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悪役に応募した三流役者。異世界での雇用でした  作者: バッド
2章 アカデミー

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66幕 新たなる記憶

 レオナ・クジンを殺した。少し罪悪感も沸くけど、あちらもカナタを殺すつもりだったので気にしないことにする。


 そう、気にしない。そう考えるだけで心の奥の澱みが消えていく。それは不自然なほどに。いや、明らかに不自然だった。


(この世界、人殺しをしても罪悪感が沸かないようになってるのか、悪人が多い理由は罪を犯しても、すぐに気にしなくなるからなんだろうな。全くもって、地獄のような世界だこと)


 自分の推察に思わずため息をついてしまう。劇では様々なイベントが起こり、その中で悲劇的な展開は最も多い。ハッピーエンドや幸せなほのぼのイベントは日常ものだけで、日常ものはよほどセンスがなければ面白くない。悲劇の方が簡単でウケも取りやすいのだ。


 友人に騙されて借金まみれとなり復讐する。恋人に後ろから刺されて、最強の男が殺される。毎週近所で殺人事件が起きる、などなど。


 近所でこんなことが日常茶飯時に起きていたら、普通の人間は心をやられる。それを防ぐために、罪悪感を持たないように最初から精神を調整しているのだろう。


 これまで皆を見てきてモヤモヤしていたが、ようやくその結論に至ったのだ。


 さりとて、こんな世界を作り上げやがって、この邪神めと勇者が邪神(セイ)を倒す展開にもならない。


 なぜならば、その契約でこの世界に皆は転生しているから。記憶にないだけで、彼らは地獄のような世界を認めているのだ。


 それだけ来世が人間となり転生するのは魅力的だ。どれだけ優れた腕を持っていても、次に転生する先が犬や猫、それどころか羽虫で、二度と人間には転生できない未来が待っているとか、耐えられない。昔にそんな漫画を見たこともある。あれは仏彫物師だったかな?


 この世界が崩壊すれば、人々は人間への転生を諦めることになる。いや、確率的に人間へと転生はできるだろうが、この地球に何億の動植物がいると思うのだ。宝くじで1等を当てるよりも遥かに厳しいのは間違いない。


 邪神を殺せば放送局を破壊して、転生やらスキルを創造するエネルギーを放棄することと同義。前世の地球もそうだけど、ちょっぴり平和になるだろうけど、戦争はなくならないし、お互いの競争意識も残るし金持ちとの格差もほとんど変わらない。ハイリスクローリターン、努力がポイントとなり、来世を約束されているこちらの方がマシだった。


 個人的には、ほとんどの人間がこちらを選ぶと思う。多分だけどね。


「だから、割り切って行動するしかないのです。レオナさんも悪役として全う出来たと思いますし恨まないでくださいよ」


『記憶喰(メモリーイータ)』


 レオナの死体を粒子に変えると、蛍火のように坑道を淡く照らして、カナタの手に回収された。


 一千万ポイントをあらかじめ使い、あらかじめメモリーバインダーを一枠増やしておいたのだ。必ず必要になると思って、小金持ちとなった僕は買っておいた。


「レオナ・クジンと示し合わせて『厄者』を殺そうとしていた話し合いの記憶を閲覧します」


 ピコンとセイチューブの動画が映し出される。見事に秘密の話し合いといった感じで、薄暗い部屋に円卓が置かれて、リモートでホログラムとして出席している出席者の顔は認識阻害を使用しているのか、真っ黒だ。


 黒幕会議あるあるだ。なぜか出席者の顔は見えずに、クククとか、あのお方とか、勿体ぶったセリフを口にしつつ、その顔は見えずに、あの出席者たちは何者だろうと視聴者の好奇心を煽るような形で会議が行われるパターン。顔が見れる奴は大体近いうちに主人公に倒されます。


 でもそれは無駄な行動なんだよね。なにせ、この記憶は7家最強のレオナ・クジンのものなのだ。


「無修正に変更。レオナの認識にて顔の補正を行なってください」


 そう命令すると、レオナの認識を使用しての補正が入り、皆の顔がはっきりと映し出されて、さらには名前や性格なども表示された。バレバレすぎて、相手が可哀想なほどです。この能力を知ったら黒海苔や白い光を消したいと熱望する視聴者が大勢いるだろう。黒海苔や白い光ってなぁにと疑問に思う人はちょっぴりエッチな漫画を見ると良いよ。


「あの〜、この間抜けな出席者さんのところ、カットしちゃうんですか? 小生はもちろんのこと、視聴者さんたちも観てみたいと、強い要望があるんですけど?」


「裏舞台は見せないほうが良くない?」


 僕が『編集チケット』を使用中なのをみて、巫女がツンツンとつついてくるけど、こういうのって需要あるのかな?


 コテンと銀髪美少女は小首を傾げると、セイはなぜか熱心に言い募る。


「もちろんですよ! こういう自分はさも重要人物みたいな雰囲気を出している人たちの裏を見て爆笑したいと最近の視聴者は思ってるんです! インスピレーション、インスピレーションがドバドバ出るんですよ!」


 なんかこういうの好きらしい。ふむ……?


 画面を見ると、腕組みをして『くくく、レオナ殿は慎重ですな』と重々しい口調で言ってるおっさんは認識阻害をとると、パジャマ姿で後ろに見える部屋はアニメの美少女ポスターが貼ってあった。『あの方の計画通りに頼みますわ』と勿体ぶった言い回しのおばさんは、パチンコ中らしく、タバコを咥えて、パチンコを打っている。


 こんな裏舞台を観たいの? これ映し出しちゃいけないシーンだよね? 子猫がキーボードへとペシペシと手を伸ばして悪戯しようとするのを、懸命に防いでる人は『格を落とす戦いは貴族らしくないですよ』とかクールに言ってるよ? 皆、リモートでカメラ無効にしてるから好き勝手してるよ? これだからリモート会議はカメラ無効にしたらダメなんだよね。


 漆黒の会議室で、不気味にしてミステリアスな雰囲気を醸し出してるのに、認識阻害を解除したら台無しである。レオナが馬鹿にして嘲笑するのも分かるもんだ。あ、子猫にコーヒー零されて、おっさんが慌ててるや。


「まぁまぁ、プロ野球のNG場面とか、スイカの早食いの裏側とか、裏舞台を見たがる人は多いんですよ。ポイントももらえますし、ここは放送をお願いします。騙されたと思って」


「分かりました。少しでもポイントが入ればいっか」


 悪魔(セイ)の囁きに乗って放送しちゃうカナタでした。


 さっきの戦闘と合わせて1億8千万ポイントもらえました。戦闘よりもこっちの方がポイントが多かったので、なんかモヤモヤしました。


 大金を稼げたので、メモリーチップ枠を1億ポイントで買っておいたよ。


            ◇


 『坑道ダンジョン』。突如として現れた高難易度ダンジョンを前に。アカデミーは大騒ぎであった。


 なにせ、魔力反応を調べたところ、Cランクを超えてBランクのダンジョン。いやボスを含めるとAランクだったろう。ベテラン冒険者のパーティーでも苦戦するレベルだ。


 教師たちはゲートの前に集まり、鬼気迫る表情でこの危機をどうにかしようと奮闘していた。


「なぜこんなことになったんだ!? 管理者はなにをしている!」


「これでは生徒たちが死体となって帰って来るのを待つだけになってしまう」


「生徒たちの背丈と女子生徒はスリーサイズを教えてくれ。棺桶を作らなくてはならないからな」


 最後の発言者は警備員に連れて行かれたが、他の教師たちは生徒たちを心配していた。

 

 カナタたちの担任のポンタ・平野も生徒たちを心配している一人だ。


 ダンジョンのゲートを前に舌打ちをして、厳しい目つきで睨んでいた。


(ちっ、なんでこんな事故が起きやがるんだ? このゲートは完璧に管理されているのに、ダンジョンの難易度が上がるのもあり得ないが、その上、ダンジョン自体が変わっちまうなんて聞いたことが……まぁ、ちょっぴりあるが、それでも起きたのは30年近く前の話だ。これじゃ生徒たちは無駄死にだ)


 ただでさえ、アカデミーの実習は危険で死人も出る難易度の高いものだ。それでも容認されているのは生き残った生徒たちはその分強くなって帰ってくるからだ。ギリギリの難易度で、命を懸けた経験が人を大きく成長させる。


 だが、全滅必至の訓練は訓練とは呼べない。ただの殺戮だ。


 この原因も実は悟っている。


(恐らくは『厄者』が出現し始めたからだ。きっと7家は『厄者』を殺そうとして、こんなことをし始めてる)


 ポンタもアカデミーの教師だ。彼も『厄者』の存在は知っているし、その危険性も分かっている。それでも、手段を選ばずに殺そうとする7家たちには反感しか覚えない。


 だが、ダンジョンは既に攻略されるまで誰も入れないように閉鎖されてしまっている。解除魔法を使っている教師たちも生徒たちが全滅するまでに解除は不可能だろうと知っていた。


(となれば、後は『厄者』の力を信じるしかねぇ。恐らくは『主人公』を狙い撃ちにしたんだろうが、『主人公』はあり得ない奇跡を起こして妨害を跳ね除けるって噂だ。頼むぜ……)


 生徒たちが帰還して来るのを祈るポンタ。これでも生徒たちを教える教師であり、たとえ『主人公』がこの世界をめちゃくちゃにする起点であろうとも、生徒たちの方が大切であった。


 そうして、皆がゲートを前に祈る中で━━。


 ゲートが波打つ。


「誰か出てくるぞ!」


「複数だ、彼らはやってくれたんだな!」


「先頭に立つのは……、ううん?」


 波打つゲートに人影が映り、生徒たちが現れる。先頭こそがリーダーだと、皆が喜びに湧く中で、なんか1列になって皆が出てきた。


 まるでゆとり教育の中で、運動会に順位を決めるのは運動ができない子が可哀想だと、全員同時にゴールするように。


「せーのっ、そやっ!」


「おれ、一歩前に出てた?」


「同時にゴールとか、ナイスアイデア」


「皆が同じように活躍したんですから、当然ですよ」


 メンバーはシグルドたちであった。話題のシグルド、カナタが揃っている。皆、激戦であった証拠にボロボロで、怪我をしている者も多い。


「お前ら無事だったか!」


「先生! 僕たちは大丈夫でしたが、なぜか女子生徒が後ろから一番活躍していた男子生徒を刺して……その後女子生徒は消えてしまったんです! 男子生徒はもうマーモットの息で……」


 悲しむカナタの腕には胸を血で真っ赤に染めた男子生徒の姿があった。手足を伸ばして、グッタリとしている。


 なぜ殺したのかは理解した。


(『主人公』はこいつだったのか。名前は……覚えてないが、刺客は見事に殺したのか……仕方ない)


 犠牲が出たことはやるせないが、『主人公』はいつか殺されると考えれば今回殺されたことで、もうこのようなことは起きないだろう。そこは安心するところだが、それでも生徒が殺されたことは残念だった。


「見てください、これで死んでいるんですよ」


「あぁ、まるで寝ているようだな……」


 怠惰なおっさんが寝ているように、目を瞑って倒れているマーモットに似てる男子生徒を見て、ポンタたちは冥福を祈るのであった。


 こうしてダンジョン変異事件は一人の犠牲をもって終わりを告げたのである。

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― 新着の感想 ―
黒海苔や白い光に加えて湯気も消せるかなあ。 スイカの早食いするキャラが登場したら、前世アイーンの超大物? 「もうマーモットの息で……」ぐうぐうか、すぴーすぴーでしょうか。
更新乙 君の犠牲を忘れない安らかに眠れ・・・明日には起きろw 結局 カナタの一人勝ちで儲けですね~ 裏側話は本編終わってからが一番盛り上がるのに~
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