第十七話 激闘、レイジング・キング・サーモン!!
レイジング・キング・サーモンに気づかれないように木陰に隠れながら近づく。
まずは俺とナビィで動き出し、レイジング・キング・サーモンの注意を引き付ける。その間、ボーガンと共にフリルは変形機構の準備をした。
フリルの武器から「キュイイイイイイン」と甲高い音が鳴り、青白い光が出る。
その音に気付き、レイジング・キング・サーモンは咆哮を上げた。
「グゴアアアアアアアアアアア!!!!」
レイジング・キング・サーモンはフリルに向けて水の塊を五発発射する。
「まずい、気づかれました! ボーガン、変形機構を!」
「わかった!!」
ボーガンの新たな変形機構は大盾の横についている取っ手を広げることで左右の拡張パーツが広がり、地面に突き刺すことで前方百八十度に対して強力な守りの盾を作ることができる。
「変形機構、巨人の大城盾!!」
ボーガンの構えた大盾は五発の水の塊を全て受けきった。
「へへっ、どうだ!! これでお前の攻撃は通らねえぜ!」
「すげえぜ、ボーガン!! 後は任せろ!!」
「ええ! 行くわよ、イッシン!!」
俺とナビィはレイジング・キング・サーモンの元へと走り出す。
ナビィは走りながら矢を放った。
ナビィの放った矢はレイジング・キング・サーモンの雲を動かし、顎を守っていた雲が消える。その瞬間、俺はレイジング・キング・サーモンの顎に向かって爆雷石の爆発を使って飛び出し、渾身の一発を繰り出そうとした。
「豪魔獣王流、戦騎の構え……!!」
だが、俺が拳を放つ直前、レイジング・キング・サーモンは体を回転させ、尾ひれを俺に叩きつける。
「くそっ!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
腕を顔の前に出し、ガードは間に合った。だが、レイジング・キング・サーモンはまた雷雲を体に纏い始め、大きな風が嵐の様に吹き始める。
「またあの攻撃がくるぞ! 全員、気をつけろ!!」
「わかったわ! フリル、チャージ終了まであと何分?」
「お嬢様、あと三分です。お願いします!!」
その間に、レイジング・キング・サーモンはまた新たに雷雲を作り出していた。
噴気孔に矢が刺さっているからか、口から雷雲を吐き出している。
「くそっ、ナビィが噴気孔を塞いでくれたのに、口からも雷雲を出せるのか!」
だが、雷雲の出ている量は噴気孔の時よりは少なく見えた。
恐らく、出せる量が違うのだろう。
「ナビィ!! あの攻撃を撃たれたらまずい!」
「ええ、わかってる!!」
ナビィは既に射撃の準備をしている。だが、狙いにくそうにしていた。
「くそっ……」
ナビィの視線の先を見る。どうやら、あの纏わりついている雷雲のせいで標準が定まらないようだ。
よく考えれば、仮に撃ったとしても雷雲のせいで矢が吸収されたら、意味がない。かといって、変形機構を使って雷雲を貫通してダメージを与えたとしても、冷却時間のせいでしばらく武器は使えなくなってしまう。
だが、俺が攻撃するにしても、高跳びしたところでレイジング・キング・サーモンのいる地点まではたどりつけない。それほどまでに奴は高度にいた。
「イッシン、変形機構を使うわ、そしたらあの雲を貫通できる!」
「……でも、いいのか!?」
「あの攻撃をされたらフリル達の苦労が無駄になるわ! その前に止めないと!!」
「わかった! 俺はどうする? 何か援護はできるか?」
「そうね。どうせ撃つならあいつを撃ち落すくらいのダメージが欲しい! 何かあいつの弱点で気づいた所を教えて! そこを狙うわ! そうすれば、落下したあいつにイッシンも攻撃できるでしょ!」
「弱点か……」
俺は必死に考える。すると、一つだけ奴の弱点が思いついた。
「そういえば、あいつの脇腹に俺が攻撃し続けて鱗が剝げた箇所があるはずだ!そこを狙えば、かなりのダメージが入るはず!」
「脇腹ね、任せなさい!!」
「頼んだぜ、ナビィ!」
「ええ!」
俺はレイジング・キング・サーモンの下に走り出した。
「アサルトモード、展開!」
ナビィはライトニング・クロニクルを変形させ、矢を装填した。狙いを定める。
銃形態では弓を引かない分、狙いは難しい。
呼吸を整え、纏わりついている雷雲の隙間を観察する。
「弱点……どこにあるの?」
手が震える。この一発だけは絶対に外すわけにはいかない。
だが、弱点が見つからなかった。
「……うそでしょ? 雷雲で全然弱点が見えない。狙わなきゃいけないのに……」
脇腹の弱点を必死に探す。だが、全く見つからない。雷雲の隙間を探し続けているのに、弱点だとわかる箇所が一向に現れなかった。
「どうして? なんで見えないの? やばい、早くしないと!」
その時だった。
「お嬢様!!」
フリルの声が、ガツンと頭に響く。
「お嬢様ならできます! お母様との訓練を思い出してください!!」
「お母さん……?」
ハッとした。そうだった。母との訓練。子供ながらに本格的な訓練をしていた。
冷静に、あの日々を思い出す。ふと思い出したのは、幼い頃の私だった。
家の訓練場で、私はよく母と武器の訓練をしていた。
『お母さん、全然当たらないよお。違う武器がいい~』
幼い頃の私は、まだこの武器が好きではなかった。地味だし、他の武器みたいに威力も大きくない。それでも、母が私に勧めてきたのがアルターボウガンだった。
『そんなこと言わないで、ナビィ。アルターボウガンはとっても面白い武器なのよ』
『でも、強い方がいい~』
『ふふっ。いい、ナビィ? この武器はね、あなたが思っているよりもずっと強い武器なの。この武器に必要なのは絶対的な攻撃力じゃない。絶対的な狙撃能力。狙った場所に当てる力よ。それさえあれば、他のどんな武器にも劣らない強さを手に入れることができるわ』
『でも~』
『見てなさい。ナビィ』
母はそう言って、手拭いで目隠しを始めた。
アルターボウガンを構え、呼吸を整える。
『お母さん、それじゃ見えないよ?』
『ええ、そうね。でも、見えなくても、感じることはできる。空気の圧、風、観察。目で見るだけじゃない、観察眼を鍛えれば、頭の中にあるイメージだけで獲物を狙うことができる』
母は連続して三本の矢を放つ。その矢は訓練場にあった三つの的の全てに命中した。二つの矢は的の真ん中に的中。だが、一つの矢は的の角に当たっていた。
『うわー! お母さんすごーい! でも、一発外してるよ~』
『見てなさい、ナビィ。真ん中に当てるだけが狙撃じゃないわ。狙い通りよ』
『えっ……?』
その的は、矢が的中した角から崩れ始め、跡形もなくなってしまった。
『すごい……的が無くなっちゃった……』
『いい、ナビィ。どんなに小さな力でも、弱点を狙えば大きなダメージを与えられる。その弱点を狙い続けることができる狙撃能力。それが、この武器の本領を発揮する力よ。どう、面白いでしょ?』
『うん。すごい、お母さん! 私、頑張る! お母さんみたいになる!』
『ええ、私の娘だもん。絶対になれるわ。ナビィ』
まだ、私はお母さんのようにはなれていない。
きっと、あそこまでの技術はないだろう。
でも、憧れていたら追い付けない。なれるかどうかじゃない。
なるんだ、今ここで。
呼吸をもう一度整える。銃身をしっかり握り、レイジング・キング・サーモンを観察した。観察、観察だ。とにかく見る。感じる。考える。
「あっ……そうか!」
よく考えれば、自分の弱点となる箇所があるなら、そこを見せるはずがない。纏わりついている雷雲で常に弱点を隠すはず。
なら、周りの動いている雷雲とは違い、常に動いていない雷雲を探すんだ。
「あそこか……」
一点だけ、少しも動いていない雷雲を見つける。あの先に弱点がある確信はない。
だが、観察で得た結果を私自身が信じないでどうする。
感じるんだ、イメージするんだ。あの雲の先にある弱点を!
標準を合わせる。偏差を考慮し、奴の動きに感覚を合わせた。
「今だ!! 変形機構、紫炎の弩弓!!」
銃身から紫の雷炎を纏った矢が放たれる。
レイジング・キング・サーモンの雷雲を貫通し、脇腹の弱点を射抜いた。
「グゴアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
レイジング・キング・サーモンは悲鳴を上げ、空中から落ち始める。
「すげえ、ナビィ!! さすがだぜ!」
「イッシン! 後は任せたわよ!!」
「おう!!」
落ちてくるレイジング・キング・サーモンに近づき、ナビィの矢が刺さっている弱点の箇所に狙いを定める。
「ここだ! 豪魔獣王流、戦騎の構え、戦乙女の剛弓!!」
弱点に向かって、渾身の一撃を放つ。拳の圧力が、鱗が剥げて柔らかくなったレイジング・キング・サーモンの脇腹に突き刺さる。
「ぶっとべえ!!」
拳圧で宙に打ち上げられたレイジング・キング・サーモン。それを追うように、俺はシューズについている爆雷石を地面で爆発させ、爆風を利用して空高く飛び上がった。空中で体を極限までひねり、腕を引いて力を溜める。
限界まで引き絞った力を爆発させるように撃ち放った。
「豪魔獣王流、戦槌の構え、豪勇の拳撃
!!」
レイジング・キング・サーモンの顔面に突き刺すように拳の一撃を入れる。
「グゴアアアアアアアアアアアアア!!!!」
レイジング・キング・サーモンを地面に撃ち落とした。
あまりの勢いに地面をえぐりながら岩にぶつかっている。
「よし!!」
明らかに手ごたえのある一撃。だが……。
「グガアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
レイジング・キング・サーモンはすぐさま起き上がった。
全身を震わせ、口から雷雲が入った超巨大な水の塊を吐き出す。
まるでレイジング・キング・サーモンの体そのものが襲い掛かってきたかのような大きさ。俺は避けようにも、まだ空中で落下している最中だった。
「くそっ、デカすぎる!!」
避けるのは、不可能だった。
水の塊に飲み込まれ、雷雲が弾ける。電撃が全身を襲い、光に包まれた。
「うがああああああああああああああああ!!!!」
体が変な方向に曲がっていく。
「ぐががああがががあががあああああああ!!!!」
抗おうとするほど、全身に激痛が走った。
俺はそのまま落下し、地面に衝突する。ガンと顔面を強打した音が脳内に響いた。
目の前が真っ暗になり、肌の焼け焦げる匂いがする。
「イッシン!」
「イッシン!!」
「イッシン様!!」
みんなの声が聞こえる。だが、キーンとした頭痛と共に意識が遠くなっていった。
ごめん、みんな……。せっかく、ここまで来たのに……。
「――!!」
だめだ……もう、意識が……。
目を開けると、見覚えのある空間に座っていた。ただ白が広がっている空間。
「あれ、どうしてここに?」
見覚えのある人が頭をポリポリと搔きながら目の前に座っている。
「……じい……ちゃん?」
「おお、イッシン」
「ってことは……俺、もしかして……」
「死んではおらんよ、まだな」
「まだ? どういうことだよ、じいちゃん。てか、なんでここにいるんだ? あの時、満足そうに消えていったじゃねえか! 感動の別れじゃなかったのかよ!」
「いやまあ……わしもな、そのつもりだったんじゃが、神様がここにいてもいいというもんじゃから、ここでお前の活躍を見ていたんじゃよ」
「ええ……。俺、あの時泣いてたんだぜ? 一応……」
「まあ、細かいことはいいじゃろ。実はな、結構、ここでの生活は楽しくての。想像すればなんでも出せるんじゃ。ほれ」
じいちゃんはその場でたくさんのものを想像し始めた。こたつに炊飯器、テレビ、茶碗などが出現する。じいちゃんはこたつに入り、くつろぎ始めた。
「こんな感じで、あのテレビからイッシンの映像が見れるんじゃ」
「めっちゃ、くつろいでるじゃん……」
「まあ、ほれ。お前も座れ」
「んっ……まあ、じゃあ……」
俺はこたつに入り、じいちゃんの前に座った。じいちゃんはみかんを想像して俺に差し出す。久しぶりに皮をむいてみかんを食べた。おいしかった。
「でっ、じいちゃん。俺、なんでここにいるんだ?」
「うむっ。まあ、死にかけとるからじゃな。まあ、わしも正確にはわからん。ただ、まだお前が生きとるというのは確かじゃ。なぜ神様がそういう力をわしに与えたのかはわからんが、わしはお前の生命活動を肌で感じ取れるようじゃ」
「へ〜。俺が生きているのはわかったけど、どうやって向こうに戻れるんだ?」
「そいつはわかるが、お前。このまま戻っても死ぬだけじゃぞ」
「えっ……どうして?」
「本気で言っとるのか? 自分でわかっとるじゃろ、あのままじゃ勝てんと。一心、なぜあの型を使わんのじゃ」
「……型? なんのことだ?」
「極みの型じゃ。あれを使えばいいじゃろ」
「えっ、でもあれは使っちゃダメってじいちゃんが!」
「人間相手にはな。極みの型を使ったらさすがに人を殺しかねんからのう。じゃが、モンスター相手になら、むしろ使うべきじゃ」
「そっか……でも、あれをやると……」
「わかっておる。デメリットはあるが、この先、同じようにモンスターと戦っていくのなら、極みの型は必要じゃろ。ただし、使いどころは考えるんじゃ。でなければ、モンスターを倒す前にお前が死ぬ」
「そうか……でも、確かにそうだな。この先、本気を出さなきゃ太刀打ちできない時は絶対に来る。出し惜しみしている場合じゃないか」
「そうじゃな。しかし、極みの型を使ったせいで、お前が死んでは意味がない。使うときはここぞという時じゃ。いいな?」
「わかったよ、じいちゃん。それで、どうやって戻るんだ?」
「もう、戻っとるよ」
その言葉を境に、俺は意識が無くなった。




