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第十五話 水中戦、レイジング・キング・サーモン!!

 俺は昔、じいちゃんに海に連れていかれて、海中訓練を行っていたことがある。


 俺の水中での呼吸は動きながらだと五分。制止状態だと二十分持つ。視力は測定したことはないが、水中でもある程度の距離ならはっきり見える。


 だが、まさかこんなものが見えるとは思いもよらなかった。


(なんだよ……あれ……)

 目の前にあるのは島ではなく、巨大な生き物だった。


 巨大な顔面、硬そうな顎、見覚えのある体の形。


(亀……?)

 俺達が島だと思っていたもの、それは巨大な亀の甲羅の上だった。巨大な亀は口を開けたり閉じたりしている。


(何かを食べているのか?)

 恐らく、プランクトンを食べているのだろうか。敵意はないようだ。


 ただ、それよりも問題なのはレイジング・キング・サーモンの方だ。俺の周りをぐるぐると泳いでいる。


 浜辺に戻りたいが、下手な動きをすればすぐさま襲い掛かって来るだろう。


 レイジング・キング・サーモンは俺と違い、水中の方が本領は発揮される。


 地上でも苦戦していた奴が水中で本気の攻撃を仕掛けてきたとしたら、俺でも耐えられるかはわからない。


 だが、不思議とレイジング・キング・サーモンは一定のスピードを保ちながらゆっくりと泳ぎ続けている。妙だが、攻撃してこないならむしろありがたい。


 俺はハンターズベルトの袋に入っているスミスから貰ったエアロカプセルを取り出し、口にくわえた。スイッチを入れると、中でカチッと音がしてからブクブクと泡が噴き出す。口の中に空気が入ってきた。


 (すげえ、ちゃんと呼吸ができるぞ)


 確か、スミスが言うには五分間呼吸ができると言っていた。俺の呼吸時間と合わせれば、およそ十分間息が持つ。それだけあれば充分だ。


 だが、なぜ奴は攻撃してこない?


 もし、何か理由があるとしたら……そう思った瞬間だった。


 俺の下から水の圧力を感じる。水中の陰から大量のレイジング・サーモンの群れが襲い掛かってきた。


 (まさか、あれに俺を食わせるためか!!)


 レイジング・サーモンは歯を剥き出しにしてマシンガンのように数を活かして攻撃してくる。その攻撃を見切って殴りまくるしか、防ぐ手段が無かった。


 (うおおおおおおおおおおおおおお!!)


 だが、気合を入れて連打を繰り返してもレイジング・サーモンの攻撃は一向に止む気配はない。


(くそっ! どんだけいるんだ! このままだとキリがねえ!!)

 俺は一旦、攻撃を止める。


 レイジング・サーモンに腕や足を噛みつかれながら、静かに構えを取った。


 (こうなったらやるしかねえ。見くびるなよ? 水中に潜れば、豪魔獣王流が使えないとでも思ったのか! 見せてやるぜ! 豪魔獣王流に、限界はない!!)


 腕の動きを波の流れに合わせ、体を回転させる。だんだんと加速し、波の動きが大きくなる。次第に、噛みついていたレイジング・サーモンは波の圧力に耐えきれなくなっていた。俺の体から口が離れ、波に飲み込まれていく。波の流れは凄まじい勢いで速くなっていき、泳いでも逃れることはできない巨大な渦へと変化した。


 次第に、俺の周りには水上の空気が集まり始める。空気はだんだんと渦を描きながら巨大な竜巻へと変わっていった。


「豪魔獣王流、蒼嵐(そうらん)(かま)え、水竜神(リヴァイア)()竜巻(サイクロン)!!」


 レイジング・サーモンは腕の回転と波の圧力に耐え切れず、叩き潰されていく。


「キシャアアア!! キシャアアァァ!!!!」


 大量のレイジング・サーモンは悲鳴を上げ、白目を剥いてぷかぷかと水中に浮かんでいた。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 レイジング・サーモンの群れを倒したからか、レイジング・キング・サーモンの咆哮が自分の下から聞こえてくる。大きな水の圧力が下から上がってきた。


 (来る……!?)


 レイジング・キング・サーモンが口を開けながら歯をギラつかせて突進してくる。


 だが、怒りで我を忘れているからか、単調な真っ直ぐの突進だった。


 (確かに速いが、速いだけで勝てるほど俺は甘くねえぞ!)


 近づいてくるレイジング・キング・サーモンに合わせて、構えを取る。


 口を開けたレイジング・キング・サーモンの下に回り込み、口を閉ざすように顎に拳撃を食らわせた。


「豪魔獣王流、戦騎(せんき)(かま)え、戦乙女(ヴァルキュリア)()剛弓(ブレイク)!!」


 ガントレットについている爆雷石が起動し、爆発は起こらなかったが、雷撃を食らわせる。


「グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 予測できなかったのか、不意の一撃にレイジング・キング・サーモンは面を食らっていた。俺から逃げるように遠ざかっていく。


 (チャンスだ、今のうちに地上に戻ろう。エアロカプセルの空気ももう限界だ)


 俺は水上まで泳ぎ、顔を出して呼吸をする。


「ふぃ~危なかったぜ」


 そのまま陸まで泳ぐと、俺を心配してボーガンが声をかけてくれた。


「大丈夫か、イッシン!!」


「ああ、とりあえず追っ払った」


「何があったんだ? お前が湖の中に沈められたと思ったら、急にでかい渦巻きが起きてよ。湖の中からデカい音は聞こえるし、良く生きてたな?」


「まあな。そんなことよりボーガン。気をつけろ、来るぜ」


「……え?」


 ゴゴゴゴゴと湖から音がする。


 レイジング・キング・サーモンが湖の中から飛び出してきた。


「グオオオオオオオオオオオオ!!!!」


「そうだよな、やられっぱなしじゃ終われねえよな、お前は!!」


 レイジング・キング・サーモンは俺に向かって空中から突進してくる。


 俺は瞬時に構えを取り、レイジング・キング・サーモンの鼻に狙いを定めた。


「豪魔獣王流、戦騎(せんき)(かま)え、戦乙女(ヴァルキュリア)()剛弓(ブレイク)!!」


 両拳が鼻をえぐるように突き刺さり、爆雷石による爆発と雷撃がレイジング・キング・サーモンにダメージを与えた。


「グゴオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 だが、レイジング・キング・サーモンは俺の攻撃を食らいながらも体を反転させ、尾ひれで俺を攻撃する。


「ぐっ……!! 攻撃を食らう前提で襲ってきたのか! やるな!」


 ガードは間に合ったが、レイジング・キング・サーモンはまた湖まで逃げ出してしまった。レイジング・キング・サーモンは湖から顔だけ姿を現し、口を大きく開けて大きな水の塊を作り出す。


「またあれか! 避けるしかねえ!!」


 レイジング・キング・サーモンは水の塊を連続で発射した。ボーガンは大盾で防ぎ、俺は攻撃を見切って避け続ける。


「くそっ、避けるのは難しくねえが、攻撃の手段がねえ!!」


 攻撃を仕掛けるとしても、レイジング・キング・サーモンに近寄るしかない。


 だが、奴が水の中にいる以上、攻撃を避けるのは容易だろう。手をこまねいていた瞬間だった。レイジング・キング・サーモンに銃撃と矢撃が一斉に襲い掛かる。


「グゴオオオオオオオオオオオオ!!」


 レイジング・キング・サーモンは悲鳴を上げて怯んだ。


「イッシン!!」


「イッシン様!!」


「ナビィ、フリル! もう大丈夫なのか!?」


「ええ、冷却時間は終わったわ。でもあいつ、全然湖から出ようとしないわね」


「ああ、そうなんだ。俺達じゃどうしようもなくてな」


「このまま私たちが攻撃を続けてもいいけど……ん? あいつ、様子が変じゃない?」


「えっ……?」


 レイジング・キング・サーモンは、体の中心上部、背びれの前あたりについている噴気孔から灰色の雲の塊を作り出していた。


 謎の雲に全員が警戒する。だが、雲を作っているだけで襲ってはこない。


「何かしらね、あの雲。フリル、わかる?」


「ええ。とりあえず、あの雲は触れると危険です。あれが空を覆いつくせば、私達にとってかなり危険な状態になります。早く対処した方が良さそうです」


「そう。じゃあ早く攻撃を仕掛けた方がよさそうね。とりあえず、あの変な雲が出ている噴気孔を狙えばいいんでしょ?」


 ナビィはライトニング・クロニクルを構える。矢を装填し、弓を限界まで引き絞り、噴気孔めがけて矢を放った。


 だが、レイジング・キング・サーモンは大きく口を開けて灰色の雲を噴射し、雲が矢を受け止めてしまう。


「うそっ!? あの雲、口から出せるの!?」


 レイジング・キング・サーモンはそのまま灰色の雲で自分の周りを包み始めた。


 雲の中から赤い眼光だけがこちらを鋭く見つめている。


「イッシン、なんとか攻撃できない?」


「いやっ、さすがに接近しないと厳しいな……」


 その瞬間、レイジング・キング・サーモンは雲の中から水の塊を射出してきた。


 しかも、恐ろしく速い。目で見てから着弾まで数秒もなかった。


 俺は避けられても、他の三人は避けられそうにない。


「くそっ!!」


 俺は水の塊を自ら食らい、三人を庇った。だが、水の塊の中に雲が入っている。


「まじかよ!!」


 水の中で雲がはじけ飛び、電撃を起こした。


「あがががががああああああああ!!!!」


 バチバチと弾ける電撃の青白い光と共に全身に痺れと激痛が走る。


「「「イッシン!!」」」


 膝をつき、その場から立てなかった。


 その間に、レイジング・キング・サーモンがまた水の塊を連続で射出した。


「やらせないわ!!」


 ナビィが矢撃で水の塊を撃ち落とす。撃ち落とされた水の塊は地面ではじけ、はじけた地面にビリビリと電撃が走っていた。


「イッシン、大丈夫?」


「あ……ああ……」


 致命傷ではないが、体が動かしづらい。


「すまねえ、しばらく動けそうにない……」


「わかったわ。じゃあ私とフリルで遠距離から攻撃を仕掛ける。いい、フリル?」


「はい。冷却時間は終わっているので、大丈夫です」


 二人で狙いを定めるが、雲のせいで狙いが定まりづらい。


「とりあえず、あの赤く光っている眼を狙うわよ」


「わかりました、お嬢様」


 雲の中から出ている赤い眼光に向かって二人は矢撃と銃撃を放つ。


 だが、レイジング・キング・サーモンの体の周りで漂っている雲が集まり、銃弾と矢は雲の中に飲み込まれるだけだった。


「何あれ? 当たってないの?」


「どうやら、あの雲がある限り、私達の攻撃は効かないみたいですね」


 ナビィとフリルは考えるが、案が出そうにない。


「なあ、ナビィ。一つ策があるんだが、乗るか?」


「イッシン、どんな作戦?」


「さっき、ナビィとフリルが攻撃した時、攻撃に合わせて雲が集まっていただろ? あの瞬間、他の雲が薄くなっていたように見えたんだ。もしかしたら、あいつの周りに集まっている雲には制限があるのかもしれない。ってことは、ナビィとフリルが攻撃しまくれば、雲が分散されて、俺とボーガンが攻撃する隙ができるんじゃねえかなって思ってさ」


「なるほどね。でも、もう動けるの?」


「ああ、大丈夫だ」


 俺は立ち上がり、体の動きを確認する。動きに制限はなかった。


「ボーガンも、それでいいか?」


「おう! やってやろうぜ!」


「よし! じゃあ行くぜ! 三、二、一、ゴー!!」


 ボーガンと俺で合図と共にレイジング・キング・サーモンに向かって駆け出す。接近に気づいたレイジング・キング・サーモンは水の塊を連続で五発撃ち出した。


「ナビィ、フリル! 援護を頼む!!」


「任せて、二人共! そのまま突っ込んで!!」


「邪魔はさせません!!」


 ナビィとフリルはタイミングを合わせて射撃し、水の塊を全て撃ち落とす。俺とボーガンはレイジング・キング・サーモンに接近し、攻撃できる間合いに入った。


「今だ、ナビィ、フリル!! もう一度頼む!!」


「「了解!!」」


 二人の銃撃と矢撃がレイジング・キング・サーモンに降り注ぐ。レイジング・キング・サーモンは仕方なく、自分の周りの雲を集めて攻撃を防いだ。


 だが、雲を集めすぎたせいか、俺達の前から雲が消える。


「行くぞ! ボーガン!!」


「任せろ!!!!」


「豪魔獣王流、戦騎(せんき)(かま)え、戦乙女(ヴァルキュリア)()剛弓(ブレイク)!!」


「変形機構、巨人(ギガント)()爆鉄(パニッシャー)!!」


 レイジング・キング・サーモンの脇腹に俺達の攻撃が炸裂する。


 ボーガンの強烈な斬撃で鱗は破壊され、俺の拳による爆発でレイジング・キング・サーモンは吹っ飛ばされた。


「グゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 だが、勢いよく吹っ飛ばしすぎたせいでレイジング・キング・サーモンはそのまま湖に潜ってしまう。湖に潜ったレイジング・キング・サーモンの姿を探すが、その瞬間、ナビィの声が聞こえた。


「待って! そこにいるとまずいわ!! 逃げて!!」


「何っ!?」


 ナビィの指で差す方向を見ると、俺達の頭上に大きな雲があった。


 咄嗟に離れようとするが、その瞬間、俺達の体に電撃が走る。


「ぐがあああああああ!!!!」


「うがあああああああ!!!!」


 レイジング・キング・サーモンは雲を俺達の頭上に設置し、時間差で落雷の攻撃が起こるように仕掛けていた。ナビィとフリルが心配して俺達に駆け寄る。


「イッシン、ボーガン!!」


「大丈夫ですか!?」


「あ……ああ、だい……じょ……ぶ……だ」


「おれも……まだ……たたかえ……るぞ……」


「全然大丈夫じゃないじゃない! バカなの!?」


 体が痺れて上手く話せない。身動きが取れそうになかった。


 ふと空を見上げると、黒い雲が島を覆いつくす勢いで増え続けている。


「なんだ……あれ……黒い雲?」

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