28幕 宝探しと言う名のデスゲーム
『スケルトン召喚』
リッチがパチリと指を鳴らすと、魔法陣が瞬時に描かれて、スケルトンたちが這い出してくる。さっき防がれたことを学習して掃除魔法を使われる前に短時間で発動できる下位召喚魔法を使ったようだ。続々と現れて既にその数は20体はいる。
「さぁ、スケルトンによる饗宴を楽しんでくれ給え。その生が尽きるまで。絶望と苦痛の叫びに喉が枯れるまで」
リッチは楽しげに、これから起こる惨劇のゲームをリアクションマシマシで告げる。
「もちろん戦っても良い。全て無駄に徒労に終わるがな!」
「死のデスゲームの始まりと言うことですか!」
「死とデスが被ってるからテイクツーを求めるがな!」
しまった、ミスっちゃった。
セリフをとちるカナタを注意しつつ、骨だけの人差し指をレルムはカナタたちに向けると、その指の先端に魔力を込める。
『マジックミサイル』
手のひらサイズの小さな魔法陣がいくつも空中に展開すると、10本近い光の矢が放たれて、高速で宙を駆ってくる。
「お嬢様、お下がりを! シン家奥義、オーラーフィールド!」
天音がカナタの前に出て、両手を広げると神聖力の障壁を前面に展開する。敵の攻撃を軽減する防御技だ。
「くっ、初級魔法なのに、この威力なんてっ!」
シールドを貫いたマジックミサイルは天音の身体を穿ち、服が破れていき、鮮血が舞う。天音としては、掠り傷にもならない魔法だと予想していたために、想定外の威力に痛みもそうだが、動揺の方が大きく、身体を揺らめかせてしまう。
その隙を狙い、スケルトンたちが骨の腕を伸ばして、自身と同じ死者を増やそうと捕らえようとしてくる。
「援護しますっ、天音さんは後ろに下がってください!」
蹌踉めく天音の横を通り抜けて、骨の腕を掴みスケルトンの関節へと肘を食らわせて、あっさりと折れた腕を放り、身体を回転させると顎へと肘のかち上げを与える。パキッと乾いた音を立てて、頭蓋骨が床に落ちるのを横目に、左右から迫るスケルトンたちへと、綿毛のようにふわりと浮き上がると、ソバットの連撃で迎撃する。狙いはスケルトンの頭蓋骨、予想よりも遥かに簡単にスケルトンたちは倒れ伏す。
ガッシャンと音を立てて、スケルトンたちが足元に崩れると、その骨の欠片がスケルトンたちの進行を防ぐのを見て、カナタはバックステップで後ろに下がる。
「予想よりも遥かに弱いですね、スケルトン」
「最下級のモンスターですから、倒すのに苦はないのですよ、お嬢様。ですが、スケルトンの筋力は見かけよりも強く、一度掴まれると抜け出すのに時間がかかるのです。数で押されるといつの間にか見動きできずに倒されるパターンが多いんです。しかも今回はリッチがいるので見動きできなくなった時点で魔法で狙い撃ちされてしまいます。そうしたら、私たちおしまいですよ」
「なるほどです。スケルトンは肉壁にもなり、魔法使いにとっては使いやすい召喚モンスターとしてはコストパフォーマンスが良いということですか」
立ち直った天音がしなやかな動きで、スケルトンたちを蹴り砕きながら教えてくれる。ゲームでも漫画でも、召喚モンスターのスケルトンは使いやすかった設定が多かったけど、現実でもそうなのね。
「だけど、本来ならこんなふうに立ち止まっているだけで僕たちは殺されているはずですよね?」
高位のアンデッドであるリッチは、強力な魔法を無数に使えるはずで、カナタたちを殺すことなど簡単なはず。さっきは油断していたので、天音はクリティカルを出せたのだ。油断をしていないリッチはカナタたちなど羽虫でも殺すかのように殺せておかしくない。
だが、リッチはカラカラと骨の笑いを見せるのみで、マジックミサイルを撃った後は手を出すこともなく、見下ろすようにカナタたちを見ている。
「どうやら趣味の悪いゲームに参加させられたようです。天音さん、ここは残念ながら宝探しに強制参加するしかないようです」
「同感です、お嬢様」
「逃げている間に、聖女最高の魔法を用意しますので、絶望せずにお付き合いください」
僕は市井の聖女。リッチなどあっさりと倒せる神聖魔法を使えるのだと自信に満ちた笑顔で天音へと告げる。聖女の最高魔法を使うには、時間が必要なのだ。
後ろに下がると、錆びたドアに蹴りを入れて、カナタたちは廊下に飛び出す。後ろからはカチャカチャと骨の噛み合う音を立てながらスケルトンたちが追いかけてくるのであった。
「ふはははは、逃げろ、恐怖で顔をゆがめ、途中で転びパンチラサービスを見せながら逃げ惑うが良い!」
その後をリッチがゆっくりと追い、あれだけ騒がしかった部屋に静寂が戻る。
「宝探しでしゅか?」
床にお座りしてポツンと残された幼女がワクワクした瞳で呟くが誰も気にすることはなかった。
あと、やっぱりデスナイトは腕をパタパタさせていた。
◇
「といやっ!」
スケルトンたちの手を逃れて階段を登っていくと、前方からもスケルトンたちが姿を見せてくる。
掴もうとしてくるスケルトンの腕を掴んで一本背負い。身体強化をした身体なのでスケルトンの身体はまるで小枝でも持つように簡単に投げ飛ばせた。ついでに後ろから迫ってくるスケルトンたちへと投げ飛ばして、一緒に薙ぎ倒す。
「どれだけスケルトンを召喚すれば気が済むんですか!」
階段を登り、放棄されたオフィスルームをざっと見ながら愚痴る。
倒れたビジネスデスク、転がっている椅子に、扉が歪んで斜めに立て掛けてある錆びたロッカー。観葉植物が植えられていたのだろう土が零れた植木鉢。
「助かりました。予想よりも残っている備品が少ないから、ざっと見渡すだけでライフベッセンがないか確認できますね」
「はい、ロッカーの扉をしっかりと確認するくらいで済みますから、一つ一つの部屋を調べるのに時間はかかりません」
蹴りで軽々とロッカーの扉を吹き飛ばして、中身が空なのを見て舌打ちしながら、天音がさらに駆け出す。神聖力に包まれた天音はスケルトンに触られることも許さずに突き進めるので、強力なブルドーザーのようだ。
だがそれは、スケルトン相手であればの話で、リッチの相手にはならない。
「そら、まずは巨大なる骨の手から逃れられるかな?」
『巨大骨腕創造』
リッチが腕を振るうと黒き魔力の流れが可視化できるほどに濃密に部屋へと広がりスケルトンたちを包み込む。
スケルトンたちが魔力に触れると、砂のように全てのスケルトンたちが崩れていく。
「なにかヤバい魔法の気がします!」
「同意します。どうやら私たちを甚振る方法を考えついたようですね」
慌ててダッシュで部屋を抜け出そうとするが、その間に骨粉は集まっていき、オフィスルームを埋め尽くす大きさの骨の腕へと変貌した。手のひらを広げるとカナタたちをひとつかみで潰せる巨大な怪腕だ。
「骨が砕け、肉が潰れても後で他の素体で補完して蘇すので安心するが良い」
「全然安心できないセリフをどーも。つぎはぎだらけの美少女のゾンビはニッチなファンしかつかないからおすすめしませんよ!」
レルムが高笑いをして、それを合図としてか怪腕が掴みかかってくる。椅子を押しのけてビジネスデスクを押し潰し、天井や床を削りながら迫ってくる怪腕。捕まったらおしまいだ。
「くうっ!」
「なんとぉ!」
カナタと天音は迫る怪腕を前に横ステップで弾くように床へと転がり、死の腕から逃れる。怪腕の勢いを止まることなく、前へと進みコンクリートの壁を掴み、大穴を開けて粉々にする。
「いつまで躱せるか見ものだな!」
ムカつく笑いでリッチが杖を振ると、その動きに合わせて怪腕も横に薙いでくる。
「天音さん、骨の腕はスカスカです!」
この攻撃は普通なら躱せない。普通ならば。
「巨大すぎる骨の腕が弱点となります! こんなふうに!」
ぴょいんと跳ねるとカナタは骨の腕の隙間に身体を押し込める。これが肉体があれば不可能な回避の仕方であったが、骨だけなら話は別だ。結構骨の腕はスカスカなんだよ。
天音も骨の間にうまく身体を押し込めて敵の攻撃を回避する。怪腕はなんとかカナタたちを掴もうと手を動かすが哀しいかな、自分の手のひらでは絶対に腕に触れるのは不可能。なので、パントマイムでもするかのように、手のひらをヒラヒラと動かすに終わるので少し間抜けな光景だ。
「貴様っ! ゲームで安地を探すようにセコい行動をとるんじゃないっ! ゲーム実況とかでそれをやったら炎上するからなっ!」
「僕だってかっこよく回避して、ペチペチ攻撃をしたかったですぅ〜。でも、今の僕はレベル1の冒険者も同然だから路線を変更したんです。シリアスなシーンも入るホラーコメディでいこうと!」
骨にしがみついて、ブーブーと口を尖らせて怒り狂うリッチに抗議する。シリアスな映画を撮影したかったら、もう少し僕が成長するまで待ってほしかったよ。
「ちっ、カメラワークをしがみついている少女の真下からにすれば、エロスな撮れ高もあるか……。だが、我はホラーコメディが嫌いなのだ。これなら他でやり直した方がマシだ。聖女よ、セコい逃げ方をした自分を恨むのだな。魔法にてすりつぶしてやるわっ!」
いちいち発言がスレスレなリッチだが、聖女との戦闘は諦めたようで、杖に紫色の魔力を集めていく。お遊びはやめて、本気で殺すつもりになったようだ。
「ですが本気になるのが遅かったようですね。もうライフベッセンは見つけたようですよ!」
「なにっ!? そんなバカな」
にやりと笑う僕へと訝しげな声を上げるリッチだが━━。
「あいっ! まーちゃん、らいふべーべーみつけまちた。みつけたごほーびなにかな? なにかな?」
通路からぴょこりと頭を覗かせる幼女。その手には虹色に煌めくオーブがあった。
「ほぉぉぉぉぉ!? なにゆえ? なぜ見つけられた!? 最初の部屋に隠しておいたはずなのに!」
「んと、ゴミばこをひっくりかえしちゃったらありまちた! まーちゃんえらい? えらい?」
さすがは座敷幼女。幸運はカンストしてる模様で、ふんふんと鼻息荒く満面の笑みだ。
「くっ、そのオーブから手を離せぇぇ! 貴様如きが触れてよいものではないっ!」
激昂するリッチが幼女を追いかけようとするが━━。
「ライフベッセンを見つけたらこちらのものです。聖女最高浄化魔法を魅せて上げましょう!」
カナタは小悪魔のように嗤うと、骨から飛び出すのであった。




