75幕 黒幕
「よっと」
カナタはヨグ・ソトースと皆が激闘を繰り広げている中で、こっそりと空間の裂け目に潜入した。よくある悪役が漁夫の利を得るパターンだ。
苦労して主人公たちが強敵を倒すと、「ふふふ、ご苦労様でした」とか言って、奥に隠されていた宝物や、倒した強敵から力の核を回収する悪役と同じだ。
だいたいそーゆーことをする敵はラスボスのパターンが多い。特に今まではラスボスだと思われていたボスが倒されたあととかに現れる悪役はそのような場合に当てはまると思われる。
というわけで、悪役としては酷く正しく、カナタは管理権限を奪い取るため、皆を見捨てたのだ。契約通りの悪役っぷりに皆が拍手することは間違いないと思います。思うよね?
「で、敵の本拠地に入ることはできたけど……なにこれ? ゴミ屋敷?」
薄っすらと金属製の天井が見える広々とした倉庫にカナタはいた。倉庫の壁も数キロ先に見えるので、倉庫に間違いはないと思う。
そしてなぜ戸惑ったかと言うと━━。
まるで夢の島のようにガラクタが積み重なり山を作っているのだ。しかもその山はいくつもあり、ゲーム機らしきものから、剣や鎧、壊れた家具や、ロボットらしい残骸。生モノがないのが救いと言えば救いなのだろうゴミの山で作られた倉庫であった。
「セイさん、なんですか、これは? ここがこの世界を作った創造神の住処? もっとこー、おどろおどろしい肉塊のみで構成された部屋とか、メーターがそこら中に嵌っているメカしい部屋とか、天使が音楽を奏でていそうな荘厳な神殿を予想してたんですけど?」
こんなゴミ屋敷は想定していなかった。いくらなんでも酷すぎる部屋だ。
「創造神は片付けるのが下手なんですよ。前は部下に任せていたんですが、コストカットのためにクビにしてしまいまして」
「セイさんたちがいるじゃん」
「分体は本体ができないことはできないんです」
「創造神が怠け者なのはわかったよ。てか掃除の人をクビにする会社は末期だからね?」
悪気なくケロリとした顔で返答する巫女に半眼でため息をつく。こんな奴に世界を支配されているとか、無能な経営者に苦労させられるブラック企業の部下そのまんまだ。
そうか、僕はブラック企業に入社していたのか!
「この地獄のような世界に美少女として転生させられて、残業代も出ることなく報酬も天引きされた挙句に殺されるとか酷すぎるブラック企業だったよ!」
「あ~、まぁ、美少女に転生したのは良いとは思いますけど、ブラック企業なのは今更ですよね」
そういや確かめるまでもなかったか。元々ブラック企業だったや。
「まぁ、ブラック企業に勤めた経験も役者の糧になりますか」
「その超ポジティブ思考は尊敬しますよ、カナタさん」
とりあえず管理室を探しててこてこと進むカナタとセイ。だが、ゴミが多すぎて、見通しも悪く足場も最悪で、全然見つからない。
というかゴミ多すぎ。『ゴリラ対プレデターで使用』とか名札が付いてるゴリラのぬいぐるみが転がってたり、『鬼滅の剣』で使用と書いてある電車が放置されていたり、どういう経営方針か丸わかりのガラクタが多すぎる。
「……こんなパクリで稼ごうとする映画会社に勤めているとか黒歴史すぎるっ。先輩たちがこれを知ったら、必ず会社を潰して無かったことにしようとするよ」
「スキャンダルとかになりそうな会社ですもんね」
「分かってて言ってるなら、創造神を止めてほしかった」
歩くこと小一時間。ぼんやりと灯りが見えると━━。
キラリと光りが瞬くのを見て、カナタはガラクタへと飛び込む。光線はゴミの山を薙ぎ払い、その高熱で溶かしながら、カナタへと向かってきた。
「ヨグ・ソトースと同じ光線!?」
慌ててゴミを踏み台にカナタは光線から逃れようと走る。走りにくいゴミだらけの道でも、積み重なるガラクタの山でも、今のカナタは一時的に最高レベルの身体強化をしているため造作もない。
光線は数秒追いかけてきたが、エネルギーが尽きたようで消えていく。エネルギーの残滓がガラクタを燃やし始めて、辺りは大火事へと変わってゆく。
「まーきゅ、まきゅまきゅ」
そうして聞こえてくる高笑い。
「ミイラパッケージとか使いそうな笑いが聞こえてきましたよ、カナタさん」
「それはマキマキ。それよりもマモなんのつもりですか?」
光線が放たれた先には骨の杖を持つスケルトン、いや、ハデスが浮遊していた。少し変なのは心臓部分に、マーモットがちょこんと座っているところだ。
「ふふふ、フハハハ、まきゅまきゅまきゅ! マモは絶対の力を手にしたまきゅ! このハデスの力があれば、これからマーモット界を支配することが、いや、人間たちも支配することができるまきゅ!」
「ラスボスから力を奪い取る役は僕なんです! 真似をしないでもらえますか! それに貴方に憑依していた人はどこに?」
どうやら放置されたハデスの着ぐるみを盗んだ模様のマーモット。これは役者として許せないところなのでプンスコ怒るカナタ。せっかくの役柄なのに途中で盗むのはズルいと思うんです。
「マモに憑依していた幼女は証拠は十分に集めたから、訴状を作るでつと言って、立ち去ったまきゅ。その後、この部屋を見て気づいたまきゅよ。神の力を手にして、世界を支配できるチャンスだと! そのためには、ここにはマモ以外がいてもらったら困るまきゅ」
ピシリと骨の杖を突きつけて、ハデスマーモットは殺気を出す。本気でカナタを殺すつもりのようで、完全に力に溺れていた。
「ウサギはどこに? 既に殺したんですか?」
「いや、テテは他の世界でオーディションに受かったからと、もう立ち去ったまきゅ……。マーモットはすぐにコメディ化するからお断りらしいまきゅ。セットで売り出していこうって約束したのに、裏切られたまきゅよ」
「あ~、なんというか、ごめんなさい」
しょぼくれて悲しそうにするマーモット。わかるわかる、決め打ちしてくるオーディションってあるんだよなぁ。オーディションに応募して何度悔しい思いをしたか。学園物の学生役はおっさんお断りとか酷い差別だと思うんだ。
それとコンビは売れてくると解散するのは普通だから諦めてほしい。
「なので、後はカナタを殺せばここの支配権はマモの物! 悪いとは思わないけど死んでもらうっ!」
『即死光線』
先ほどとは違う暗黒の光が杖から放たれる。今度はガラクタを燃やすことはなく、透過して迫ってくる。
「無機物は無視して、生命体のみを攻撃する魔法っ!?」
「ふふふ! しかも無機物を壊すのにエネルギーを使わないから、持続時間も長いまきゅよ! ほらほらほら〜! 触れたら即死まきゅ!」
声は調子に乗ったマーモットだが、その姿はハデスのため、怖いか笑うか難しいところだが、その力は本物である。
マモってもハデスの力を持つ即死光線だ。掠っても死ぬ確率100%だろう。でも即死光線には弱点がある。
「ショップ! 即死無効のネックレスを購入!」
宙に浮くボードを叩き、即死無効のネックレスを購入する。着けたと同時に即死光線がカナタの身体を透過して、一瞬ぞわりと背筋がなるが、それ以外はなにも起きない。
「即死無効のアイテムは格安なんです!」
簡単に戦闘が終わらないようにと、即死系統は意外と簡単に手にはいるのだ。
「ピギッ! ならダメージオンリーの魔法に切り替えるまきゅ!」
『ブラックホール』
骨の杖の先端に漆黒の球体を作り出すマモハデス。光すらも呑み込まれる超重力の球体だ。球体の大きさは野球ボールほどだが、その吸引力は強力吸引掃除機を超える。
マモハデスには効果なく、周囲の全てを吸引するブラックホールは確かに効果の高い魔法だ。
この場所でなければ。
「どぁぁぁっ、ガラクタに巻き込まれるまきゅ!」
膨大な量のガラクタが吸い込まれていくが、その量はマモハデスを巻き込むのに充分な量であり、浮いているマモハデスもガラクタと一緒に吸い込まれようとしている。
「ふくぉぉぉ、キャンセル、魔法キャンセルっ!」
車とロボットに押し潰されて、ブラックホールに吸引されそうなマモハデスが慌ててブラックホールを打ち消す。
さすがは獣。考えなしなのは変わらない模様。
「っと、隙ありですっ! 僕のターン、『瞬間移動のスクロール』を発動し、マモハデスに攻撃!」
間抜けな隙を見せるマモハデスへと瞬間移動にて間合いを詰めると、銀髪を宙に靡かせて、カモシカのようなスラリとした脚でカナタはマモハデスの頭を蹴る。
「ピギッ! なんの躊躇もなく蹴飛ばしたまきゅね! このシーンを見てクレームを入れる魔物愛護団体がいるまきゅよ!」
「安心してください、編集してマーモットの部分は黒海苔にしておきますので!」
「最近は何でもかんでも黒海苔にすればいいという風潮にマーモット界は反対します!」
お互いに譲れないものがあると、カナタとマモハデスはぶつかり合う。マモハデスは意外と硬く、カナタの蹴りを受けてもすぐに立ち直り、骨の杖で反撃をしてくる。
カナタは最高レベルの身体能力を今は持っているにもかかわらず、骨の杖を受け止めると、腕が痺れて、後退ってしまう。その隙を逃さずに、マモハデスは骨の手を向けてくる。
『雨垂漆黒弾』
マシンガンのように、漆黒の魔力弾を無数に放つマモハデス。カナタは側転をしながら躱していき、捨てられているロボットを蹴り上げて盾にして防ぐ。
漆黒弾は金属の塊とも言えるロボットを削っていき、徐々に小さな塊へと変えていく。このまま隠れているだけでは、カナタは強力無比の漆黒弾により蜂の巣にされるだろうことに、顔を歪める。
「予想以上に強い!」
「あのハデスは創造神が準備万端に整えていた着ぐるみですから、魔力も満タンで、しっかりとメンテナンスも終えているものですからねぇ、カナタさんの今の力では敵いませんよ」
「それを早めに教えてもらえれば、もう少しやりようがあったのですけど」
削られていくロボットを前に、カナタはマモハデスを倒す方法を考えないと死ぬなと、顔を顰めるのであった。




