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悪役に応募した三流役者。異世界での雇用でした  作者: バッド
一章 始まり

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32/53

32幕 魔法の世界の力学

 カナタは訓練場にクオーンと共に移動していた。シン家の訓練場は騎士団も使うため、体育館どころか、サッカー場が二面ほど入るくらいの広さだ。雨でも訓練できるようにドーム型で、開閉可能な屋根、強力な攻撃にも耐えられる強固な魔法付与がなされている床や壁と、私設にしては最高クラスの施設である。


 戻ってきた騎士達が訓練をしている中で、カナタ、アーシャ、まーちゃんがクオーンに連れられて中に入る。メイドの天音は後ろでマネージャーのようにスポドリとレモンのはちみつ漬けを持ってついてきている。口がモゴモゴ動いてるのは、段々と減っていくレモンのはちみつ漬けと関連している可能性大。


「さて、君たちに来てもらったのは他でもない。私のアカデミーに入れる素質がありそうな君たち2人を鍛えるためだ」


「押忍って言えば良いんでしょうか? 押忍っ!」


「えー、今時押忍ってねーと思うぞ?」


「なにしゅるの? なにしゅるの? まーちゃん、オニごっことくいだお」


 空手家のように腰だめに腕をつけて、押忍っと小鳥の鳴き声をあげる美少女カナタ。少しぶかぶかの空手着を着込み、可愛らしい小柄な少女が頑張ってますよアピールに、騎士たちは紳士の扉を開けそうになるのが何人か出てきている。


 アーシャは不敵な笑みを浮かべて、面白そうに立っており、まーちゃんはなんかおもちろそーと、ついてきてます。

 

 ちなみに周りの目があるのでクオーンはカナタも他の人たちと同じように扱っている。


「特に礼はいらぬ。それに編入テストに受からなければ、アカデミーには入れぬしな。学科も勉強してもらうが学科はテストに出る試験用紙を手に入れているので集中的に勉強をすれば何とかなる」


「それ、集中的勉強ではなくカンニングというのでは?」


「テスト前に試験用紙を手に入れられるかもテストに入っている」


「そんなテストある?」


 平然とした顔で言うクオーンの表情は冗談を言っている様子はない。本当にこの世界は不正のオンパレードだな。しかも誰も彼も罪悪感ゼロである。呆れるしかないけど、劇の世界ってこんなもんなのかな。そうだとすると恐るべき世界だ。


「なので学科は気にしなくてよい。それよりも実技が重要だ。実際に魔物と戦闘をするため、誤魔化すと死ぬ。そのため実技だけは不正は許さない」


「学科も不正は許されないはずなんだけどね」


「無論、学科も不正が見つかったらアウトだが、それはカンニングする者たちだけが気をつければ良い。で、実技なのだが基本は身体強化を行えれば問題ない。魔力障壁を使えればトップクラス、マナブレードを発動できるなら首席間違いなしだな」


「あたい、魔力の流れってわかんないんだよね〜、身体強化を使えればスラム街でも簡単に生き残ってこられたのにさ。教えてくれる前に両親は死んじまったし」

  

 後ろ手に、なんともない風にアーシャが呟くが、その目には哀しさからの翳りが見えた。どうもスラム街に来る前は、いいとこのお嬢様っぽい。


「私は体内の魔力を感じますし身体強化も使えますよ? なら、訓練は必要ないのでは?」


 身体強化の強さは身に染みるほど感じている。使うだけで人外レベルになり、もはや普通の人間は敵わない。それを『記憶閲覧メモリーリード』で僕は学んだ。


 しかし、苦笑気味にかぶりを振るクオーンは、壁の側に配置されているサンドバッグ代わりの鉄鎧に近づく。


「カナタの身体強化はゴロツキから覚えた中途半端な身体強化だ。実際の身体強化はあのような弱いものではない」


 クオーンがセリフを口にすると同時に、人差し指を鉄鎧に押し付けて━━。


 ガンと金属が歪む音がした時には、小さな穴が鉄鎧に開いていた。


「これは硬化の魔法付与がされた鉄鎧だ。論より証拠、百聞は一見にしかず。カナタよ、試してみなさい。人差し指でなくてよい、拳でも蹴りでも、この鉄鎧を凹ませることができれば教えることはない」


「わかりました、それでは試してみますね」


 挑発的なセリフを微笑みで買うと、カナタは鉄鎧の前に立つ。


 このカナタ、三流役者といえど得意にして特異なる模倣の能力を持つ。アリのマネをすれば体内からタームが這い出す演技をするし、母親を殺された少年のふりをすれば、機械伯爵を殺す演技ができる。


 模倣は完璧。人差し指で鉄鎧を開けるなんて楽勝だ。殺し屋のように人差し指で簡単に穴を開けちゃうもんね。


「はぁぁぁ~! ていっ」


 鋭く呼気を吐くと、人差し指に魔力を集中させていく。体内の魔力を注ぎ込み、鉄鎧に人差し指を錐のように突き出す。必殺の一撃、豆腐であれば粉々になること間違いなし。


 僕、なにかやっちゃいましたかと、脳内でセリフを繰り返し練習しながらの自信たっぷりのプリティガール。


 ガンと鈍い音が響くと、鉄鎧がかすかに揺れて━━。


「いったぁ〜! これかったぁ〜、硬化付与された鉄鎧ってこんなに硬いの!?」


 突き指した人差し指を押さえて、床にコロコロと転がっちゃうのであった。むちゃくちゃ硬い。とっても硬い。よくよく考えれば、鉄鎧に人差し指を突き出すとか間抜けにしか思えないわ。


「これでわかったと思うが、私は今カナタが消費した魔力以下しか使っていないのに開けられた。違いが分かったと思う」


「僕の魔力以下!?」


 そういえば、クオーンの魔力は僕の魔力。魔力の器はクオーンの方が遥かに大きい。毎日注ぎ込んでいるのに満タンにならないのでクオーンの肉体の性能に苛立ちを覚えていたけど、溜まった膨大な魔力を使ったんじゃないの?


「魔力の使い方は、適当に体内に巡らせたり、集中しても無駄な魔力消費をするだけなのだ。例えると荒れ地に水を適当に流すだけで、すぐに乾く。水路を作り上げ、綿密に展開させて荒れ地を肥沃な土壌に変える必要がある。カナタは鉄筋コンクリートの鉄筋がない状態とも言える」


「わかりやすい説明ありがとうございます」


 たしかにそんな説明はデーンの記憶にはなかった。テケトーに魔力を流して、俺つえぇムーブをかましていた奴だったわ。


 ここにきて、しっかりとした技術を学ばないと落ちこぼれるパターンがきました。修行パートとも言う。


「あ~、あたいもそんなこと聞いたことあんよ。でも、そもそも魔力を感じないからなぁ」


 アーシャも面白がって一緒にコロコロ転がる幼女と僕を見ながら苦笑いする。知ってるなら最初に教えてほしかった。


「うむ、魔力を覚醒させないとそもそもの土台ができない。だが魔力がどこから来ているかわかるかね?」


「魂でしょ。それか魔法生物なら生きた魔石から」


 クオーンの問いかけにはあっさりと答えられる。幽体に泉のように湧き出す魔力は存在しないのは『記憶喰メモリーイーター』で知ってる。


「その通りだ。なので魂の根源から魔力を生み出さないといけない。そして、魂の覚醒は、その者の危機や強き意志でするのだ。そして湧き出した魔力を毛細血管のように肉体内に巡らせて、もう一つの筋肉のように束ねて強力な肉体と化す。それが身体強化の基礎であり、魔法の基礎でもあるのです」


 ほうほう。そういえば『マーモットでも使える魔力運用』の本にもそんなことが書いてあったな。


「えっとその論理だと野生生物で、魔法を使えるのがいるとかですか?」


 マーモットとか、常に腹ペコで食べ物に対して容赦ない欲望があるような気がする。


「魔物のほとんどが魔法を使える理由とか言われてますが、そもそも知性がないと覚醒は起きないのではないかとも言われているから不明だ。ただ野生動物にその論理を当てはめると、一番強くなるのはネズミや黒い虫となるが、実際はそうではないからな。人間のみに当て嵌まるのかもしれん」


 なるほど、たしかにそういうことになるな。時を止める能力者とも互角に戦えるスナイパーネズミとか、虫の能力を使いこなす黒い虫が大量にいたら、すぐに人類は絶滅しそうだし。


「なので人間のみと考えるのがいいだろう」


「そっか……上タンを食べまくって、喉に詰まらせて命の危機を感じて覚醒したのは偶然じゃなかったのか」


 本当は上丹田とか中丹田とか中華系統の修行を勘違いしているんではと思ってたけど、デーンの記憶は間違いなかったのか。


「覚醒後は魔力を高めるために、魂の器を広げていけばよい。常に魔力を使って慣れていけば少しずつ魔力も高まるだろう」


 魔力を枯渇させなくても良いと。それだと少しずつしか魔力が高くならないから、修行方法を少し考え直さないといけないな。


「では、さっそく覚醒から始めていく。カナタは既に魔力に覚醒しているので、残りの2人だな」


「おぅ! ここで覚醒して一気に強くなるぜ!」


「まーちゃんもかんばりゅよ! ドカーンてなればいいの?」


 元気よくアーシャとまーちゃんが手を上げる。やる気満々の二人を見て、クオーンは釣り竿を取り出した。


 釣り竿?


「実は覚醒は、年若いほどにしやすい。昔からある伝統の方法を試してみよう」


 釣り竿に糸を垂らして、クリームパンを結ぶクオーン。ひょいと持ち上げて、パン食い競争みたいにクリームパンを垂らす。


「さぁ、このままだとクリームパンに手が届かないぞ! 覚醒し身体強化をするのだ!」


 伝統の方法らしい。なんか真面目な顔で言うクオーンがシュール。


「こんなの簡単じゃねーか、ほれ、こいつ、あれ、避けるなよ!」


 白けた顔のアーシャが手を伸ばすと、ひょいと躱すクオーン。アーシャが何回手を伸ばしても、闘牛士のようにヒラヒラと躱してしまう。数分後、猿のようにムキになったアーシャがムキーと意地になって取ろうとして、おっさんはワハハと楽しそうに釣り竿を手に走り出す。その後を追うモンキーアーシャ。


「まって〜、まーちゃんもクリームパンたべりゅー」


 まーちゃんも追いかけっこは大好きだよと、おっさんを追いかけて、年若い少女たちから逃げるおっさんという絵面が出来上がるのであった。


「……さて、僕は騎士に身体強化の方法を教えてもらおうっと」


 あんまり見てると通報したくなるので目を背けて、カナタはそこら辺にいる騎士に修行してもらうのであった。


 ━━結果は二人とも覚醒したと告げておこう。

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― 新着の感想 ―
これが紳士のパン食い競争というものか⁉←果てしなく違います。 小学校の時真面目に運動会やってたら覚醒できたかもと思うと悔やまれます(ToT)
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