54幕 暴食ってテンプレすぎない?
━━レッドサイダーはオルクスにむしゃむしゃ食べられていた。魔王は完全体でなくとも強かった。ロボは見かけ倒しだった。
『機体大破。戦闘継続不能、ガガガピピー』
パンチ一発でプラズマシールドは破られて、頭から齧られて食われてしまった。あっさりやられすぎである。ギャグかな?
そして、オルクスは蛹に変わった。蛹である。口から糸を吐き出すと、蛹へと変わったのだ。
「ヤバい予感! なんですか、あのロボット、見かけ倒しじゃん、先輩騙したな!」
「某ゲームの魔王とそっくりすぎてまずいんじゃないかと思ってたら変身するうさね!」
「世界の理が禁じたのかもね! にしても、まずい予感!」
アワアワ慌てるカナタとロロ。ケラケラ笑い転げるセイ。いつもの光景のような気もするトリオである。
「でもでも、蛹になったということは羽化するまで時間を稼げるのでは━━あ」
蛹が背中から割れていき、オークの腕が何本も蛹の中から伸びてきて、オルクスはあっという間に外に出てきた。蛹からすぐに羽化とかテンプレを知らない酷い豚だ。
『ぶもぉぉぉん! ふふふくははは、これぞ『暴食』の力。食べた相手の能力を全て吸収する無敵の力よ! さて、校内の人間たちを全て食い尽くしたら外に出て人類を恐怖に陥れてやるわ!』
蛹から羽化したオルクスは得意げに高笑いする。その皮膚は金属製に変わっており、目元はカメラアイとなっている。羽はウイングバインダーで、肩にはショルダーキャノン。下半身は蛾のように変わっていて気持ち悪い。
「ヤバい能力ですね。とりあえず『鑑定』スクロール発動!」
勿体ないが1万ポイントを使って『鑑定』を購入して、オルクスに使う。魔王というだけあって、危険なスキルを持っているようだから、十全に準備したい。
『魔王オルクス』
『固有スキル:暴食』
『スキル:火炎魔王術、眷属召喚、プラズマエンジン、疲労無効、飲食不要、治癒魔法無効、状態異常無効、金属皮膚』
『飲食不要を手に入れたため、暴食無効』
……おぉう。
「なんというか、ヤバいね」
「食べる順番ミスったうさ」
「アハハハ! 間抜けですね、この魔王。そりゃあロボットを吸収したら飲食は不要となりますよ。アハハハハヒーくるしー」
早くも7罪の暴食編、完。
ではなく、僕とロロはドン引きで、人の不幸が三度の飯よりも好きなセイは笑い転げていた。
『ぶひひひ、プラズマビィーム!』
暴食が無効化されたことに気づいていないのだろう、オルクスは隔壁をプラズマビームで溶かしていく。
暴食スキルは無効化したが、プラズマエンジンは強い模様。隔壁が高熱により溶けていき、ドロドロと床に広がり燃えていく。暴食はなくなっても、ロボットの能力はかなり強力な模様。
「なんかなー、暴食をアホすぎる使用で無くした豚さんだから放置しても良いかなと思ったけど、あれ駄目だね。そうすると……ストーリーを変えるか」
ショップをポチポチ。
「ん? ストーリー変えるうさ?」
「うん。それでロロにはお願いがあるんだよね」
ニコリと微笑み、僕はロロに手を伸ばす。
『お手軽リッチ変装セット』
今買ったアイテムを手にして。
◇
「くっ、昼寝なんかするものではないですわ、まさかこんなことに巻き込まれるなんて!」
ローザ・泉は己の不運を呪いながら、教室内でゾンビと戦闘を繰り広げていた。
「ヴァァァァァァァァァ」
教室に入ろうと、ゾンビが乱杭歯を剥き出しに両手を伸ばして襲いかかってくる。しかも満員電車のラッシュのように扉に押し寄せて来ている。ゾンビパニックによくあるシーンだ。
「ゾンビごときがわたくしに敵うと思っていて? 不遜ですわ! 焼き尽くしなさいサラマンダー!」
ローザの足元にいる赤色で手のひらサイズの小さなトカゲが火を吹く。炎の魔獣サラマンダーだ。その息吹は小さな体躯にかかわらず、強力で、一条の火線となってゾンビを焼き尽くす。
しかし、ゾンビも数で勝負とばかりに仲間が燃やされても気にもせずに、次々と後続がやってくる。
ファイアブレスを吐き終えたサラマンダーは息をついており、クールタイムが必要のため、障害は燃えるゾンビたちだけなので、乗り越えてきた。
「ひいっ、やめてくれ!」
「きゃぁ~! ゾンビたちが、ゾンビたちが」
「どれだけいるんだ、もう来ないでくれ!」
ローザと共に教室内に籠もった生徒たちがあまりにも多いゾンビたちに恐怖の叫びをあげる。魔力障壁はあれど、ゾンビたちは見かけよりも怪力だ。数に押されて動きを封じられてしまえば魔力が尽きて殺される。そのため、生徒たちは悲鳴を上げていた。
「ふふ、ご安心なさいな。このローザ・泉がいれば安全ですことよ。召喚士の大家である泉家の力を侮らないでくれますかしら?」
『多重召喚』
『サラマンダー召喚』
さらりと手を振ると、無詠唱にて床に魔法陣が浮かび、新たなるサラマンダーが現れる。その数は合わせて6匹。普通の召喚士であれば1匹、よくて2匹しか召喚できない中で、ローザの本気の力が皆に見せつけられた。
「あ、う」
生徒たちはその数に息を呑み、口パクにて言葉を失う。その様子を空から見下ろすように睥睨するとローザはゾンビたちへと手を向ける。
「ふふ、皆様、このローザ・泉、アカデミー最高最強のハンターと歴史に名を残すローザ・泉の力をとくとご覧あれ」
『連装ファイアブレス』
5匹のサラマンダーがファイアブレスを吐き出して、火線は扉に押し寄せているゾンビたちを貫き燃やす。後続が現れても問題はない。サラマンダーたちを交代で休みをとらしてクールタイムを解消して倒せばいいだけだ。
もはやゾンビたちは教室内に入ることもできずに、無意味に燃えていく。その様子を顔に手を添えて、ローザは高笑いをしていた。
「おほほほ、どうかしらわたくしの召喚術は? わたくしがいれば安心ですわよ」
ローザの活躍に言葉を失っていた生徒たちは、歓喜と感心で褒め称える。
「ひいっ、やめてくれ!、燃やすなよ、ここは空調も止まった教室だぞ!」
「きゃぁ~! ゾンビたちが、ゾンビたちが燃えていく。酸素と一緒に! ゴホッゴホッ、うぅ、煙が煙が〜」
「どれだけいるんだ、もう来ないでくれ! この脳筋バカ女はさっきから人のことを聞かずに室内で火炎を使いまくるんだ」
違った。ローザの行いに非難していた。
彼ら彼女らもアカデミーの生徒たち。ゾンビごときは相手にもならない。面倒くさい障害物とばかりに倒していけるのだ。
なのに、扉にファイアブレスを撃ち続けるアホのせいで酸欠か煙による窒息死をしそうになっていた。教室の窓はシャッターで閉められているし空調も止まっている。本来ならこれだけの広さだ。酸欠とかはあり得ない。学校を燃やす勢いでゾンビを焼くアホがいなければ。
「酸欠? 大丈夫ですわ。それは先ほど食べたふ菓子のせいで、喉がパサパサになっているだけです」
「それはお前だけだろぅ! さっきまで無心で何袋食べてたんだよ! マーモットか、お前は!」
「カナタさんって、なかなか良い人ですわ。10袋もくれたんですから」
机に乗っているふ菓子の袋は1袋分。空の袋は9袋。あと、ポロポロとこぼれたふ菓子の残骸。
食べ過ぎである。
「酸欠で喉が渇いて感じがするんだよ、このアホ!」
「ええっ、この喉の渇きは酸欠からでしたの!? 少しいがらっぽいとは思ってましたが」
ローザ・泉。今さら驚くことから分かる通り、アホの娘であった。よくある学校の成績は良いが、応用が利かないパターンであった。
さっきから悲鳴を上げている生徒たちは、ローザの蛮行により死にそうだと騒いでいたのだ。
「ですけど、わたくしの魔力はもう残り少ないですわ。ここでサラマンダーを帰還させたら、もう戦えませんことよ?」
「ポンコツすぎるっ、えっ!?」
アホの娘を前に、肩を落とす生徒たちだが、扉の燃え盛る炎が火山のように膨れ上がるのを見て、素早く後ろに下がる。
瞬間、炎が逆巻く暴風によりかき消されて、ローザのいた場所を吹き飛ばす。
「っ!? これは?」
ワンドを腰から引き抜くとローザは警戒し、生徒たちは悲鳴をまたあげる。
「助かったぁ、気持ちのよい風だ」
「涼しい〜。暑くて死ぬかと思ったよ」
「とりあえず酸欠で死ぬのは免れたな」
いや、悲鳴ではなく嬉しさからの叫びであった。
「ちょっと貴方たち! もう少し警戒なさいな! この魔法でゾンビたちの炎を消してしまったのですことよ!」
一人だけ警戒するローザは、手で顔を扇ぐ生徒たちに唇を尖らせて不満を顔に出す。
「ほぉ、一人だけどはいえ、警戒心を持つとは、アカデミーの生徒はなかなかやるのだな」
「何者ですかっ!」
嗄れた声音が廊下から聞こえてきて、ローザは鋭く目を向ける。その中で廊下からは不気味なる空気を醸し出し、何者かが姿を表す。
「我こそはハデデス教団の四天王の一人、不死王リッチにして名はウサデス! ここで貴様らには死んでもらううさ!」
足の膝サイズの背丈のスケルトンがローブを羽織り、テチテチと歩み出てくるのであった。
ちょっぴり小さすぎるリッチだった。
「リッチ! アカデミーに侵入するなんて大胆不敵だこと、良いですわ、このわたくしローザ・泉が貴方を退治して差し上げましょう!」
「ウサデスの多彩なる魔法に耐えられるかな、小娘よ! この間の恨みも合わせてポコポコに倒してやるうさ!」
背中にたくさん背負ったスクロールを引き抜くとウサデスは杖代わりにブンブン振る。ローザは強敵との戦いに命をかける決心をして、生徒たちはポップコーンを食べ観覧を始めるのであった。
◇
━━そうして『戦慄! 不死王リッチ学内に現る!』をロロに任せたカナタはというと。
「ブヒィィィ! ようやく生徒を一人見つけたぞぉぉぉ」
「くっ、セキュリティルームは目の前というのに、豚さんに出会ってしまいましたか」
花柄の鍵を3つ集めて、施錠された扉を開錠し、校内を順調に進んでいたカナタは魔王オルクスと出会ってしまうのであった。
「仕方ありません。さっさとチャーシューにして、早くセキュリティルームにいかないといけないですからね。そうしてリッチの代役と交代しにいきます!」
二兎を追う者は一兎をも得ず。かもしれない。




