59幕 厄者の続き
「復旧の魔法ですか。そんな魔法があったんですね」
自室にて魔法書を見ながらカナタはこの世界の魔法の力に改めて感心してしまう。この本によると、よほど強力な魔法の力が付与されていなければ『修復魔法』で建物でも道具でも元に戻せるらしい。
「これで吹き飛んだ学舎を元に戻したと。納得です」
「はい、お嬢様。学舎は元々、生徒たちの喧嘩で教室が吹き飛んだり、教師の研究で教室が爆発したり、テロリストが襲撃してきて教室が粉々になることが頻繁に起きるので、魔法付与はしておらず、簡単に修復できるように建設されているのです」
天音がテーブルにコトリと紅茶とケーキを置いてくれる。ふわふわの生クリームたっぷりのショートケーキは見ただけで美味しそうだとわかる。イチゴが敷き詰めてあるので、最高級かな? 前世でもこういうケーキはあったよ。どえらい金額で、こんなもん誰が買うんだろうと思ってたけど、今世では食べられる立場になったので嬉しい限りである。
にしても、相変わらず修羅の国だこと。吹き飛ぶ前提で学舎を建設するとはね。
「でも、問題がありまして。『修復魔法』は貴重でバカ高い触媒と大量の魔法力を必要とします。教室一つくらいなら予算内で直せますが、学舎一つは途方もない金額が必要となり、十年分の予算を使い切ったらしいですよ」
ソファに座って、天音がケーキをぱくつく。しっかりと自分の分も用意してあった模様。というかメイドは主と共に食べていいの?
「さすがはアトランティスシティナンバーワンのケーキ屋アバンの50ドラのショートケーキ。私もトロトロに溶けてしまう美味しさです。マーモットに2時間並ばせて買わせた甲斐がありました」
背景に花が咲くかのように、幸せそうにほっぺたを押さえて、天音がショートケーキを食べ続ける。その姿を見ると僕も食べたくなっちゃうよ。おぉ、本当だ。甘いけどくどくなく、イチゴの少し酸っぱい味がアクセントとなって、幾らでも食べれちゃうな。
「イチゴほしいまきゅ」
「うさ、良い子でお座りしてるよ?」
マモが僕の足にしがみついて、足をカリカリと動かし、ロロは膝の上に乗って小さなお口を開けてお強請りしてくる。あざとい可愛さだが、ペットのこういう姿にペット好きな僕は耐えられることができずにイチゴをあげちゃう。シャクシャク食べる姿は愛らしい。けど、マモはなんでまずはロロのを奪い取ろうとするの? マーモットはなんで仲間の餌を横取りするの?
マモがロロのデンプシーロールで殴られている姿にほのぼのしながら天音が話を続ける。
「そこで寮は維持費が足りなくなり、第二王子が購入。第二王子管轄の施設となりました。今は第二王子派の貴族たちが住む場所へと変貌してますね」
「金と権力を使いまくってますね……さすがは第二王子」
アカデミー内で、自身の勢力を広める方法としては斬新すぎる。普通、アカデミーの寮を買い占めるキャラっている?
大御所のスケールが大きすぎる行動にドン引きしつつ、少し気になる疑問が浮かぶ。となると、シグルドたちはどうなるのかな? 彼らは平民枠で寮に住むはず。いきなり第二王子派になるとか、主人公としてはあまり良くない展開のような気がする。
だが、それを口にするとシグルドのことを気にしていると思われてしまうので尋ねることはできない。
「おーすっ、あ、美味しそーなもん食べてるじゃん!」
「あ~、おねーたん、それなぁに? けーき?」
「どーも、アーシャさん。訓練は終わったんですか? まーちゃん、お手伝いは終わりましたか?」
「あぁ、終わった。勝家の奴が馬鹿みたいに怪力で木刀を振り回すから、手が痺れちまったよ」
「まーちゃんね、おそーじのおてつだいがんばったの。おきゅーりょだよって、ちょこれーともらったから、おねーたんにもおすそわけしゅるね」
「ありがとうございます、まーちゃん。優しいまーちゃんに私のショートケーキをお裾分けです」
元気よく入ってきたのは、アーシャとまーちゃんだ。アーシャは汗だくで、タンクトップにパンツで健康的な姿だ。まーちゃんは幼女用メイド服で、チョコレートをくれるので、ショートケーキをあ~んしてあげる。
「はー、どっこいしょ。甘みが身体に染みてうめー」
おっさん臭い姿に苦笑してしまうが、スラム街出身の姿は欠片もなく、甘みに慣れている様子がなんとなく嬉しい。貧乏でその日暮らし、ケーキどころか、パンすらも食べられない日が昔はあったからね。
「それで第二王子管轄の寮となったからには僕が住むわけには行かないよねぇ?」
「そうですね。強制的に第二王子派と扱われてしまうでしょうから、このまま家から通うことをお勧め致します」
アーシャとまーちゃんのために、ホールごと持ってきた天音が真面目な顔で切り分け終わった残りのホールケーキにフォークを刺して頷く。グルメ回で残りのケーキはスタッフが食べましたとか言うつもりかな?
「残念ながら校内を夜に彷徨くのは不可能となりましたか。イベントが盛り沢山だと思ってたのに残念です」
本当に残念だ。夜の校内にて行われる秘密の儀式や肝試し、夜にしか訪れることのできない教室とか作れれば面白い劇になったのにさ。
「お嬢様がろくなことを考えていないのは、この2年の付き合いでわかりますが、今は止めておいた方がいいですよ?」
「僕の行いはよいことしかないけど、どうして?」
「それがですね。今アカデミー内では『厄者』を探して殺そうとする動きがあるらしいです。『主人公』だと思われて襲われる理由を作るのは止めておいた方がよろしいかと」
……なんだって?
「役者を探して主人公を殺す? 劇の邪魔をするってこと?」
聞き逃がせないセリフに思わず問い返してしまう。役者を殺すとか、アカデミーは狂い始めた?
だが僕の勘違いに天音はすぐに気づいたのだろう。かぶりを振って否定してくる。
「あぁ、劇団の役者ではなく、厄災をもたらす者の事を『厄者』と言うんです。定期的に現れては世界を滅亡させようとするとかしないとか。『厄者』が出現するたびにそんな事が起きるので、政府は密かに『厄者』を抹殺します。アカデミーも元々は『厄者』を抹殺するために作られたものらしいですよ。『厄者』ホイホイだとの話です」
学園編はキーマンにとっては、簡単に劇を作れる美味しい場所だからね。それは分かるけど、逆手にとって『キーマン』を殺すためにアカデミーを建設するとは迂闊だった。
「セイ。『厄者』と言われている事を知ってましたか? キーマンの存在がバレてません?」
「この世界の創造当初は、死にそうな人間を召喚していたんです。創造主である劇の神は『素人の方が自然で盛り上がるよな』と考えて。そして最初の召喚者が大成功をしたため、調子に乗って粗製乱造をしたら、やはり素人たちだったので好き放題に暴れまくり世界に大ダメージを与えてしまい、『厄者』って呼ばれるようになったんですよ。お陰で大成功して稼いだ金を全て失い、創造神は落ち込み、やはり役者の方が良かったと考え直し、今の状況になります」
「あぁ、劇を知らない素人はそんなことを考えがちですよね。よくやる失敗です。ですが素人のように演技をしつつも、視聴者受けするようにするのが、役者なんですよ。本当に素人だと面白くなくて飽きられてしまいますから」
劇あるあるである。自然な反応の方が面白いだろうと、素人に任せても面白くも何ともないのだ。一瞬は面白いかもしれないが素人では長くは面白さは続かない。
でも素人がそんなふうに暴れれば、現地人も気づくのだろう。
「最近は『キーマン』と口にしても人類は石ころのように気にしないように創造神は理を変えていますが、当時はそんな規制もありませんでしたので、俺は転移者、転生者なんだと吹聴していました。その概念は記憶に残り続けて、『厄者』と呼ばれる悪魔的な存在として認識されたのです」
「だから『主人公』を殺せば良いと考えているわけか。主人公が死ねばそこで劇は終了。小説版の白いデビルのように主人公が死んでも少しだけ続くことはありますが、それもエピローグ的なものですしね」
それはまた考えたものだ。たしかに『厄者』を殺すにはアカデミーはちょうど良い場所だ。僕でも『厄者』を殺すなら、アカデミーを設立するかもね。やれやれ、俺なにかやっちゃった系統とか、あっさり見つけられそうだし。
これから大変だと落ち込んでしまう。それを知ってたら同じ日にイベントを何回もしなかったのに。どう考えてもバレバレである。
「なんかカナタが部屋の隅でコソコソ小声で呟いてるぞ」
「アーシャ様、プレッシャーに耐えて頑張る人はどこかしら変なところがあるのです。きっと妖精さんとお話してるんですよ、見ちゃいけません。ここは見ないふりをしてチョコケーキを食べましょう」
「まーちゃんね、あっぷるぱいもだいしゅき!」
やめてほしい。そんな噂が広がったら僕は可哀想な娘になるのでしょ。
何個ホールケーキを持っているのか、天音が追加のホールケーキを取り出してくるので、僕もケーキを食べたいので席に戻る。
「それにしても『厄者』なんてよく知ってたね、天音」
「私のフォローしてるアカウント『ここだけの話』さんの有料サイトに記載されてました。一月五百ドラなんですけど、結構いい話があるんですよ。アカウントの持ち主はアカデミー学長なので、間違いないはずです」
「この世界って本当に金にガメつい人たちばかりだよね」
あの妖艶な美女が噂話を流してるのかよ。……でもこれが金のためなのか、それとも『厄者』を炙り出すためか分からないな。
ふむんと腕組みをして考え込む。油断ができないのは間違いないけど、これで役者としての活動を止める僕たちじゃない。
「そのサイトの中身見せて?」
(とりあえず主人公としてシグルドが候補として挙げられているかぁ。これだけの活躍を見れば無理もないな……)
時間稼ぎとして、主人公が死んだと思わせるしかない。主人公が死ねば相手も油断して動くことはない。
カナタはこれからの計画を考えながら、アップルパイに齧りつくのであった。
「なんか寒気がするまきゅ」




