30幕 リッチスレイヤーカナタ
「凄かったです、お嬢様! 聖女の浄化魔法のお力を見せていただきました!」
「そうでしょうか、まだまだ未熟者でお恥ずかしい限りです。神様への信仰心が全然足りないんでしょう」
パチパチ〜と拍手をしてくれる天音さんに、照れ照れと恥ずかしがるカナタ。くねくねとクネクネ様のように小柄な体を揺らして照れちゃう。敬虔なる聖女としては、まだまだですと謙虚なセリフも口にします。ちなみに信仰している神様は劇の神様なので、一応信者ということになるだろう。なるよね? ちなみにクネクネ様っていうのは都市伝説に出てくる人気の踊り子ね。
照れるけど、今はそんなことをしている場合ではない。
「とりあえずリッチの持っていたアイテムを回収してから、安全な場所へ避難しましょう」
「そうですね、お嬢様。ぐへへ、リッチというだけあって、こいつたくさん高価そうな魔道具持ってますよ! おぉ、この指輪に付いてる宝石、大きいです!」
強欲なるメイドは、とてもではないが映像化できないゲスの笑みで床に這いつくばり、黒い虫のようにカサカサと散らばった宝石を集めていた。見かけと行動がこれぐらい違う美少女もいないだろう。それを見て幼女も面白そうと、コロコロ転がって宝石を集めようとするので教育に悪いからやめてほしい。
だが、たしかにかなりの量のアクセサリー類だ。五本の指に全て指輪を嵌めていたし、ネックレスやブレスレットもつけていた。杖は邪悪で拾ったら、もう外すことが不可能な呪われた装備っぽいけど強力な杖っぽい。ローブは魔力がたっぷり込められた上等な布で織られた貴重そうな物だ。これらで一財産を稼いだとも言える。これだけの物を売れば、もう一生安泰の可能性も高い。
「うへへ、見てくださいよ、お嬢様。この青く海のような輝きのサファイアの輝き。あぁ、いくらするんでしょう。もうメイドなんか辞めて、喫茶店でも経営しましょう。ノーパン喫茶とか流行りそうです。革命的なアイデアと思いませんか?」
「おっさん的なアイデアだから、そのアイデアは口にしないほうがいいと思うよ」
よだれを垂らして、ぐへへと笑うメイドだが、この世界で生きるには、そのルートもありだ。スラム街出身の少女、偶然リッチを倒してリッチな人生を送る。……僕のセンスも天音のことを言えないかもしれない。
「とはいえ、その宝石類は全てアーシャたちの養護院の経営の資金に変えるので、天音さんには指輪一つくらいしか渡せませんよ?」
だけど、この世界で生きる予定のない僕は、そのルートを辿る予定はないのだ。
「へ? ……えぇぇぇぇ! 命を賭けて倒した報酬が指輪一つなんてひどくないですか!?」
僕の言葉を聞いて、一瞬キョトンとしたがすぐに抗議で口を尖らせる天音。文句を言いながら、隠しポケットに、さりげなくアクセサリーを隠していくちゃっかりさんだ。
「まぁ、気持ちは分かりますけど、一気に金持ちになったら、強盗に襲われたり、脅迫を受けてせっかく稼いだ財産を盗られてしまいますよ? 特に横領で脅迫とか受けそうですし。それなら養護院に稼いだ財産を寄付した優しいメイドとの美談にして、少しだけポケットに入れた方が良いよ?」
「……横領なんて冤罪としか言えませんし、私の身体は叩いても埃どころか、小金の音もしませんけど、お嬢様の言うとおり優しさで構成されている身体なので養護院に寄付したいと思います」
「たしかにいくら叩いても誇りは無さそうだよね」
「なんか今のニュアンス違いません?」
「それにクオーンの資金を頼りにすると、買いたい物とかも口にできないかもしれない子たちなので助かります。ありがとうございます、天音さん」
アーシャたちは良い子だから、一方的に貰ったお金では遠慮すると思うのだ。彼女たちにはこれからは普通の生活をしてもらいたい。まぁ、この世界での普通の生活とはどんなものか想像がつかないけどさ。
暖かく振り注ぐ日差しのように微笑みを浮かべてカナタは天音に礼を言うのであった。
ちなみにまーちゃんも飴玉一つで養護院に寄付することを了承してくれたよ。とっても良い子だから頭をナデナデしてあげたら大喜びしてくれた。
そうして、廃ビルを脱出してリムジンにて帰ることとなり、その途上━━。
「セイさん、あのレルムというリッチはキーマンだったんですよね?」
フカフカの椅子に揺られながら、隣でうとうとと舟を漕いでいる幼女を撫でながら呟く。
「はいはーい。皆のアイドル、ヒロインよりも人気の出るモブキャラセイがお答えしまーす」
ポンと煙が噴き出すと、巫女服の小悪魔少女がクスクスと笑いながら姿を見せる。戦闘中はさっぱり姿を見せなかったくせに、こうも簡単に姿を見せるとはね、悪意たっぷり、倍盛りどころか3倍盛りだ。
「で、繰り返しますが、あのリッチはキーマンなんですよね? 今回の僕たちとは違うキーマン」
ほとんど確信はしているが、一応裏取りはしておきたい。冷たい視線で、空中でヒラヒラと舞うパンチラ巫女を睨む。エッチな姿で人気を取ろうとするあざとい悪魔め。
「はい。彼は卒業したので教えても構いませんと本体から知識を得ました。その通りです、彼は100年前のキーマンの生き残りですよ。自身の願いを叶えるポイントを得るために、リッチ化して長生きをしていたキーマンです」
教えてくれないかもと思ってたけど、あっさりと教えてくれたな。にしてもリッチ化してたのか。
「100年も生きてきた? そんなに膨大なポイントでどんな願いを叶えるつもりだったんですか?」
「予算一兆円の本物の街を使ったエキストラ100万人を使ったゾンビ映画を撮影したいという願いです」
「ん〜……思ってたよりも壮大な願いだった」
リアル志望にも限度がないかな?
「彼はポイントがギリギリ足りませんでしたので、願いを叶えることはできませんでした。なので、残念賞としてマービンという幸せな家庭を持つ警官に転生させたので今頃はビデオカメラを片手に人生を楽しんでるでしょう」
「せめてバリーとかにしてあげてよ。その警官の配属地ラクーンシティとか言わない?」
願いを叶えるポイントが足りずに卒業した末路が酷すぎる。さすがは邪神。
「にしても、リッチを倒せるとは意外でした。レルムは貴女がキーマンの可能性を考えていましたが、初心者であろうとも予想をしておりました。突如として名声を得る人間の1%はキーマンの可能性がありますからね。なので初心者狩りでポイントを稼ごうとしていたんです」
「撮影となれば、僕にも勝てる可能性を持たせないといけなかったから、レルムにとっては最悪の相手でしたか。僕の臨機応変さと優れた頭脳は、他人を寄せ付けませんからね」
なるほど、キーマンたちは際立って目立つことになるから、他のキーマンたちは名声を得た人間を怪しむわけだ。だけど、この世界は作られた劇の世界。名声を得て目立つエキストラは多いのが救いか。その分バレにくいからね。
「そこまで自画自賛をするカナタさんに小生は少し引いていますが、予想外なのはたしかでしたね。負けようがない鉄板レースだったのに、まさか相手が自分の天敵だとは思っても見なかったのでしょう」
「そうですね、おかげさまでジャイアントキリングができましたし」
セイはケラケラと笑っているけど……どうかな、仕組まれた組み合わせだった気がする。よりにもよって、幽体を喰う『記憶喰』とライフベッセンを持つリッチが直接戦うことになるか? しかもレルムはこの撮影で残りのポイントを稼いで卒業する予定だった。それなのに失敗したんだから死んでも死にきれないだろう。
どことなくイカサマのような気がする。最後の最後でポイントを奪い取って願いを叶えない詐欺師のやり口だ。
セイを見るが、元々そんな知識を共有していないのか、嘘をついていたり誤魔化している様子はない。限られた知識しか与えられない分体の強みだろう。こちらは情報を得ることが難しい。
(僕もあと少しで願いを叶えるポイントになりそうな時は気をつけないとな。どこに落とし穴があるか分からないし)
邪神のやり口に、ため息を吐いてしまうが━━。
「パンパカパーン、ではこれより、カナタさんが悪役として活躍した今回の報酬をお渡ししまーす!」
「おぉ、ポイントを貰えるとは思っていませんでした」
「『詐欺師聖女はリッチを倒す』ですね。インスピレーションは他世界に広がり、勘違いものから、詐欺師が弱いのに頭を使って勝つといったものまで、様々な物語が作られています。おめでとうございます、カナタさん、なんとぉ、100万ポイントのプレゼントです。勝てる理由はない戦闘であったのが受けたようですよ」
ビシッと人差し指をつけて、カナタに告げてくるセイ。
「100万ポイント!? おぉ、これで私も一流の役者と同じスタートに立てたってわけですね?」
ドラにして1億ドラ。一人の役者が貰える報酬としては大金だ。むふーと鼻息荒くカナタは興奮してしまう。こんな大金は前世では貰ったことはおろか、見たことも聞いたこともオファーを冗談でも受けたことはない。
やったぁと、ぴょんぴょん椅子の上で跳ねる子兎のように可愛い美少女だ。これでスタートアップパックが買えるよ!
「いやぁ~、まさかいきなりこんな大金を稼ぐとは私もカナタさんのジャーマネとして鼻が天まで伸びる勢いですよ! これからも期待できますね!」
「ありがとうございます。これからも粉骨砕身頑張っていきます!」
「あと、一番視聴率の高かったシーンは骨の腕の間に挟まってスカートの中身が丸見えとなっていたシーンでした」
「まぁ、そういうもんだよね……」
やはり美少女は強いと内心複雑な気持ちで、口元を引き攣らせて作り笑いを見せるカナタであった。いつの時代もエロが強いのね……ちくせぅ。
━━後日、リッチを倒した凄腕のホープとしてカナタたちはリッチスレイヤーと噂が広がる事となるのであった。




