38幕 入学式前日!
アカデミー入学式の前日。
試験日から一ヶ月後に入学式となる。今日はその前日だ。
僕は前日に入学式の下見として、アカデミーに来ていた。来ていたと言っても、まだ入学前なので生徒ではない僕は入れない。正門の凱旋門みたいな立派な門の前にいるだけだ。
「ねぇねぇ、カナタさん。なんで前日に来たんですか? なにか仕込むんですよね? あ、聞くまでありませんでした。可愛らしい優しそうなキャラデザインなのに、それでも邪悪なる悪魔的な笑みを浮かべることのできるカナタさんには不要の質問でしたね」
「なんて酷いことを言うんですか。僕は入学式を前に期待に胸を膨らませて、ワクワクしすぎて前日に来ちゃっただけのか弱い女の子ですよ?」
「茶髪のウィッグをかぶって、分厚い眼鏡を嵌めて、目立たない平凡なぶかぶかの服を着て? しかも1人で来ていますよね?」
「偶然にも、今日は目立つの嫌いなデーなんです」
セイの白目から逃れて、正門を見る。僕と同じように下見に来ている人も多く、観光客も正門をバックに撮影しているので、僕は木を隠すなら森の中と目立っていない。
誰もこちらを見てこないので安心して観光ができるというものだ、観光、観光なんだよ。
「さて、明日に備えて下準備をしておきたいんだけど、どうしようかな……ん? なんだあれ?」
やっぱり仕込むじゃないですかとの巫女のジト目をスルーして周りを窺っていたら、門の端っこになにかがいた。
「まきゅー、お腹空いたまきゅよ、これだけ人がいて誰もご飯を奢ってくれないなんて、世間を渡るマーモットには鬼ばかりまきゅ」
「うさー。マイナーな人気しかないマーモットならともかく、世界でも一番好かれている人気者の兎にも目をくれないなんて奴らの血は氷で出てきているに違いないうさ」
哀れそうな声をあげる小動物2匹がいた。マーモットと兎だ。門の前でぐでっと寝そべり、弱々しそうにしている。
「おぉ、マーモットと兎ですよ、セイさん。もふもふ、もふもふです。前世では兎は飼ったことがありましたが、マーモットは飼えなかったんですよ。なぜならマーモットは高価だったから! でも2匹とも大好きな小動物でした。一番は犬でしたけど」
なんであんなところで寝てるんだ? 捨てペットか? いや、言葉を解してるどころか、普通に話してるな……。
「まま〜、あそこにいるマーモットさんたち、お腹空いたって言ってるよ」
「駄目よ、み~ちゃん。言葉を話すマーモットや兎はろくなことをしない悪魔なの。近づいたら、餌をくれると勘違いしてまとわりついてきて、ポケットに潜りこんだり、背中に張り付くから無視するのが一番なのよ。なにせ飼うと勝手に冷蔵庫を漁るわ、飼い主のカード払いで小動物用のベッドを買ったりもするの」
「へー、見た目に騙されたら駄目ってことだね!」
「そうよ、み~ちゃんは良い子ね」
親子連れの丁寧な説明で全てが判明した。なるほど悪魔なのか、あれ。しかも一般モブも知ってるくらいに悪辣な小動物なのか……。
「でもなぁ……。マーモットって一度飼ってみたかったんですよね〜。兎も愛くるしいし、またもふもふしたいなぁ」
悪魔的な小動物としても、少し残念に思っちゃうよ。基本、僕は哺乳類のペット好きなんだよね。
だけども、そこまで有名な無能悪魔なら止めとくかと離れようとしたが、小声で呟いたのがまずかった。
「そこの可愛らしい美少女。まもはお腹空いたまきゅよ〜。今ならキャベツ1枚で、ギュイーンするまきゅよ?」
「うさは、お鼻をスリスリ擦り付けるうさ。背中撫でる?」
正門前にいたはずなのに、いつの間にか、僕の足元に2匹は来ていた。二本足で立っていて、小首を傾げてつぶらな瞳で僕を見ている。自分の可愛さを知っているあざとい小動物だ。
「ほら、兎、ギュイーン見せるまきゅよ。他に仲間がいないから兎で我慢するまきゅ」
「カンガルースタイルでギュイーンするうさ」
「殴るんじゃないまきゅ!」
仲間意識ゼロの2匹は殴り合いを始めていた。が、2匹とも鼻をスンスンさせると、すぐに僕に振り返る。
「ここで、尻尾の引っ張り合いをしても餓死するだけまきゅよ」
「同意うさ! ここはらぶりーでキュートな兎のスンスンダンスで新たなるご主人様を魅了するうさ!」
「ご主人様どこに行ったまきゅ?」
僕はご主人様になった覚えがない。なので、記念撮影をするべく、正門に手を付けて、ちょっと格好良いポーズで自撮りをパシャリ。
「上手く撮れたかな? ……なんか写ってる」
正門前は威厳を備えているように魅せるため、景観もかなり考慮されている。整然と並んだ並木に、巨大な正門は様々な物語が彫刻されており観光スポットとしても充分映える。
だからこそ、記念撮影ですと正門前で撮影したのに、マーモットと兎が入り込んでいた。カメラにドアップになってるのでかなりウザい。
……ウザいけど、可愛い。くっ、僕は小動物が大好きなんだ。人語を解して、行動がウザくとも、その外見だけで許せてしまう。なにを考えているか分からない虚無の瞳、茶色いもふもふ毛皮に覆われた小柄な体躯は撫でやすく、しかも二本足で立っていて、その姿がとても自然だ。まるで四足歩行の獣ではなく、元々二本足で歩いているようで、思わず手が伸びてしまいそうな小動物である。マーモットって、動画で見てきたけど実際に目の前にいると、可愛すぎる。
兎だってそうだ。もはや説明不要の可愛さだ。もう存在が自然のぬいぐるみで、抱きしめて撫でまくりたい。
その2匹が撮影に無理矢理入り込んだとはいえ、カメラに鼻を押しつけてドアップなのは、愛嬌があって思わず待ち受けにしたい1枚である。
なので呆れながらも、2匹を愛でる目になってたんだけど、その目つきに2匹はキラリと目を光らせた。
「!? 見てみるまきゅよ、あの目は可愛いものを見る優しい目まきゅ!」
「本当うさ! これまでうさたちを見る人たちはウザいと嫌悪の表情しかしていなかったのに、あんなに優しい目をする人がいるなんて思わなかったうさ!」
どうやらこの世界だとマーモットも兎もかなり嫌われているようで、僕の好意の籠もった目つきが珍しいらしく、お互いに顔を合わせて嬉しそうにしてる。なんというか、マーモットと兎のそんな姿を見るとますます飼いたくなる。
そんなに嫌われてるのか。少しぐらい変なことをしても、ペットなんだから許してあげられるのにね。マーモットはリス科なので、カジカジ壁に穴を開けるし、兎も同じく穴を開けようとするけど、本能なんだから仕方ない。
「きっと着払いでキャベツ1ダース頼んでも許してもらえるまきゅ!」
「100グラム100ドラする最高級ニンジンも喜んで毎日くれそうな感じうさ!」
「絶対にあの子の使い魔になるまきゅ。とことん媚びるまきゅよ」
「うさのお尻フリフリダンスで魅了するから、マーモットは後ろで黙って立ってるうさ。酔いつぶれたおっさんのように部屋の隅っこに座っているのがお勧めうさね」
「それ、自分だけが使い魔として雇われるつもりまきゅね! こんなにチョロそうな女の子は絶対に渡さないまきゅ!」
「古今東西、兎は人間のパートナーだったうさよ! マイナー人気のマーモットなんか足手纏いうさ!」
二匹はあっという間に仲違いして、取っ組み合いを始める。この子たちの知力は1らしい。
前言撤回。やはり嫌われるだけの理由はあるようだ。
……でも、まぁ、それでもこの二匹は可愛いんだよなぁ。
「使い魔にするかは、前向きに検討をすることとして、あなたたちが可愛いのは確かです。なので、仕方なく、本当に仕方なくですけど、この正門前で、写真を撮ってあげます。僕の小動物写真集に入れたいので。なので撮影が終わったら邪魔しないでくださいね?」
「後でモデル料キャベツ二玉もらううさよ!」
「ニンジン一箱もうさ!」
本物のマーモットと兎。ふたつ返事で了解してくれたし、しょうがないから撮影しようかな。
「カナタさんがそんなにウキウキして喜んでいる表情を初めてみた気がします。本当にペット好きなんですね。小生は、カナタさんのことを極悪非道で、血も涙も悪意で形成しているとばかり思ってましたよ」
「聖女への認識としておかしくないですか?」
もっと優しい説明をしてくれてもいいと思うんだけどね。
「それじゃ話は決まったということで、え~と、名前は?」
「マーモットのマモ。よろしくまきゅ」
「うさはロロうさ。今後ともよろしくうさ」
「オーケーです。それじゃ二匹の写真を撮影したいので、まずはそこに立ってください。壁に手をついて、モデルのような立ち方で。壁に描かれている模様に手を乗せて〜」
「こうまきゅ?」
「そうです。良いよ、良いですよ〜」
二匹が二本足で立って、ポーズをとる姿は予想以上に可愛い。これだけでもこの世界に来た甲斐があったもんだ。
「それじゃ次はあの街路樹に、うん、床に立ち位置を書いておくから、そこに立ってね」
正門前から移動して、街路樹でパシャリ。二匹ともノリノリで、仲良くポーズをとってくれる。
「は~い、それじゃ今度はあの街灯前ね。今度は街灯に描いた模様に寄りかかって昼寝をしているように」
「こうまきゅね。マモのかっこいい姿を撮影できる腕はあるまきゅね」
「横座りで良いうさ?」
サイコーだ。もうメモリいっぱいになるまで撮影するもんね。
パシャリパシャリトと嬉しそうに撮影する平凡な女の子とモデルとなっているマモとロロ。周りの人たちも、あぁ観光なんだなと気にしない。
なので気にせずに、写真撮影だ。
「ふっ、マモの可愛さに気づく人が遂に現れたまきゅね」
「なぁなぁ、な~んか、この模様、ルーン文字に見えない? あの子、な~んか邪悪そうな雰囲気がしない?」
「あ、ポケットにクッキーありました」
「なんて善の空気を持つ女の子うさ!」
尻尾をフリフリ、兎はクッキーをカリカリ齧る。さっきの疑問は解決したらしい。
そうして僕は二匹の写真撮影をするのであった。
まるで考えなしの観光客が国宝の施設に落書きをして記念撮影をしたようになりました。




