルド グライアス・ナビィ』と名前が書いてあった。


 だが、不思議なことに気づく。


 あれ、おかしいぞ? 看板に書いてある言葉が読めるのに、日本語じゃない。


 思えばそうだ。森の中にいる時はただ迷い込んだと思っていたが、変な豚の怪物がいるのも、日本じゃありえないはず。それに、ナビィの言うハンターやギルドは漫画やゲームの世界にあるものだ。……ということは、ここは異世界ってことか?


 だが、ここが異世界だとしてもなんで文字が読める?


 わからないことが多すぎる。


 とりあえず、今はナビィについて行くしかなさそうだった。


 ギルドの中に入ると、ナビィに少し待つように言われる。


 受付にいる綺麗なお姉さんがナビィに受け答えをしていた。


「ライスさん、戻ったわ」


「あ、ナビィさん! お帰りなさい!」


 しばらくナビィが話していると、ナビィは後ろにいる俺に指を差す。


 来いという合図なのだろうか。俺はナビィの隣に立った。


「あっ……どうも」


 変な挨拶しかできなかった。


 だって俺、裸だし。葉っぱ一枚の裸男だし、普通に恥ずかしい。


「えっと……私、ライス・グレイトと申します。あなたがナビィさんのお知り合いですか?……えっと、ナビィさん?……そういう趣味ありましたっけ?」


「変態男を連れ歩く趣味なんて無いわよ! しょうがないじゃない! こいつがヘビィーピッグを倒しちゃったんだから!!」


「えっ?……でも、見た所、何も装備はしていないようですが……」


「そうよ。素手で倒したのよこいつ」


「えっ!? 素手でですか? そんなまさか~。やめてくださいよ、ナビィさん。冗談なんて、人が悪いですよ~」


「本当よ。ほら、それを見せて」


 俺はライスさんに見えるようにゴム袋の封を開けた。


 ヘビィーピッグの顎に拳の跡がある。


「えっ……本当ですね……。確かにヘビィーピッグの素材です……」


「でもこいつ、見ての通り裸だし。何も持ってないから換金とかもできないのよ。だから、こいつのハンターズライセンスを作ってあげてくれない?」


「そうでしたか、わかりました。そちらの方のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」


 裸の俺に曇りのない眼で聞いてくる。恥ずかしさで少し緊張した。


「武田……一心です」


 ライスさんは紙に俺の登録情報を書いている。


 改めてライスさんの顔を見てみると、すごく美人さんだというのがわかった。


 茶色のセミロングの髪型からのぞかせる穏やかな緑の瞳の眼差しが印象的な優しい顔立ち。クリーム色のエプロンを身に纏い、小さな手を動かしてテキパキと仕事をしている。


 まあ、小鳥さんに比べればそうでもないが、並の男なら彼女に惚れてしまう人もいるだろう。


「イッシン様? どうなされましたか? 私の顔に何かついています?」


「あっ、いや……なんでもないです」


「そうですか。それでは、ハンターズライセンスの説明をさせて頂きますね。ハンターズライセンスとは、モンスターの危険性を知らない者が、闇雲にモンスターに挑まないようにするためにできたライセンス制度です。そのため、モンスターの討伐クエスト、及び、素材の換金、武器作りなど。ライセンスが無ければ御利用できない決まりとなっております。そして、ライセンスは討伐クエストの受注が可能になる代わりに、いくつかの講習を受けて頂く必要がございます」


「えっ、講習ですか?」


 俺……そういうの苦手なんだよなあ。


「はい。でも、安心してください。そこまで難しい講習ではないですよ。あくまでもモンスターを討伐する適性があるかないかの試験なので、ヘビィーピッグを倒されたイッシン様なら大丈夫だと思います。それに、優しい教官様もいらっしゃるので安心してください」


「そうですか、わかりました」


「はい。では、説明を続けさせて頂きますね。ハンターズライセンスにはいくつかハンティングランクと呼ばれる階級がございます。下からFランク、Eランク、Dランク、Cランク、Bランク、Aランク、Sランク、SSランク、マスターランクと、上のランクに上がることで、そのランクのモンスターを討伐できるクエストを受注することができます。なお、マスターランクになれば制限なくクエストを受注したり、危険区域などの制限も問わず、探索をすることができますよ。そして、希望があればギルドを作ることも可能です」


「え、ギルドも?」


「はい。このギルドもマスターランクの方が作られたんですよ」


「へえ~そうなんだ」


「では、明日。ライセンスの講習を予約しておきますのでギルドの裏庭にある修練所までお越しください」


「わかりました」


 ライスさんから講習の予約の証にカードをもらったが……それを見る前にナビィに呼び止められた。


「ちょっと……早く次行くわよ」


「え? 次って?」


「そりゃ換金に決まっているでしょ」


 ナビィに連れられて受付の右手にある扉に入る。扉の中は広い換金所になっており、他のハンターが持ってきたのか、木のテーブルに山のように素材が乗せられていた。


 換金所の奥には、大きな駆動式のレールが置いてあり、そのレールの先にある大きな機械が素材の山をプレスしている。時折、大きな機械音が響いていた。


 ナビィが受付にあるベルを鳴らすと、鉄兜を被った髭の生えたおっさんがやってくる。


「おう、ナビィちゃん! 久しぶりじゃねえか! 今日はどうした?」


「ええ、ちょっとね。ほらっ、早くそれを持ってきて!」


 ナビィは俺の持っている素材の入ったゴム袋を指で差す。


「ちょっと待てって! これ重いんだよ!」


 苦言を呈しながら、受付のテーブルに素材が入ったゴム袋を置いた。おっさんが封を開け、虫眼鏡のようなもので袋の中をまじまじと見始める。


「ほお~ヘビィーピッグじゃねえか。しかも大物だな。素材は部位か? 本体か?」


「本体よ」


「おし、わかった。ちょっと待ってろ」


 おっさんはゴム袋から素材を取り出して、換金所の奥にある大きな木のテーブルに乗せた。他の従業員と手伝いながら素材を数えて精算をする。


「よし、確かに。ヘビィーピッグ一頭、換金素材は頂いた。報酬額は十万ゴールドだ。余った素材はギルドの貯蔵庫と冷凍庫に入れておくから好きに使ってくれ」


「ありがと!」


 ナビィは報酬で受け取った二つの袋をもらう。十万ゴールドと言っていたから、単純計算で五万ゴールドが二つあるのだろう。


 だが、その片方の袋をナビィは俺に差し出してきた。


「はい、これあんたの分」


「えっ……いいのか?」


「いいわよ……それにあんた、その格好じゃ笑い物でしょ。寝るのにも食うのにもゴールドは必要なんだから、もらっときなさい」


「ああ、ありがとう」


「じゃっ! そうと決まれば服を買うわよ。市場に行くからついてきなさい!」


 ナビィは俺の腕を掴み、市場の服屋まで俺を連れ出した。


 服屋に入ると、防具の裏に着るためのインナーやパンツが多く売っていた。他にも、シャツやズボンは売っていたが、おしゃれに着こなすような私服はほとんど無い。この世界の服屋というのはこういう物なのだろう。


「ほらっ、好きなの選んで!」


「えっ、好きなのって言われても……」


 正直、服ならなんでもいい。葉っぱ一枚よりは全然ましだ。


 俺は適当に灰色のTシャツ、黒のパンツ、茶色のシューズを手に取った。


「じゃあ、これで……」


 服屋のおばさんが服を見て、値段の確認をする。


「はい、じゃあ三万八千ゴールドね」


「えっ!? 三万八千!? 高くね?」


「適正価格さ。ウチが嫌なら他をあたんな」


 せめて値切ろうとしたが、ナビィが肩を叩いて俺を制止した。


「ちょっと、何を言おうとしてんの。適正価格って言うのは本当よ。服って高いんだから」


「そうなのか?」


「そうよ、むしろ安いくらい。この店は良心的なんだから変なことを言わないでね」


「わかった……すまん」


 俺はナビィに言われた通り、金を払い、服を着替えた。


 さっきまでは裸だったからか、服の温かさが心に染みる。


「くう~最高だ、あったけえ。服って、偉大なんだな……」


「そっ、良かったわね。それでどう? あんた、お腹減ってない?」


「えっ……? ああ、そう言えば何も食ってなかったな」


「じゃあ、丁度いいわね。食べるでしょ? ヘビィーピッグ」


「え!? 食べられんのかあれ!?」


「当たり前でしょ? 素材はギルドにあるから。あんた、料理の腕は?」


「多少は……」


「そっ。まあ、今回は私のパーティーが作ってあげるから、安心して」


「パーティー?」


「ああ、言ってなかったっけ。私達ハンターは基本的に四人組のパーティーを組むのよ。一人じゃ狩れないモンスターもパーティーを組めば狩れるようになるからね。それに、料理も役割分断ができる。クエストの成功率も上がるし、多くの獲物を狩れるようになるから利益は大きくなるわ。でもその代わり、もらえる素材は人数分少なくなるけどね。だから、いざこざが起きないようにパーティーは四人までと決まっているの」


「へえ~」


「あんたもどこかのパーティーに入りたかったら覚えときなさい」


「……ああ、わかった」


 俺達はギルドに戻ると、ナビィがギルドの中にある酒場に案内してくれた。


「ギャハハハハ」とハンター達の笑う声がよく聞こえる。


 酒場では装備をつけたハンターや一般の人が食事を楽しんでいた。酒樽を逆さにして食事をせずに腕相撲をしている人達もいる。


 テーブル席とカウンター席があり、ナビィは俺をカウンター席に連れて行く。


 カウンター席にはスーツを着た白髭のおじさんが客に酒を振る舞っていた。


「こんばんは、マスター」


「おやっ、ナビィさん。久しぶりですね」


「ええ。相変わらずここは賑やかね。調理場を借りたいんだけど、今日は大丈夫?」


「調理ですか? 大丈夫ですよ。パーティーの方とは一緒に作りますか?」


「もちろん。一緒に作るつもりなんだけど……はあ……」


 なぜかナビィが深いため息をついた。どうしたのだろうと声をかけようとしたが、その瞬間、ナビィは大きな声で叫んだ。


「ボーガン!! いつまで飲んでんの!! 調理の時間よ!!」


「……ふぇっ!?」


 テーブル席で酒を飲んでいた男が急いでこちらに向かってくる。


 大きな体格をした坊主頭の男が、重そうな鎧装備を身に着けていた。


「なんだよナビィ。今いい所なのに」


「ボーガンがやりたがっていたヘビィーピッグの調理よ。やらないの?」


「何、まじか!! うまいんだよなあヘビィーピッグ! ん? 待てよ?」


 ボーガンと呼ばれているその男は気になったことがあるのか、顎に手を置き、俺のことを観察する。まじまじと俺のことを見てから、指を差した。


「あーー!! お前があのヘビィーピッグを倒した変態裸男か!!」


「なっ!? いつの間にそんな噂が!?」


 俺が訂正しようとする前に、ボーガンは俺の肩に腕を組んでくる。


「そうか、そうかぁ。お前がかぁー……。いやぁ~ライスちゃんから聞いたぜ。葉っぱ一枚でギルドに入ってきたんだろ?」


「あっ……はい」


 否定のしようがなかった。


「なんだよ、恥ずかしがんなって! わかってるよ。男なら、たまにはありのままで過ごしたい時もあるよな。わかるぜ、その気持ち……」


「いや、そういうわけじゃ……」


「いいじゃねえか、隠さなくたって。それより、モンスターを素手で倒すなんてすごいじゃねえか。本来、モンスターってのは、どんなにランクが低くても念入りに装備やアイテムの準備をして討伐に行くもんだ。それを素手で倒すとはおみそれいったぜ」


「いやあ……ははは」


 初対面なのにここまでほめてくれるとは……結構いい奴なのかもしれない。


 そう思っていた時、ナビィが痺れを切らしたのか話しかけてきた。


「もう、いつまで話してるの! 早く調理するわよ!」


「「はーい」」


 俺とボーガンはナビィに連れられて調理場に向かう。


 調理場には、テーブルと椅子はもちろん、フライパンやお玉などの調理器具もあった。材料や調理器具を洗うための水道、巨大冷凍庫や焼き窯まである。かなり本格的な調理場で、器具もほとんど前の世界と変わらなかった。


 中央にあるテーブルには巨大な肉が置いてあり、恐らく、あれがヘビィーピッグの肉なのだろう。


 だが、なぜか見知らぬ女性がその肉をまじまじと眺めていた。


 黒髪のポニーテールに眼鏡をかけていて、頭にフリルのついた白いカチューシャと黒のインナー、それに白のエプロンを身に着けている。


 俺は見たことがある。それは間違いなく、メイド服だった。


「早いわね、フリル。準備はどう?」


 女性はナビィの声に気づき、メガネをクイッとかけ直した。


「あら、お嬢様でしたか。お待ちしておりました。準備はできております」


「そう、ありがと。これはライスさんに運んでもらったの?」


「ええ、そうです。相変わらずの力持ちでしたよ」


 ナビィとは知り合いなのだろうか。


 だが、それよりもナビィが言う、『これ』が気になってしまった。


 ナビィが言う『これ』とは目の前にある大きな肉を差している。


 ということはこの肉をあの華奢な体をしたライスさんが運んだということなのだろうか。いや、まさか。そんなはずはない。この肉はどう考えても一人で持ち上げられる大きさではないはずだ。大きさで言えば、人間、五人分はある。


 だが、俺の様子に気づいたのか、ナビィが善意で答えてくれた。


「ああ、イッシンは知らないんだっけ。ライスさんは、超力持ちなのよ。グレイト家の家系は力持ちの血筋が多くてね。特にライスさんは村の力自慢大会で優勝するほどの力持ちよ。意外でしょ?」


「うそ……だろ?」


 まさか、あのライスさんがそんなに力持ちだなんて。


 もしかして、腕力だけで言えば俺より強いんじゃ……。


「イッシン、何か変なこと考えてない?」


「いや、俺と勝負した時にどっちが強いのかを考えている。……実に重要だ」


「ふ~ん。まあ、とりあえず紹介しとくわね、彼女がフリル。私のパーティーの一人よ」


 フリルは手を前に組み、かしこまったお辞儀をした。


「ライスさんからお話は伺っております。あなたがナビィ様を助けてくださった。へんた……ゴホン……イッシン様ですね。この度はありがとうございました」


 今、絶対変態って言おうとしたよね?


 この世界の人達は遠慮ってものを知らないのかな?


 まあいいか。とりあえず、挨拶してくれたのだからこちらも返しておこう。


「どうも、変態の武田一心です! よろしくお願いします!」


「あっ……すみません。噂になっていたのでつい……」


「いや、いいんですよ。俺も悪いんで……」


 何が悪いかと言われれば俺は悪くないと思うが、どちらかと言えば、この世界に来た時に服を全て消し去った神様の方だろう。何が神様だ。変態の神だと祈りたくても祈れないじゃねえか。


 見ろよ、フリルさんの顔を。


「あはは……」


 気まずくて何も言い出せてないじゃないか。俺は悪くないのに、全くどうしてくれるんだこの空気。いたたまれないぞ、特に俺が。


 だが、この重すぎる空気を一刀両断するようにナビィが会話の切り口を開いてくれた。


「えっ……えーとっ! 今日は私達がヘビィーピッグの肉を調理するから、イッシンが見学するってことでいいわよね?」


「あっ……ああ! 大丈夫だ!」


 素晴らしい。


 目の前のことに集中しようという意味合いを込めた良い会話の切り出し方だ。この絶望的な空気を一新してくれたはず、だった。


 だが、ボーガンが俺の肩を組み、余計な一言を漏らす。


「よーし、じゃあ見ててくれよな、イッシン! つっても、お前の体は見せなくてもいいぞ! がはははっ!」


 このイカれた酔っ払いのせいで身震いがしそうなほど凍えた空気の中、ナビィとフリルは「あはは……」と乾いた笑いをしてボーガンと共に調理を始めた。


 俺はこのいたたまれない空気の中、ただ見学をしている。助けて……。


 ヘビィーピッグの肉を調理するにあたり、俺もある程度の調理はできるが、異世界の料理は前の世界と違う点も多いはずだ。未知の食材や調味料を扱うとなると、何が起きるかはわからない。おとなしく見学しているのが無難だろう。


 三人の様子を見ていると、それぞれ役割分担をしているのがわかった。


 ボーガンは切りにくい肉の部位をその剛腕でナイフを使ってぶつ切りにし、フリルは調味料の準備のために茶色の木の実を砕いたり、ごますり器のようなもので擂ったりしている。


 ナビィはレシピを片手にボーガンやフリルに肉のサイズや調味料の選び方、ソースの味見などを指示し、鉄板を熱しておいたり、調理器具を用意したりと他の細かな作業をしているようだ。


 今までも役割分担をしながら料理をしてきたことがよくわかる。良い連携だ。


 三人は一通り準備を終えたのか、ボーガンが艶のある柔らかい肉を筋に沿って厚切りし、調理台の鉄板でステーキを焼き始めた。


 ジュワーッと油の跳ねる甘美な音を奏でながら肉はこんがりと焼き上がっていく。しばらくして焼き上がった肉をひっくり返し、裏面を焼き上げていった。


 肉を見ているだけでよだれが出てきてしまう。なんておいしそうなのだろうか。


 焼き上がった肉に、フリルは砕いたチップス状になった木の実をパラパラとふりかける。その瞬間、肉から一気にガーリックに似た香りが漂ってきた。


 更に、黄金色の四角い塊を肉に乗せ、その上にステーキソースをかける。黄金色の塊はソースと一緒に肉の熱で溶け出した。


 甘美な香りが体を駆け巡り、よだれが溢れてくる。香りからして木の実のチップスはガーリックで、黄金色の塊はバターのようなものだろうか。旨味のあるおいしそうな匂いが一気に食欲をそそる。前の世界とは似て異なり、この世界のバターやガーリックの方が百倍おいしそうだ。


 最後に、ナビィが鉄板の上にニンジンやジャガイモに似た野菜の盛り付けをし、完成する。


「できたわ! 黄金バターのヘビィーステーキ、完成よ!」


 鉄板の上で油の跳ねる音がする。こんがりと焼けた肉が食欲をそそった。


 ナビィは焼けたステーキの鉄板を運び、ナイフとフォークをテーブルに並べ、俺の前に置く。


「さあ、食べてイッシン」


「えっ、いいのか?」


「なんだかんだ言っても、私のことを助けてくれたからね。それに、ヘビィーピッグを狩ったのはイッシンだし。イッシンが最初に食べるべきよ。遠慮せずに食べて」


「そっか、ありがとう、ナビィ」


 俺は手を合わせて「いただきます」と感謝を口にし、黄金色に輝いたステーキをナイフで切る。


 ステーキの中から肉汁が溢れ出し、油の跳ねる音が大きくなる。その肉汁が溢れたステーキをフォークでソースと絡め、上に乗っているチップスを落とさないようにゆっくりと口に運ぶ。


 サクッっとチップスが砕ける音と共に、肉を噛んだ瞬間にジュワーッと肉汁とソースが口の中で溢れ出した。噛めば噛むほど柔らかな肉の旨味が溢れ出す。旨味が体中を駆け巡り、喉に通るまでその味が体に幸福感を覚えさせた。飲み込んだ直後に、思わずくぅ~と言葉が漏れ出してしまう。


「うんめええええええええぇぇぇぇぇ!!!!」


 前の世界では味わったことのない柔らかな肉の食感、匂い、そして味。全てが未知のおいしさだった。溶けるように消えてなくなった肉の味が恋しくなるようによだれが口の中から溢れてくる。


 更に一口、もう一口、もう一口とどんどん口に運んでいく。


 ジューシーな噛み応えが脳に直接刺激を与えてくる。噛めば噛むほど肉汁が溢れ出し、濃厚な旨味が舌を駆け巡った。


「ぷはぁ~~」


 余韻に浸り、ため息が出る。気づいた頃には全ての肉が食べ終わっていた。


 光悦の表情とはまさにこのことなのだろうか、心が満たされている。


 格闘家をやっていた頃は、食事制限のせいで食べ物を楽しむことを自分から拒否していた。食べることの楽しさを知ってしまうと、食事制限の度に苦しい思いをしてしまうから。だが、ここではそんな心配もない。


 好きなだけ食べて、好きなだけ味を楽しめる。最高だ。


「で? どうだったイッシン、味の方は?」


「最高だぜ! めちゃくちゃうまかった!」


「そう、良かった。じゃあ、味見も済んだことだし、ギルドのみんなにもお裾分けしなきゃね」


 ナビィはボーガンとフリルに指示をし、ギルドのみんなに分けるためのヘビィーステーキを作り始めた。手際よく、同じステーキが次々と並べられていく。一度作り終えているからか、素早い手際だった。


「イッシンもおかわりする?」


 その言葉に、欲望に忠実な腹がぐぅ~と鳴り、またよだれが出てくる。


「いいのか? 食べたい!」


「わかったわ。じゃあ、イッシンの分も作るからみんなのステーキ、運ぶのを手伝ってくれる?」


「ああ! 運ぶ運ぶ!」


 俺はナビィの指示で調理場から出て、酒場で飲んでいる人達にステーキを運ぶ。みんな、おいしそうなステーキに喜んでいた。


 酒場の人達のステーキを運び終えて、俺達はカウンター席に自分達のステーキを置く。食べ始める前に、ナビィが酒場の人達に向けて言った。


「みんなー! 今日はうちのギルドに加入するイッシンがヘビィーピッグを討伐したからみんなにお裾分けです! イッシンに感謝して食べてね!」


 その言葉に酒場の人達は「ありがとなーイッシン!」「これからもよろしくな!」と言ってくれた。さすがに無視するわけにもいかないので、ナビィの横に立って「どうも~」と会釈をする。


 ナビィは恥ずかしそうな俺を見て少し笑っていた。


「じゃあみんな、これからもイッシンをよろしくね!」


 その言葉と共にナビィは酒のジョッキを手に持ち、高く上げる。酒場のみんなもジョッキを手に持った。


「おお~!」と一斉にジョッキをぶつけ合い、ステーキをむさぼるように食べ始める。「うめええええ!!」とみんなの大きな声がギルドに響き渡った。


 カウンターで俺達もステーキを食べ始める。


 酒と共に食べるステーキは格別だった。


 みんなで他愛もない会話をしながらステーキを食べる。


 楽しくて、おいしい。久しぶりの感覚だった。前の世界にいた頃は、じいちゃんとご飯を食べることも少なくなって、寂しい食事ばかりだったから。


 この世界に来て、心が満たされた瞬間だった。



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