76幕 決着
「ピギッピギッピギッ。マモの勝ちは揺るがないようでまきゅね!」
「くっ! 調子に乗ったマーモットめ! ラスボスの座をそのまま貰えると思っていたら大間違いですよ!」
「負け犬の遠吠えがなんか聞こえてくるまきゅね、ピギッピギッピギッ」
マモハデスの調子は天まで昇り、胸を反らしすぎて背骨が折れそうだ。メンテナンスが完璧なハデスの着ぐるみは最強なのは間違いない。このままでは、世界の宝物である美少女が一つの肉塊になってしまう。そんなことは許されない!
「この状況、打開してみます!」
『ショップオープン!』
打開するにはショップでなにかを購入するしかない。
「視聴者のみんな、おらに投げ銭をくれーっ!」
というわけで、投げ銭プリーズ!
天へと両手を掲げて、皆へと祈る美少女だ。こっちも胸をそらして、ちらりと胸チラも見せるよ。マモハデスだとあばら骨しか見えないから、美少女の方がお得だよ。
『他力本願笑える』
『五千万ポイントを取得しました』
『もう少し胸をそらしてください』
『一億ポイントを取得しました』
『君がどこまでやれるか見せてもらおうか』
『二億ポイントを取得しました』
予想以上にウケが良いようで、皆が滝のように投げ銭を続けてくれる。ポイントを示すメーターがくるくると変わっていき、桁が増えていく。
「おぉ、凄いですよ、カナタさん。ここまでじゃんじゃん投げ銭を貰えるのは初めて見ました! 快挙ですよ、カナタさん!」
「ノーカット版のVIP視聴者がいると思っていたんですけどやはりいましたか。これお風呂とかトイレも映ってませんでした?」
本来ならカットされるはずのNGの場面。でも、たまにあるんだけど、特に怪しい動画に多いんだけど、無修正モードを課金すると見れるパターンがあるんだよ。金に汚い創造神なら、必ずやってると思ってた!
「それはどうですかね〜、ピピーピピー。一介の従業員は上のやることは知らないのです」
あらぬ方向を向きながら口笛を吹く巫女を見て、これはやってるなと確信した。絶対に賠償金を取ってやるとも誓った。
そして、投げ銭で手に入れた全ポイントを一つのアイテムを購入するのに使う。
「マモ、最後にもう一回だけ言おう。降伏してください、キャベツあげるから!」
最後の慈悲だ。この降伏勧告を前に、マモがお断りしてきたら、それで終わりにするつもりだ。
もちろんこんな場面で降伏するラスボスなどいるわけはない……。
「んと、キャベツ二玉なら降伏するまきゅ」
もじもじと指を突き合わせて、目の前の利益しか見ない獣。いや、今のは気の所為。よくわからないセリフが聞こえてきたけど、きっと幻聴だ。
「やっぱり降伏を認めませんか、それならこれで終わりです。これまで長い間付き合ってきた戦友を失うのは悲しいけど、これも運命なんだね」
やはり降伏はしなかったことに悲しく思いながら、ボタンをポチリと押下する。ショップで購入したアイテムはすぐに眼の前に現れる。
それは半透明の球体であった。バレーボール大の大きさで、ボールの中身は宇宙が形成されていて、うっかりすると吸い込まれそうな神秘的な球体である。
「キャベツ一玉半でもいいまきゅよ? ところで、それなにまきゅ?」
哀しいけどこれは世界の覇者を決める戦闘なんだよね。だからハデスから抜け出ようとしないでくれるかな? 脂肪たっぷりのお腹が邪魔で抜け出せないマーモットを横目に、球体へと手を添える。
「これはハイヌウェレです」
「なにかのお菓子? マモはパンケーキが好きまきゅ」
言葉の語呂からお菓子を想像して、よだれを垂らしちゃうマーモットだけど、これは食べ物じゃないんだ。
「ハイヌウェレは食べ物でなく、神の死体です。巨人が死んで、その死体が世界に成ったとの神話を聞いたことがありませんか?」
「北欧神話まきゅね。巨人が死してその肉体が世界となり、オーディンたち北欧神がその世界に生まれたという」
知らないと思ってたら、スラスラと答えるマーモットの頭の良さに少し驚くけど、そのとおりだ。
「これがその『ハイヌウェレ』の概念です。これこそが神の死体にして世界。その概念がこの球体」
神の死体はショップで何体か売ってた。どれでも良かったけど、呪われることなく使えそうなのはこのハイヌウェレであったのだ。
「そして、これは死体。どういうことか分かりますか?」
僕の手にしたチート能力。全ての死体を食う暴食の固有スキル。
即ち━━。
『記憶喰』
『記憶皮膚』
僕は球体を自分のオーラにて覆うと、ハイヌウェレの死体を食い尽くす。チートスキルは、神だからと関係なく、全てをあっという間に食い尽くしていく。
そうして、ハイヌウェレを纏うと━━。
視界が変わった。僕の身体は消え失せて、世界に僕は溶け込んだのだ。
世界の視点。あらゆる物事が見れるようになった。360度全てを見ることが、それどころか、何個も、いや、望まないのに無限に視界が増えていく。
望む限り、何でもできる。火山を噴火させても、大地震を引き起こしても、それどころか、オゾン層を消して、地球を死の世界へと変えることも容易となった。
万能の力だ。まさに無敵の力と言えよう。
そして、世界と融合するパターン、即ち、世界と融合し、僕の意識は海に落とされた色付きの水滴のように薄れてゆく。
世界というものは、意識は必要なく、ただそこにあるのが正しいのだ。
「視界気持ち悪っ! それにこのままじゃ殺されることなく世界の一部になっちゃうよ! ていっ!」
ペチン
慌ててマモハデスを魔力を圧縮させて、ぺちゃんこに潰すと、元に戻るのだった。
死の神といえど、世界には敵わなかった。抵抗もできずに潰されて、マーモットはなんとか脱出すると、ころりと床に転がる。
記憶皮膚を解除して、僕もころりと床に転がった。ぶっちゃけ世界とか舐めてた。今も頭はズカンズカンと激しい頭痛がするし、気持ち悪くて立ち上がれない。
「うぅ、これは勇者と魔王の相討ちとなるんでしょうか? なんか記憶ないほど酒を飲んだ次の日みたいに気持ち悪い」
「見ててよくわかりませんでしたよ、カナタさん。カナタさんが消えると、マモハデスがプチッと潰れたくらいしかわかりませんでした」
そして、最悪の気分をさらに最悪にするべく、セイが観客としての感想を教えてくれる。
「あ~、そっか、そりゃそうだ。僕は世界になったんだもんね。全てが僕となったとしても、文字通り空気になってたんだ」
「三流役者として相応しいバトルでしたカナタさん。まさしく空気な戦闘、稀に見ない決着のつき方でしたね」
エキストラ時代と同じく空気であったカナタである。ここにきて空気とか泣けてくるよ。
「でも、まぁ、今回は撮れ高よりも、勝ったということが重要だ。マモ、ここの管理端末はどこにあるの?」
のっしと、人のお腹に乗っかり寝ようとするマーモットの鼻をつつきながら尋ねる。マーモットはさっきまで戦闘していたことなどすっかり忘れたようで、さすがは獣の知能と言えよう。その目は虚無で、フワァと欠伸をする面の厚さである。
「たぶんそこら辺まきゅ」
むにーんと頬を引っ張ってあげたら、ブラックホールにて崩れたガラクタの山を指差すマーモット。なるほど吸引した時に巻き込んだのね。
「まぁ、この程度は苦でも何でもないですけどね」
『掃除魔法:整頓』
とりあえずマーモットを頭に乗せると、僕は立ち上がり、天へと祈りを捧げるように祈る。一応の決めポーズだ。
まるで天へと祈りを捧げるように、美しき美少女は光り輝くと、辺りを照らす。
「まともに見ちゃったまきゅ! 目が、目が、マモが〜!」
頭の上に乗ってたマーモットが光を食らって転がり落ちるのを横目に、広大な部屋に光は広がっていく。その光はゴミ屋敷の全てを覆っていき、ゴミの全てを整頓していく。捨てる物、捨てない物の区分けはもちろんのこと、燃えるゴミ、燃えないゴミ、資源ゴミまで綺麗に分けていった。
その様子はまるで瘴気に覆われている世界を浄化するかのように、綺麗にしていく。実際はゴミ掃除をしているだけだが。
そうして、あれだけあったゴミはブロックごとに区分けされて、見通しの良い綺麗な倉庫へと変わったのだった。
そこにちょこんと置かれているのはノートパソコンであった。
ご丁寧に、端末にIDとPWまで記載してあるシールがキーボード横に張ってある。セキュリティ意識の高さに泣きたくなるけど、創造神って、本当に創造神なの? まぁ、ここに侵入されるとは思っても見なかったんだろうけど。
「では、中身を見てみますか。え~と、IDはシンジツ、パスワードは━━。なにこれ、これもショップ!?」
ポチポチと押していくと、ログインできて、出てきたサイトは驚くことに、僕らの使っているポイントショップとほとんど同じ外見だった。確実にシステムを流用していることが分かる。
「これ、もしかしなくても、インディーズレベルの世界だった!?」
ポイントも表示されるし、買い物もできる。ラインナップも僕らとほとんど同じだけど、『世界の卵』とか、世界創造キットらしき品物が目新しいか。
なぜラインナップが違うかは分かる。創造神は『プラチナ会員』とサイトの隅っこに書かれているからね! たくさん買い物をしているから最高ランクのユーザーなんだろう。
「どおりで世界観ガン無視で強力なアイテムが存在するはずだよ。そりゃ、自分のシステムじゃないんだから、強力なアイテムが売ってるはずだよ。意外とポイントもあるな?」
1800億ポイントとショップには残ってる。
リボ払いやローンの毎月の支払いもあるようで、履歴では収支で大赤字であった。
「ふむふむ……メニューには管理者権限もあるな。これを僕に変えて、残っている資産は全て僕の資産として再登録。そして、この世界への扉のコードは変更して僕だけが入れるようにしてっと」
ピピッとシステムの管理権限を変更し、神が侵入もできないようにする。
世界を維持するためのポイントにしては少ないけど……。
「もう少し良いシステムに変更をしますか」
ご機嫌なカナタは鼻歌混じりで世界の仕様を変えるのであった。
新作『魔法科学を広めたい』を投稿してます。エセ科学で世界を革新していくお話です。よかったらお読みください。
※『黒幕幼女の異世界ゲーム』が9月30日にシーモア様から連載します。よかったらお読みください。




