47幕 入学式はようやく終わる
「チクショー、このクソクソクソがっ、今回はここまでにしまーす! 覚えてなさいよ、この借りは必ず返してもらいますヨー!」
ミノタウロスが倒されたことを見て、負け犬の遠吠えを上げて、ケルビムはゴーマと共に、空間転移で逃げていった。
「瞬間移動の魔道具か……伝説レベルの魔道具か魔法のはずなのに、あの男は使えるんですね」
学長の記憶にも転移魔法は存在しなかった。知識では持ってはいたが使えなかったのだ。大陸最高のアカデミーの学長がである。
それなのに、ゴーマかケルビムかは知らないが、空間魔法を使った。それだけ強いということを示しているのか、さもなくば……。
『空間転移のスクロール:100万ポイント』
ショップにはしっかりと売っているのだ。これがどんな意味を持つのか、分からない。分からないということにしておこう。
「さすがは第二王子様。あの邪悪なる魔法使いの魔法を全て迎撃し、他の者たちがタウロスを倒す完璧なサポートをしてみせるとは」
「本当です。弓を引く姿は弓の神かと思わせるお姿でした」
「とんでもない。私は皆を助けようとして勝手に身体が動いただけで、特別なことはしておりません。皆さんも同じ立場なら同じ事をしたでしょう」
第二王子は助けた生徒たちや教師たちに囲まれて褒め殺しにあって、にこやかに応えている。本当に死ぬところであったので、多くの者が本心からの礼を口にしている。よくわからないけど、王位継承戦に有利になるかもね。よくわからないけど、ゴーマたちを迎撃するだけに抑えて、追撃する様子もなかった第二王子様。よくわからないけど、ダブルブッキングしたのかもね。
よくわからないけどさ。
(それでも死人が出たのは、なんかモヤモヤするけどね。劇の世界なんだから当たり前のはずなんだけど)
床には手榴弾で死んでしまった死体が転がり、爆発による破壊と黒く焦げた床が戦闘の激しさと酷さを教えてくれている。
カナタはしょんぼりとして、ため息をついてしまう。蘇生魔法は当たり前だが存在しない。理由は簡単で来世に転生することが契約なので、この世界に死んだ魂は残らないからである。
死んだ人たちは来世で幸せになってね。
耳にかかった銀髪を払いながら、カナタは少しだけ祈るのであった。セイ以外の神様に。
◇
結局、入学式は次の日へと延期された。死人まで出した騒ぎなのに、次の日に入学式が行えるのは、この世界の闇を感じさせるよ。
そして、また学長の挨拶から始まったわけなんだけど━━。
「みなさぁん、こんにちは、ふふ、学長の風花・伊気よ、よろしくねぇん」
なんかものすごく妖艶なる美女が挨拶をしてきた。胸元が際どい真っ赤なドレスを着て、軽くパーマをかけた赤い髪が気性の高さを見せているような威圧感があり、鋭い目つきと、赤いルージュで滑らかに塗られた唇は、まるで吸血鬼が血を求めるかのようだ。顔立ちはキツめで、悪女という名前がよく似合いそうな妖艶な女性であった。
生徒たちが、予想外の人が学長として現れたので、ざわざわと騒ぎが巻き起こる。
「うひょー、すんげぇ美人だぞ!」
「メスカマキリのようにオスを食いそうだ」
「俺、食われても良いからお相手してもらいてぇ」
「男子サイテー。でもあの人が学長なわけ?」
風花学長を見て、男子は鼻の下を伸ばし、女子は女に嫌われそうなタイプねと白目で見ていた。カナタも首を傾げて疑問に思ってしまう。あれが新学長なわけ? テンプレの一つ、学長はお爺さんか、長生きロリおばあちゃんか、美女かである。この場合、美女が当て嵌まる。
『皆さん、静かになさいな』
「っ!?」
騒がしくなった講堂で、そこまで大きな声でもないのに風花学長の言葉が講堂に広がると、急に身体が十トンの重りでも担いだかのように重くなる。耐えかねて生徒のほとんどが膝をつき、倒れ伏す者たちまで現れる始末だ。
「ぬぐぐ、これは魔力によるプレッシャー?」
カナタもその重さを感じて、膝をプルプル震わせながら唇を噛み締めて倒れそうになるが、耐える。この程度ならなんとか耐えられるな。
「くっ、こ、これは耐えられないよ、しーちゃん……」
ユリアが苦悶の表情で申し訳なさそうに倒れてしまう。スカートがペロンとめぐり上がり下着が丸見えになるが、羞恥を感じる余裕もないようでそのままだ。
「くっ、皆ごめんなさい、僕も耐えられないや」
僕も残念ながら、倒れてしまう。腕を軽く伸ばして、裾がめくり上がりスリットも露わに、少し体をひねり、抱きまくらのポーズだ。抱きまくらのポーズはなにかと不思議に思う人は、アニメ、抱きまくらで検索してみると、ちょっぴり男子が好きそうなポーズがたくさん出てくると答えよう。
常に注目を浴びようとする美少女カナタ・アマガミです。
「くっ、負けてられないよ。グッズの売り上げは重要だからね」
ユリアさんが重いよぅと呟いて、胸元をチラリと見せて、ウインクをして見せる。見せ方というものを知っており、快活な元気っ娘の背徳感のある抱きまくらポーズは悔しいけど僕よりもエロチックだ。やはり女性としての経験はあっちに一日の長があるか。
激闘、激闘である。ミノタウロスとの戦闘よりも激しい負けられない戦いがここにあった。
「な、なんかお前余裕ない?」
「気の所為ですよ、アーシャさん。だからアーシャさんは敵にならないでくださいね」
カナタとユリアのプライドを賭けたミニバトルは置いておいて、ストーリーは進む。
「ようやく静かになったようねぇ。ふむ、私の魔言を受けても立っている人がいるなんて、今年はなかなか優秀な生徒がいるようね。倒れている生徒でも余裕がありそうなふざけている子はいるみたいだけど?」
第二王子、アーシャや勝家、その他にも一割程は立っている。さすがはエリート揃いだね。それにしても風花学長はなぜ僕たちを見て、呆れた視線を向けてくるのか分からないや。分からないけど、もう少しスリットをめくった方がいいかな?
「さて、私が誰かと聞かれると、答えるのは簡単よぅ。私は前学長なの。もっと言えば、前学長は私の分身だったのよねぇ」
軽い口調での物言いだが、その衝撃的な答えに皆は目を見張る。あのお爺さんは最高峰の魔法使いであった。記憶にもそうあるし。
「あ~、詳しく言うとねぇ、私は若さを保たせる為に、自身に呪いをかけていたのよぅ。魔力と魔法の知識を呪いで分離させ力を失う代わりに、歳を取らなくなる呪いねぇ。あのお爺さん学長は自身が呪いで分化された存在とは自身も知らずに人間として暮らしていたのよぅ。ほら私って美しいでしょう? この美しさを失うのは全世界の損失になるもの、力をなくしても若さを失うわけにはいかないでしょう?」
なにそれ、パンケーキを触媒に発動させる時を止める凍れるマーモットの秘宝とか、そんなん? 大魔王が若さを保つ為に体を封印していたのと逆バージョンだけど、若さを保つ為にそんな呪いを自身にかけるなんて正気じゃないぞ。力ある存在が弱くなったら恨みを持つ者に殺されてもおかしくない。だからこその呪いであり、呪われて身体が無敵になるような効果はないのだから。
(金と権力があれば弱くなっても、殺されることはないと考えていたんだろうなぁ、それでもこの世界は数よりも質が物を言うからね)
強者が強引に侵入してきて、偉い人を殺すパターン。漫画とかでよくあるパターンだけど、この世界ではそれが可能なのだ。無茶をする女性である。
「だから、役に立たない爺が死んで呪いが解けてしまったから仕方ないから私が前に出てきたのよ。本当はすぐに呪いをかけ直そうとしたんだけど、なぜか魔力は戻ってきたのに魔法の知識は戻ってこなかったから、魔法を覚え直すまでは、私が学長をするわよぅ。……私の貴重な若さが……」
若さしか気にしていない様子の風花学長は、胡乱げな顔で嘆息する。そんなに若さが大事なら、ヴァンパイアにでもなれば良いのに。
「きっとヴァンパイアになればいいのにかと思う人には、若さを保つ理由はこの美貌と、若いからこそ食べられるヤサイマシマシアブラ多めニンニク乗せのジロラーメンとか美味しいものを食べるためでもあるの。だから人間としての肉体を捨てるつもりはないわよぅ」
なるほど、たしかにヴァンパイアはニンニク食えないわ。歳をとるとジロラーメンとか絶対に食べられないからな。納得。
「それにしても、なんで魔法の知識が消えたのかしらん。誰か思い当たる人がいるなら教えてねん」
不思議そうに小首を傾げる風花学長だけど、僕も分からないや。たぶんそこら辺を彷徨いていた兎とかが巣穴に持っていったのだろうね。
とすると、風花学長は例えていえば、MP999はあるけど覚えている魔法は一つもない状態か。知力は元と変わらないだろうから覚え直すのに時間はかからないだろうが、それでも暫くは時間はかかるだろう。
「さぁ、私の紹介はこれで終わりよ。入学式を始めるから、皆傾聴なさいな」
パンパンと手を打って、仕切り直す学長だけど、それならこのプレッシャーを解除してもらいたいんだけど?
◇
首席での発表も終わり、僕たちは無事に入学式を終えた。二回目となる入学式を無事にというならばだけど。
敵から生徒たちを防いだ表彰とかあると思ってたのに無かった。どうやら平気に見えるのは表向きだけで水面下では大変混乱しているため、表彰とかは後々となったらしい。
「ガハハハ、俺は一組か。どうやらそなたと同じようだな」
「そうですね、どうやら成績順にクラス分けされているようです」
残念ながら、アーシャとは別クラスとなった。だが、他の面々は一組だ。
涼やかな顔で皆へと気さくに声をかけている与一・アトランティス第二王子。
平民である事を気にして、ちょっぴり挙動不審に周囲を窺う英雄候補のシグルドと、誰からも好かれそうな快活で人懐っこいマスコットのような元気いっぱいよ少女のユリア・バータ。
ガハハハと笑う声がうるさい男、勝家・シン。
そして、清楚でおしとやかで、気弱で純粋な慈愛と書いて、カナタ・アマガミと読む、聖女たる僕。
「それ、本気で言ってます?」
「世界一の美少女と加えるのを忘れていたということですね?」
セイの忠告に頷いて、口元に笑みを浮かべる。
さてさて、これからアカデミーの生活だ。楽しくなれば良いんとけどね。
ストック尽きたので、隔日連載となります。




