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第十一話 実食、コカトリュフ!

 それは、数時間前にさかのぼる。中間キャンプでの出来事だった。


 ボーガンが俺にある提案をしてきた。


「なあ、イッシン」


「どうした? ボーガン」


「この話、ナビィとフリルには内緒にして欲しいんだが、もしだ……もしも、イッシンがやばくなった時は俺が絶対に助けるから、ナビィを連れて逃げてくれ」


「……は? なんでだよ」


「お前なら、ナビィを連れて逃げられると思ったからだよ。装備が重いフリルには荷が重い」


「……確かに俺達は逃げられるかもしれねえ。だけど、ボーガンはどうすんだよ」


「……」


「死ぬことを前提にしている作戦は負けを認めているのと同じだぜ? どうせやるなら生きることを前提に考えろよ」


「……でも」


「でもじゃねえよ、そういう思考なら、俺は嫌だ。ナビィをマスターランクにするんだろ? そんな気概でこの先やっていけるのか?」


「わかってる。でも、生きるのも大事だ。俺は誰にも死んでほしくない……」


「あまいぜ、ボーガン。お前は何と戦っているつもりだ? 相手は命を懸けて戦っているんだぞ。そこには人もモンスターも関係ねえ。命を懸けて戦う相手に、お前は死にたくないってぬかすのか?」


「っ……でもよ」


「俺はさ、真剣に戦わない奴が嫌いなんだ。相手が命を懸けている以上、こっちだって命を懸けねえと失礼に値する。たとえそれがモンスターであってもだ。死ぬ気でやれよ、ボーガン」


「…………」


「仮にだ、俺がやばくなった時はボーガン。あんたが狩れ。常に勝つことを意識しろ! ナビィをマスターランクにするんだろ?」


 そう、これは作戦だった。


 注意を引かせ続けることで俺が囮になり、コカトリュフからボーガンへの意識を薄める。後は必ず、隙をついてコカトリュフに攻撃を食らわせてくれるだろうと、俺が信じた結果だ。


 コカトリュフの眼前にいるのは武器を構えたボーガンの姿。だが、ボーガンの剣ではコカトリュフの体に大きなダメージは与えられない。しかも、ボーガンは剣を盾の中にしまっている。コカトリュフもそれをわかっているはずだった。


 だが、得体のしれない、逃げろという恐怖が動物の本能で感づいている。


 大きなダメージは与えられない。確かに、ボーガンの持つ技術が今まで見せてきた技や、変形機構だけならば大きなダメージは与えられないだろう。


 だが、ボーガンの武器、『鋼鉄(フルメタル)()巨人(ギガント)』は巨人(ギガント)()爆鉄(パニッシャー)の他に、もう一つ、変形機構が存在していた。


 剣を盾の中にしまっている状態でグリップを左ではなく、右に一回転させることで、盾の内部に仕込まれている爆光石が埋め込まれた剣先の拡張パーツが出現し、その姿は盾ではなく、巨大な剣へと姿を変え、斬撃と同時に爆発し、岩をも砕く、破壊の一撃を放つことができるようになる大剣となる。


「うおおおおおおおおおおおっ!!!!」


 ボーガンは盾を大剣に変形させ、その重量を気合で持ち上げた。


 コカトリュフは逃げようと羽を広げ、跳躍の構えをとる。


 だが、それは俺がさせない。


「逃がすかよ、クソ鳥!!」


 俺がすかさず、コカトリュフの足をつかんだ。


「クエエエエエエエッ!!」


 悲鳴にも似たその鳴き声と共にボーガンが渾身の一撃を放つ。


「やっちまえ!!! ボーガン!!!!」


「くらえ!! 変形機構、巨人(ギガント)()爆撃剣(クラッシャー)!!!!」


 剣先が触れた瞬間、爆発を起こし焼き切りながら肉を裂く。


「クギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 複数回の爆発による轟音と共に、斬撃によって完全に背骨を断った。


「クギャ……ア……アァ……」


 悲痛な叫びをあげながらその巨体は地面へと崩れ落ちる。


「ハァ……ハァ……やったのか?」


 ボーガンは確認のため、振り下ろした大剣から手を放した。コカトリュフの目元まで行き、コカトリュフの瞼を開く。目に焦点が合ってないことを確認した。


「やった……やったんだ、俺が!」


 自分の両手を見る。斬撃を放った時の感触がまだ手に残っていた。


 しびれるような感触とずっと武器を握りしめていて気づかなかった汗の感触がある。


 真剣勝負に勝つことができた喜びが沸き上がり、勝利の雄叫びを上げようとしたその時、コカトリュフの体から何かの音が聞こえた。


 瞬時に警戒したが、その声は聞き覚えのある声だった。


「フゴォー!! フゴォー!! だひてー!!」


「ああ、わりい! イッシン!!」


 コカトリュフの下から伸ばしている手を掴み、外に出した。


「プハァー!! せっかく倒したのに、窒息で死ぬ所だったぜ!」


「すまねえ、イッシン。下にいたのを忘れてた」


「いいよ、それほど集中してたってことだろ。それよりやったじゃねえか、ボーガン!」


「ああ!!」


 二人でパンと手を叩き合い、喜びを分かち合った。


「そういや、ナビィとフリルは?」


「あっ! ああ、そうだ! ナビィ! フリル!」


「二人ともーこっちですよ~」


 茂みの奥から声が聞こえる。駆け寄ると、木の影でフリルのひざを枕にしてナビィは安静にしていた。


「ナビィ、大丈夫か?」


「大丈夫よ。それよりやったじゃない、ボーガン。見てたわよ」


「ほんとか?」


 フリルも頷いていた。


「ええ、かっこよかったですよ、ボーガン」


「へへ、よかったぜ。でも、全部イッシンのおかげだ。お前の言葉がなければ、俺はきっと何もできなかった。ありがとな、イッシン」


「そんなことない。俺は少し背中を押しただけだからな。ま、強いて言うならこの後うまい肉を食わしてくれよ」


「そうだな。約束するぜ、飛び切りうまいの作ってやるよ!」


 すると、ナビィが急に立ち上がった。


「そうよ、肉! お肉! 忘れてたわ! こうしちゃいられない、みんな! 剥ぎ取りをするわよ!」


「おっおい! 大丈夫なのか、ナビィ!」


「ええ! 見ての通り、大丈夫よ!」


 ナビィは元気そうに飛び跳ねていた。


「そうか、よかった。でも、無茶するなよ!」


「はいはい、わかってるって!」


 剝ぎ取り用のナイフを取り出し、コカトリュフの元へと駆け寄る。ナイフを使い、繊細に素材を剥ぎ取っていた。


「さ! 早く剥ぎ取って、ギルドに帰りましょ! 今日は宴よ!」


 さっきまでの苦しそうな表情はどこにいったのやら。


 俺達はナビィに従い、分担して素材を剥ぎ取った。


「よ~~し、これで全部ね!」


 大きな袋に詰められた素材は頭やクチバシ、胸に羽、足、爪など各部位に分かれている。


 それを四人で運ぶわけではなく、持ちきれない分はギルド指定の発煙筒を出すことで、ハコビモモンガ達がやってきてギルドまで運んでくれるらしい。


 そうして俺達は中間キャンプまで戻り、夜を明かしてからギルドに帰還した。


 ギルドの受付で証拠となる素材を渡し、ライスさんが確認をしてくれる。


「はい。確かにコカトリュフの素材を受け取りました! 皆さん、おめでとうございます!! クエストクリアです!!」


「やったぁ!」


「っしゃあ!」


「やりましたね!」


「よし!!」


 ライスさんに言われて初めて実感する。クエストが終了した喜び。


 それと同時に報酬の袋を俺達に見せてくれた。


「はい、こちらクエストの報酬。四百八十万ゴールドです。一人当たり、百二十万ゴールドですね」


 金貨が百二十枚入った大きな袋が四つ並べられ、各々が受け取る。


 俺は盗まれないように腰のハンターズベルトに括り付けた。


 そのまま俺達は換金所に行く。換金所では忙しそうに筋肉質なおっさん達が素材の選定をしていた。ナビィは換金所のベルを鳴らす。


「さ~て、いくらになるかしらね」


 鉄兜を被ったおっさんが話しかけに来た。


「おう、ナビィちゃん。聞いているぜ、コカトリュフを狩ったらしいな。換金か?」


「ええ、ガレフさん。お願いするわね」


「おう、任せろ!」


 おっさん達が大きな虫眼鏡を使いながら素材の選定をしていく。


 緊張した空気の中、ごくりと全員が固唾を飲んだ。


 事前に聞いていたナビィの話によると、クエストの報酬で一番大きいのはクエストクリアの報酬よりも素材による換金が大きいらしい。


 つまり、この換金の報酬額で俺達全員の頑張りが決められるというわけだ。


「おう、待たせたな! 換金終了だ! しっかし、おどろいた。今回のは上等な素材だぜ、こりゃあ、滅多にお目にかかれねえ。コカトリュフ上位種、それに雷鳥型つったら、超貴重な素材だ。どれも高値で買い取らせてもらったぜ」


「「「「おお!!」」」」


 期待が膨らむ。一体いくらになったのだろうか。全員が気になっていた。


「改めて、今回の素材はコカトリュフの上位種、雷鳥型一頭だ。換金できねえ余った素材、武器や防具を作る分を省いた結果、普通のコカトリュフなら一頭五百万ゴールドだが、今回は上位種ってことで、その四倍、二千万ゴールドだ!」


 その額を聞いて全員が喜んだ。


 二千万ともなれば、四人で分けても五百万ゴールド。クエストの報酬額、百二十万ゴールドと合わせて、一人当たり六百二十万ゴールドだ。


 前の世界から考えれば、命の危険があってその額は少なく聞こえるかもしれないが、この世界ではそれが普通なのだ。普通の仕事で得られる額でこれだけもらえるのならば、相当な価値だろう。それだけあれば、しばらくは暮らしていける。


 俺達は、ギルドの運営する金庫に自分達の報酬を預け、酒場へと向かった。


 早速、祝いの宴をするためだ。


 酒場は相変わらず、食卓を囲むハンター達で賑わっている。


 俺達は酒場のカウンター席に行くと、ナビィがマスターに元気よく話しかけた。


「マスター! 聞いて聞いて! コカトリュフの討伐、成功したのよ!」


「それはすごいですね、ナビィ。では、今日は宴ですか?」


「ええ、そのつもり! 調理場を借りたいんだけど、いいかしら?」


「はい、いいですよ。好きに使って下さい」


「ありがと!!」


 ナビィは調理場に向かう前に酒場で飲んでいる人達に向かって声をかける。


「みんなー! 今日は私達、ホワイト・ガレオンが初めてコカトリュフを討伐した日よ! みんなにも料理を振る舞うから食べていってね!」


 すると、酒場で飲んでいるハンター達は歓喜した。


「何!? あのコカトリュフか!」


「やったぜー! ただ飯だー!!」


「さすがはナビィ! 太っ腹だぜ!!」


 ナビィは「えへへ」と照れながら頭をかく。俺達は調理場へと入った。


 調理場では、すでにコカトリュフの肉が中央の大テーブルに置かれている。


 目の前にあるコカトリュフの肉はとても大きく、四人でさばくのは大変そうだ。


「さぁ~て、じゃあ手分けして切り取りましょうか。イッシンとボーガンは下半身の方をお願い。私とフリルは上半身からやるわ。固い部位は残しておくからお願いね」


「おう」


「わかった」


 四人で手分けして肉を切り取る。大変だったが、四人で作業したからか、思ったよりも時間はかからなかった。


 ピンク色に輝いたきらびやかな肉を目の前に、思わずよだれが出る。


 切り分けられた大量の肉は今日使う分以外は冷蔵庫に入れ、ナビィによる作戦会議ならぬ、調理会議が始まった。


「じゃあ、フリルはスパイスと盛り付け、ボーガンは肉の焼き加減、私はコンセプトと本格的な味付けを考えるから、イッシンは……そうね、パーティーに加入したことだし、ボーガンの手伝いを頼めるかしら?」


「ああ、わかった」


「じゃあ、みんな! 調理開始ね!」


 まずはナビィが料理のコンセプトをフリルとボーガンに説明し、使うソースや料理の仕上がりなどを伝えていた。

 とりあえず、俺は言われた通り、ボーガンの調理の手伝いをすることにした。


「ボーガン、俺は何をしたらいい?」


「よし、とりあえず、下ごしらえからだ。おっと、いけねえ。その前にイッシン。モンスターの肉は普通の肉とは違うんだが、その違いを知っているか?」


「え? なんか違うのか?」


「ああ。普通の肉だと下ごしらえに余分な肉汁を取ったり、叩いて柔らかくする必要があるが、モンスターの肉は普通とは違う。余分な肉汁も出たりせず、柔らかいし、腐りにくい。長期保存も可能な万能肉(ばんのうにく)って呼ばれているんだ。だから、意外とやることは少ない」


「へえ~。何をやるんだ?」


「肉の鮮度を見る。まずはそこからだ」


 ボーガンは透明な細い針を取り出す。その針を肉にプツっと突き刺した。


「それは?」


「こいつは、鮮度針(せんどばり)って言ってな。刺すことで肉の鮮度を見ることができるんだ。ほら、見てみろ」


 ボーガンは肉に刺した細い鮮度針を見せてくれた。


 針の中でコカトリュフのピンク色に輝く肉の層がいくつにも重なってできている。まるで宝石が輝いているようだ。


「例えばだが、この層の中に他の色とは明らかに違う色の層があった時、その部分だけが腐っていたり、肉の中で異常があるかがわかるだろ? これはそのための針だ」


「へ~なるほど。そういうことか」


「いや~しかし、ここまで輝いて見える肉は初めてだ。まるで何年もマッサージを受けて柔らかくなったみたいだぜ。こいつは期待できそうだ」


「おお~!」


 聞いているだけでよだれが出てくる。早く食べたい。


 その説明に加わりたかったのか、急にフリルが後ろから話しかけてきた。


「ええ、確かにそうですね。マッサージという表現は正しいかもしれません。正確にはコカトリュフの上位種のみに存在する電光石(でんこうせき)という体内の石が主な要因です。体内の筋肉運動と連動し、電気を発生させることで筋肉を柔らかくさせ、コカトリュフの瞬発力のある動きを可能にしています。その電光石があるおかげでコカトリュフの体内は常に電気マッサージを受けているように振動し続けているため、とても柔らかい肉になるんです」


「へえ~そうなんだ」


 博識な説明に思わずパチパチと拍手をした。


「あっ、すみません、イッシン様。知っていることだとつい口が回ってしまって……。でもコカトリュフの上位種の肉は私も初めて拝見しまして、少し興奮してしまいました」


「いや、大丈夫ですよ。知れて良かったです」


「そっ……それなら良かったです」


 どこか恥ずかしさがあったのだろうか。そそくさとフリルは作業に戻った。


「すまねえな、イッシン。フリルは少し人見知りなんだ。でも、モンスターの知識や植物、果実やスパイスまでいろんな知識を持っているんだ。だから時々、あんな風にいろいろと教えてくれるんだよ」


「そうなんだ。すごいな」


「さて、じゃあ下ごしらえの続きだ。肉の鮮度を確認したら次は肉の筋を取らなきゃならねえ。モンスターの肉は柔らかいが、筋だけは固い。筋が残っていると火も通りにくくなるからそれを取り除く必要があるんだ。手伝ってくれるか?」


「ああ、任せろ!」


 ボーガンに肉の筋の取り方を教わり、一緒に筋を取る。確かに、肉の柔らかさと違って、筋は太くて固かった。ただ、筋が太い分、どこにあるかはわかりやすい。包丁を使い、しっかりと筋を全部取り終えると、固まった肉が開けてきれいに平らになった。


「完璧だ、イッシン。初めてだとは思えない上手さだぜ」


「いやいや、ボーガンの教え方が上手いだけだよ」


「そんなことないさ。俺が始めてやった時はあまりの固さに全然筋が切れなくてなあ。すげえ苦労したんだぜ。それをこんなに簡単に切るとは、やっぱ鍛えているだけあるなあ」


「そうか? 照れるなあ」


 そこまで褒められるとさすがにうれしい。


 だが、ボーガンの教え方が上手いのも本当だ。丁寧で分かりやすい。話が頭の中にすっと入ってくるようなわかりやすさがある。ありがたい。


「よし、じゃあ、次の作業は下味だ。ここからはフリルにも手伝ってもらおう。お~いフリルー」


 ボーガンの言葉で、フリルがとことこと歩いてきた。


「はい、お持ちしました」


 数種類のスパイスの粉をテーブルのまな板の上に置き、フリルは説明を始める。


「こちらは肉によく合う挽きたての上味胡椒(じょうみごしょう)白雪塩(しらゆきじお)です。これらを下味としてふりかけることで肉の旨味を引き立てることができます」


 前の世界の胡椒や塩と似た物だと思うのだが、明らかに前の世界とはその質が違っていた。


 上味胡椒は肉に降りかかった途端、その香りを爆発させ、かぐわしい香りが鼻に通る。まるで匂いで舌が刺激されているようだ。白雪塩はあまりにも軽いのかふわふわと粉雪のように空中でゆっくりと肉の上に落ちていく。いったいどんな味がするのだろうか。楽しみだ。


「さて、そしたらこのスパイスを肉によくなじませる。その後はお待ちかねの本番だ! 肉を焼くぞ!」


 ボーガンはナビィの用意してくれたフライパンを使い、調理台のコンロに直火をつけ、フライパンを加熱する。油を引き、肉を焼く準備は整った。


 いよいよ、ピンク色に輝いたコカトリュフの肉を焼き始める。


「そおら!! おいしくなれよ!!」


 ジューーーーッ!!!!


 フライパンの上で踊るように油が跳ねる音がする。心地良い音色と共に肉の表面がじっくりと焼かれていった。


 シューッ……!!


 油が跳ねる音が徐々に小さくなっていき、肉の下から焼き目が見えた頃に肉をひっくり返す。


「よし、完璧なタイミングだ!」


 ジュアーーーッ!!!!


 もう一度、油の跳ねる心地良い音色が響き渡り、肉はこんがりと焼けていった。


 肉が焼け終える前にボーガンはソースの入った瓶の蓋をポンと片手で開ける。


 少し赤みのかかったソースを肉の上から滝のように流した。


「こいつは赤晶氷(せきしょうひょう)っていう氷からとれた赤宝(せきほう)のソースって言ってな。ステーキにかけると超うまいんだぜ!」


「あっ……ああ……」


 フライパンの中で肉汁とソースが絡み合い、香りが一気に爆発した。鼻に通った瞬間、体の中から一気に食欲がわいてきて、口の中がよだれで止まらなくなる。


 早く、早く食わしてくれと胃の中で叫んでいるようだ。


「さ~て、仕上げだ。フリル、スパイスと添え物を頼む!」


「大丈夫です、ボーガン。既に準備は整っています」


「了解! 鉄板に乗せるぞ!」


 俺達が肉を焼いている間にナビィが用意してくれた熱された鉄板にフライパンからこぼれるようにステーキが着地する。


 あまりにも柔らかなお肉なのか、鉄板の上に落ちた衝撃で少しプルンと跳ねていた。いったい、どれほどの柔らかさを秘めているのだろうか。考えただけでもよだれが溢れてくる。


 ボーガンはフライパンに残った肉汁とソースを余すことなく、ステーキの鉄板に移動し、フリルに鉄板を渡した。


「あとはまかせたぜ、フリル」


「ええ。まずは、ゴールデンチップスとスモーキーバターです。これをステーキの上に乗せます」


 黄金に輝くゴールデンガーリックのチップスがパラパラと乗せられ、その上に白い煙がモクモクと立ち込めるスモーキーバターがステーキの上に置かれた。


 ステーキの熱でスモーキーバターはトロリと溶け、芳醇な香りが鼻の奥を刺激する。


「うわぁ~~~うまそぉ~~~~!!!!」


「まだですよ、イッシン。次に、ステーキの味を引き立てるハーモニーポテトとサンライトコーンを添えます」


 鉄板の上にジャガイモのようなハーモニーポテトと、太陽のようにキラキラと光り輝くサンライトコーンの粒が置かれた。どちらもおいしそうだ。


「更に、ハーモニーポテトにスモーキーバターを乗せて、コカトリュフの黄金バターステーキの完成です!」


 おおっ、じゃがバターだ!


 こっちの世界でも見れるとは……しかし、前の世界とは明らかに食材の質が段違いだ。きっと、超うまいんだろうなあ……。


「では、イッシン。どうぞ召し上がってください」


「へっ……!? いいのか?」


「ええ。今回のクエストの功労者は間違いなく、あなたです。最初に食べてもらうのはイッシンにしようとみんなで決めていたんですよ」


「ほ……ほんとにいいのか?」


 ナビィとボーガンも頷き、俺の目の前にナイフとフォークを置いてくれた。


「食べて、イッシン」


「ああ、これからもよろしくな。イッシン!」


 目の前に用意されたステーキにあふれたよだれが止まらなかった。フリルが用意してくれた椅子に座り、ナイフとフォークを手に持つ。


「じゃあ、みんな。ありがとう! いただきます!」


 ステーキにナイフで切り込みを入れた瞬間、あまりの柔らかさに感動する。


 すげえ……こんなに柔らかい肉は初めてだ。


 更に、切れた箇所から肉汁が溢れ、ソースと絡み合い、肉のうまさを引き立てるスパイス達の芳醇な香りが脳を刺激する。


「あっ……ああ!!」


 言葉を発せないほどにこの肉を食べられることに体が喜びを覚えていた。


 切った肉をフォークに刺し、プルプルと柔らかい肉を一思いに、口にほおばる。


「んんっ……!!」


 柔らかい、まるで雪のような柔らかさを持つ肉から重厚な肉汁が一気に口の中に広がった。脂の癖が一切ない肉汁にステーキのソースとスパイスが絡み合い、口の中で旨味の爆発が何度も起こり続ける。噛めば噛むほど極上の旨味が、体を、脳を刺激し、至福の一時を味わった。


「うん……めえ。うますぎる……」


 気づけば、涙を流していた。ただうまいだけじゃない。みんなで協力し、助け合い。力を出し尽くして本気で戦ったからこそ得られる。俺達にしか味わえない、最高の報酬。まさに涙なしでは味わえない。極上の一品だった。


「みんな……ありがとう、うますぎるぜ」


 俺はステーキを四等分に切る。


「みんなも食べてくれ。俺、この肉は一緒に食べたい」


 俺の言葉にナビィは静かに「わかった」と頷く。


 フリルとボーガンも頷き、四人でステーキを分け合った。


「ねえ、イッシン。そういえば、いただきますって何?」


「ああ、それは……俺の故郷の言葉で、食べる時に作ってくれた人や食材に感謝を言う時の言葉だ」


「へえ~そうなんだ。知らなかった。じゃあ……みんなで言いましょうか。いい?」


 全員で手を合わせる。


「「「「いただきます」」」」


 カットしたステーキを口にほおばった。


「「「「うまああああああああああああ!!!!」」」」


 やはり、このステーキは格別だ。あまりのうまさに手が止まらない。すぐにぺろりと全員がステーキを食べ終えてしまった。


「イッシン! これやばい、まじでやばいわ! 早く作って酒場のみんなにも分けましょう! ってか、早く私ももう一つ食べたい! みんな、頑張るわよ!」


「「「おー!!」」」


 こうして俺達は急いでステーキを大量に作り、酒場のみんなにも振る舞った。


「おおっ! なんだこの肉! うますぎるぞ!」


「やばあ!! うますぎ!!」


「これがあのコカトリュフの肉!? 全然違うじゃねえか!!」


 どうやら上位種のコカトリュフの肉はみんなも食べたことがないらしく、とても好評だった。


「酒だ!! 酒を持ってこい!! 今日の酒は超うめえぞ!!」


「こんなもん持ってこられたらやるしかねえだろ!!」


「宴だああああああああああ!!!!」


 その夜、酒場では盛大な宴が開かれた。俺達四人はコカトリュフのステーキを作るので大忙しだったが、途中でマスターやライスさんも手伝ってくれた。


「二番テーブルと四番テーブル席、コカトリュフのステーキ五つです!」


「お~い、ライスちゃん。こっちも注文頼むよ~!」


「は~い!!」


 ライスさんやマスターの手さばきは並ではなく、ライスさんの素早い給付とマスターの料理のおかげで宴は順調に進み、ギルドのみんなにステーキを振る舞うことができた。


「おいしい! ステーキだけじゃない! このハーモニーポテトもステーキソースと絡み合っておいしいわ!」


「ん~うますぎ~幸せ~」


 大好評となった宴も落ち着いた頃、俺はステーキを大量に食べ、腹をぱんぱんにして至福の一時を過ごしていた。


「はあ~もう食えねえ~幸せだ~」


 ナビィとフリルも俺と同様に光悦の表情を浮かべている。


「おいしかった~」


「ええ、大変美味でした。……うぷっ」


「フリル、ちょっと食べすぎた?」


「そうですね。あまりにもおいしくてつい……ナビィも結構食べたんじゃないんですか?」


「そうね~もうおなかパンパン。でも、おいしかったから幸せ~」


「よかったですね……あれ? そういえばボーガンは? さっきまで一緒に食べていましたよね?」


「あ~あいつ。途中で酔っ払って裸で寝てたわよ。そこら辺に転がってるんじゃない?」


「そうですか……まあでも、今日ぐらいは許してあげますか」


「そうね、今日ぐらいはね……」


 その日、ギルドにはご満悦な表情のハンター達が酒場を占領し、みんなが元に戻ったのは次の日のことだった。


 俺達、ホワイト・ガレオンも一度宿屋に帰り、泥のように眠って休息を取る。


 酒も体から抜け、正常な判断ができる頃に俺達はまた酒場に集まった。


 いつものようにナビィが指揮を執る。


「じゃあみんな! まずは今回のクエスト、お疲れ様! でも、私達の直近の目標は次のランクに行けるようになること! みんなも知っている通り、私達はFランクモンスター、ヘビィーピッグとコカトリュフを討伐してきたからEランクに上がるにはもう一種類Fランクモンスターを討伐しなきゃいけない! でも、きっとコカトリュフを討伐できた私達なら大丈夫! 気を引き締めて次のモンスターを討伐するわよ!」


「「「おおー!」」」


 ナビィがクエストボードのクエスト用紙を吟味し、クエストを選ぶ。


「じゃあ、次はこれ!! レイジング・キング・サーモンの討伐!」


 レイジング・キング・サーモン。クエストのモンスターシルエットを見る限り、魚に似たモンスターのようだ。


「レイジング・キング・サーモンはラッテル湖にいるモンスターで、湖の主と言われているの。その引き締まった肉はプルプルと柔らかくてどんな調味料をかけてもおいしくなってしまうくらい食材の質が高いといわれているわ。でも、大きな体と獰猛な性格で、多くのハンターが討伐を断念したといわれているとても手強いモンスターよ。気を引き締めていきましょう!」


 熱の入った説明に感心したい所だったが、ナビィの口からよだれが垂れているせいであまり話しが入ってこない。


「あの……ナビィ。よだれ、拭いた方がいいぞ」


「えっ……あ、ごめん!」


 ナビィは慌ててよだれを腕で拭った。


 だが、あの説明から察するによだれが出るのも仕方ないのかもしれない。レイジング・キング・サーモン。いったい、どれだけおいしいのだろうか。


「じゃあ、気を取り直して、みんなで次のランク……いえ、ブラック・ガレオン討伐目指して頑張りましょう!」


「「「「おおー!」」」」とみんなで腕を挙げて士気を高めた。やはり、ナビィはリーダーに向いている。そう感じた。


 こうして、俺達は最終目標であるブラック・ガレオン討伐を目指して、次のクエスト『レイジング・キング・サーモン討伐』に挑むのだった。


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― 新着の感想 ―
面白かったです! バトルとグルメ、両方楽しめる魅力的な作品ですね。 好きな子の言葉を受け、強さを極める一心の一途さ。良い主人公だと思いました。 ナビィや異世界で出会う人たちもそれぞれ存在感があり、とて…
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