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悪役に応募した三流役者。異世界での雇用でした  作者: バッド
2章 アカデミー

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61幕 ダンジョン攻略開始

 暗闇で支配されている坑道奥から唸り声が聞こえてくる。まるで地獄の底から響いてくるかのように。


「ピギー」


 そんなかっこいい唸り声を上げられるのはマーモットではないので、そこの瓶底眼鏡の生徒は両手をあげて警戒モードで叫ばないように。


 暗闇に爛々と光る赤い目が近づいてくる。暗闇の中でも光るのは魔力を宿している証拠だ。しかも最初はかなり遠かったのに、みるみるうちにその赤い目は大きくなる。


「嫌な予感がしますっ。皆、気をつけてください!」


 優等生主人公タイプのシグルドが前に出て、剣を抜く。その表情は真剣で、近づいてくる魔物の力を感じ取っているようだ。


「も、森ダンジョンだとゴブリンだって、攻略サイトに載ってた! 有料サイトで入手した内容だから間違いないぜ!」


「今回のテストは森ダンジョンだって、課金して知ったのに、これは幻覚なの?」


 モブ生徒の1人が、現実逃避をしているのか、震える声で叫ぶ。有料サイトから情報はボロい家の雨漏りのように漏洩しまくりの模様。


「あの魔力を感じ取れるだろう? あれは絶対にゴブリンの唸り声じゃない!」


「きゅー」

 

 かっこいいとのセリフに反応して叫んでも、兎の鳴き声はラブリーなだけだよ、そこの瓶底眼鏡マークツーさん。だから鳴き声を上げないように。


 生徒たちも、現実逃避をしても意味がないと悟っているのだろう、ゴブリンゴブリンと口にしつつも、アカデミーの生徒にふさわしく、全員身構える。


「坑道ならコボルド、コボルドであってくれ……」


 坑道に住む下級魔物であるコボルド。ゴブリンの犬型バージョンと呼ばれる弱い魔物であるようにと、緊張した表情で生徒の1人が祈るように呟く。


 コボルドなら何匹襲ってきても、この面子なら楽勝だ。坑道に響く唸り声は危険な魔物だと教えてくれるが、走る足音が小さく、ほとんど聞こえないから、小柄な魔物だと予測していた。


「周りを照らします!」


『光源』


 ライトの魔法を女子生徒が使い、坑道奥へと放つ。


 そうして照らされた中に近づく魔獣は━━。


「ま、まさかオルトロス!」


 三メートルの巨大な体躯で駆けるライオンにも似た狼、オルトロスであった。剣をも防ぐ強靭にして灰色の毛皮、短剣のように鋭い爪、赤い瞳は血のように塗られたようで、強大な魔力を感じさせ、口から覗く呼吸をするたびに吹き出る炎が、この魔獣がオルトロスだと示していた。


 ランクはBランク。犬型魔獣の中でも高位の魔獣だ。無論、生徒たちが倒せるような相手では決して無い。


「ヤバいぞ、あいつを近づけるな!」


「魔法で攻撃だ!」


『マジックミサイル』


『炎砲弾(フレアキャノン)』


 オルトロスの脅威を知っている生徒たちが魔法を放つ。アカデミーの生徒にふさわしく、中級レベルの魔法で、どれも強力な威力を持つ。


 青い光が空を飛び、極太の炎が坑道を埋め尽くす。熱気が襲ってきて、坑道の壁が熱せられて赤く白熱していく。


「だめですっ、皆、作戦をたてて戦わないと! 無駄に魔力を使うだけになりますよ!」


「そんなことを言っても、オルトロスだぞ! 近づいてくる前に少しでもダメージを与えないと!」


 だが、その攻撃はてんでばらばらで、炎が放たれたと思うと氷の槍が打ち消してしまい、風の魔法が炎を広げて、カナタたちにも危険なことになってしまう。


 エリートたちは個々の力が強い。そのため自身の力に自信を持ちチームワークが苦手なところが最悪な場面で外に現れてしまった。


「わぉぉぉぉん!」


 そして姿を現したオルトロスはというと、無傷であった。僕たちから少し離れた場所で立ち止まると、睨みつけて牙を剥き、唸り声をあげる。


「な、なんで? あれだけ魔法を撃ったのに!?」


「駄目だ! たしかオルトロスは炎を吸収されてしまうんだ!」


「そ、そういえば、そんな情報が……」


 呆然とする生徒に、シグルドが冒険者としての経験から冷静に声をかけてくる。オルトロスはそこら辺にいるような相手ではないのに、しっかりと記憶していたとは、さすがは主人公だね。


「グルルルぅぅ!」


 魔力の高い人間が複数いるため、手強いと認識したオルトロスが口内に魔力を集めていくと、吹き荒れる炎を吹き出す。


『ファイアブレス』

 

 生徒の使った炎の魔法よりも遥かに高熱と魔力の籠もった炎のブレスが坑道内に吹き荒れる。

まずはブレスで何人かを殺そうと言うのだ。


「ひいっ」


 防御魔法を使うこともできずに恐怖する生徒たちに襲い来る炎のブレス。その炎は坑道を溶かし、掠るどころか熱せられる高熱の空気だけでも肺を焼かれて死ぬ。


 だが、その死の炎を前にしても、敢然と立ち向かう者がいる。


「皆は俺が守るっ!」


『魔法斬り』


 我らが主人公のシグルドだ。抜き放った剣が掻き消えて、高速の剣技が襲い来る炎を真っ二つに割って、消滅させる。火の粉が舞い散る中で、シグルドの凛々しい顔が照らされる。


「魔力の込められた高速の剣。いかなる魔法をも斬る単純にして最高の剣技、マナブレードの最終点。今は防御魔法が一般的になり失われた、500年前に編み出された秘奥とみんめー書房に書いてあった!」

 

「説明係は後でにしてくださいユリアさん。それよりも来ますよ、迎え撃ちましょう!」


 拳を握りしめて説明をするユリアさんを肘でつつき、オルトロスへと向き直る。

 

 自身の得意とするブレスを防がれたことに、目を見開くがオルトロスはすぐに気を取り直すと、消えるかのごとく駆け出す。


「グルルル」


「はぁ~っ!」


 爪を立てようと、前脚を繰り出すオルトロスに、シグルドが剣で受け流す。オルトロスは人間などよりも遥かに怪力であり、シグルドは防ぐのではなく、柔らかな動きで受け流し、上手く立ち回る。


 狭い坑道であることもシグルド側に有利に働いていた。オルトロスは獣の優位、素早く走り回り獲物を殺す戦法が使えずに、正面からの噛みつきと引っ掻き、後ろに下がってからの突進のみだ。


 鍛えられた剣士であれば、たとえ強力な身体能力を持つ獣でも、馬鹿正直に正面から襲ってくれば防ぐことは可能だ。


 剣撃が響き、爪が火花を散らす。斬り結ぶ金属音が続き、激しい戦闘が続く。その光景は英雄伝で語られるようだった。


「シグルドさん、僕もお手伝いします!」


『アイシクルランス』


 周囲の熱を抑えて、オルトロスの弱点である氷属性で攻撃開始。学長の記憶を持つ僕は大体の魔法を覚えているのだ。


 ヒラリと体を翻し、しなやかな脚を振るい回転すると、手のひらをオルトロスに向けると、氷の槍を作り出し、解き放つ。


 鋭き穂先を輝かせて、氷の槍はオルトロスの毛皮に命中し、冷たき氷が覆う。が、その力は表皮だけであった。


「るぐぐぐ」


 ブルリと身体を震わすと、氷はあっさりと砕け散り毛皮から落ちていく。


「僕の氷の槍が! 中級魔法なのに効かない!?」


「オルトロスの弱点を突いたのに、ほとんど効かないなんて!」

 

 ユリアの言うとおりだ。氷属性はオルトロスにとっては致命的な属性。炎に水をかければあっさりと消えてしまうように、炎属性のオルトロスにとっては、氷の槍は命取りとなる一撃のはずだった。

 

 僕の魔法が効かないことに驚きを隠せない。そして僕の中級魔法が効かないということは、もちろん他の面々の魔法も効かない。シグルドと戦うオルトロスの隙を狙う氷魔法は尽く無効化されてしまう。


「これは……どうやって倒せばいいと思いますか?」


「う、ウ~ン、このチケット、こんなに効果があるんだね……。これ以上、しーちゃんに任せるのも無理そうだし、なにか方法を考えないとまずいかも」


 シグルドの頬にオルトロスの爪が掠り、薄っすらと血が浮き出る。シグルド自身も汗だくで体力が尽きかけるのも時間の問題だ。


(学長かレルムの肉体に変化すれば、魔法攻撃力も跳ね上がるから、オルトロスなんて一撃で倒せるだろうけど、ここで変身するわけにはいかないし……)


 同じ魔法を使っても、僕がパチンコだとすると、学長やレルムの肉体は戦車砲だ。補正される魔法攻撃力の差が大きい。所詮はか弱い美少女に過ぎない僕では覚えた魔法の真の力を出すのは不可能なのだ。


 チラリとユリアを見て、お互いに頷く。ここで引くのも無しだ。きっとこのままだと、シグルドが覚醒とか、真の力とか、秘奥義を持ち出して、オルトロスを倒す可能性大。そして、それを見られて、こいつは『主人公』だなと、組織に狙われる。逃げるわけにはいかないし、シグルドを活躍させるわけにもいかない縛りプレイ。


 その難易度の高さにしかめっ面となるカナタに、横から前に出てくる人が1人。


「やれやれ、ここは俺の出番かな?」


 ポケットに手を突っ込み、瓶底眼鏡をして茶色い毛皮を持つ1人の男子生徒が肩をすくめながら、テチテチと前に出てくる。その余裕さは期待を持てる。


「ここはま、俺の奥義で倒すぜ! ピギー、秘奥義、魔守旋空抜天牙!」


 皆が注目する中で、両手をあげて、爪を剣のごとく伸ばすとオルトロスへと走り出す。


「魔守旋空抜天牙! あクマを倒すために作られた魔族の奥義の一つ! 猛回転する身体に、回転力を加えられた爪の一撃は、あクマの分厚い毛皮も切り裂くって、みんめー書房に書いてあった!」


「ふははは、そのとおりまきゅ! 先祖代々から受け継がれた魔族の奥義を見せるまきゅー!」


 得意げに咆哮すると、男子生徒は縦回転をして、高速の丸鋸となり敵を引き裂く━━。


 予定だった。


「まきゅ」


 プニン


「まきゅまきゅ」


 プニンプニン


 お腹に詰まったたっぷりの脂肪が邪魔をして、前屈もできずに、お手々を伸ばす男子学生。どうやら回し車でダイエットをしないと奥義を使えない模様。そのまま、もうやることを忘れたのか、ぼーっと突っ立ってしまう。


「みんめー書房オープンっ! カナタちゃん、私たちで奥義をフォローするよ!」


 ユリアさんが空中に百科事典のような本を喚び出すと、僕へと向けて見せてくる。その内容は僕の知らない体術にして奥義が載っている。


 なるほど、これがユリアさんの固有スキル『みんめー書房』か! その本に描かれている奥義は読むと一回だけ使えるようになる秘本だ。


「分かりました、いきますよ、ユリアさん!」


「うん、息を合わせて! 千年前に失われし幻の合体技を使うよ!」


 カナタとユリアは駆け出して、息を合わせて片足を振り上げる。 


「僕たちの力を持っていってください!」


「2人の力を合わせて奥義に使って!」


『突印蹴怒』


 2人が同時に脚を男子生徒に叩き込み、その力を注ぎこむ。魔力が集束した男子生徒の身体が光り、空へと飛ぶ。


 3人の力が合わさって、男子生徒は砲弾のように飛んでいき、その牙をオルトロスへと突き立てんとする。


「いやぁぁ~! 魔物愛護団体に訴えるまきゅ〜」


『魔守幻朧突進牙』


 咆哮しながら空を舞う男子生徒の姿がぶれると何人にも分身して、その牙をオルトロスへと突き立てて、その心の臓へとめり込ませ砕くのであった。


 『やれやれ系主人公』は皆のピンチの時に、その真の力を見せる。テンプレ通りに。オルトロスにめり込んで、足をピクピクと動かしてるので、きっとまだ生きてると思う。


 悪役が力を合わせるとこうなるんだよ。

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― 新着の感想 ―
さすマモ大活躍プニンプニン。 とみんめー書房の方が有料サイトより役立つ、と思ってたらそれどころじゃないレベルだった⁉
おーっと、ゴールネットを突き破ったぁ!
更新乙 うん まぁ~何て言うか・・・ 立派に役目を果たしたよマーモットよ安らかに痩せれじゃない眠れ 次の弾(生贄は)兎だね!
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