41幕 聖女のモヤモヤ
平民を馬鹿にする貴族の怨念デスナイト。カナタを婚約者として、平民のシグルドと決闘しましたが、テンプレ通り敗れました。
お世辞抜きで、シグルドはカッコよく、異世界転生無双物を思わせる活躍だった。皆もその活躍を見て、新たなる英雄の卵が現れたと考えたことだろう。
平民から突如として現れる新星。この世界では時折あるお馴染みの出来事だ。
僕もレルムから奪ったデスナイトを消費しただけの甲斐があったものだと、自画自賛してます。
さっきの騒ぎは、貴族の怨念がやったのではと言われれば、脚本家のプリティビューティーガールカナタが作ったと言います。えっへん。
「うぅ、感動したよ、カナタちゃん。そこまで自然な演技ができるようになったのね。完璧な無邪気でアホっぽい庇護欲のそそる美少女よ。中身が」
「えっへん、えっへん。けふんけふん」
風邪かな? 突然咳が出まくって止まらないよ。だから涙ぐんで感動しないでくれ! まだたったの美少女になってたったの7年なんだからさ!
プリンのようにプルルンと震える胸をそらせて、神聖なる雰囲気と妖しい魅力を振り撒く聖女に、磨いたらハッとするだろう美しさになる、今はちょっと可愛らしい少女が話しかけてきていた。うぅ、と泣いているふりをして、口元は猫のようにニヨニヨと笑みを浮かべている。
「えっと、何の話かはわかりませんが、お互いにタイラン」
「そうですね! デスナイトの力を聖なる力で封印できるなんて、さすが噂の聖女様です。感動しました! あ、私はユリア・バータ。バータ男爵の息女です、はじめまして、聖女様!」
さっきの囁きは、きっと木々の葉擦れの音だったのだろう。テイクツーということで、ユリアさんは元気いっぱいの笑みで挨拶をしてきた。
「俺の名前はシグルドです。しがない平民ですけど、よろしくお願いします。デスナイトの力を封印して頂けなければ、俺はあっさりと殺されてたと思います。本当にありがとうございました」
「いえ、シグルドさんのお力が無ければ、僕たちは皆殺されていたかもしれません。僕こそありがとうございました、おかげで無用な死人がでなかったですし」
同じく近寄ってきたシグルドも頭を下げてお礼を言ってくるので、胸にそっと手を当てて優しい微笑みで返す。その謙遜する姿はどこから見ても聖女だ。
ちなみに封印した光の鎖は掃除魔法『梱包』です。ゴミをまとめて捨てるのに必要な魔法だ。光の鎖に見えるようにアレンジしたのは苦労したよ……。実際、あの鎖は見かけ倒しで、Dランクの冒険者でも簡単に引きちぎれます。
「なぁなぁ、和気藹々してるのはいいけどさ、今にも死人は出そうだぞ? ほら、あのインペリアルスターズ、ボロボロだぜ」
脇をツンツンとつついてくるアーシャの言う通り、デスナイトと交戦して倒されたインペリアルスターズは血だらけで魔法鎧もボロボロで酷い有様だった。
冥府の決闘結界は、たしかに凄まじい性能を発したらしい。デスナイトの力があっても、あそこまで王族の近衛兵たちへ傷を与えることができるなんてね。
レルムの幽体から覚えた結界術の凄まじさに舌を巻く。かつてのキーマンであるレルムは冥府術を極めていた。キーマンはポイントを使って好きなように自身の能力を上げられる。そのため、失伝した冥府術もマスターしており、その中の一つが『冥府の決闘結界』だ。前準備が大変で、定められたルーン文字を周囲に書いておかないといけないので、罠くらいにしか使えないが、使った甲斐があったというものだ。
たしかにデスナイトの魔法のガトリング砲は、予想以上の威力であった。インペリアルスターズたちを殺してしまったかと内心ヒヤリとしていたけど、死ななくて良かった。
「うむ、インペリアルスターズたちは全員が『食いしばり』スキルを取得している。見るのは初めてだが、瀕死の状態で生き残れるスキルらしいぞ、インペリアルスターズ以外には門外不出のスキルらしいが俺も知りたいものだな、ガハハハ」
「現実でヒットポイント1で生き残れるのって、ある意味地獄だよね……」
羨ましそうに豪快に笑う勝家だけど、あの人なんか腸がはみ出てないかな? 正直すまん。ここまで被害を出すつもりは無かったんだ。この世界では劇の被害はたとえ大量殺人でも許されるけど……なんかモヤモヤする。
「カナタさーん、そんな罪悪感を持つ必要はありませんよ? あの人たちは死んだって文句は言えない契約なのです。それよりもおめでとうございます! 小生の出したクエスト『入学式で平民の主人公に絡んで倒される貴族、婚約者すら奪われる』をこのような形でクリアするとは驚きです!」
なにか心がモヤモヤする僕の目の前にセイがくるくると回転して裾を広げて現れる。その笑顔は上機嫌であることを示しているように輝いている。
「いやぁ~、これまで数多くのテンプレ入学式決闘はあれど、デスナイトが現れる斬新な展開を観たのは初めてです。死の騎士と呼ばれる通り、デスナイトは騎士爵の貴族。小生の出したクエスト条件を満たしております。婚約者の点は多少無理矢理感はありましたが、怨念の塊であれば、そのようなことをしてもおかしくないと思いますよ」
「そりゃどうも」
素っ気なく答えながら周りを観察する。第二王子は悲痛な表情でインペリアルスターズたちを見守っているが長年付き合ってきた仲間なので演技だとわかる。他の人たちは自分には関係ないとまったく気にしておらず、これから始める入学式と、デスナイトを倒した英雄についておしゃべりしていた。ユリアさんも終わったことだと、既に眼中にない。
それはまるで劇の一幕が終わったと寛いでいるかのようだ。親友が死んだと悲しみに暮れるが、次のカットで笑顔で日常を送るシーンに移り変わるように、ひどく歪な光景だった。
これこそが劇の世界『ファンタズマ』。何者もシーンを撮り終えたら、そのシーンの全ての感情を捨て去り、日常に戻る。そこにトラウマは存在せず、そのことに疑問も持たない。
僕も気にする必要はない。これは劇の一幕。彼らは契約通りに死んでも来世で人間として生きることができる。
気にする必要はない。自分で巻き起こしたシーンではあったが、これも契約内なのだ。
(契約内の通りなんだけど……その通りなんだけど……)
血だらけでうめき声をあげる騎士たち。息絶え絶えで、もう少ししたら死んでしまうだろう。これは僕の責任である。
「じゃじゃ~ん! このイベントの報酬は驚き桃の木さんしょの木、聞いて見て驚いてください。な、なんと1826万ポイントとなりました! 固定イベントなのでリアルで見ようと同接もたくさんいましたので、投げ銭とインスピレーション代を含めて、小生の手数料を抜くとこれだけの巨額のポイントとなったわけです!」
「それは凄いです! それだけあったらなんでも買えちゃいますね」
予想よりも遥かに多いことに拍手をしちゃう。さすがはメインストーリー、僕のアイデアもあって、莫大な報酬となった。
「さぁ、何を買います? ここは治癒魔法初級がお勧めですよ。ほら聖女をやるのに治癒魔法使えないのは弱点となります。あ、今入学式ストーリー記念にセールも始まりました。なんと治癒魔法中級が、な、なんと1500万で売ってます! 中級の治癒魔法といえば、この世界でも希少な使い手。さぁ、ポチリと決済のボタンを押下してくださいませ」
都合よく稼ぎの大半を費やせば、聖女として喉から手が伸びそうな治癒魔法を手に入れられるらしい。本来の治癒魔法中級は十億ポイントだから、ここで買わなければ手にはいるチャンスは二度とないかもしれない。
実に都合のよい売り方と言えよう。
(稼いだそばから、全てを消費する、ね……)
どこの地下労働所だろうね。買いたくないが、買わねば未来はない。有利に運び、自分の願いを叶えるためにもポイントを使わなくてはならない。ポイントを貯めるのは願いを叶える為なのに、その為に必要なスキルを買うためにポイントを使うという矛盾。まさに終わりのない希望の道だ。
セイは当然僕が治癒魔法を買うと思って、まるで契約の決まったセールスレディのようにニコニコとしている。
だが、そう上手くことを運ばせる僕じゃないんだ。
「100万ポイントの伝説的ポーションを10本買う。次いで1万ポイントの『霧雨』の魔法スクロールを買います」
「へ? えぇぇぇ、そんなアイテムを買うんですか? もったいないですよ! もう少し合理的な使い方をしましょうよ!」
「中級では治らない人がいますよね? 脳を貫かれている人や、心臓を破壊された人、今にも死にそうな虫の息の人。まぁ僕のせいではありますが」
慌ててバタバタと手を振るセイを尻目に、僕は倒れている人たちへと歩み寄る。
「ん? なんの用だ? こちらは見ての通り忙しい。用があるのなら、後で話を聞こう」
救命をしている人たちが、近寄る僕を見るが気にせずに、口を開く。が、ここで、ハイそうですかと下がるわけにはいかない。
「皆さん、ここからお離れになってください。倒れている人たちは僕が救いますので」
そうして、皆の注目を浴びながら、僕は裾に隠している『霧雨』スクロールを使う。と、同時に伝説的ポーションを『霧雨』に合わせていく。
アイテムボックスから手の中に移動させれば、ポーションは全く見られない。トトトとポーションを零していき、霧雨に混ぜると伝説的ポーションの効果のある霧雨へと変わった。
そうして、倒れている人たち、結界から逃れようとしてかすり傷を負った人たちを含めて、ポーションの雨は浸透するように振り注ぐ。
「おぉ、見ろ! 頭が半分になっていたやつが元の姿に治ったぞ!」
「信じられない……心臓が無くなっていたはずなのに、身体の穴が塞がっていく!」
「これが聖女と言われる、カナタ・アマガミか!」
晴天の中に振り注ぐ霧雨。自然と虹が形成されて、銀髪の少女は驚愕する人々と、睨みつけるセイを横目に、ニコリと微笑むのであった。
……まぁ、自分が巻き起こしたことなので、その点は罪悪感バシバシ感じてます。




