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第十六話 黒雷雲の脅威

 黒い雲は増殖し、どんどん島を覆いつくしていく。次第に、島全体が雲で覆いつくされていった。辺りが暗くなり、島の雰囲気が変わっていく。


「なんかやばそうだぞ……何が起こるんだ?」


 直後、雲から突然、ドゴォンと落雷が発生する。


「うお!? あぶねえ!!」


 その後、連続して落雷が発生し、無差別に降り注ぎ始めた。更に、雨が降り始めて周りは嵐のように吹き荒れ始める。


「なんだよこれ! どうするナビィ!?」


 自分達に雷が降り注ぐのも時間の問題だった。


「仕方ない、みんな! 湖に逃げるわよ!!」


「まじかよ!!」


 俺は気合で立ち上がる。ボーガンはまだ立ち上がれそうになかった。


「イッシン、手を貸してくれ! 俺はまだ動けそうにねえ!」


「わかった! 溺れるなよ!」


「おう……!」


 全員で湖に逃げる。その瞬間、俺達のいた場所に雷が降り注いだ。


 地面が焼け焦げている。間一髪、俺達は雷を食らわずに済んだようだ。


「イッシン、ありがとよ……もう大丈夫だ」


「わかった」


 水上で肩を貸していたボーガンの手を離す。


 だがその瞬間、湖の中から妙な違和感を覚えた。


 顔だけ水中につけて湖の中を見てみると、レイジング・キング・サーモンの赤い眼光がレーザーのように水中を漂う。顔を上げ、全員に伝える。


「みんな、気をつけろ!! 水中からくるぞ!」


 全員で水中に潜り、俺以外の三人はエアログラスを装着した。


 レイジング・キング・サーモンは俺達を見つけ、襲いかかってくる。


 ナビィは向かってくるレイジング・キング・サーモンに向かって、矢を放つ。


 だが、水の中にいるせいで矢は二メートル程しか進まなかった。


 ボーガンがナビィの代わりに噛みつきを大盾で受ける。


「やらせるかあ!!」


 だが、レイジング・キング・サーモンの突進の勢いで大きく湖の中を流された。


 ボーガンはプロテクトソードから剣を取り出し、レイジング・キング・サーモンの眼を攻撃する。


「だらぁ!!」


「グオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 レイジング・キング・サーモンはボーガンを離し、咆哮と共に暴れ出した。


 体を回転させ、尾ひれでボーガンを弾き飛ばす。


「ぐふあっ!!」


 脇腹に不意の一撃を受けたボーガンはエアログラスを口から離し、水中に沈んでいった。


「ボーガン!!」


 俺は急いで泳ぎ、ボーガンを助けようとする。


 だが、その前にフリルが泳いでいた。よく見れば、カスタムバレルガンを背負っていない。どうやら、自分の武器は使えないと判断して、砂浜に置いてきたようだ。


 フリルはボーガンを連れて水中から浮上する。


 レイジング・キング・サーモンは眼をやられたせいか、その場で暴れていた。


 ナビィは俺の肩を叩き、水上に指を差す。俺はナビィと一緒に浮上した。


「ぷはぁ~~」


「ふぅ~」


「危ない所だったぜ。フリルとボーガンは?」


 二人を探すと、フリルが遠くの水上で手を振っていた。


「お嬢様、イッシン様! ボーガンは無事です!!」


 ボーガンはグーサインを出している。


 頬にぶたれた跡があるが、恐らく、フリルに叩き起こされたのだろう。


 俺は顔だけ水中につけてレイジング・キング・サーモンの様子を見る。


 だが、レイジング・キング・サーモンはどこにもいなかった。


 (どこに行ったんだ?)


 辺りを見渡すが、気配が無い。水上から顔を上げると、ナビィが俺の肩を叩いた。


「ねえ、イッシン。あそこ」


「……え?」


 ナビィに言われた方向を見ると、レイジング・キング・サーモンは砂浜にいた。


 いつの間に陸に上がったのか、全然気づかなかったが、また噴気孔から黒い雲を出しながらこっちを見ている。


「陸でやろうってことか。どうする、ナビィ?」


「どちらにせよ、あいつを狩らないと帰れないわ。やるしかなさそうね」


 ナビィはフリルとボーガンに陸に上がろうと指示を出す。


 だが、ボーガンは首を振った。


「おい、ナビィ!! 無茶だ!! あんな場所で戦えるわけがないだろ!!」


 ボーガンの言う通り、黒い雷雲のせいで島は雷や雨が降り注いでいる。


 だが、残された手段はなかった。


「でも、あいつはあそこから動く気はないみたいよ! だったら、陸に上がって戦うしかない! どちらにせよ、あいつと戦うなら、この状況でも戦えないと狩れないってことよ!」


「つってもよお!」


「狩るんでしょ! 私達はなんでここにいるの!!」


「……っ!!」


 ボーガンは苦い顔をする。だが、ナビィの言葉で覚悟を決めたようだ。


「わかったよ、やってやらあ!!」


 全員で泳ぎ、陸に上がる。島は嵐の様に吹き荒れていた。


 とりあえず、全員で作戦を立てようとするが、ボーガンが不安な声を出す。


「どうすりゃいいんだ! こんな嵐の中でどうやって戦えってんだよ!!」


 弱気な声に、俺はボーガンの背中を思い切り手のひらで叩いた。


「いてえ! 何すんだよ、イッシン!」


「焦るな、ボーガン! こういう時は不安になった方が負けるんだ、逆に考えろ! あいつだって、ここまでしねえと俺達に勝てねえと思っているんだ。それだけ追い詰めたってことだろ! 胸を張れ!!」


「あ……ああ、すまねえ。でも、どうすりゃいいんだ。このままだと全員雷にやられちまうぞ!」


「降ってくる雷を避けて戦うしかねえだろ。とりあえず、フリルとナビィは遠距離から狙撃してくれ。幸い、湖の近くの浜辺ならギリギリ雲の範囲外だ。そこから狙撃を頼む。俺達は雷を避けながら接近して攻撃すればいい。行くぞ、ボーガン!!」


「降ってくる雷を避ける!? そんなの、お前にしかできねえだろ!! ちっ! くっそぉ! やってやらあ!!」


 俺はレイジング・キング・サーモンに向かって一気に走り出す。


 コンマ数秒だが、雷が降る瞬間に雲が一瞬光っていた。


 タイミングを合わせれば、雷は避けられる。


 俺は雷を避け続け、レイジング・キング・サーモンに近づいていく。


 ボーガンは大盾で頭上を守りながら進んでいた。


「うおおおおおおおおおおおおっ!! こうするしかねえ!!!!」


「やるじゃねえかボーガン! 行くぞ!!」


 レイジング・キング・サーモンは俺達に向かって水の塊を連続で発射する。


 だが、ナビィとフリルがタイミングを合わせて撃ち落としてくれた。


 ナビィとフリルがさらに遠距離から狙撃し、レイジング・キング・サーモンは雲を集めて狙撃から体を守る。雲が離散し、脇腹を守っていた雲が消えた。


「今よ、イッシン、ボーガン!!」


「お願いします!!」


 俺達は雲が離散した脇腹に回り込む。


「豪魔獣王流、戦騎(せんき)(かま)え、戦乙女(ヴァルキュリア)()剛弓(ブレイク)!!」


「変形機構、巨人(ギガント)()爆撃剣(クラッシャー)!!」


「グゴアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 俺達の攻撃でレイジング・キング・サーモンの怒号が鳴り響く。


 あまりの音の大きさに俺達は耳を塞いだ。


「くそっ、またこれか! 鼓膜が……!!」


「耳がいてえ!!」


 レイジング・キング・サーモンは俺達が動けない隙にナビィとフリルに向かって突進を始める。二人は狙撃で突進の勢いを弱めようとした。


 だが、レイジング・キング・サーモンは勢いを止めない。


「やばっ! 逃げ場が!!」


 二人は浅瀬ではあるが、湖の中に入っているせいで、身動きがとりづらかった。


 レイジング・キング・サーモンは突進しながら黒い雷雲が入った水の塊を放つ。


「お嬢様!!」


 ナビィが避けられないと判断したフリルはナビィを庇った。


 水の中に仕込まれていた雲がはじけ、フリルは電撃を食らってしまう。


「いやああああああああああああああああああ!!!!」


「フリル!!!!」


 レイジング・キング・サーモンが大きな口を開けながら迫ってくる。


「お嬢様……逃げ……」


 ナビィの心の中で葛藤が巡る。


 どうしよう……このままだと、二人共食べられて死ぬ!!


 だが、答えを決めるよりも先に体が動いていた。


「ごめんフリル!! 屈んで!!」


 フリルは小さく屈み、ナビィはフリルを踏み台にして高く飛び上がる。


 レイジング・キング・サーモンの頭上を飛び越し、噴気孔に狙いを定めた。


「食らえ!! 変形機構、紫炎(インフェルノ)()弩弓(ブラスト)!!」


 紫の火花を散らしながら強力な矢が噴気孔に向かって放たれる。矢は噴気孔を突き刺し、出続けていた雲がせき止められた。


「グオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 レイジング・キング・サーモンはその場で暴れ出す。体を上下に揺らし、ハンマーのように体を地面に叩きつけていた。大きな地響きと共に地面が揺れている。


「イッシン、ボーガン! 追撃をお願い!!」


「おう!」


「わかった!!」


 ナビィの指示で俺達は走り出す。だが……。


「ダメだ! イッシン、止まれ!!」


「どうしたんだ、ボーガン! せっかくのチャンスだろ!」


「違う、様子がおかしい! 何かが変だ!!」


「えっ……?」


 よく見ると、レイジング・キング・サーモンはただ暴れているわけではなかった。


 体を地面に叩きつけるごとに、周りにあった黒い雲が纏わり始めている。


「何が起きてるんだ? 様子が変だぞ!?」


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 雨風が強く吹き荒れ、あまりの風の強さに木々は倒れ始める。


 木々が風と共にレイジング・キング・サーモンを中心として集まっていく。


 流動する黒い雷雲は巨大な竜巻となり、全てを飲み込み始めた。


「つかまれ、イッシン!!」


 ボーガンは大盾を地面に突き立て、吸い込まれないように踏ん張っている。


 俺も浮きそうになる体をボーガンにしがみつくことで抑えた。


「くそっ!! 変形機構……!!」


 だがその瞬間、巨大な竜巻の中でレイジング・キング・サーモンの眼光は赤く光り、纏った雷雲の全てを口の中に吸収し、巨大な雷雲による竜巻攻撃を放った。


「ぐおおおおおああああああああああああ!!!!」


「うあああああああああああああああああ!!!!」


 突き立てたボーガンの大盾は地面ごと剥がされ、あまりの勢いに俺達は湖まで吹き飛ばされてしまう。


「ぐぼぉっ!!」


 空中から湖に叩きつけられ、大きな水しぶきが上がった。


 水中から急いで浮上すると、湖には吹き飛ばされた木々や岩が散乱しており、雷雲の影響なのかビリビリと水の上が放電している。


 さっきまで俺達がいた砂浜の方を見ると、地面が大きくえぐれていた。


「なんつう攻撃だ……。ボーガンがいなかったら死んでたぞ……」


 俺はとりあえず、近くにいるはずのボーガンを探した。辺りを見渡すと、剣を木に刺して浮き輪代わりにしているボーガンを見つける。


「ボーガン!!」


 恐らく、飛んできた木に剣を刺し、浮き輪代わりにしたのだろう。


 だが、顔が水についたまま動いていない。明らかに気絶していた。


 俺はボーガンの所まで急いで泳ぎ、意識を確かめる。


「ボーガン!! 大丈夫か、ボーガン!!」


 水についたボーガンの顔を上げる。ボーガンの体を揺らすが、返事が無い。


 指で目を開けるが、白目をむいていた。やはり、気絶している。


「許せ、ボーガン!!」


 俺はボーガンの頬を思い切り平手打ちした。


「あがぁっ!!……うえっ!! えほっ……えほっっ……!! うおえっ!!」


「ボーガン! 俺だ、わかるか!? くそっ、もう一発!!」


「いやぁ待て待てイッシン! 起きてる! 起きてるからあ!!」


 俺はボーガンの背中に思い切り平手打ちした。


「おふぇっ!!!!」


「ああ……なんだ。起きてたのか。すまんすまん」


「今、わかっててぶったよな!? なんでだよ! 恨みでもあんのか!?」


「いや、ボーガン。こういうのは二回叩いた方がいいんだ。肺に溜まった水を吐き出すためにな。それに、意識していない方向から叩かれた方が体は反応しやすい」


「そうか……だから顔じゃなくて背中を叩いたのか……すまねえ」


「そうだ……。まあ、半分冗談だけどな」


「おい」


「まあまあ。それより見ろよ、あれ」


 そこには、先程までとは違うレイジング・キング・サーモンの姿があった。


 黒い雷雲が体に纏わり付き、どういう原理かはわからないが、空を泳いでいる。


「なあ、ボーガン。あれも上位種ってやつなのか?」


「さすがに俺もわからねえ。コカトリュフの時はフリルから聞いていたが……」


 その時、フリルの声がボーガンの横から聞こえた。


「いえ、あれは上位種ではありません」


「うおおっ! フリルか!! びっくりしたあ!! 無事だったのか!?」


「ナビィもいますよ」


「いやあ~びっくりしたわぁ」


 フリルの横からナビィも顔を出している。


「それにしても、良い木を見つけたわね。これでちょっと休憩できるわ」


 ナビィは木に顔を乗せてだらんと脱力した。


「のんきだな……まあいいか」


 みんなで木にしがみつき、少し休憩する。


 とりあえず、フリルにさっきのことを聞いてみた。


「それでフリル、上位種じゃないってのは?」


「はい。あの姿は上位種ではなく、本来のレイジング・キング・サーモンの姿です。レイジング・キング・サーモンは本来、空を飛ぶ生き物でした」


「はあ!? 空を飛ぶ!?」


「ええ。ですが、空には強い生き物が多く存在しています。レイジング・キング・サーモンは生存競争に負け、海や湖の中で生息するようになったんです。ですが、本来の力を発揮するためにはあのように姿を変える必要があるのでしょう」


「そういうことか。つまり、あれが奴の本気ってわけだな」


「ええ、そういうことになります」


「そういえば、二人はどうやって逃げたんだ?」


「私達はレイジング・キング・サーモンの真下にいましたが、不思議なことに、真下にいれば安全な状態だったんです。恐らく、台風の目にいる様な状態ですね……ですが、レイジング・キング・サーモンが攻撃をしたタイミングであの状況から脱出しようとしたら、結局、風圧に耐え切れず二人共吹き飛ばされてしまいました」


「なるほどな……で、どうする?」


「どうしよう……」


「どうしましょうね」


「うーん……」


 四人で木に捕まりながら考えるが、解決策が見つからない。


 遠くでレイジング・キング・サーモンの大きな咆哮が聞こえた。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


「うわぁ~すげえ怒ってる……」


「あいつ……よく叫ぶわね」


「まあ、モンスターですし……」


「でけえ声だなぁ」


 ただぼーっと、四人でレイジング・キング・サーモンの姿を眺める。


 レイジング・キング・サーモンは黒い雷雲と一緒に優雅に空を泳いでいた。


「やっべえ……。なんも思いつかねえ。どうする? リーダーに任せるよ」


「ええ~。まあ、問題はあの竜巻攻撃よね。周りの物を巻き込みながら吸い込んでいるから、私達も攻撃するには障害物の邪魔が入るし……う~ん。難しいわね」


「俺とボーガンで障害物を弾くから、その間に二人が撃ち落とすってのは?」


「レイジング・キング・サーモンを? それができたらいいけど。四人で固まって戦うから撃ち落とすのに失敗すればあの竜巻を直で受けることになるわ」


「そうだな……さすがに現実的じゃないか」


「だとすると……残る手段は……」


 ナビィが口に手を当てて考えていると、フリルが手を上げた。


「あの……私の新しい変形機構なら、あの技を防げるかもしれません」


「えっ、本当に? それを早く言ってよ!」


「ですが、お嬢様。そんなに期待しないでください。これは危険な方法なんです」


「どうして?」


「私の変形機構は、チャージ時間が必要です。およそ、五分。しかもその間、弾は一切撃てません。しかも、一発撃った後は再度五分間の冷却時間が必要です」


「二回、無防備になる時間ができるってことね」


 すると、ボーガンが提案してきた。


「じゃあ、俺の変形機構でフリルを守るってのはどうだ? 俺も新しい変形機構があるんだが、さっきから使い道がなくてな。その条件下なら使えそうだ」


「どんな変形機構なの?」


「俺の変形機構があれば、フリルがチャージしている間、守ってやれるって保障だけはできる。ただし、俺もその場を動けねえからそれだけは注意してくれ」


「そう……。わかったわ、ボーガンに任せる。フリルもいい?」


「ええ、大丈夫です。ボーガン、ちゃんと守ってくださいね」


「ああ、任せろ!」


 作戦が決まり、ナビィが指揮を取る。


「決まったみたいね。じゃあ私とイッシンでレイジング・キング・サーモンの注意を引くわ。その間、ボーガンはフリルを守ることに集中。それでいい?」


 全員が頷く。作戦が決まった。


「よし、じゃあ作戦開始よ!」


 まずは全員で泳ぎ、レイジング・キング・サーモンのいる砂浜まで泳ぐ。既に日は落ちかけ、夕焼けが辺りを赤く染め始めていた。もうすぐ、日が暮れる。


 俺達は覚悟を決めて、島へと渡った。


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