第十二話 出発、ラッテル湖!
レイジング・キング・サーモンの討伐クエストを受注した俺達は、酒場で作戦会議を始めていた。
「じゃあ、情報の共有をするわね。とりあえず、今回のクエストの場所、ラッテル湖について。これが、ラッテル湖の地図よ」
ナビィはラッテル湖の地図をテーブルに広げる。周りが森に囲まれている湖のようだ。地図によると湖を囲うように砂浜があるらしい。
湖の中心にはバツ印の島が描かれている。何か意味があるのだろうか。
「ラッテル湖は、エアリア草原の奥にある森を進んだところにあるわ。でも、問題なのは湖の中心にあるこの島ね」
「もしかして、このバツ印の島のことか?」
「ええ。その島はある気象条件を満たさないと現れないらしいの。レイジング・キング・サーモンはこの島が出現している時にしか目撃情報がないから、この島が出現するまでは待つことになる可能性が高いわ」
「面倒だな。でも、この島が現れたとしても、周りは湖だろ? どうやって島まで行くんだ?」
「それが、わからないのよね。目撃している人は島までたどり着けているみたいなんだけど……」
「まあ、情報が無いなら行くしかないか」
「ただ、レイジング・キング・サーモンはこの湖の中心にある島にエサを求めてやってくるらしいの」
「エサってことは、モンスターか?」
「ええ。この島には、アスラコンガ、グレイトロールパング、リングバードが生息しているんだけど、この三種類のモンスターの肉を島の砂浜に置くことで、レイジング・キング・サーモンはおびき寄せられるって資料には書いてあったわ」
「じゃあ、レイジング・キング・サーモンと戦う前にその三種類のモンスターと戦わないといけないのか」
「ええ、そうなるわね」
「だとすると、長期戦の可能性もあるのか。スタミナが持つのかが心配だな」
「そうね。だから、その三種類のモンスターを狩った後、どうせレイジング・キング・サーモンのエサにするなら、私達もそのお肉を食べちゃうのはどうかなって」
「それってつまり、エサとは別に俺達用の肉を用意するってことか?」
「そういうこと。少しぐらいなら食べても平気なんじゃないかなって思って」
「なるほどな。ボーガン、その三種類のモンスターってのは調理できそうなのか?」
「ああ、大丈夫だぜ。簡単な飯ならそんなに調理器具は必要ないし、作れるはずだ」
「そいつは楽しみだ。じゃあ、決まりだな」
「ええ。じゃあみんな、スミスの工房に武器と防具を取りに行くわよ」
「お、もう出来ているのか!」
「ええ。相変わらず爆速で作ってくれたわ。今回も自信作らしいわよ」
「そいつは楽しみだぜ」
俺達は資料や本を片付けて、ギルドを出た。
しばらく歩いて、スミスの工房までたどり着く。
だが、スミスの部屋の扉にまた変な看板がつるされていた。
『入る前に、三回回ってアオンと吠えないとハンマーで叩いちゃうぞ☆』
「なあ、ナビィ。これどうすればいい?」
「好きにしたら?」
「よし、無視しよう」
何も考えずに扉を開けようとすると、天井からスミスが降ってきた。
「こら~!! ちゃんと三回回ってアオンと言いなさあい!!」
スミスはハンマーを振り下ろすが、俺は瞬時に気配を察知して避ける。
振り下ろされたハンマーは地面に衝突してゴスンと音がしていた。
「ちっ……やるわね。あとちょっとで殺したのに」
「物騒だな! 部屋くらい普通に入れてくれよ!」
「普通に入れたら面白くないじゃない! 馬鹿じゃないの!?」
「なんで怒られたの俺!?」
「ふん、仕方ないわね。今日のところは見逃してあげるわ。入りなさい。スミスちゃんの乙女の部屋に」
スミスは我が物顔で、パンパンと手の汚れを払っていた。
なぜ、偉そうなのかはわからない。とりあえず、部屋に入ることに。
だが、そこで思わず息をのんだ。
「す……すげえ……」
四人分の武器と防具が飾られた防具立てが置いてあった。
素人でも一目見ただけで凄まじい完成度だということがわかる。
「ふん、当たり前でしょ? ね、ナビィ?」
「ええ、そうね。さすがは私の親友だわ」
「ふん! でしょでしょ!」
スミスは嬉しそうに鼻息を立てて笑っていた。
「さて、じゃあ今回はイッシンの装備から説明しようかしら、いい?」
「あ、ああ。よろしく頼む」
スミスは棚からメガネを取り出す。見せつけるようにメガネをクイッとかけた。
「そのメガネはやっぱり必要なのか?」
「雰囲気は重要よ、当たり前でしょ!」
「そうっすか……」
スミスは防具立てから武器と防具を取り出し、俺に渡す。
「さ、つけてみて。所感を聞きたいから。あ、他のみんなも装備をつけておいてね」
武器を手に取って防具を着けてみた。
武器は前と違って、鳥の羽のような毛皮がグローブについている。
爆光石が前と同じようにX状についているが、前は赤色の爆光石だったのに、黄色になっていた。何か性質が変わっているのだろうか。
「イッシンの武器は、コカトリュフの素材である電光石を一度高熱で液体にして、爆光石と混ぜて合体させた、爆雷石という鉱石を利用して作ったわ。まあ、何回か爆発して大変だったんだけどね。爆雷石は爆発の威力はそのままに雷属性を付与した電気と爆発を混合させた強力な石。それを組み込んだガントレットがイッシンの武器よ」
「おお~この黄色い石か」
「ええ。名付けて、『エクス・ライトニング』。エクス・ブレイクに雷属性が付与されたガントレットファイターよ」
「へえ~すげえ。単純に言えば電撃と爆発の同時攻撃を放てるってことだよな? こいつは使うのが楽しみだぜ」
「ふふっ、でしょ? もちろん、シューズにも同じように組み込まれているから安心してね。前と使い方は変わらないからいつも通り戦いなさい」
「ありがとう、助かるよ」
「次は防具ね。防具は前と一緒でナビィとの違いは男性用か女性用かってだけね。まあ、コスパを考えたらそっちの方が都合はいいから勘弁して。防具の名前は以前の『ヘビィギアカスタム』から『アークギアカスタム』になったわ。正式には、イッシンのが『アークギアカスタムa』、ナビィのが『アークギアカスタムb』ね」
「男用がアルファで、女性用がベータってことか」
「そういうこと。わかりやすくていいでしょ? じゃあ、改めて防具の説明をするわね。アークギアカスタムは雷耐性を持っているわ。全身に雷光石を使った粉末コーティングがしてある。更に、コカトリュフの毛皮と羽を使った装飾がついているわ。装飾のおかげで大抵の衝撃は吸収してくれるし、装備の重量もそこまで重くないから身軽に動けるようになっているの。すごいでしょ?」
「へえ~確かに軽いし、身軽に動けそうだ」
つま先を使ってトントンとジャンプしてみる。装備の重さは前とほとんど変わらない。良い動きができそうだ。装飾の大きさもそこまで大きくないから邪魔にはならない。さすがはスミスだ。
「さて、次はナビィね。防具の説明はさっきしたから割愛するわ。ナビィの武器は爆雷石を銃身に組み込むことで、矢に伝達する発火スピード、射撃速度、弾速が向上したわ。そして、従来から使っているアロンダイトの矢は電気の伝導性が高い鉱石でね。雷を纏うことができるの。つまり、通常の攻撃に雷属性が付与されるようになって威力が向上しているわ。名付けて、『ライトニング・クロニクル』それが、ナビィの武器よ」
「へえ~じゃあ、威力が凄く上がって、攻撃に雷属性が付与されたってことね」
「ええ。以前使用していたヘビィ・クロニクルの三倍は威力が強化されているわ。その代わり、反動が少し強めになっているから、反動制御には気をつけてね」
「わかったわ。ありがとう、スミス」
「次は、ボーガンね」
「おう、よろしく頼む」
「ボーガンの武器は鋼鉄の巨人から雷鋼鉄の巨人になったわ。盾に埋め込まれていた爆光石は全部、爆雷石になっている。更に、爆雷石による粉末コーティングで盾と剣の強度が上がって、攻撃に雷属性が付与されるようになったわ」
「おお~。みんな雷属性がマシマシだな」
「そりゃあ、せっかく上位種のコカトリュフの素材を使うんだからちゃんと活かさないとね。それに、今回討伐するのはレイジング・キング・サーモンなんでしょ? 魚系のモンスターに雷属性は有効な場合が多いから、素材を余らせちゃうとむしろもったいないわ」
「確かにな。ありがとよ、スミス。助かるぜ」
「さてと、じゃあ次は鍛冶師泣かせのお題を出してくるフリルね」
「すみません。スミス様。いつもありがとうございます」
「別にいいわ。この格好じゃないと落ち着かないんでしょ?」
「はい……」
フリルが着ている新しい装備はいつもと見た目が変わらないメイド服の装備だった。まさか、金がないのかこだわりなのか、コカトリュフの討伐の時には突っ込まなかったが、今、フリルとスミスの会話で理解した。
このメイド服、そのものが防具だったのか。
「いい? フリル。こんなヘンテコ装備を作れるのは私ぐらいだからね? オーダーメイドだからってここまでする鍛冶師はいないんだから」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、まずはフリル専用防具、『メイドギアカスタム』の説明をするわね。まず、防具の下地にはコカトリュフの毛皮が何重にも圧縮して作られている。更に、ロングスカートでも体が動かしやすいようにスカートの中に緩衝材としてコカトリュフの羽を織り込んだ素材が使われているわ。しかも、服全体にはアロンダイトの鉱石による粉末コーティングが使われているから雷耐性も付与されている。見た目によらず、かなり頑丈だし、身軽に動ける防具よ」
「流石です。相変わらず、素晴らしい出来栄えですね」
「そうね、我ながら結構自信作よ。じゃあ、次は武器の説明ね」
「はい、お願いします」
「フリルの武器は、カスタムバレルガン『竜撃の砲声』から『竜撃の雷鳴』に進化したわ。従来の攻撃に雷属性が付与されるようになって、更に銃身に電気を利用した大型ホイールが搭載されているの。発砲時に電気の力で銃身のホイールが回転し、電磁力による弾速の加速と、ホイールの回転力を利用して連射速度が向上したわ。もちろん、威力も上がっているし、従来通りの弾を使用できるから安心して。ただし、ホイールの影響で前よりも銃身が重いから、少し動きが重たくなるけど、フリルのことだからそこは心配してないわ。前の武器と同じように立ち回りに気をつけて頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
「さて、これで一通り説明は終わったわね。じゃあ次は、みんなにこれを渡すわ」
スミスは俺以外の全員に一つの手紙を渡した。
「「「……!!」」」
全員、その紙を呼んで驚きの表情を浮かべていたが、何が書いてあるかはよく見えない。スミスが説明を始めた。
「そこには、各種、武器の新しい変形機構の使い方が書いてあるわ。いわば、説明書ね。もちろん、今までの変形機構も使えるけど、新しい変形機構を使う場合はその説明書をよく読んでおいて。使い方を間違えて武器を壊したら、私、怒るからね」
全員が説明書を一通り読み終えて頷いていた。
「すごいわ、これ……」
「ええ、すごい完成度です」
「これが、新しい変形機構か……なんだかワクワクするな」
三人とも、説明書の変形機構に興奮し、胸を躍らせている。
俺にはないのだろうか……。ちょっと聞いてみた。
「なあ、スミス。俺の分は? 無いの?」
「無いわよ。ていうか、イッシンはガントレットファイターでしょ? 変形機構が無かった時代の産物だから、あまり、変形機構みたいな技術の発展はないの。もし、欲しかったら作れないことはないけど、その時はちゃんと依頼料を追加でもらうからね。ナビィ達にも一応貰っているんだから」
「そうなのか?」
ナビィ達に聞いてみる。三人とも頷いていた。
「とはいっても、イッシンのガントレットファイターに変形機構を加えたら、機構の分、重量が大きくなって動きを阻害しかねない。身軽に動けた方がガントレットファイターは戦いやすい傾向にあるから、基本的には変形機構をつけることを拒否する人も多いわ。だからまあ、無い方がイッシンのためにもなるんじゃない?」
「まあ……そういうもんか……」
とはいえ、少し羨ましい。
「もう。そんなに欲しいなら今度依頼してくれたら何か作ってあげるから」
「ほんとに!?」
「とはいえ、コンセプトぐらいは自分で考えてね。お任せで作ることもできるけど、ガントレットファイターみたいに自分の動きが制限されることを嫌がる人は作りずらいのよ。こだわりが強すぎてね」
「そういうことか。うーん、まあ今度考えがまとまったら言いに来るよ。ありがとう」
「ええ。あっでも、面白いアイデアなら私もアガるからよろしくね」
「わかった」
「あと、これはおまけだけど。レイジング・キング・サーモンの討伐って言っていたから作っておいたわ」
スミスはポケットから小さなカプセルを取り出した。
「なんだ、それ?」
「これは、『エアロカプセル』。口にくわえて使うの。カプセルの中にエアログラスっていう水に触れると空気を出してくれる植物が入っていてね。これを口にくわえておけば水中でも呼吸ができるようになるわ。今回のレイジング・キング・サーモンは水中に生息している。きっと、水中での戦闘も起こるかもしれないから、全員分作っておいたの。ただし、五分間しか効果が出ないから注意してね」
「これは助かるな。ありがとう、スミス」
「ええ。さてと、これで全員の説明は終わったわね。じゃあ、帰った帰った。私は寝るから、おやすみ~」
スミスはバタンと倒れるように床で寝始めた。
「おいおい、床で寝るなよ! ナビィ、これどうする?」
「まあ、いつものことよ。ベッドに寝かせてあげましょ」
俺はナビィと一緒にスミスに肩を貸して、ベッドまで運び込んだ。
大きな口を開けて、よだれを垂らして眠っている。
人間ってこんなに簡単に眠れるものなのだろうか。その入眠スピードには脱帽する。今度、コツでも教わってみるか。
「さて、じゃあどうする? このまま、レイジング・キング・サーモンの討伐に行くのか?」
「ううん。今日はいかないわ。明日クエストに出発しましょう。ここに武器と防具を置いておけば、ギルドの手配は済んであるからクエストに行く時に持ってきてくれるわ。今日はみんな、ゆっくり休んで明日に備えて」




