57幕 狂乱するアカデミー
カナタの自室にて、今回の決算の報告をセイから聞いていた。
「小ヒットおめでとうございます、カナタさん! 小生、このようなヒットを久しぶりに拝見いたしました!」
フラフラと踊って、花びらを撒いている巫女は、見ただけでご機嫌だと分かる。桜花びら舞い散って、清廉なる巫女が舞う姿はセイの中身を知らなければ、見惚れてしまうか、観客にお金を求めるだろうことは間違いない。
かくいうカナタも、その光景に少しだけ見惚れてしまった。ほんの少しだけだけどね。
「小ヒットですか。あんなに頑張ったのに大ヒットとはいきませんでしたか、少し残念ですけど、小ヒットでもヒットしたことは間違いないので、出演した人たちと共演できて嬉しく思います。今後も役者として自身を磨いていき、皆さんの目に留まるように努力していきたいと考えております」
「うわぁ、その口上、もしかして前世からずっと考えてました?」
僕の思考を見抜かないでほしい。こういう口上はずっと憧れだったんです。なにせ劇でも主演と準主演にしかインタビューは行われないからね。バックダンサーのようにウロウロしてる輩は路傍の石も同然、いたことにすら気づかれないのだ。
古ボケたアパートの中で、いつか自分も主演をしてインタビューされる妄想をして、セリフを練習していた悲しいおっさんとか、記憶にあるけどそれはそれで良い思い出だ。実際に主演ができたからね。
「では小ヒットとなったファンのお声を聞きましょう。ポチッとな」
『学園編でポイントを入手するためにシステムにクラッキングしたのは斬新です』
『パンチラが足りません』
『リッチのウサデスとても可愛いです』
『服が破れるシーンを入れてほしかったです』
『オルクスがバカだったので、もう少し頭のよい行動をしてほしかった』
『もう少し美少女として、激しくジャンプして視聴者に胸が揺れる姿とか見せてください』
たくさんの声が空中に浮かぶ。それはこれまで一通もファンから声をかけられたことがない僕にはとても嬉しい。感想は役者としてモチベーションを保つ為に一番嬉しいものだ。一番は拍手喝采で三番はお金ね。暮らしていくには霞を食べていくわけにはいかないからさ。
懐かしさから少しだけ微笑んでしまう。黒歴史と言われようと、そういうのを恥ずかしがるのは若い時だけで、おっさんになると黒歴史すら楽しかった思い出として残るものなのだ。今は美少女だけど、その気持ちは変わらない。恥ずかしい思い出はイコール楽しかった思い出でもあるのさ。
「恥ずかしがらないカナタさんがつまらないので、決算と行きましょう。今回の小ヒットで手に入れたポイントは二億ポイントです。キリのいいところで切っておいたので、少し多めのポイントとなっております。ぱふぱふ〜、小生もカナタさんの担当で鼻が高いです」
「ピノキオの真似をするなら鼻を伸ばしてくださいよ。でも二億ポイントなんてあっさりと手にはいる……小ヒットならこれくらい当たり前ですか」
当たり前のはずなんだけど、そのポイントの多さに少し震えてしまう。きっと大ヒットなら数百億ポイントが手に入るはず。大ヒット1個当てれば僕の願いは叶うだろう。
にしても、二億か……なにに使おうか迷うね。ステータスを上げても良し、特別なアイテムを購入しても良し。
さてさて、なにに使おうかなと僕はソファに寝そべり、フラフラとステータスボードを波乗りするのであった。
始まりは順調だ。入学式から大量のシステムポイントとアカデミーのポイントを手に入れたのでスタートダッシュはパーフェクトと言えるだろう。
僕の頭の良さが恐ろしいぜと、くふふと含み笑いをする美少女であった。
もちろん、その思考はしっかりとフラグを踏んだ。
◇
「え~、アカデミーポイントによる学内の生活というルールは無しとなりました。今後は普通にドラで購買の使用や先生の買収は行なってください。これまで貯めてきたポイントは全て無効となりましたのでご了承ください」
講堂に集められた生徒たちは、昨日の真の学長風花、妖艶な美女が宣言した内容に、一瞬脳がその内容を拒否してフリーズし、その後は騒然と━━ならないな?
「そうだよなぁ、呼吸するたびに一億ポイント手に入ってるもんな」
「俺なんかもう表示可能な桁を超えてバグってるよ」
「皆同じだろ。呼吸をして貰えるクエストが無限クエストになってるから、ポイントなんか簡単に手に入る」
「もう購買はなにもないし、品物があっても、ポイントでは売ってくれないもんね」
納得する生徒たち。無限クエスト? あ、クエスト設定するのに、無限クエストにしてたや。……僕もポイントが表示しきれなくなってたわ。急いでいたし、仕方ないよね、失敗失敗。
「はぁ……。2、3年生はポイントを貯めていた子が多いから申し訳ないけど、もうサーバーログからも復旧は不可能なの。そもそもクラスタ化しているサーバーも吹き飛んで、別の場所に置いてあるサーバーを起動させないといけないんだけど、緊急用サーバーって故障したサーバーのデータを写してから起動させるためにリアルタイムでデータ同期はしてないのよ。即ち、今回のように機器ごと吹き飛んだ場合は役に立たないのよぉ」
目にはクマができて髪はボサボサ。疲れてきっている風花学長は死んだ目で周りを見渡す。
「金本位制なら、金が人工的に作成できて、信用制度ならその信用が本物と同じ偽札が出回ったようなものね。もうポイント制度は崩壊したのよ。もう収拾は不可能、まさか校内の100を超えるセキュリティを全て突破して自爆ボタンを押下する敵がいるなんて想像もしなかったわ」
かなり疲れているんだろう。綺麗な髪の毛なのにガシガシと頭を掻いてめちゃくちゃにして、言葉を吐き捨てるように言う。
先輩たちが文句を言おうとしても、風花学長の醸し出す死神のような危険な空気に誰も口を開くことはできない。
「しかも地下に保管してあった資材も全て吹き飛んでしまったわ! もうこのアカデミーは来月の教師の給料を出せるかも分からない状態になってるの。なによこれ、なんでこんなことになったの!? 復旧まで何年かかるか分からないわ、アハハハハヒー」
「が、学長からのご案内は以上となります。学長がまた発作を! 早く止めるんだ、警備員、警備員〜」
「うひゃひゃひゃ、長年、私の貯めていたポイントも全てパーよ。こんなことならドラに換金しておけばよかったわ。無一文になっちゃったわ、ポイントも保管してきたアイテムも全てパー。アハハハ、パーでんねん」
風花学長引退のお知らせ。狂ったように笑いながら踊る風花学長に、慌てた教師や警備員が押さえつける。
さすがに、そんな光景を見て文句を言うこともできず、先輩たちは口を噤み、その後は騒然としたまま混乱はおさまらず、閉会となるのであった。
「あれは演技ですよ、カナタ嬢。学長はポイントのほとんどをアイテムかドラに変えてます。貯めてたポイントなんかほとんどないはず。なにせ、校内でしか通用しないポイントですからね。その危なっかしいシステムは誰よりも教師たちが自覚していました」
「そりゃそっか。アカデミーポイントなんか全然信用できませんものね。とするとこれは生徒たちの抗議を防ぐためのものなのですね。ちゃっかりしたものです」
耳元でこっそりと教えてくれる与一第二王子はおかしそうにクスクスと笑う。たしかに風花学長は教師たちに取り押さえられて運ばれていくなかで━━。
一瞬、チラリと生徒たちを見てきた。正気の証拠だ。しかし、その瞳の奥に燃える炎は憤怒と憎しみで染まっており、全然関係のない僕でも背筋がゾッとするほどであった。
なにが学長を変えてしまったのだろう。余裕のある素振りを見せていたのに、闇堕ちしたと言われても不思議ではない姿だった。
「……カナタさん。全然関係ないとかよくそんな事を考えられますね? 学長の分身を殺して、学舎を破壊、倉庫の資材を全てかっぱらい、アカデミーの根幹であるポイント制を無効とした人はどなたでしたっけ?」
「大御所のせいですね。僕は嫌々ながらもボスの命令に従う心優しい聖女ですので、本件には全く関係ありません。くぅ、あの優しかった風花学長があんな姿になって心苦しい」
「……まぁ、悪役として雇われたのですから、そのスタンスで間違っては……う、うぅ~ん、悪辣すぎて小生はワクワクしちゃいます、いえ、ドン引きです」
沈痛な表情で学長を見送る僕に、なぜか半眼の巫女。なぜそんな眼をしてくるのか、僕にはさっぱりわからないや。
まぁ、これからの学園生活が面白くなるだろうことは間違いないだろうけどさ。
━━と思っていたら、驚愕の光景が待っていた。
「はい、今日から授業を始める。クラス落ちしないように皆頑張るよーに」
のらりくらりとのんびりな担任が眠そうな目でホームルームを始める。
なんと教室で。
昨日と全く同じ教室で。机や椅子も昨日と同じ。
吹き飛んだはずの学舎は吹き飛ぶ前と同じだった。まるでコメディ漫画で、主人公がボロボロになっても、次の回では元に戻っているかのように。
「うへぇ、なぁなぁカナタ。あたい魔法の力を甘く見てたよ」
「私もです。魔法を駆使すると簡単に戻せるんですね。そりゃ自爆装置を付けても、問題ないはずです」
アーシャの言うとおりだ。さすがはファンタジーの世界。建物すら簡単に直せるとはね。
━━カナタたちは自爆した学舎もなかったことのように授業を受けることとなった。
だが、今回のウサデス襲撃事件は終わってはいなかった。その余波は未だに終わることはなく続いていたが、劇の世界と考えているカナタたちは気にしなかったのである。
◇
「この世界にまたイレギュラーが現れたわ。悲惨で残酷で、人々の泣き叫ぶ声が世界に満ちることになる。その前にイレギュラーを探すのよ」
秘密の会議室にて、風花学長は教師たちを前に、苦難の時代が訪れたと険しい顔で話し合いをしていた。
定期的に起こる災禍を防ごうと。




