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悪役に応募した三流役者。異世界での雇用でした  作者: バッド
2章 アカデミー

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43幕 天丼は美味しいのか?

「くっ、謀られたか! これはどのような魔法だ!? 触媒を探さなくては!」


 学長は真っ青な顔で周りを見る。まるで首振り人形のように激しく振って、慌てふためく様子は、最高峰アカデミーの威厳のある姿は欠片もなく、正直言うと追い詰められた小悪党爺さんにしか見えない。もう少し余裕ある姿を見せないと、それだけ危機的状態であると皆へと教えているかのようだ。


「キョーホッホッホ、このぼくちん、ハデス教団のゴーマ教祖の一の使徒であるケルビムの魔法。見抜ける者などいるわけがないのですよ。さぁ、慌てふためき、絶望に涙しなさい。そんな間抜けな姿を見ると、ぼくちん気持ちイー!」


 道化のような顔化粧をしている男は、恍惚な表情で甲高い声で笑い、後ろにいるゴーマは薄笑みを見せている。いかにもな悪役だ。


「くっ、ダブルブッキングなんて酷い。こっちは低予算で撮影して頑張ってるのに、大手はいつも金をかけてあっさりと話題を取っていくんだ」


 グッと唇を噛み締めて、悔しさを耐える。こっちはエキストラを雇うお金もなくて、マーモットや兎、あとたくさん練習して頑張ってもらったまーちゃんにモブ役をお願いしたのに。


 あっちはきっとアカデミーにスパイを送り込んで、魔法装備は高級品。きっとルーン文字を書き込むのも金をかけたのだろう。僕も金をかけて、劇をしたかった。


「あははは、怒るところそこですか? 少しみみっちいですよ?」


「大手劇団の大資金による話題作りによって、かき消された零細劇団の劇を知っていますからね。地元での劇だったのに、劇の日がかぶって、知り合いしか来なかった虚しさを知らないから、そんな風にセイは笑えるんです」


 ケラケラと笑うセイを睨んでから気を取り直す。


 学長や教師はこの結界の触媒を探すため、目を皿のようにして辺りを確認している。だが、ルーン文字を単なる床の汚れとしてスルーして、見咎めることをしない。


(理由はわかる。ルーン文字は既に失伝した魔法文字。その存在はアトランティスアカデミーでも知る人が少ないんだろう)


 この世界のルーン文字は冥府術に密接に関わっている。ルーン文字を知ろうとすれば冥府術を学ばねばならないが、冥府術自体失伝しているはずなのだ。


 その冥府術を知る者たちは、一つだけ。失伝した冥府術とルーン文字を復活させたレルムが作りし邪教『ハデス教団』だ。


 ハデデスとスキンヘッドのおっさんは言っていたけどハデスね。たぶんあのおっさんは緊張からセリフを噛んだ。ツッコむとなんで知っているかと疑われるから言わないけどさ。


 僕の目ではわかる。ルーン文字は一文字に見える物が講堂内に無数に描かれているが、一文字ではない。いくつもの文章を圧縮して意味を持たせたものがルーン文字なのだ。


 僕の足元にも配置されてる。皆がゴーマとケルビムを注視している中で、怖くて尻持ちしちゃったというフリで蹲ると、ルーン文字にそっと触れる。


「……『この文字の効果範囲での魔法は全て奉納する』か。制限を含めない単純にして強力なルーン文字だ。厄介ですね」


 ハデス教団の者たちだけ効果範囲でも魔法が使えようにとか、複雑な制限を加えているなら、その制限に加えて、カナタも魔法を使えるようにとルーン文字を改竄したのだが、これでは改竄は難しい。レルムが作ったルーン文字よりも稚拙な設計だが、それでもかなり強力だった。レルムの知識とは違い、単独では書けないのか、ルーン文字は白金の砂で描かれているけどね。もしかしたらオリハルコンかな? かなり金がかかっている予感。


 周囲を見ると、どうやら隙間なくしっかりと描いたようで、効果の及ばない地上部分はない。地上から5メートルほどは、全て効果範囲にある。効果範囲にないのは天井にあるシャンデリアに立つゴーマとケルビムだけだ。


「慌てるなっ、この結界がある限り、外からの魔法も結界に入った瞬間に魔力へと変換されてしまう。儂らを攻撃する手段は限られるから、落ち着いて行動するのだ!」


 恐怖で混乱する生徒たちへと学長が叫んで教えてくれる。その声音は焦ってはいるが、それでも一定の効果はあったようで、生徒たちは多少落ち着く。


「学長、外へは出れません。どうやらこの結界とは別の結界が張られている模様!」


「外側の結界はなんとか解除できそうです。少し時間をください!」


 窓や扉を覆う結界を解析した教師が、冷静さを取り戻して報告する。結界解除には魔力を流し込むだけで解除できるのか、その顔は自信に満ちていた。さすがはアカデミーの教師たち。未知の結界でも結界解除をできるとは、誇るだけはある。


 だが、その多少の時間が稼げるかと言うと━━。


「キョーホッホッホ。バカですか、アホですか、コノ、オロカモノー! ぼくちんがそんなこと許すわけないでしょーガッ!」


 流れ込む魔力がシャンデリアの上に立つゴーマとケルビムたちへと流れ込む。その魔力の流れの最終地点はケルビムが掲げる小さな水晶だった。卵型の水晶に魔力は流れ込んでいき、淡く光らせている。


「なんだ、あれは!?」


「ぬうっ……あれはまさか魔晶卵! 実物を見ることになろうとは……」


 魔晶卵。それもレルムの知識にはある。ハデス教団でも希少なアイテムだ。しかも恐ろしいアイテムである。


「キャーッキャッキャッ、これは魔晶卵というものです。与える魔力の量が多ければ多いほど、創られる魔物は強力になる無限の可能性を含めたアイテムなのですヨー!」


 ケルビムが得意げに言うが、そのとおりだ。しかし、簡単に魔力量と言うが、その魔力量はとんでもない量が必要で、多少の魔力ではろくな魔物は生まれない。一年間、Aランクの魔法使い十人が全魔力を注ぎ込んでも、生まれたのはマーモットだったと言われているくらい、大量の魔力が無ければ無用の長物となる代物だ。


 だが、それだけにここにいる人たちの魔力でも、そこまでの魔物は生まれない。皆魔法を使うのを止めてるし、流れ込む魔力も停止しているのだ。


「くふふ、キョーホッホッホ。この卵は大喰いでしてネー。なので優秀なアカデミーの餌たちを食べさせようと思っていたのですよ、そーれ!」


 だが、その程度はケルビムも予想していたようで、懐からなにかを投げつけてくる。生徒たちの集団に転がって━━。


「しゅ、手榴弾だっ!」


 間近にいた生徒が叫ぶと同時に爆発する。ドンと言う音と、爆風が巻き起こり、何人かの生徒が吹き飛び、血だらけとなって転がる。


「ぼくちん、ナイスストライク。続いて第二投、あ、そーれ、ほーれ、めんどいから、全部投げちゃうヨー!」


 ケルビムが続いて、手榴弾を投げつけてくる。集団に向かって落としていき、爆発と共に死人が増えて阿鼻叫喚の光景へと変わっていった。


 ケラケラと笑うケルビムは本当に楽しそうで容赦がない。爆発と共に起こる悲鳴をシャワーとでも思っているのか気持ちよさそうに浴びていた。


 アカデミーの生徒たちは本来は手榴弾如きでは傷もつかない。なぜならば障壁もあるし、身体強化もある。魔力の籠もった攻撃でない限り、かすり傷もつかないのが本当だ。


 しかし今は魔法を封じられている。使えないと分かってても、防御壁を張ろうとしたり、身体強化を使おうとして、全て霧散していった。


 せっかくアカデミーに入れたのに、彼ら彼女らは虚しい死を迎えていた。


「ひーふーみー、それでもあんまり死んでないですヨー。ぼくちんがっかり、もう少し死ぬと思ってたのにナー」


「ケルビム、遊びすぎるな。そこまで時間はないぞ、外の護衛たちは既に異常を感知して、結界を破ろうとしているはずだ」


「そういえば結界を張る前に逃げたマーモットと兎もいましたネー。たしかにゴーマ様の言う通り、あまり時間が無い模様。なら、ハデス教団の作り出したこの魔法でさっさと収穫しまーす」


 ゴーマの注意を受けて、ケルビムはつまらなそうに鼻を鳴らすと、魔法を使う。ケルビムの腕が虹色に光り、小さな光の粒子が複数飛んでいく。


 魔法なら結界にひっかかり霧散するはずなのに、光の粒子は消えることなく、地上へと舞い降りると死体へと振り注ぐ。


 次の瞬間、皆が目を見張る。光の粒子が命中した死体はまるで水のように溶けていき、空へと飛んでいき、ケルビムの持つ魔晶卵へと流れ込んでいったのだ。


 全ての死体が同じように溶けていき、魔晶卵へと集まっていく。その魔力量は魔法を使って吸収された魔力量が蛇口から流れる水のようにか細いものだとすると、川のように大量だ。


「キョーホッホッホ。見ましたか! これぞ、ハデス教団の最高にして最恐の魔法『幽体変換アストラルコンバート』ナノでーす。死体自体に内包する魔力を回収するために、作られた魔法で、こーんなに大量に収穫デキました!」


 魔晶卵が透き通るような水晶色へと変わっており、膨大な魔力を感じさせる。たったの4、5人を吸収しただけでもかなりの量だった模様。


「そしてー、この卵を孵化させてあなたたちを殺しまーす。その死体をもう一つの卵に収穫させまーす。ぼくちんあったまいー! 孵化せよ、卵よ。はんだらたった、じげんのかべをこえて、おいでませ~」


 ケルビムが詠唱をすると、卵にヒビが入っていく。その卵を放り投げると、目が眩む閃光を発して、卵が割れた。


 ━━そして、光と共に現れたのは、三体の魔物であった。


 煙とともに現れて、鼻息が息吹のように煙を吹き飛ばす。


 三体とも同じシルエットだ。三メートルはある巨漢の男、鉄の胸当てと鉄の小手を装備していて、手に持つのはそれぞれ大剣、槍、斧。頭には角が生えており、ブフーと鼻息を鳴らす顔は牛のものだった。まるで石から削り出したかのように筋肉で引き締まった身体、肌色だけが違って赤銅、黒、白だった。


「こ、この魔物は……うギャッーー!!!」


 現れた魔物を前に、後退りする学長へと三体が飛び上がると、それぞれの得物で、学長を切り刻む。血しぶきが舞い、魔法使い最高峰の学長はあっさりと肉塊へと変えられてしまう。


「キョーホッホッホ。どうやら当たりだったようですねー。さぁ、タウロス三兄弟、ここの人間を皆殺しにしなさーい!」


 どうやら、身体強化を使わずとも、基礎能力だけで恐ろしい性能を持つ魔物が現れたようだった。

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― 新着の感想 ―
敵がエッグモンスターを使うならば、こちらは切り札の乱れ撃ちだ! くらえ、リューキーシからの科学忍法火の鳥!
ケルビムの笑い以外はシリアスな場面ですが、また例の魔法で形勢逆転でしょうか? もっと悪役っぽい乗っ取りとかしてみるまきゅ?
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