35幕 使い魔、ちゃんと活躍する
「負けてられるかっ、俺もダンジョンに挑戦するぞ!」
「おおっ、俺こそが首席となるんだ!」
「馬鹿を言わないで、私だって家門の期待を背負ってるのよ!」
「でっかい蛇に負けるかよ!」
死を恐れることなく、他の受験者たちもローザの後を追って走り出す。さすがここまで試験を合格していった人たち、まったく怯むことがないので感心しちゃう。
「あたいも先に行くからなっ、二人とも落ちるなよっ!」
「任せよっ、ここで落ちるような間抜けはいないと信じてるぞ!」
アーシャと勝家も周りに負けないようにと、楽しそうに笑みを浮かべて走り出し、空中に浮くダンジョンゲートへと入っていき、カナタ一人だけとなるのであった。
「皆さん、気が早いなぁ、3日かかるとか言われたんだからもう少し準備をしてからでもいいと思うんだけどね」
リュックサックを置いて、呆れたように笑ってしまう。まぁ、個人個人の戦いでチーム戦じゃないから無理もないか。
「こう言った試験はバトルロワイヤルありの試験だと思ってたんだけど、戦闘で本当に死者が出る試験だとヤバいくらい死者が出そうだから無理もないか」
あの水龍使いの少女なんて、邪魔をする人たちを殺していきそうな冷たさを感じるしね。僕なんかブレスで一掃されそう。
「個人戦でなければ、使い魔がいれば楽勝なんだけどさ」
僕の使い魔は凄いのだ。
「出でよ使い魔。僕の力となって」
リュックサックに向けて詠唱をする。なるべく神秘的な詠唱にしようかなぁと考えて━━。
詠唱が終わってないのに、リュックサックから使い魔が姿を現した。
「じゃ~ん、まーちゃんです。つかいまーちゃんです。ちょっとせまかったでしゅよ」
我慢をできずに飛び出て来ちゃうつかいまーちゃんだ。さっきからリュックサックから頭を出したりお手々を振ってたりしてたことを知っている。
お餅のようにぷにぷにもちもちなほっぺを興奮で赤くして、好奇心いっぱいのおめめを輝かせている。幼女用カスタム革の服を着て冒険者用のちっこい帽子をかぶって、ふんふんと鼻息荒く胸を張っている。2年経って5歳になった幼女がそこにはいた。背丈は数センチほど大きくなったよ。
服についている名札には『つかいま』とつけているので、間違いなく使い魔だ。アカデミーに行くカナタたちを寂しがって無理矢理ついてきたわけじゃないよ。
「あ〜……アマガミ受験者、その子を本当にダンジョンゲートに連れて行くのかね? かなり危険なダンジョンなのだが?」
「使い魔なので当然です。それにこの子は強いので大丈夫です」
「まーちゃんは、とーってもつよいでしゅよ。ていって、ポカリとまものしゃんたおしちゃいましゅ」
試験官がなぜかドン引きの顔で尋ねてくるけど、自信満々な美少女と幼女は胸を張って笑う。
「それじゃ、まーちゃん、合体まーちゃんゴーっ!」
「ぱいるだーおーん、まーちゃんぜーっと!」
二人の息は練習通りにぴったりと合い、よじよじと幼女はカナタの肩に乗って両手を万歳。ここに美少女と幼女が合体したまーちゃんゼットが出現した。
「神をも超えて」
「まをもこえりゅ」
「まーちゃんぜっーっと!」
二人で、びしりとポーズをとって完成だ。とっても可愛らしい世界一無敵な戦士の誕生だ。
もはや敵はいない。たぶんいない。
「それじゃ、行ってきまーす」
「いってきまーす」
「あははは、試験官がドン引きしてますよ、カナタさん。見てください、一番注目されてる人間になってますよ、あははは」
腹を抱えて爆笑するセイを後ろに、僕たちはダンジョンゲートを潜るのであった。
◇
「ほへぇ、ダンジョンって本当にダンジョンなんですね。なんかワクワクします」
「くらーい、くらいお、ねぇねぇ、おねーたん、くらーい、キャッキャッ、まえがあんまりみえないでしゅよ」
「本当ですね、古き良きダンジョンって感じで感無量です」
僕たちが入った先は石造りの通路だった。黴びた臭いがして、武骨な石造りの壁や天井には染みがついている。壁には松明が均等間隔で置かれているが、松明くらいでは辺りを全て照らすことはできなく、暗闇が松明の影をゆらゆらと揺らして恐怖を誘う。
「どうやらこのダンジョンをクリアするのが試験みたいですね」
足先で床をつつくと固い感触が返ってくる。ここまでオーソドックスなダンジョンだとは思わなかったなぁ。
「このダンジョンを3日以内にクリアしないと、僕は不合格となると」
「たいへんだね! まーちゃんがオヤツとじゅーしゅはかんりするから、あんしんして!」
リュックサックに入っていたチョコレートをまぐまぐ食べて口元を真っ黒にしながら、まーちゃんが頭をペチペチ叩いてくる。
「食料と水の管理をしないとそれだけでこのダンジョンは危険なんですね、カナタさん。でも、もうリュックサックには水しか入ってないようですよ?」
ポテチをパリパリと噛み砕き、セイがニヤニヤと笑う。うん、早くも僕たちは食料を失ったらしい。シュークリームも入れておいたのに食べられたのかな。
「まぁ、3日と言わず、1日でクリアすれば良いですよ」
のほほんと答えて、前方を窺う。この死のダンジョンは人工なのに悪魔的な仕様らしい。
なぜなら━━。
「ギャッギャッ」
「ギャッギャッギャッ」
鳥が鳴くような叫び声が聞こえて複数の足音が聞こえてくる。
目を細めて前を睨むと、緑の小人たちが姿を現してきた。子どものような背丈で、鼻が尖っており三日月のように裂けた笑いを見せる魔物。ゴブリンたちだった。その手には錆びたナイフや、棍棒を持っている。
「どうやらゴブリンたちを倒すのが、最初の試験のようです。オーソドックスすぎて笑ってしまいますが」
「とーすとはいちごじゃむがおしゅしゅめ!」
カナタは拳を構えて、薄笑いを浮かべる。
「修行の成果を見せますか!」
この2年間無為に過ごしてきたわけではない。遊んでいる以外は起きてるときは修行していたのだ。
「ギィっ」
左足を支点に軽く踏み出すと、ナイフを突きだしてくるゴブリンに合わせて、腕に蹴りを食らわす。鞭のようにしなやかに繰り出された。
命中した蹴りの威力により、ナイフを通すかと思われたゴブリンだが、その腕が枯れ木のようにへし折れると、あらぬ方向へと曲がる。
「うっぎゃぁぉ」
声にならぬ声をあげると、激痛でたたらを踏むゴブリンの首元に再度ハイキック。スラリとした脚が高く上がり、ちらりと裾から横縞が見えて、ゴブリンの首は折れ曲がった。
「ギィ!?」
たったの一撃で首を折られた仲間を見て、他のゴブリンたちが動揺し足を止める。その隙を逃さずに、足元が爆発するように踏みだし他のゴブリンたちの首筋に蹴りを次々と入れていく。
「げっ」
「ギョッ」
「ガッ」
くぐもった声を上げて即死するコブリンたちの屍が床に積み重なる。蹴りを中心に倒すのは、ほら、裾がめくれて大喜びする紳士がいるからね。
「僕の身体強化は次の階位に上がったんです。最低ランクのモンスターでは足止めにもなりませんよ」
ふわりと美しく舞う銀髪をかきあげて、フフッと笑う。死体となったゴブリンたちが消滅していき━━。
「おねーたん、あついのくるでしゅよ!」
まーちゃんが頭を叩くのを見て、前方を見ると、人ほどの大きさの炎球が飛来して来ていた。火の粉を散らし、豪速球みたいな速さだ。
「ギギ、オマエラマルコゲ」
奥には杖を持ったゴブリンがいて、牙を覗かせて意地悪そうな笑みを浮かべている。どうやらゴブリンたちで足を止めて、魔法を使うゴブリンシャーマンが魔法で殺す作戦だったのだろう。
哀れ、美少女と幼女は焼け焦げて、ゴブリンシャーマンが高笑いをするエンドになるかと思いきや━━。
炎球はカナタたちを通り過ぎて、後ろの壁に激突するのであった。
「ナニッ!? ナゼヨケレタ?」
命中する寸前で、なぜか炎球は後方で爆発していた。結果がまるで飛ばされたように見えてゴブリンシャーマンは目を疑う。
「ふふふ、残念でしたね」
大きく足をスライドして、加速する車のように速く走り、カナタはゴブリンシャーマンへと向かう。身体強化で鍛えられた少女は20メートルくらいの距離は数秒で詰められる。
床に小さな足跡を残して駆けてゆき、カナタはカチリと小さな音を耳に入れた。
「罠!?」
どうやら二段構えの作戦だったらしい。ゴブリンによる足止めからの炎球、倒せなかったら向かってくる受験者を罠にかけて殺す。
天井に穴が開くと、槍衾が僕たちを串刺しにしようと落下してきた。
「ヤッタカ!」
喜色の笑みを浮かべるゴブリンシャーマン。僕たちは完全に引っかかており、槍に刺されてハリネズミ状態に━━なると思ったかな?
命中する瞬間、僕たちは槍衾の範囲を抜け出しており、そのまま駆けてゆく。まるでコマを飛ばしたかのように。あり得た結果が失われたかのように。
「バカナッ、ナニヲシタノダ!?」
「簡単です。僕とまーちゃんが合体した時に作られるスキル! 命の危機に発動し、結果を飛ばすスキル。その名も」
今度こそ、ゴブリンシャーマンの懐へと入り込むと、踵を頭よりも掲げるとゴブリンシャーマンの脳天へと突き降ろす。
「クイーン」
「くらーむそーだでしゅよ!」
めしゃりとゴブリンシャーマンの頭を叩き潰し、息の根を止めるのであった。
「いやいや、それ世界の仕様を逆手とったひどい技じゃないですか!? ログも起こってまふよ?」
あまりの強力なスキルにセイが噛みながら空中のログに手を向ける。
『幼い子供を殺すシーンはカットされます』
そう、キーマンは常に撮影されており、撮影シーンに写る幼女は残虐なシーンはアウトなのだ。そのためそんなシーンはカットされて、回避した結果だけが残るのである。
これ、無敵に見えるけど幼女に確実に当たらないとわかる攻撃は僕は受けるし、反対に僕がいないと撮影されないので幼女は殺される可能性がある。無敵ではないのだ。
それに本格的に撮影を撮るときは、幼女は一緒に行動しない。撮影がグダグダになるからね。
とはいえ、試験は僕のイベントではないので、別にこだわらない。
「よし、ここから」
「まーちゃん、ソフトクリームののったくりーむそーだたべたい。ねね、はやくたべにいこー」
「もちろんです。ですが出口が分からないのでもう少し探検しないと」
「あそこでぐちってかいてあるよ?」
ソフトクリームたべたい星人となったまーちゃんが指さす先、なにもない壁に見えるが、触るとガチャリと音がして開いた。
『スタッフオンリー』
裏口があったらしい。僕たちは躊躇いなく入る。
そして歴代最高の攻略時間11分を達成し、首席合格をするのであった。
そのあと、僕は幼女を使い魔にするのを禁止にされた。
解せぬ。
クリームソーダはアイスを乗せるタイプのお店が多くて、ソフトクリームを乗せたクリームソーダを探すのに苦労しました。




