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悪役に応募した三流役者。異世界での雇用でした  作者: バッド
一章 始まり

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29/52

29幕 詐欺聖女浄化魔法

「聖女最高の浄化魔法を魅せましょう!」

 

 カナタは骨の隙間から飛び出ると、リッチへと駆け出す。その自信に満ちあふれた慈愛すら感じさせる神秘的な微笑みは、リッチに警戒を持たせるのに充分であった。


「さっきまでは逃げ回っていたのに、今さら最高の神聖魔法だと!? 今まで時間稼ぎをしていたとでもいうのか?」


「その通りです。僕を倒すのに時間をかけすぎましたね、レルム!」


 神聖魔法など少しも使えないのに、真顔で虚言を吐く少女、その名はアマガミカナタ。表情は真面目そのもので、嘘をついている様子など欠片も見せない。


「神よ、貴方の子兎が危機に陥っております。キューキュー鳴いて大ピンチなので力を貸し与え給え!」


 必殺の印を手を組み合わせて切っていく。


「りんぴょーとーしゃーかいじんれつざいぜん!」


 オリジナルの印を素早く空に切っていく。オリジナル、オリジナル神聖魔法なのだ。美少女が頑張っているので反論は無しだ。


 もちろんふざけているわけではない。魔力を指に込めて空中に切るとライブで使うサイリウムライトのように光が空中に残る。なんとなく神秘的な感じがするよね? あと見栄えがします。見栄えは撮影ではとても重要なんだ。


 ピピッと白魚のような指で九字を切り、巨大な骨の腕に手を添えると、スキルを発動させる。


「最高浄化魔法、キューキュー浄化!」


記憶喰メモリーイーター


 スキルを発動させると、骨の腕が手を添えた箇所から溶けていき、空中へと霧散していく。


「なにっ!? この我の召喚スケルトンをあっさりと浄化するのか!」


 驚愕で呆然と口を開けるレルムを薄笑いで返しながら、骨の腕を滑るように触り、溶かしながら駆けてゆく。


 この手品のタネは簡単なものだ。


(アンデッドたちは魂と幽体にくたいが分離して、邪悪なる力で幽体にくたいが操られていることをいう。だからこそ不死である状態のことをいうのだ。即ち、幽体を食う僕の『記憶喰メモリーイーター』とは相性抜群。耐えられるはずはないんだよ!)


 『記憶喰メモリーイーター』にて、アンデッドたちを喰い尽くす。実をいうと、この技は当初から分かっていた。『記憶喰メモリーイーター』の知識が教えてくれたのだ。


 僕の『記憶喰メモリーイーター』はアンデッドたちに対して即死を与える効果を持っていたのである。


 だから実はレルムは最初からいきなり倒す事ができた。ライフベッセンで魂を分離していなければ。


(魂を肉体に封じているリッチなら、出会って即喰えたんだけど、ライフベッセンだと復活されるから手が出せなかったんだ。タネが分かれば、きっと魔法で攻撃してくるだろうからね)


 まさか自身の召喚スケルトンが浄化されるとは考えてもいなかったリッチは、骨の杖をこちらへと向けてくるが、その動きは動揺しているために緩慢で魔法の発動が遅い。


「くっ、怪しげな詠唱ではあるが、その力は本物であるか! だが、簡単に我を倒せると思ってもらっては困る!」


骨棘壁ボーンウォール


 レルムは攻撃をするよりも自身を守ることに決めたらしく、自身を守る骨が組み合わさった壁を生み出す。棘のように骨が壁から飛び出しており、触れるだけで痛そうだ。


「天音さん!」


 だが、対抗策はもう考えてある。


「お任せを! シン家奥義ホーリークラッシャー!」


 カナタの横合いから飛び出すように不敵な笑みを見せて天音が通り過ぎると、神聖力を拳に込めて骨の壁へと叩き込む。パキリと骨にヒビが入ると真夏のアイスのように骨の壁は溶けていき、拳撃により破壊される。

 

 いかに高位の魔法であろうともネクロマンサー系統の魔法では神聖力に弱すぎるのだ。


「チィッ、油断したか!」


「えぇ、貴方はデスゲームにこだわりすぎました!」


 僕はリッチの懐に入ると、半身となり拳を繰り出す。正拳突きによる一撃だ。小柄な体躯で、細っこい腕、小さな拳だが、身体強化のかかった一撃は、鉄板すらも打ち抜く。


「せいっ!」


「簡単にやられるかぁっ!」


 だが、必殺の一撃と繰り出した拳は、寸前で骨の杖に阻まれてしまった。格闘戦は苦手そうだが、豊富な魔力により強化された身体の反応速度で無理やり防いだのだ。


「なんとぉっ!」


「近づかせるか!」


 すぐに拳を引き戻し、連撃に切り替える。脚を踏み出して、腰の回転を利用しての、高速の連打。マシンガンのように高速の連打がリッチを襲い、その体を砕かんとする。


 しかし、リッチもカナタの拳に合わせて、骨の杖を繰り出して、一つ一つの拳撃を丁寧に弾き返す。


「お嬢様、加勢します!」


 天音も戦いに加わり、2人で挟み込んでの攻撃。カナタよりも遥かに高い身体強化を使う天音の攻撃にリッチは対応できずに、その身体に神聖力の籠もった拳を受けてヒビが入っていく。


 カナタと天音の高速での攻撃。土埃が舞い上がり、ぶつかり合う破裂音が響き、お互いの立ち位置が入れ替わり、激しい戦闘が続く。


「ここまで接近されては魔法が使えんっ。しくじったか!」


「近接攻撃に弱いのは魔法使いの弱点ですね。僕たちを侮り、接近しすぎた貴方の負けです!」


 じわじわと肉体を削られていくリッチが、忌々しそうに呟き、僕たちはさらに攻撃を詰めていく。ここまで近接すれば、もはや魔法を使う余裕はない。


 このままいけば、レルムの展開する魔力障壁を破壊して、その肉体に触れることができる。そうしたら、『記憶喰メモリーイーター』によるタッチで終わりだ。


 だが、リッチはそんな簡単に倒せる相手ではなかった。


「ならば切り札を見せよう。あまり使いたくなかったが仕方はあるまい」


「んにゅっ!?」


 レルムがローブを翻すと、ローブが中から膨れ上がり━━。


 二本の骨の腕が脇腹から飛び出してきた。


「万が一の切り札は常にとっておくものなのだよ!」


 その手には2丁のリボルバー。ギラリと鉛色の銃口が光り、カナタたちへと向く。


「銃っ!?」


 銃口から逃れるために側転して大きく横にずれると同時に銃声が響き、外れた銃弾により壁に穴が開く。


「驚いたかね? これは魔法処理された特殊魔道具だ。その値段は一丁五百万ドラ! 魔法弾は一発五万ドラ! 宝石を使い捨てるかのような贅沢な銃弾により喜んで死ぬが良いっ!」


「魔法ではなく、最後は銃とかリッチとしての誇りはないんですか!?」


 これはヤバいと、銃弾から逃れるべく、小刻みにステップを踏んで、ジグザグに移動しながら、レルムを罵る。


 わかってはいたけど、やっぱり銃もあるのね! 対魔獣のために魔法付与された高価な物が!


「リッチは金持ちなのだからまったく問題ない! この銃は魔獣も殺せるが、人間ももちろん蜂の巣に変えることができるっ! うははは、死ねっ、死ねっ!」


 引き金を引くことをやめないプライドゼロのリッチ。銃弾を躱すことはさすがにできずに、頬を掠り、太ももを削っていく。焼きごてでも当てられたかのように強い熱と痛みがカナタの体を襲い苦痛で顔を歪めさせてしまう。


「うははは、うははは……」


 カチッカチッ


「……弾が尽きたよぉ」


 だが残念ながらリボルバーは6発しか入っておらず、あっという間に空となって、虚しく引き金を引く音が響くのであった。


「チャンスです! シン家奥義カウカウクラッシャー」


 その隙を逃さずに、天音が魔力の籠もった強烈な踏み込みで間合いを詰めると、リッチの頭蓋骨を掴むと押し倒そうとする。


「ナイスです、天音さん! 合わせていきますよ!」


「オーケーです、お嬢様!」


 カナタも天音の動きに合わせて、床を滑り込むと、両手を床に着けて逆立ちとなり、倒れてくるリッチの頭蓋骨に両足を繰り出す。


「アマガミ奥義天地逆転スピントゥキック!」


 天音の膝蹴りに、カナタの蹴り。合わせた2人の蹴りが頭蓋骨を挟み込む。


「ツインドッキングキック!」


 2人の声が合わさり、リッチの魔力障壁を打ち破り、頭蓋骨を粉々に破壊するのであった。


記憶喰メモリーイーター


 素早くスキルを発動させてレルムの肉体を吸収する。レルムの身体は溶けていき吸収し、メモリーブックに登録されて━━。


「脱出!」


 リッチの身体から驚くことに、手のひらサイズの小さなスケルトンが飛び出してくると、まーちゃんへとトテトテと走り出す。


「ぬぉー、ここで死ぬわけには、死ぬわけにはいかぬっ! 幼女よ、そのライフベッセンをよこすのだ! それさえあれば復活できる!」


「やー、これ、まーちゃんがみつけたんだもん。キレーキレーだから、たからものにしゅるの」


 隅っこで見学していたまーちゃんにしがみついて、ライフベッセンを奪おうとするリッチだがちびっ子スケルトンになった外見と同じく力もほとんどないようで、幼女と引っ張り合いをして負けていた。


「ほぉ~、ここはあれですか、冥土の土産をあげたほうがいいんですか?」


「ポケットに飴玉あるんですけど、これで良いですかね?」


 ざりっと足音を立てて、カナタたちは後ろに立ち冷たい目で睥睨する。レルムは僕たちを見て、後退りしながらワタワタと手を振る。


「……負けを認める。だから見逃してくれぬか? もう貴様らに手を出すことしないと約束しよう」


「古今東西、その約束が履行されたことがないことは自身でも知ってますよね?」


 天音から飴玉を受け取ると、まーちゃんとライフベッセンを交換して、手に持つ。紫色のオーブはその中に禍々しい魂を封じてあるようで、見るだけでも嫌悪が湧くな。


「さようなら、レルムさん。キーマンの貴方が来世には幸せであるように祈りますよ」


「ぎゃ、ぎゃぉぉぉぉぉぉ、まだポイントが、願いを叶えるには、もう少しポイントが必要なのだァァァァァァァァァァァァ!」


 僕は軽く手に力を込めると、ライフベッセンを破壊するのであった。


 地獄の底から響くかのように、レルムは悲鳴を上げて、その骨の身体が砂のように崩れ去り、風に撒かれて消えていく。


「? キーマンってなんですか、お嬢様?」


「強敵だったという意味です」


 天音の質問を受け流し、銀髪の少女はクスリと微笑む。


 あのリッチは僕たちよりも前の世代のキーマンだったのだろう。


 なぜわかったか? それは簡単だ。


 いちいち大きなリアクションに、デスゲームなど、一方的に戦闘が終わらないようにする配慮。


 そしてなによりも、簡単に幼女を殺さなかった。映倫的に幼女を殺すのはアウトだからだ。


 あのリッチは、自身で考えた何かしらの撮影をしていたってわけだ。


 裏技的に倒したけど、ホラーコメディ的には良かったんじゃないかと、頬から流れる血を拭いながら、カナタは撮影が終わったことに安堵するのであった。

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― 新着の感想 ―
幼女がでてくるまでは面白かったです。
演出に拘り過ぎましたか。まあ、ポイントは残念だけど、評価はそこそこ高かったのでは、レルムさん。 リッチとコガネムシではどっちが金持ちですか?
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