69幕 準備
予想通り、先輩たちは簡単にOKを出してくれた。なので、とりあえず2人とだけ先行して話し合いだ。
「与一さん、ユリアさん。そろそろほとぼりも冷めましたし、シグルドさんの活躍を見せたいと思います。夏休み最後の日とか、イベントにちょうどいいかもと思うんですけど、どう思いますか?」
自室にて2人と話すカナタ。お膝のうえにまーちゃんが乗ってるので秘密のお話にならないかもしれない。
2人ともノリノリでOKを出してくれると思いきや━━。
「え~と、言いにくいんだけど、もう少しおとなしめになイベントにした方が良いんじゃないかな?」
「うんうん、この作戦は少しばかりスケールが大きすぎるよ。どれくらいポイントが必要になるのか分かんないよ?」
なんと、与一先輩もユリア先輩も乗り気ではなかった。なぜなのだ、僕たちはこの劇の世界で、邪神を楽しませて、他次元の者たちにインスピレーションを与え、ポイントを稼いで願いを叶えるべきなのだ。
テーブルを軽く叩き、怒ってますよアピールをするカナタである。銀髪の美少女が頬を膨らませてプンスコ怒る姿は可愛らしいので、まったく迫力はなかった。
「えっとね、私たちはこれまでに大量のポイントを稼いだでしょ? このままのんびりと稼げば、今年中に願いを叶えるだけのポイントを手に入れることができるんだよね」
「同じく、私もポイントは順調に、いや、これまでのイベントで予想以上にポイントを稼げたから数年以内には目的のポイント数を達成できると思うんだ」
ユリアさんも与一先輩もよくわからないことを言ってきた。
「は? もうポイントを稼げそうなんですか? 僕は全然貯まってないのに? 願いを叶えるには千億ポイントは必要ですよね?」
それだけ大量のポイントをこの短期間で入手するなど不可能なはず。なにしろ千億ポイントだ、千億ポイントなんかどうやって稼げば良いか、今も分からない。
「うん、前回の小ヒットで80億ポイントほど入っただろ? 残り20億じゃないか」
ん? 80億も稼いだの? いや、待て待て、それでも全然足らないはず?
与一先輩の言葉に嫌な予感がして、恐る恐るユリアを見ると、ウンウンと頷いていた。どうやら同意見の模様。マジかよ。
「え? 千億ポイントではない? 百億? たった百億で願いを叶えてもらえるとか?」
僕の焦った表情に、いよいよ違和感を感じたのか、2人はコテリと小首を傾げると、顔を見合わせて頷く。
「うん、百億ポイントだよ。それで来世は健康で美しく記憶を持って転生する願いを叶えてもらえるの」
「あっけらかんと言わないでくださいよ、ユリアさん! 僕の願いは千億ポイント稼がないと叶わないんだよ!? いくらなんでも待遇が違い……、過ぎないと理性が語ってる! 悔しいけど、超一流役者と三流役者はそれだけ待遇が違ってもおかしくないと教えてくれる!」
地獄の底まで落胆して落ちていきそうに絶望に包まれる。超一流役者は報酬において映画1本で百億円は貰えるが、三流役者は数十万円貰えればよいほうだ。
この格差が今回の転生にも影響しているのは当初から分かっていた。超一流役者は天上の人で、三流役者は地べたを這いずる虫のような存在なのだ。となると、僕の立ち位置と先輩たちの立ち位置を考慮するとこれくらいの差をつけられていると、早々に分かっていてもおかしくなかった。
それにしても、貰える報酬どころか、叶えるポイントにも格差をつけるとは予想外だった。三流役者はこき使うつもりなんだな、ちくしょうめ。
大体の構図は分かってきた。恐らくは超一流役者にして、5年間のサバイバルを生き残った者は極めて貴重なのだ。なので、彼らは来世に転生しても超一流役者として活躍するだろう。そして、亡くなった後に、またこの世界に呼び込む。その繰り返しができれば、邪神は安定した収入が得られるというわけだ。だからこそ報酬は高いし、願いを叶えるポイントも少ない。
対して三流役者はというと、もう使い捨てにして良いレベルと考えているに違いない。5年間のサバイバルを生き残ったのも偶然、大した演技もできないし、過労死するまで頑張ってということだ。
空に浮く巫女を睨むと、ピーピーと下手くそな口笛を吹いて顔をそらすので、僕の状況は理解して教えてくれなかった模様。
ぐぬぬと悔しさで拳を握りしめるが、悔しさで唇を噛み血を流す暇はない。
「だからさ、ここは軽い劇で少しずつポイントを稼いで、安全にポイントを貯めない?」
「ユリアの言うとおりだよ、カナタさん。僕のこれまでの経験と情報から予想するに、願いを叶えられるポイントに近くなると、なぜかポイントを全て使わないといけない災いや、死んでしまったりするキーマンが多い。これからは警戒して行動しないといけないと思うんだ」
さすがは海千山千の大御所先輩。僕も思いついた邪神の巧妙な妨害に気づいていたらしい。たしかにそれを考慮すると、おとなしくしたほうがよいかもしれない。
でも、それで良いのだろうか?
僕たちは役者だ。常に最高の演技を求めて、練習をして、観客を魅了しなくてはならない。この世界は嫌になるほど現実で、人死にも本物であるため、地獄のような世界だけど、願いを叶えられないことを恐れて、小さくまとまった劇をすればよいと考えて良いのだろうか?
彼らは大御所で、役者としては天上の人、僕にとっては神にも等しいが、だからこそ逃げに入ってはほしくなかった。
スゥと息を吸い、居住まいを正し真剣な表情を二人に向ける。
「……先輩、聞いてください、ここで逃げの戦法をとると仰るなら、僕はもう貴方たちを超一流の役者として尊敬することをやめます」
「!?」
「えっ!」
僕の言葉に2人はそんなことを言われるとは思わなかったのだろう。驚きで目を見開く。
そうだろう、僕は常に演技のうまい2人を尊敬してきた。この世界にやってくるほどに演技が好きで、だからこそ、超一流の役者への想いは本物である。
「逃げは駄目だと言うんだね?」
「はい」
ここで逃げないでほしい。
あと、僕の計画には先輩たちのポイントが必要だからとても困る。
もちろん心優しい僕の心の割合は2人が逃げないでほしいとの思いが9割、計画のために必要だと思う心1割だ。本当だよ。
「……たしかにメリットを考えれば、ここは無難にいけばいいとは思うけど、それは商売人の考えよね。いいわ、私はカナタちゃんの計画にのるよ。一度役者を目指したなら、創造神になったり、破壊神になったりするのも良い経験とやるしかないもの」
「さすがはユリア先輩です。その心意気を僕はいつも尊敬してます。いや〜、良かった良かった」
「まぁ、ユリアさんの言うとおりか。私も無難にいこうなんてどうかしてたよ。この世界でしか経験できないことはたくさんあるのに、それを経験しないでおくなんて役者としては最悪だ」
エヘンと胸を張るユリア先輩と、ニコリと微笑む与一先輩のセリフに感動してしまう。やっぱり先輩たちは僕の尊敬する人たちだ。
「最初はこの街を破壊する破壊神を召喚しようと思ってるんです。ほら、この五千万ポイントの『破壊神創造卵』を使って、死の神『ハデデス』を創ろうかなって」
ショップ一覧を隅から隅まで読んで見つけた逸品だ。ハデスではなくハデデスというところが、まだ敵はそこまで強くないとのイメージを与えると思うんだよね。
「ふむふむ、教団の教主であるゴーマに渡せば、すぐに騒ぎを起こしてくれると思う。復活させるところまでやるの?」
「はい。ハデデスは名前からして弱そうに見えますが、実は結構強いです。ですけれども、知恵と勇気と主人公補正を使えば、なんとかできる程度ではある。ハデデスとシグルドの戦闘はド派手になるでしょう」
「え~と、2人ともそこで大規模な殺戮とかありそうには思わないの? それって入学式の時の被害とは比べ物にならないじゃない? あと、あんたはハデデス教団との繋がりを暴露していいの?」
ユリア先輩がウキウキとした顔で、セリフだけは心配げなことを言う。止める気ゼロどころかノリノリなことは間違いない。
でも、僕も一応良心というものはある。無辜のエキストラで殺されるときにセリフがない人は除外したい。……セリフがあっても駄目かな?
「場所はどこかのパーティーが良いと思うんです」
「それなら僕が夏休み最後の日を残念に思ってと、第二王子主催でパーティーを開くよ。パーティー開催日まで時間が無いから、親しい友人たちだけという名目で、中立派閥のトップとかも呼べば、兄さんも慌てて出席するだろうしね」
にこやかに助けてくれる与一先輩。さすがは与一先輩、後輩にとっても優しくて涙が出るくらいだ。あとついでに第一王子を殺すつもりでもあるようだけど些事に過ぎない。
「そこで、入学式と同じように儀式魔法陣を仕掛けて、ゴーマを呼び込めば、ハデデスを召喚してくれると思うんです」
「兄さんへの弔意文も考えないといけないかな」
「こらこら、2人で不穏なことを言わないでよ。友達が死ぬのは私は嫌なんだけど?」
「大丈夫です。そこでショップで雇えるエキストラカードを買えば問題ありません。どうせ死ぬ役なんですから安くつく人を雇いましょう」
日雇いのエキストラなら数百人雇った所で、痛くも痒くもないポイントになるだろう。
「前回の続き……中途半端に魔力を集めた魔晶卵の代わりというわけか。あれは僕が持ってるんだよね。あれも使って、上手く段階を踏んだ戦闘になれば……」
「ヒロインの私が傷ついて、しーちゃんが覚醒するパターンもあり! 『高級覚醒薬』を買っとくよ!」
ノリノリな2人のアイデアに僕はニンマリと笑ってしまう。大量のポイントを持つ2人が仲間になってくれれば大規模なイベントとなるだろう。
「あ、カナタちゃん、安いからって、エキストラを全部ウサギとかマーモットにするのは無しね? 私たちが召喚石とかは買っておくから細かいところは任せたよ?」
「……はぁい」
くっ、百匹で一万ポイントだからお得だったのに、読まれてる!
「そーゆーところでケチるとB級映画とかになるんですよ、カナタさん」
巫女の言葉だがまったくそのとおり。もったいないけど人間を雇っておくか。
━━それと、もう一つ、誰にも知られずに秘密のプランも用意しておこう。




