46幕 牛さんは強い
「いきますよ、タウロス三兄弟!」
伽藍を飛び降りながら、タウロス三兄弟へと手のひらを向ける。
「爆発せよ、破砕せよ、敵を吹き飛ばせ」
『爆裂魔球』
魔力を練り固めたバレーボールサイズの球体が手のひらから放たれる。
「むっ!? 散れっ、兄弟たち!」
ミノタウロスが飛来する魔力球を見て、咄嗟に飛び退る。床が爆発し、魔力が周囲へと散って、タウロス三兄弟は顔を顰めて、武器を構え直す。
「この魔法は!? デバフがかかっておるのか!」
ミノタウロスは自身の身体がまるで静電気でも触ったかのようにピリピリとした感触を感じ、さらには身体強化がうまく働かないことに気づく。
魔物であるミノタウロスたちは、結界が解除された瞬間に自然に身体強化をしていたのだが、再び身体が重くなって違和感を覚えたのだ。
「当然です。この爆裂魔球は僕の魔力を練り込んであります。そしてこの魔法を受けた相手は僕の魔力に侵されて、バフ効果を低下させられるのです。ただの魔力のため、防御するのも不可能!」
さっき学長の記憶をさらって、低レベルでも格上を倒せる魔法を検索したところ出てきたものだった。けれど、使い慣れていますよとばかりに、自然な表情でカナタは言う。
(この魔法、めっちゃ魔力が必要だから、もう連発できないけどね!)
内心はゼェゼェと息をついて、くたびれたおばあちゃんのように疲れてますが、演技続行だ。
「チィッ、だが、完全に封ずるのではなく、効果を低下させるだけの様子。貴様など、今の力でも倒せるわっ!」
ミノタウロスは自身の力を正確に把握して、ニヤリと笑い優位を見せる。
「ならば我らも戦いに加わろうではないかっ! ガハハハ!」
「この2年間の修行の成果を見せねーとな!」
勝家が拳を握りしめて、アーシャがワンドを手に飛び降りてくる。シグルドやユリアも同じく降りてきていた。その表情は恐れを知らず、戦意に満ちて、燃え盛る炎のようだ。
「ハツは勝家さん、アーシャさん、レバはシグルドさんとユリアさんにお願いします! 僕はミノタウロスを倒します!」
「了解だ!」
「こっちは任せてよ!」
シグルドとアーシャも頷いて、それぞれがタウロスたちへと向かい合う。なんか焼き鳥の配分を指示した気もするけど、敵の名前がいけないと思います。
「生意気な人間どもめ!」
「我ら三兄弟の力を見くびるなよ」
「結界が消えた今からが本番だ!」
タウロス三兄弟たちも身構えて、戦闘開始!
◇
僕が相手とするのはミノタウロスだ。タウロス三兄弟最強の魔物。Aランクであり、本来は敵わない敵である。
「ぶももも、その枯れ木のように細い身体で我と戦おうとは無謀にして蛮勇! この魔獣王ミノタウロスに殺されることを冥土の土産とせよ」
「さてどうでしょうか? 結界の中にいたため、魔物であるあなたはだいぶ消耗しているのでは?」
クスッと笑って半身となり拳を構える。ミノタウロスは僕の言葉を否定することなく、苛立たしい表情で大斧を構える。
魔物であるミノタウロスの弱点だ。自然に身体強化をするということは、無意識に身体強化を使い続けるということ。この結界内で、タウロス三兄弟たちは、常に身体強化を発動させて全て魔力に変換されていたのだ。残りの魔力はかなり少ないに違いない。
今のランクは精々Bランクだろう。それなら勝ち目もあるというものだ。
「舐めるなよ、人間!」
ミノタウロスが豪快な振りで大斧を横薙ぎにしてくる。さっきまでとは明らかに違う速さ、身体強化をしたミノタウロスは本来の力任せの攻撃を取り戻し、攻撃を予測しても回避するのは極めて難しい。
カナタは迫る大斧を前に、視力に魔力を込めて冷静に観察する。時が緩やかになった感覚と、大斧の攻撃の軌道。柳のようにしなやかに身体を逸らせて、横薙ぎの一撃を躱す。
「ぶもぉ、先ほどとは違うといったぞ!」
だが、ミノタウロスは腕にさらに力を込めると、大斧を無理矢理切り返してくる。大斧は見た目からもわかるとおり、その重量は百キロを超えるのに、ミノタウロスは棒切れを持つかのように簡単に操ってきた。
「くっ! 木石金剛盾!」
「キ!?」
躱せぬ速さに、慌てて木が間に飛び込んでくる。だが、今度は大斧の一撃にも耐えきれず、美味しい出番だったぜと、輝くような笑顔でドワーフの顔を持つ木は砕けてしまう。
しかし、その攻撃は緩やかとなり、なんとか地面に伏せて掻い潜ることができた。
「小癪な小娘よ!」
ミノタウロスは躱されたことに顔を顰めながら、足を強く踏み込むと、肩を突き出して突撃してくる。
今度は木を挟む時間もなく、カナタはその突進をまともに受けてしまう。咄嗟に腕をクロスさせて防ごうとするが元々の体重の重さと体格の違いから、あっさりと吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
床をボールのように跳ねながら転がりカナタは激痛で顔を歪める。
「とんでもない威力だ。これがミノタウロスの本来の力なんですね」
たった一撃で死にそうなほどに痛い。身体がバラバラになったと思ったよ。
口元から血が泡となって覗かせて、手足が震えて、よろめきながら立ち上がる。
(美味しいシーンだと思って、1人でミノタウロスと戦うとか言わなければ良かった! 他の人たちに助けを求められないかな?)
チラリと周りを見るが、それぞれ激闘を繰り広げていて、助けてもらうどころか、助けないといけない状況だ。これは助けを求めるのは不可能っぽい。
「ぷくくく、欲張りすぎましたね、カナタさん。この大ピンチを超えることができますか?」
「黙っていてください。僕も今考えているんですから」
ニヤニヤと笑ってくる巫女を無視して、1万ポイントで上級ポーションを買うと、身体を回復させる。メインシナリオじゃないから、恥も外聞もなく、システムを使うよ。
でも、このピンチを打開する方法がない。どうしようかな? てか、先生たちはなにしてるの?
ちょっぴり焦る僕は周りを見ると、結界を解除した箇所を境目に、新たなる結界が張られていた。侵入不可にする結界だ。教師は結界の壁を破壊しようとしているが時間がかかりそうである。
「むぅ、いつの間に!」
「ゴーマという人が解除されると同時に仕掛けてましたよ」
「あのハゲ、しっかりとしてますね」
シャンデリアの上に無言で立つスキンヘッドを見て舌打ちしつつ、ミノタウロスへと向き直る。どうやら助けはないようだ。僕1人で倒さないといけない模様。
なので、仕方ない。ここは演技で切り抜ける!
「ふぁ〜、遊びはここまでですか。ここからは本気でいきますよ」
「口だけは回るようだな。では本気の力を見せてもらおうではないか!」
「えぇ、しっかりと見てください」
ミノタウロスと対峙して、ふわぁとあくびをして余裕を見せるように虚勢をはるカナタである。もちろん隠された力なんかないけど、ハッタリって大切だよね。
「では、ゆくぞ! 炎よ炸裂せよ!」
『炸裂炎』
矢でありながら、命中すると爆発する炎の矢をミノタウロスは撃ち出す。ミノタウロスは長兄であるだけあって、レバタウロスとハツタウロスの力をも使えるのだ。即ち、魔法も使えて、膂力も化け物レベルなのである。
「その魔法、返させて頂きます! 水よ炸裂せよ!」
『炸裂水』
カナタが撃ち出された炎の矢を、水の矢で迎撃して、爆発と発生した水蒸気により、視界が悪くなる。
「魔法はそこそこ使えるようだな!」
煙の中にミノタウロスは突進すると、角を突き出してくる。その角は魔力が収束されて、二メートルを超える長さへと変わる。
「ぶもぉぉぉ、ミノタウロスホーン!」
「串刺しにされるには若すぎる!」
煙の流れから、敵の動きを予測して、カナタはふわりと浮き上がると、その角を逆立ちとなり握り締める。
「シン家奥義、カウカウクラッシャー!」
角の間に膝蹴りを繰り出し、額に食らわす。ガツンと鉄のような硬い感触が返ってきて顔を顰めてしまう。
「なんという硬さ。でもカウカウクラッシャーの本領はこっちです!」
「ぐはぁっ!」
牛を押し倒すように、自身の体重をかけてミノタウロスを押し倒す。身体強化をかけての攻撃は、さしものミノタウロスもよろけて床に顔をめり込ませるのであった。
「追撃っ! アマガミ奥義甲殻砕き!」
爪先を立てて、首元へと蹴りを入れる。槍の穂先のように鋭い一撃にミシリと音を立てるが、ミノタウロスの首の骨は折れずに、憤怒の雄叫びと共に、ミノタウロスは起き上がる。
「おのれがぁっ!」
体勢が崩れていても構わずに、ミノタウロスは羽虫を追い払うかのように、強引に大斧を振り回すので、残念ながら後ろへとカナタは押し下がる。思っていたよりも遥かに固く耐久力もあるな。
ミノタウロスは頭に受けた衝撃にふらついていて、なんとか気を取り直そうとしている。
(これはチャンスだ! ここを逃すと勝ち目はない!)
「神よ、焼き肉が食べたくなって困っている子牛にお力をください」
『掃除魔法梱包』
デスナイトを梱包した光の鎖を展開させていき、ミノタウロスへと絡めていく。
「くっ、これは封印魔法か!?」
違います。単にいらない段ボールとかをまとめる魔法です。とても簡単に切れますよ。
「だがこんなもので我を封印できると思ったら大間違いだ。引きちぎってくれるわっ!」
ミノタウロスは光の鎖を簡単に引きちぎっていく。たしかに光の鎖は見た目と違って、ビニールロープレベルの脆さ。ミノタウロスの力なら簡単に引きちぎれる。
「でも何重にも梱包すればこんなこともできるんです!」
光の鎖を操り、天井へと絡めると、ミノタウロスは操り人形のように天から伸びる糸に絡め取られたかのようになる。
「!? 何のつもりだ!?」
「てこの原理というものを見せましょう! アルキメデスが十分な長さの梃子があれば地球を動かせるといったように、ミノタウロスも簡単に動かせるんです!」
光の鎖を木でできた伽藍に繋ぐとニヤリと嗤う。
「アマガミ奥義、劇、ワイヤーアクション!」
「キー」
光の鎖を繋いだ伽藍が崩壊して、木さんたち全ての重量が綱に乗り、その勢いはミノタウロスを天井へと引っ張っていく。その勢いはロケットが発進するかのようだ。
「ぬぉぉぉっ!?」
「ミノタウロス、これが正義を愛する聖女の力ですっ!」
さらにカナタは魔力を全力で脚に込めると、床を爆発させるように踏み込み、飛翔する。
「アマガミ奥義、天地逆転聖女ドライバー!」
飛んでいくミノタウロスの足を掴んで、さらに加速すると、天井へとミノタウロスを叩きつける。
「ぶ、ぶもぉ!」
その勢いはさしものミノタウロスの頑丈な頭をも砕き、ミノタウロスは断末魔の悲鳴を上げて息絶えるのであった。




