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悪役に応募した三流役者。異世界での雇用でした  作者: バッド
一章 始まり

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6幕 貧乏なのでお家はない

 アーシャをあっさりと倒し、カナタはとりあえずの仮住まいに移動することとした。


「なぁなぁ、なんか今日のグール、変じゃない? 頭突きが前よりも痛かったんだけど? なんか手足も綺麗なような?」


 なぜかアーシャたちもついてきているけど、不思議そうにカナタを見てくる。勘の良い子である。いや、スラム街だと相手をよく観察するのは生き残る基本だ。これでは遠からず、周りの奴らも気づくに違いがない。


「カナタさんは『元の健康体』に戻る祝福をかけていますからね。これからも傷ついても8時間寝るだけで欠損も治りますよ。オン・オフができますので他人に見られたくないときはオフにしてお休みください。不死身の孤児なんてマッドサイエンティストの検体になるか、鉄砲玉としてろくでもない組織に使われる未来しか見えませんからね」


「それ本当ですか!?」


「えぇ、俳優が意図せぬ怪我をしたら、撮影時困るじゃぁないですか。小生、アフターケアはバッチリなのです」


「それは何よりです。確かに回復するからと無茶をしたら変に思われますか……。それでも助かります」


 カナタはほっそりとした白魚のような指を顎につけて、セイの告げた内容に驚いた。予想よりも遥かに良かった能力だ。ただ、使いどころが難しいのはたしかだ。気をつけないといけないだろう。


(スラム街のグールというあだ名の少女にふさわしくない綺麗な指。顔を隠していても、中身が違うと勘付かれるなぁ。手袋をしないといけないか。だけど都合よくもある)


 グールという名前の少女が今の自分とは繋がらないだろう。身分の足取りを追える可能性は極めて低く、新たなる身分を手に入れて活動しやすくもある。


 ムフフとほくそ笑むカナタ。その思考は完全に犯罪者のそれであるが。


「な、なぁ大丈夫か? 独り言を呟くし、急に笑い出すし、クスリはやめておいたほうがいいぜ?」


 別角度で心配されちゃう小柄な少女でもあった。だが、荒海をバチャバチャ泳ぐ人生経験の持ち主はめげることはない。


「独り言で気分を落ち着けてるんだよ。ほら、最近流行ってるらしいよ? 周りにいないかな?」


「そんなのが流行? あたいは聞いたことないなぁ」


「ふ~ん、そうなんだ。それじゃ、同好の士がいたら僕に教えてね〜」


 僅かに目を細めるカナタは、自身と同じ転移者は近くにいないことに安堵しつつ、セイをチラ見する。やはり他の人達には見えないようだから、これからは会話には注意しないといけないだろう。


『思念での通話とか、人間だと唐揚げ食べたいとか、明日は晴れかなとか本能ダダ漏れで無理なので、小声で話してください』


『了解』


 耳元でこしょこしょ囁くのでセイの息遣いが感じられてこそばゆい。この子は実体ありそうに見えるけど気の所為かなぁ。


 まぁ、転移者を見つけるのは期待していなかったし、セイのことも些細なことだ。それよりも気になることがある。


 廃ビルが崩れて、壊れた廊下が交差している小さな空き地に辿り着き、カナタはアーシャへと顔を向ける。


「で、おうちまでついてきた理由はなんですか?」


 瓦礫が積み重なり、埃が舞う人気のない廊下。放置された錆びたビジネス机や椅子、壊れて倒れているウォーターサーバーがある小さな空き部屋がカナタの自宅であった。


 スラム街の孤児は盗まれるから物を貯めておけないし、下手をしたら襲われるので、逃げやすい細い通路や瓦礫を伝わり逃げやすい場所を自宅にしていた。まぁ、ここまでボロいとおうちと呼ぶと語弊があるかもだけどね。


 もちろんアーシャたちも同じような環境だから荷物は持ち歩ける物だけなので、お家と言われても驚くことなく、思い思いに座る。歳の低い子供は年長のお膝に抱っこされたりして微笑ましい。


「よくわかったよな。そうなんだよ、あんたに会いに来たのは、通行料が目的じゃなくて、『浄化』の時期が来たからなんだ。ほら、ライバルはたくさんいるだろ? あんたとあたいが組めば、少しは結果が良くなると思って探してたんだ」


「あぁ、そろそろそんな時期でしたか。それなら納得です」


 ズボンが汚れることも気にせずに床にあぐら座りをして体を揺らすアーシャだが、ふむ、もうそんな時期だったか。オーディション前だからすっかり忘れてたや。


「取り分は82で。もちろん数の多いあたちたちが8な。それかあたいたちのブラッドヴァンパイアに入ると等分だぜ?」


「もうチーム名間違ってますよ、アーシャさん。でも64なら引き受けます。チームには入りません」


 きっぱりと断るカナタに、苦笑いを見せるアーシャだが、交渉をすることもなく、ニカッと晴天のような笑顔を見せると頷く。このカラッとしたスラム街に不似合いな性格のところが気に入っている。


 それに、この娘にはたまに飯を貰ったりしてるからな。……少しは借りを返しても良いだろう。


「それじゃ3日後によろしくお願いしますアーシャ。それと良い情報料として、これをどうぞ」


 懐に隠していたお金をアーシャへと手渡す。この世界の通貨であるドラだ。100ドラ札である。価値は元の世界の米ドルとあまり変わらない。


「これ、100ドラ札じゃねぇかっ! どうしたんだよ?」


「実は森に入って死体を見つけたんです。あまり入ってはいませんでしたけど、数枚入ってたんです。皆お腹空かせてるでしょうから、なにか買ってきたら?」


「うんっ、ありがとうな! 皆闇市に行くぜ!」


「ぼられないように、すられないように気をつけてね〜」


 スラム街の住人にとって、100ドラはかなりの大金だ。闇市なら、得体のしれない食べ物とかを安い値段で食べられるだけ買えるだろう。


 アーシャはスラム街にあるまじき人の良い娘だから僕から残りの金を奪おうとは考えないので安心して渡せるのだ。


「あんたの分も買ってくるから、待ってろよなっ。久しぶりに野菜を買えるかも!」


 スラム街では、肉は得体のしれない物が多いので野菜の方が安全で人気があったりします。正直言うと僕も野菜を中心に食事をしたい。魔物の肉ならまだしも下水道に住むドブねずみとか病気になりそうですし。そのことを知っているアーシャはくしゃくしゃのお札を握りしめると皆と飛び出すのであった。子供たちも嬉しそうにその後をついていき、一気に静かになる。


「ねぇ、カナタさん。『浄化』って何のことです?」


 どうやら本当になにも知らないようで、クリクリとした可愛らしい目を好奇心いっぱいに輝かせて、セイはカナタに向けてくる。


「『浄化』は、スラム街に定期的にやってくる神官が巡回して、哀れな死者を癒すイベントです。どこかの神官学校から生徒たちを連れて司祭がスラム街にやってきます」


「ははぁ~ん、小生ピンと来ましたよ? 炊き出しとか、食料の配布があって、それらをもらうために並ぶ人員が必要なんでしょ? ふふふ、スラム街の住民にとっては確かに大切なイベントですね。お腹のすかせた人たちが群がる様子はさぞ見ものでしょう。そこにはどのような争いがあるのか楽しみです」


 くるくると回転し、これから映画を観るように楽しげにするセイ。今日だけでも、いや、契約する時も思ったけど、彼女は趣味が悪い。いや、退屈なのだろうか? 英雄と悪役でこの世界を彩ろうとする監督気取りだし。


「そんなおめでたいイベントなら良かったのですけど。それよりも頂いた能力のうち、このお金の使い方を教えてください」


 ドラとは違う契約ポイント。あらかじめ聞いてはいたがもう一回聞いておきたい。


「あぁ、はい、分かりました。では説明をば。『ポイント』はこの世界のお金と違い、我が社の品物と交換できる仮想金です。これは小生たちが渡す報酬以外では手に入れることは不可能となっております。ここまではよろしいでしょうか?」


 振り返って見てくるセイに頷き返すと、人差し指を立ててセイは話を続ける。


「このポイントはあらゆる品物を買えます。スキルからミネラルウォーターまで、金額によりますが全てです。もちろんこの世界のドラにも交換できますよ? レートは100対1です。もちろんポイントが1ですので、どれだけ価値があるかお分かりになって頂けると思います。後は、実践してみてください。『ショップ』と念じれば、サイトが開きますので」


「だいたい予想通りですね。報酬をまた回収するセコく悪らつなシステムには苦笑を禁じ得ませんけど」

 

 ギクリと顔を強張らせるセイを見るに図星らしい。これならいくら報酬を渡しても最終的には手元に戻ってくるから損はあまりない。しっかりとした邪神である。


 とはいえ、使わないという選択肢はない。


『ショップ』


 念じると、ポップな絵柄のアニメ調の天使のような羽根を生やす少女が映し出されて、いくつものタブに分かれる通販サイトが表示された。


『スタートアップセール中!』


『ステータスを高めて、スキル枠を増やせるアイテムと便利な魔法スクロールや装備のセット!』


「おぉ、スタートアップは必要ですね! これを買うしかないと。ゲームでも僕はスタートアップセットを買ってましたよ」


 昨今のゲームは必ずスタートアップアイテムがセットで売られているのだが、同じシステムらしい。スタートアップアイテムセットは序盤を簡単に進められるので便利なのだ。


 早速ポチッと。


『スタートアップセット:1000000』


『残高が足りません』


 んん? ぴったりの金額では? え~と、おかしいな、バグかな?


 カナタはコテリと小首を傾げると、もう一回押すが結果は同じだった。おかしいな? 契約金を全て回収する悪らつなセールだと思ってたんだけど?


「カナタさん、よく見てくださいませ。ほら、ゼロが一つ足りませんよ?」


「はぁ? ……いちじゅーひゃく……ほ、ほんとだ! これ10万ポイントじゃなくて100万だ! え? これ、どういうこと? スタートアップなのに、最初に貰った契約金じゃ買えないじゃん! はっ!」


 驚愕でルビーのような美しい瞳を見開き、カナタは嫌なことに気づいた。気づきたくない内容だ。


「他の人達の契約金は平均いくらなんですか?」


「個々の契約金に対するご回答はできませんので、ご容赦くださいませ」


 震える声で尋ねると、セイはそっぽを向いて、下手くそな口笛を吹く。どうやら予感的中のようだ。


「僕の契約金があるだけマシだということは分かりました。まぁ、三流俳優にとってはいつものことですけど」


 そうだよね〜。映画やドラマの契約金は普通は十万ポッチのはずがない。他の人達は最低100万は貰ってるってやつか。


 座り込んでイジイジと床を指でつつく悲しげな美少女だ。


 立場も弱く、はいて捨てるほどいるしがない三流俳優の立場を思い出し泣きたくなるカナタである。無言のセイの様子がますます僕を悲しくさせるよ。


「いつまでもクヨクヨしていても仕方ないですし……。買えるものを探しますか」


『スキル一覧』『魔法一覧』『武装』『乗り物』『魔法スクロール』『回復薬』『食べ物』『本』『家電製品』『雑貨』……。


 ファンタジーな物から、現実的な物までたくさんある。ふむ……本当になんでもありそうです。


 画面をスクロールさせていき、しばらく眺めていて、カナタは決心した。


「このスキルにします。95%割引格安セールしてますし」


 ポチッと欲しい物を押下する。


「え~と、なにをお買いに? 50000ポイントで……ええっ、本当にこれでよろしいのですか? クーリングオフありませんよ?」


「いいんです。今の僕にとっては絶対に必要なものなので」


 驚くセイを横目に、銀髪美少女はくすりと微笑む。


『掃除魔法』


 買い上げた物にはそう表示されていた。

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― 新着の感想 ―
ふむぅ? 何をどう掃除するのか・・・・・・まて次号!
カナタはずっと下積みだったせいか、他の契約者たちと比べてショボい契約金をあっさりと受け入れていますね。他の契約者たちは生まれが貴族とか、超絶チートスキルとか、恵まれた契約特典が与えられていそうです。
ヒャッハー、汚物は消毒だー!的な効果があるんですかね掃除魔法。
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