50幕 序列争いの始まり
序列争い。この学園内ではポイントを貯めることが極めて重要となる。校外学習という名のダンジョン攻略においても、高難易度や美味しいダンジョンは高額のポイントが必要となる。序列が高いと貰える報酬は雲泥の差となるので、皆は必死になって頑張るのであった。
それはマモのご主人様となったカナタ・アマガミも同じである。
「これより、第一回仲良しチームの会議を始めまーす。ぱふぱふ、拍手拍手」
わー、と騒ぐのは見かけは恐ろしく整った女神のような美少女のカナタだ。小さい手でパチパチと拍手をして盛り上げようとしている。
今どこにいるかというと、初日は測定だけで終わったので、午後は帰宅となり、シン家の会議室に集まっている。
メンバーは、カナタ、勝家、アーシャ、与一、ユリアの5人。そしてお手伝いとして、専属侍女のまーちゃんと使用人の天音とマモとロロである。
「会議は良いんだけど、カナタはいつの間に王子様と仲良くなったんだ?」
「そうであるな。接点は何も無かったはずなのに、どういうことだ?」
アーシャと勝家がニコニコと笑顔でソファに座る与一をチラ見して、カナタに尋ねる。
「デスナイト戦とタウロス戦を通して、戦友として仲良くなったんです。ね、第二王子」
「えぇ、そのとおり。私も聖女と名高いカナタ嬢と知己を得て幸運でした」
二人してニコニコと笑顔だ。その笑顔は一見すると見惚れるが、マモは思う。
(とっても胡散臭いまきゅね。悪魔二匹が微笑んでいる気がするまきゅよ)
マモはこれでも魔族だ。魔族は竜型、悪魔型、異形型、不定形型、昆虫型、獣人型、幼女型と様々なタイプがいるが、その中で獣人型のマーモットである。
隅っこの卓にお座りして、まきゅまきゅとキャベツ食べてます。
ローザにクビにされたマモとロロが流れ着いた先にいたカナタは、どうやらもふもふに弱いようで、この世界では嫌われ者のマモたちを引き取ってくれたのだ。
最初は善人かと思って感謝してたけど
「このホットケーキってゆーの、おいちいよ。カナタおねーたんがやいてくれたの。ひとくちたべりゅ?」
「食べるまきゅ!」
「うさもうさも!」
やっぱり善人なのだろう。幼女がこんなに懐いているし悪人ではないはず。
たとえ、踊っている間に水晶をすり替えるように命令するご主人様でも、きっと良い子なのだ。
「……お、美味しいまきゅ。こんなに美味しい物があったなんて……キャベツよりも好きになったまきゅよ!」
ふんわりとした柔らかさと、メープルシロップの甘さ、頰が落ちそうな程美味しくて呆然としてしまうマーモットだ。夢中になっている間にもカナタの話は続く。
「今頃は皆さん序列争いをするため、準備をしていると思うんです」
真剣な顔で皆を見るカナタに、アーシャがカードを取り出して光に照らす。
「だねぇ。寮に入る人も多いし、ポイントは必要だもんなー」
「寮に入ると夜中まで訓練場や錬金室も使えるし、色々とできるっていう話。戦う前に勝敗は決まるとみんめー書房にも書いてあったよ」
クピクピとオレンジジュースを飲みながら、ユリアも序列争いに加わる気満々のようだ。
「ガハハハ、寮に入るなら家賃が最高の所でないとな。最高の部屋には様々な特典が付いておるらしいぞ?」
「私も寮に入るつもりだよ。ランクの高い部屋は、ロイヤルスイートで月額100万円。外出自由、護衛、召使いは10人まで同居可能。外出自由は大きいよ。本来の一日外出券は五万円するらしいからね。まぁ、家から通うならそんな物はいらないけど、それだけ寮に住むと色々と有利なんだろうと思う」
貴族組の勝家と与一は、寮の前情報を得ていたらしく、寮に住む気満々の様子。
「ねぇねぇ、ロロは思うんだけどお嬢様は寮に住まないほうが平和だと思ううさ」
「そうまきゅね。アカデミー内で夜も活動できるという意味は、お嬢様にとっては餌場に入れられた狼みたいなものまきゅ」
ペット枠2人は嫌な予感に、毛皮をプルプル震わせる。短い付き合いだが、カナタの性格を分かってきた賢明な2人だ。
「なにを言うんですか! それでも貴方たちはお嬢様のペットですか? お嬢様が活躍する先には甘い汁がチョコレートフォンデュのように流れているに決まってるんですよ? 手伝わないでどうするんですか!」
「チョコレートフォンデュ! ねぇねぇ、あまねおねーたん、それなんていうおかし? まーちゃんもたべたいたべたい」
忠実なるメイド2人ここにありである。1人は、金庫の鍵の開け方という本を読みながら、ホットケーキを食べており、幼女はメープルシロップの入れ物から直接飲もうとしているので、マモはホットケーキを振って、幼女の気を引くしか無かった。
「でもさ、ロイヤルスイートは無理じゃない? だって100万円なんだろ? あたいは絶対無理。今のカードポイント、8万円だもん」
「ふむ、俺も30万しかないな。これだとランクの低い部屋を借りるしかないぞ?」
ため息をつくアーシャと、顔を顰める勝家に、与一が困った顔で忠告してきた。
「ランクの低い所は止めたほうが良い。色々と規制がつくし、セキュリティも万全じゃない。シン家のように各所から狙われている一族は特にね」
「ふむ……父上は成り上がりだと妬まれてるからな。仕方なしか。一年間はポイントを貯めて、来年からというところか?」
これがほそぼそとした貴族なら問題はなかろうが、英雄の一族として妬まれている自覚はある勝家だ。そのシン家が後援しているカナタも危険である。
「勝家さん、だからこそのポイント集めです。与一第二王子はともかくとして、僕たちは急いでポイントを集めないといけません。スタートダッシュの差で、どれだけ差がつくか、ネトゲーとかでもよく分かりますから」
「ほう……カナタはそれだけいうなら、序列争いに名案があるのだな? だが、俺らはアーシャ以外は既に10位以内にあるのだぞ? どうするんだ?」
これが最底辺の順位なら、序列争いでポイントを稼げたかもしれない。だが、カナタたちは1位を始めとして、皆が高ランクなのだ。
その問いかけに、カナタは微笑む。
「序列争いではないです。システムをクラッキングしてポイントをサクッともらいましょう」
「斬新すぎる手段キタコレ」
やはり悪魔の生まれ変わりなのだろうと、マモは確信したのであった。
◇
ポイント集め。小説とか漫画でよくあるパターンだ。ポイントを求めて、生徒たちは激闘を繰り広げて、あるいは暗躍をする。
でもカナタは思う。
システムクラッキングすれば、ポイント貰い放題じゃないかなと。ポイントを求めて命懸けで争うなら、そもそもポイントを配布するシステム自体を奪えば良いのだ。
神様が操るシステムは今はさすがに無理だけど、人間が操るシステムなら、クラッキングも行えると思う。
「それはとても良いアイデアだと思うよ。さすがは聖女と呼ばれるだけはありますね。誰も傷つかない優しい方法だ」
「王子様が真っ先に賛成した! え、これ、あたいの感覚がおかしいの? まずくない?」
「う~む、俺もおかしいような気がするな。正々堂々と序列争いをすれば良いのではないか?」
第二王子は聖女の提案の裏を読んで賛成してくれてるのに、アーシャはオロオロと周りを窺い、勝家は首を傾げている。
「ダメダメですね。この作戦の肝は、序列争いに関連して弱者を甚振り、ポイントを奪い取る非道な生徒たちが生まれるのを防ぐためです。序列争いはやりたい人が参戦すれば良いんです。どこでも戦闘狂はいますし、将来のことを考えて良い結果を求める人はいますからね。でもエリートの中でも、底辺レベルの人は卒業できればよいと考える人も必ずいるはずなんです。そんな人たちを守るためにも、この作戦は必須です」
「自分の不正な行為をここまで正当化できるだなんて、もしやカナタさんは前世は役者ではなく、詐欺師でした?」
珍しく驚いた顔で、セイがジロジロと僕を見てくる。失礼な、僕は根っからの役者だよ。それを知ってて召喚したんでしょ。
「そうなんですが……システムにクラッキングを行うというところに引っかかってまして。もしかして、小生のシステムにもいつかクラッキングしようと考えてません?」
「そんなわけないじゃないですか。レベル制の世界でシステムにクラッキングしたら、物語が破綻してしまいますよ」
もう、心配性だなぁ、この巫女は。ふふふと微笑みで返すのに、疑り深い巫女は僕を凝視し続けるのであった。
まぁ、今はそんなことはスルーして、アカデミーのシステムのほうだ。
「システムのクラッキングに成功したら、皆に大金を配布して、アカデミーで金に困らないようにするつもりです。大金を寄付させておいて、ポイント制で経費を節約しようとするアカデミーには痛い目に遭ってもらいませんとね。違った、これなら弱いものいじめにあう人も少なくなるはずです」
「本音と建前両方混じってるな。よくこんな極悪作戦考えるよな、カナタ。でもバレたらどうすんだよ?」
「アーシャちゃんだっけ? それは、みんめー書房に書いてある奥義、『小動物尾溜内綱加地理』が効果的だと思うんだ。ほら、時折ビルに入り込んだネズミがパソコンのケーブルを齧ったり」
「窓から脱出まきゅ!」
「嫌な予感がするうさ!」
ユリアの話の途中で、マーモットと兎が窓から飛び出そうとする。
「ホットケーキのつぎは、マカロンたべりゅの」
「ああっ、身体が動かないまきゅ!」
「マカロンひとくち食べたいうさ。あーーーん」
果たして脱出は不可能であった。マーモットも兎もピタリと足を止めて、まーちゃんが食べるマカロンへとヨロヨロと近づき、よだれを垂らして大口を開ける。餌に弱い2匹である。
「うん、これでパソコンをクラッキングした後に、ネズミとかがパソコンをめちゃくちゃに齧ったら、もう証拠は残らないね」
これなら後はアカデミーに侵入するだけだ。外を見るとオレンジ色に染まり始めている。
まさか入学初日に侵入しようとする生徒がいるとは思うまい。
血を見ることが大嫌いで戦いを忌避する優しい美少女、聖女カナタ・アマガミ出動だ!
学長の記憶を持つ僕の力を見せる時だね!




