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悪役に応募した三流役者。異世界での雇用でした  作者: バッド
一章 始まり

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9幕 女衒ホオネリー

 ドタバタと廃ビルの通路に駆け込む少女たちを見て、女衒の親玉であるホオネリーは今日はラッキデーだと神に感謝していた。


 最初はなにが起こったのか分からなかった。まさかスラム街の住人が武装している女衒たち、ましてや神官たちもいるのに襲ってくるとは思わなかったからだ。


 そして、死にかけのゴミとオマケを担いで逃げた時、ホオネリーは思わず笑みが零れ落ちた。


「お前ら、あいつらを捕まえろ。捕まえたやつはたっぷりとボーナスを支払ってやる」


 前を進む部下たちに怒鳴りながら、ホオネリーはこのクソみたいな死体廃棄をしていて良かったと嗤う。ホオネリーは女衒として、司祭とも繋がりのある男だが、所詮は女衒。壊れかけた天候制御システムの区域に住む貧民から子供を買い集めて、娼館などに売り払う同じ平民たちにも蔑まれる仕事だ。たしかに金のある裕福な部類に入るが丁稚奉公という名の奴隷を売る卑しい仕事で、まともな神経の者は近づかない。


 だがホオネリーはここで女衒で終わるつもりは毛頭ない。司祭との繋がりを持ち、金を貯めて女衒から新たな仕事を始めて、自身を蔑む者たちを見返してやるのだ。


(ふへへ、他の女衒がやらねぇ死体廃棄のアフターサービスをしていたから、俺の行いが報われたんだ。ろくでもない仕事だと思ってたが今日は幸運だな)


 廃ビル内を駆けていくスラム街の少女たち。汚れて服やボサボサの髪に臭い身体。少女かどうかは普通の人ならば分からないだろうが長年女衒をしてきたホオネリーには少女だと分かる。


(ちょうど良い。捕まえたら磨いて司祭に売り払おう。どうせタダなんだから格安で良いしな。あの変態は片端から買った少女を甚振って殺しちまうからちょうど良い)


 デブの司祭の変態趣味に困っていたのだ。そうポンポンと殺されると死体廃棄も面倒くさい。しかも売った自分が言うのもなんだが、指を全て切られて身体も傷だらけの死体は怖気を覚える。


(あれで学校の校長なんだから笑わせてくれるぜ。学生たちを連れてこんなところに来るのも、死体を見て興奮するためだしな)


 鼻で笑いながら廃ビルの通路を進んでゆく。遥かな昔より放置されて化石化している床に足音がどこまでも響く。


「親分っ。奴らバラバラに逃げちまいますぜ」


 スラム街の住人の方がこの廃ビルを熟知しているため、壊れた窓枠や瓦礫の隙間に入り込み、子供たちは逃げてゆく。子分たちは焦りの声をあげるが、ホオネリーは冷静だった。


「大丈夫だ。見ろよ、リーダーらしき奴らは女と幼女を抱えているから逃げるにも限界がある。あいつを捕まえて、少し痛めつければ他の子供たちの居場所をゲロするだろうよ」


 先頭を切って現れた少女は2人の子供と共に女性を抱えて逃げている。その隣には泣きじゃくる幼女を抱えるもう一人の子供。抱えて逃げる時には身体強化ができるのかと身構えたが、上手い連携で逃げるだけだった。ならば恐れることは何もない。


「お前ら、数人は回り込んで逃げ道を塞げ。絶対に逃がすなよ」


「へいっ」


 通路を逸れてバタバタと走っていく子分たちを横目にさらに足を速める。荒事に慣れたホオネリーたちは体力もあるので息切れを起こさずに少女たちに詰めていく。栄養失調の子供たちにスタミナがあるわけもなく、しかも大人を担いでいるのだ。その距離は徐々に縮まっていく。


 日差しが入らなくなり、薄暗い通路、通り過ぎる元オフィスは鍾乳洞のように放置されたデスクや椅子に鍾乳石が積み重なり今にも魔物が飛び出してきそうで不気味であるが、ホオネリーはそんなことを気にすることもない。


「くっ、お前らは先にいけ! あたいがこいつらを足留めしておくからっ」


 リーダーらしき少女が立ち止まると、振り返って背中に背負っていた棍を手に構えをとる。


「せいっ!」

 

「ぐふっ!?」


 所詮はスラム街の住人と甘く見ていた子分が意外にも鋭い突きを鳩尾に受けてくの字に身体が折れる。


「てっ、やっ!」


 鋭い掛け声をあげて、少女は間合いを詰めると部下の頭に容赦なく棍をぶつけてゆく。鈍い音をあげてもんどりを打ち倒れる子分。


「はっ、どうだ、あたいの棒術の力を見たかよっ!」


 得意げに棍を構え直す少女。


「こいつ、素人じゃねぇぞ、なにか武術をやってやがる。気をつけろ!」


 その構えから素人じゃないと察して子分たちの足が止まり、身構えて警戒する。緊張に包まれた空気の中で、少女だけは得意げだ。


 子分たちが飛び掛かると、顔をついてよろけせさて足を払う。棍を腰に構えてくるりと回転してからの子分の脇腹に一撃。手を伸ばすと、その手を打ち払い、小刻みに牽制の突きにて子分を怯ませる。2人の子分たちは完全に足を止めてしまい、少女に翻弄されていた。


「どんどんきなよ、あたいが全員曲がった釘のようにビルに打ちつけてやんから!」


 自身の腕に自信がある少女は笑って、通路に立ち塞がる。たしかにこのままだと逃げられる可能性が高い。


 だが、ホオネリーは苛立ちを見せずに焦る様子を見せなかった。


「親分、子供たちを捕まえましたぜ!」


「離せよっ、離せったら!」


「こいつ、噛むからねっ! 本当に噛むから」


 先回りしていた3人の子分たちが、ジタバタと暴れる子供たちを捕まえて現れる。女と幼女はどうせ死ぬから放置してきたのだろう。


「あっ、お前ら! 卑怯だぞ、てめぇっ!」


「はっ、ガキとは頭の使い方が違うんだよ。ほら、その木の棒を捨てねぇとお仲間がどうなるか分からねぇぜ? 俺の子分たちは殺れといえば容赦なく殺す奴らだからな」


「……わかった。その代わりに仲間に手を出すなよ」


 悔しげに怒鳴る少女に、頭をつつきながらホオネリーはせせら笑う。少女は悔しげに唇を噛みしめると棍を捨てる。よくこんな素直な性格でスラム街を生き抜いて来れたと呆れて、その馬鹿な様子にホオネリーは内心でほくそ笑む。約束なんか守るわけはない。全員娼館行きだ。


「あ~、走らせやがって、苛ついたぜ」


「ぐふっ、ぐぅぅ」


 子分の1人が汗を拭いながら、少女を蹴る。床に転がる少女と、それを見て悲鳴を上げる子供たち。リーダー逃げてと叫んでいるが、そんな絶望の顔に、ついつい面白くなり笑ってしまう。


 ホオネリーはもう一度少女を蹴り上げて、髪の毛を掴み上げると無理やり目線を合わせる。


「逃がすわけねーだろうが。お前らは全員娼館行きだ。しっかりと契約をするから安心しろよ? そうだな、1ドラでどうだ? 100年間の年季契約で娼館に入れてやる。おっと、元気の良いお前は司祭様に売ってやる。安心しろよ、司祭様はそれはそれは優しい方で、子供の指を切っていくのが大好きな方だからな」


「ぶははは、そりゃ良い司祭ですね、親分。今日の死体でも手足がない奴がありましたもんね」


 子分たちがドッと笑い、ホオネリーはゴブリンのように嗤うと、少女へと告げる。


「だが、俺もさすがに良心が痛む。で、取引なんだが、他の子供たちはどこだ? 教えてくれればお前だけ助けてやってもいい」


 もちろん嘘だ。ゲロったら子供たちを捕まえて、この少女は司祭に売る。元気で反抗的な奴ほど興奮すると言っていたので司祭は大喜びするだろう。


「さ、どうだ? ほんの少し教えてくれれば良いだけだ。なに、子供たちもこんな食うや食わずのスラム街よりも3食たっぷり食べられる娼館の方がいいに決まってる。お前は仲間を裏切るんじゃない。助けるんだよ」


 猫撫で声で少女の裏切りを正当化させてやる。これまでもこんな正義感の強い奴はいたが、こうやって逃げ道を作ってやると誰も彼も簡単に裏切った。正義など、そんなものなのだ。


「な? お前だって変態に売られるのは嫌だろう? 本当に悲惨な暮らしになるんだぜ? 生きながら身体を切り刻まれるんだ。しかも毎日少しずつな。なぁ、想像できるか? 自分の指が毎日1本ずつ減っていくんだ。目玉も無くなり舌も切り落とされる。司祭は回復魔法を使えるから死ぬことはない。自分から殺してくれと叫ぶ未来なんて嫌だろ?」


 これは真実だ。嘘ではないと少女も悟ったのか、血の気が引き青褪める。ホオネリーはこれなら堕ちるだろとほくそ笑み━━。


 少女は唾を吐いた。生暖かい感触が頬を伝わってくる。予想外の答えにホオネリーが少女を見ると、不敵な笑みを浮かべていた。そしてその目は強い意志で輝かんほどで、ホオネリーは無意識に怯む。


「へっ、だからって仲間を売るわけないだろっ! あたいは死んでも仲間を裏切らないと心に決めてるんだ!」


「こいつ、想像力がねぇらしいな! ふざけやがって!」


 怯んだことが恥ずかしく少女の髪を強く掴み上げて殴る。何度も殴り、肉を叩く鈍い音がして少女の顔は真っ赤に腫れてグッタリとする。


「ちっ、てめぇに聞かなくても、他にも教えてくれる奴はいるんだよ。苛つくガキだ」


 澄んだ瞳に照らされて逃げる虫のような気分がして、苛立ちを露わに少女を投げ捨てると、もう一度蹴り上げる。


「ったく、本当にこいつスラム街の住人か? 裏切りなんて当たり前の世界で頭がおかしいんじゃねぇか? あ~、ムカつくな、おい、他の子分たちはどうしたんだよ? 逃げた子供たちは捕まえたのか?」


 ホオネリーの子分は10人。ここにいるのは5人で、残りの奴らは分散して子供たちを追いかけているはずだった。


「そういやおかしいですね。通信符にも連絡はありません」


 子分たちが首を傾げて不思議そうに答える。ホオネリーたち以外は、足音もせずし~んと静寂が支配していた。


 少なくとも、子分たちの怒鳴り声や足音が反響するはずなのに嫌に静かだ。なんとなく嫌な予感がする気配。


「……お前、通信符を使って連絡しろ。いつまでもスラム街にいたら空白地帯でも危ないからな」

 

「へいっ」


 近い相手と念話で連絡を取れる低級通信符を取り出すと、子分が使おうとして━━。


 突然コンクリートの壁が砕けた。


「は?」

 

 そして通信符を持つ子分の首に腕が伸びると、ゴキリと鈍い音がして子分の首が直角に折れ曲がると、通信符を落として力なく倒れ込む。


 その光景を唖然として見ると、コンクリートの壁を突き破って、何者かが中に入ってくる。


「な、なんだ、ありゃ?」


 ホッケーマスクをした巨漢の男が現れて、皆は息を呑むのであった。

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― 新着の感想 ―
意外や意外、ジェイソンさんの役? それとも昔の新日本プロレスのガスパー? ワクワク。
今日は13日の金曜日だった...!?
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