40幕 デスナイト
正門が開くのを待っていた人たちは突如として現れたデスナイトを見て、恐怖と混乱に陥った。
デスナイトは高位の魔物だ。不死系統でもSランクと言われており、精神を吸い取る魔眼で精神を全て吸収されると、吸い取られた人間はアンデッドへと変貌すると言われている。それだけでなく、剣の腕も超一流であり、痛みを感じずに頑丈である不死のタフさも含めて、災害級とも恐れられる化け物である。
本来は騎士鎧を着た不気味な骸骨のはずなのに黒いコートとツギハギだらけの皮を持つスキンヘッドなのは違和感を覚えたが、デスナイトまきゅと誰かが叫んでいたのでデスナイトに間違いない。
「それがなんでこんなところにっ!?」
少しでも気を抜くと倒れてしまいそうな圧力に耐えながら、シグルドはデスナイトを睨みつける。見ると他の人たちもほとんど倒れており、立っている者は少数だ。
「あ、あれははるか昔にアカデミーに入ったものの、平民に試合で倒されて廃嫡された貴族の怨念が寄り集まった存在まきゅ!」
「噂を聞いたことあるうさ! アカデミーにとっても優秀な平民が現れると殺そうとする呪われた存在うさね!」
どこかの誰かの動揺した声に納得する。古くから存在するアカデミーだ。こんなことも起こるのだろう。
だけど、納得はすれど、この危機は受け入れるわけにはいかない。
「そうだとすると、俺らを殺そうとするつもりなんだな……。でも、そうはいくか!」
「そうだよ、ここには王族を守るエリート護衛たちもいるんだから!」
他力本願めいてはいるがそのとおりだ。ここにはシグルドたちよりも遥かに強い人たちがいる。
ユリアの言うとおり、護衛たちは震える足で立ち上がり、剣を抜いていた。
「たとえデスナイトといえども我らが負けるわけにはいかぬっ。全員抜剣! デスナイトを斬るのだ!」
「おぉっ! 了解です、我らインペリアルスターズの力を化け物に見せつけよっ!」
「突撃っ!」
王子の護衛たちが一斉にデスナイトへと向かう。インペリアルスターズは、騎士の星と呼ばれるエリートの中のエリート。装備は白金の剣と鎧に盾と見目麗しき強力な武装で、腕前も全員がAランクの超一流の騎士たちだ。その数は10名。さしものデスナイトもその数を前にしては多勢に無勢。あっさりと倒されると思えたが━━。
マナで身体強化をして、武装の性能を引き上げているはずのインペリアルスターズの走る速度は極めて鈍かった。本来は100メートルを1秒もかからずに詰められるはずなのに、ドタバタとカタツムリの歩みだ。
「こ、これは!?」
「しまった、この結界はまさか」
騎士たちが青褪める中でデスナイトは片手を持ち上げると魔力を集め始める。
「インペリアルスタァズ」
『召喚武装ガトリング砲』
その丸太のような太腕に、極悪極まるシルエットのガトリング砲が現れると、銃口をインペリアルスターズへと向ける。
「ま、まずい、全員盾防御!」
『インペリアルガード』
事態を悟った隊長が慌てて盾を構えると、防御壁を展開させる。マナで形成された半透明の盾が騎士たちを覆い、守りに入る。
「インペリアルスタァズ」
くぐもった声を上げ、デスナイトが引き金を引くと、ガトリング砲の銃口が回転を始める。
ドドドドドドドドド
豪雨のような弾丸が護衛騎士たちを襲う。防御壁を展開していた騎士たちは、物理攻撃への絶対の耐性を持っていることから、ガトリング砲の攻撃も耐えられると計算していたが、それは間違いであった。
身体強化のかかった自分たちが鈍足になっていたことから予想しなくてはならなかったのだ。
自身の力が恐ろしく低下していることに。
「ぐはっ」
「馬鹿なっ!」
「我らの絶対盾が!?」
弾丸はあっさりと防御壁を破壊して、ガラスのように破壊してしまい、護衛騎士たちは弾丸をまともに受けて次々と倒れていくのであった。
「!? いったいなにが?」
うめき声を上げて、苦悶の表情で倒れている護衛騎士たちを見て、人々は予想外の光景に青褪める。高位アンデッドのデスナイトとはいえ、これだけの人数でかかれば倒せると考えていただけに、絶望と恐怖で力が抜けていく。
「これは、めーふのけっとうけっかい! んと、このけっかいにおおわれると、じゅつしゃと、じゅつしゃがころそーとするあいていがいは、じゅうぶんのいちのちからになっちゃうのでしゅ!」
どこからか、声が聞こえてきて、この結界がどのようなものかを語ってくれる。
「冥府の決闘結界ですって! 聞いたことがあるよ、しーちゃん。二千年前に作られたという、怨みを晴らすために、自身の命を生贄に対象と決闘をする結界! あのデスナイトは誰かを殺すためにこの結界を発動したんだと思う! みんめー書房に書いてあった!」
「怨念がおんねんってやつなんだな……。たしか平民への怨みから……」
ユリアが顔を向けて言う。シグルドは、恐ろしき結界を前になにもできないかと顔を曇らせて━━。
「あれ? 俺は力が封印されているような気がしないんだけど?」
力が封印されているなら何がしかの異常を感じさせるはずだが、まったく感じないことに反対に違和感を覚える。手を開閉するが、いつものとおりだ。
「まさかっ!?」
それがどういうことかに感づき、デスナイトを見ると、回転している銃口から硝煙の臭いを漂わせてデスナイトはシグルドを見ていた。
「優秀なる平民を殺す……優秀なる平民を殺す」
どうやら3位にて合格した自分がデスナイトの怨みを晴らす対象となったことを悟る。考えたくはなかったが、自分が決闘をしなくてはならないのだろう。
「我は決闘にて勝利し、婚約者を渡すこともせぬ」
「きゃあっ、なんで私を見るのですか!?」
おどろおどろしい声で、デスナイトは呟くと、近くにいた銀髪の美少女へと顔を向ける。
「あれははるか昔決闘にて敗れた貴族が平民に婚約者を奪われた怨みが歪んで現れてるうさ!」
「決闘であの男が負けたら、銀髪で儚げな美少女は婚約者として冥府へと連れ去られるまきゅ〜」
「な、なんだって!? そんな恐ろしいことが!」
「まずいぞ、兵士たちはまだ来ないのか?」
周りの人たちが騒ぐなかで、デスナイトはシグルドへと向き直る。どうやら決闘を引き受けないと、あの銀髪美少女も死ぬようだ。しかもその噂が本当かは分からない。シグルドが殺されたら、周りの人たちにデスナイトは襲いかかるかもしれないからだ。
「平民よ……決闘をせよ」
「あぁ、いいだろう。俺がお前を倒してやる!」
逃げることはできなさそうだ。ここで逃げても多くの人々が犠牲になり、後でシグルドは後悔する。
「なら、ダメ元でも戦うしかないよなっ!」
剣を抜き不敵に笑う。英雄になるという夢、その一歩だと心を奮い立たせる。
デスナイト。死を迎える騎士と言われ対峙したものは地獄に引きずり込まれて永遠に苦しむと呼ばれている恐怖の化け物。
(俺はここで死ぬかもな……。せっかく英雄を目指してアカデミーに入学しようと思ってたのに皮肉だ)
対峙してわかる。自分よりも遥かに強い存在だと。打ち合っても数合で斬り殺される未来しかないと、身体が無意識に恐怖で震える。
しかし自分の決めたことだ。やるしかないっ━━。
恐怖を振り払い、突撃しようとした時、デスナイトの頭上から光の柱が振り注ぐ。光の柱に貫かれたデスナイトは燃えていき、その身体は炎の塊となっていく。
『天の鉄槌』
「ふふ、こんな結界で一矢報いることもできないとなれば、王族の名折れだからね。切り札を切らせてもらったよ。少しは助けになったものと思う」
「第二王子!」
護衛騎士たちの後ろで手を翳して第二王子が戦意を失わずに立っていた。その腕は強力な魔法を放った反動で放電しており、その光が第二王子の顔を照らしている。さすがは王族、その力は十分の一とされても強力らしい。
「見て、しーちゃん。デスナイトの様子が変だよ」
ユリアの声にデスナイトへと顔を向けると、コートが破れて、ツギハギだらけの身体が露わになっていた。しかも燃え尽きるかと思っていたのに、肉体が膨れ上がり、皮を破り筋肉組織が身体を覆っていく。
「これは……第二段階すらも飛び越えたダメージを王子様が放ったんだ。あの姿は最終段階だよ」
「最終段階? デスナイトにそんな形態があるの?」
「うん。爪を伸ばして怪力となって襲いかかってくる第二段階、そして、最終段階が……あれだよ!」
ユリアの指さす先、デスナイトは変態を終えようとしていた。枯れ木のようで、ピンク色の筋肉組織が6本の脚となり、蛇のように首が伸びる。その体格は巨大なトカゲのようで、伸びた首に形成された頭が終わりの始まりのように、人々を咆哮だけで殺そうとする。
「グォォォォ」
可視化した咆哮が波動となり周りへと広がり突風が巻き起こる。
どんな姿に変わったかは質問しなくても分かった。
「ど、ドラゴン。溶けかけた身体に、周囲を腐らせる瘴気。まさかドラゴンゾンビ!?」
デスナイトと同じく、いやそれ以上に危険なアンデッドへとデスナイトは変貌していた。
「ぐぎゃゃゃゃゃ」
ガラスを引っ掻いたような、耳障りな咆哮を上げて、大きく口を開く。その口内には舌ではなく、大きな目玉が占有している。
先程のデスナイトは強かったが、それ以上だ。ドラゴンゾンビは魔法も使えないしブレスも吐けないが、その怪力は他のドラゴンの追随を許さず、膂力はプレス機よりも簡単に敵をぺっちゃんこにできる。
「大丈夫です。私が今、ドラゴンゾンビを封印します。その後に攻撃をしてください!」
結界の中で力を失っているにも関わらず、勇気に満ちた凛々しい表情で銀髪美少女が手を組むと祈りを天へと捧げる。
「神よ、悪しきものを封印する正義の力を見せ給え!」
朗々と詠唱を唱えるとデスナイトの足元から何本もの光の鎖が現れて、宙を舞うとその屍肉の身体を雁字搦めにしていく。
「グオっ!?」
予想外であったのかデスナイトは暴れるが、聖なる鎖は頑丈で、デスナイトの動きを封印し、なんとか動かせるのは前脚と頭のみとなる。
「私も負けてられないね! しーちゃんに全支援魔法をプレゼントだよ!」
『オールマイティガード』
ユリアの特殊支援魔法がシグルドの身体を覆う。筋力や敏捷、耐性までの全てを向上させる支援魔法でもチート的な魔法である。
「見てください、あのデスナイトの口内を! 口内に見える目玉が弱点だと思います!」
デスナイトが逃げ出そうと暴れ、口を大きく開いて咆哮を上げているが、その口内は目玉が隠れていた。その目玉を銀髪美少女が指さす。
「たしかにそのとおりだ! ここまでお膳立てされて、負けるわけにはいかないな! いくぞデスナイト!」
シグルドは皆の勇気と力を得て、剣に魔力を込めて、デスナイトへと向かうのであった。
さしものデスナイトも、その力をほとんど封印されては戦うのが厳しく、シグルドは激戦を繰り広げてデスナイトを倒すのであった!




