33幕 アトランティスアカデミーの試験
━━2年後。
アトランティスアカデミーの試験日となった。
私立アカデミー? もちろん受かったよ。テストは楽勝で、大人気のカナタちゃんとして暮らしました。修行期間は不人気だから飛ばしたとも言う。
なぜに2年後となったか? それはだね……。
何も起きなかったからである。デビュー作で有名になったが、その後鳴かず飛ばずで消えた一発屋芸人や読み切り漫画を掲載できたが、その後は名前を聞かなくなった漫画家のように、なにも事件が起きなかったのだ。
悲しき三流役者、アマガミカナタなのでした。
なので、ステータスはこんな感じ。
名前:カナタ・アマガミ
所持ポイント:50000
総合ランク:E
体力:E
筋力:E
器用:E
魔力:C
固有スキル:『記憶喰』
『記憶閲覧』『記憶皮膚』
メモリーチップ:『クオーン・シン』『』
メモリーバインダー:『ザコン』『レルム』『クオーン・シン』
スキルスロット:『掃除魔法』、『アイテムボックス』
スタートアップパックを100万ポイントで買って、ステータス向上、スキル枠アップ、固有スキルのメモリーチップの枠を一つ増やした。
初期にしては破格の性能だったスタートアップパック。買ってよかったけど、その後なにもないとはね……。思わず遠い目をしてしまうカナタです。
そして、ステータス向上はやはりランクが上がるのではなく、内部の隠し数値が上がるだけだったようで、頑張って修行した成果がこれだ。魔力を中心に修行したので他の数値はカスだけどね。
「へへっ、あたいの力を魅せる時が来たな。これまで修行した成果ってのを貴族たちに見せつけてやるぜ」
気合いの入った笑みで、ガルルと吠える子犬のようなアーシャ。槍を肩に担いで試験を楽しみにしている。赤毛のポニテと髪型は変わらないが、身体は引き締まっており、この2年間で改善された栄養事情により、以前の痩せこけた姿など欠片もない。
「ガハハハ、まぁ、某が名を広げる最初の催し。この鍛え上げられた筋肉が喜びでピクピクと跳ねているわ!」
そして、大音量で豪快に笑うのは、勝家・シン。僕が助けた男の子だ。助けた時は細い身体でか弱そうな儚げな男の子だったのに、今や戦国武将柴田勝家の転生かなと疑うほどに豪快な性格と、肉襦袢でも着込んでいるのかと思うほど、鍛え上げられたボディビルダーのような筋肉の身体。そしてまだ15歳なのに190センチを超える背丈の漢になっていた。
正直、そばにいると暑苦しいので近寄らないでほしい。なぜこんなクリーチャーに変貌してしまったか、さっぱり分からない。石化の呪いを解いた時は雪の中に咲く花のように儚げで、男の娘にもなれるなと思ってたのに。
「むんっ、フロットリラックス!」
「フロントリラックスでしょ」
ポージングをとって、キラリと歯を見せる勝家を半眼で見て溜息を吐くカナタです。なぜか、勝家は僕の前でポージングをとる。蹴っても良いかな?
「ウザ……。なんでポージングをとるんだよ……」
まだ風が冷たい2月なのに、タンクトップで迸る汗がキモい。汗避けの傘とか必要かも。
「いや、あれは、ポージングできるほどに筋肉をつけた男ってかっこいいよねと、昔呟いた人のせいじゃねーか?」
「へー、そんなことを呟いた人がいるんだ。きっとその人はちょうど漫画を読んでて適当に呟いただけだったかもね」
アーシャがポージングを取り続ける勝家を横目に言うけど、その人の責任じゃないと思うよ。本気にして鍛え続けた人のせいだと思うよ。
「まぁ、二人とも気後れしていないようでよかったよ。僕は少し怖いんだけど?」
そして、この僕アマガミカナタは、この2年で美しさに拍車がかかった。14歳になって、幼さが薄れ始めて、美しさに磨きがかかっていた。
背中まで伸びる銀髪は、風に靡いてキラキラと輝き、天の川のように空を舞う。小顔に纏められる赤い瞳はルビーよりも深い赤で、覗き込むとどこまでも引き寄せられる妖しさと魅力がある。
背丈も伸びて、今や140センチはある。あと10センチ伸びれば150センチになるので、もう150センチと言っても良いだろう。背丈に見合った肢体は、黄金比と言える胸と腰つき、もはや創られた女神と呼んでも過言ではない。
背筋を伸ばして、ゆっくりと歩く姿は結構気合いを入れて練習した。美しさは姿勢から入るしね。以前の姿では必要なかったし、なんならチンピラの歩き方とかの方が必須だったので、まったく縁のない姿勢だったのだ。なので、とっても苦労したよ。
歩いている姿を見て、妖精かなと人が振り向く。そして、カナタの姿に見惚れて、後ろで歩くクリーチャーを見て目を逸らすまでがパターンだ。
もうすっかり慣れたので、気にせずに僕たちはアカデミーを目指す。3人ともなにが起きるか分からないので大きなリュックサックを背負っている。
アトランティスアカデミー。この世界の最高峰の学園だ。僕が必ず入らないといけない場所でもある。
◇
アトランティスアカデミー。この劇の世界に唯一存在する超大陸『アトランティス』の中心に存在するアカデミーだ。超大陸に存在する魔物たちや突然出現するダンジョンの攻略、時折世界を滅ぼさんとする邪神や魔神を倒すために設立したアカデミーである。
カナタがこの2年間で勉強したところによると、この超大陸は前世の地球で存在していたと言われる全ての大陸を合体させた『パンゲア』と同等の広さを持っているらしい。
人口は分かる限りには一億人。多種多様な種族が存在し、多くの街を築いているが、国は一つ。カナタの住む街を首都とした『アトランティス帝国』だけだ。昔は多くの国があったのだが統一戦争が起こり、一つの帝国に纏められた。……まぁ、劇の世界だから、いつ分裂してもおかしくないけど。平和な世界が一転して戦乱の世界にとか、様々なイベントが起きてインスピレーションが生まれるだろうしね。反対に統一戦争が起きた理由も同じ理由からだろう。
この街『アトランティス』は、広さは四国くらいで三千万人の人々が暮らす巨大な街だ。もう街ではないような大きさだけど街らしい。
道理でいくら歩いても、街の端に辿り着かないはずである。街も区で分けられていて、僕の知っていた世界はほんの一部分だということを思い知らされました。
そして僕たちの入る予定のアトランティスアカデミーは、最高峰の戦士や魔法使いが集まる。優れた講師や最高の施設、エリートの登竜門であり、大陸の優秀な者たちが受験にくるのだった。
◇
「ふへぇ〜、なんかキラキラしてる。見ろよ、あれ! 宝石みたいなビルが何棟も建ってるぞ!」
アーシャが興奮した顔で言うけど、たしかに興奮するだけはある。ガラス張りの高層ビルというわけではない。色とりどりの宝石類をまとめて、前衛的なシルエットで建てましたというような不思議な建物だ。建物の一部分は浮いてるし、それどころか、建物自体が動いているのもある。魔法の世界、ここに極まれりだ。
「だが、ここはほんの一部分。アカデミー内は広すぎて、テレポートポータルで移動するらしい。ぐははは、広すぎて父上の建てた私立アカデミーが路傍の石に見えるぞ!」
「一人でアカデミーを維持しているのと、国が維持しているアカデミーを比べないでくださいよ」
駄弁りながら歩くと、段々と人が集まってくる。皆、受験をしに来たんだろう。
ぞろぞろ
そう、段々と。
ぞろぞろ、ぞろぞろ
段々と。
ぞろぞろぞろぞろぞろぞろ
だ、段々と?
ぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろ
「アーシャさん、手をつないで行きましょう、あと、はぐれたら目印はそこのクリーチャーで!」
「これ、人多すぎだぜ! あー、誰かあたいの足を踏んだだろ!」
「ガハハハ、クリーチャーとはどこにいるんだ?」
通勤ラッシュのように、人が集まって、押しくらまんじゅう状態、あ、誰かお尻を触ったな!
津波に流されるか弱い小切れのようにラッシュに流されて、僕たちは受験場に移動するのであった。
シグルドとぶつかったり、高飛車少女と出会ったりというお決まりの受験前のイベントはまったくなく、それどころではなかった。
アカデミーの受験、甘く見てたわ。
ぞろぞろ流されて、ピタリと止まると、空に浮く人発見。スーツ姿で拡声器を手にしている。見ると何人も同じような人が空を飛んでおり、受験生を見下ろしている。
「今期の受験生の第一試験を始めます。第一試験を受かった後に、第二試験を行い、全て受かったら身分証明と受験申請をしてください」
受験申請する前に、第一試験と第二試験でふるい落としするらしい。
「まずは、ここで5分間立っていることが条件です」
クリスタルで作られた杖を取り出すと、試験官は手を振るう。
「ぬぐっ!?」
瞬間、重力が増したように身体が急激に重くなる。まるでダンベルを担いだかのような重さで、気を抜くと倒れてしまいそうだ。
「こ、これが第一試験!? 重っ! これを5分間耐えなくちゃならないのかよ!」
「し、信じられない重さですね、こ、これを耐えるのは至難の業」
「俺にとっては、こんな魔法は児戯にすぎん! ガハハハ、しがみついてくれて良いのだぞ!」
僕とアーシャは座り込みそうになるのをなんとか耐える。筋肉ダルマは微動だにせず、余裕綽々だ。
周りを見ると、まるで屍の山のようにほとんどの人たちが倒れ伏していた。立っている人は勝家のように肉体的な強さで立っているか……魔法で防御壁を作り、魔法を防いでいる。
なるほど、ああいう防ぎ方もありか。
なら簡単だ。この2年間修行した成果を見せよう。
「神よ、子猫に振りかかる災いをお防ぎする力をください」
『荷物軽減』
掃除魔法、家具を移動させるのに使う重量軽減を自分に使う。前までは数キロしか軽くできなかったけど、今は違う。
振りかかる重力は打ち消せないが、自分の体重を軽くするのだ。
綿のように身体を軽くさせ、筋力はそのまま。普段の自分よりも軽い自重になり、僕は涼やかな笑みを浮かべるのであった。




