27幕 ハデスの大司教レルム
「まさかリッチ! なぜこんなところに!?」
天音さんが敵の正体を教えてくれるが、その姿からリッチであるのは教えてくれなくても分かってしまった。
だって有名すぎるモンスターだ。高位のアンデッドにして、ゲームなどではボスキャラとして扱われるモンスター。大体の設定では、大魔法使いが永遠の命を手に入れようとした成れの果てとされている強力な魔法使いでもある。
骸骨を包むローブは高級そうで、明らかに強力な魔法が付与されてますよとばかりに色艶が輝いているし、骨の手に持つ杖はゴテゴテと宝石がついていて、強力な魔道具だ。ネックレスや指輪もジャラジャラつけていて、どこからどう見てもリッチ。
「お嬢様、金持ちのスケルトンだからリッチという名前じゃありませんよ!?」
「あれ、声に出てた? でもリッチの名前の起源って金持ちの魔法使いから来ると思うんです」
「むむむ、たしかにその可能性はありますね。今度私の名前で金持ちの魔法使い説を学会に申請しましょう」
軽いジョークだよと天音にぺろりと舌を見せて笑うと、リッチに向き直る。
「リッチのレルムさん。どうして僕たちを狙うのか教えてくれませんか?」
「分からぬか? まぁ、分からぬだろうな。冥土の土産に教えてやろう。1つ目はどうやったかは分からぬが、クオーンの力を取り戻したこと。せっかく邪魔な英雄の力を奪い取ってやったのに余計なことをしてくれたものだ。2つ目は大切な生贄の儀式を邪魔したこと」
骨の指を折り曲げてカタカタと骨の顎を鳴らしながらレルムは語る。どうやらクオーンを元に戻したことが気に食わないらしい。いや、本来のクオーンは死んだんだけどね。秘密で言えないけどさ。
「まぁ、それくらいならお前よりもクオーンを狙う。が、貴様を狙ったのは、他にも理由がある」
カタカタと嗤うと窪んだ眼窩に存在する燃える青白い炎が噴き上がるように燃え盛る。
「3つ目。貴様が後ろ盾もなく名門の家門出身でもなく、それでいて強力な神聖魔法を使う聖女だからだ! 聖女はアンデッドにすると強力な触媒となるからな。吾輩が自ら姿を現すほどに希少な素材なのだよ」
掃除魔法しか使えない美少女へと告げるリッチ。なるほど、本物の聖女なら良い素体になったんだろうね。本物なら。
なんと答えようか迷ってしまう。実は掃除魔法しか使えない手品が得意な詐欺師ですと、本当のことは絶対に言えない。これを自業自得と言うのかな?
「聖女をアンデッドにすれば、高位のアンデッドである『死の聖女』や『訪れる病魔』にもなれる。これほどのチャンスを逃すほど、吾輩は愚かではないのだよ」
期待に満ちた声で高笑いをするリッチだけど、そんな立派なアンデッドではなくて、不死の詐欺師幼女とか爆誕するかもね。
「どうやら、お互いに譲れるところはなさそうですね」
「まさに! その通りである。精々抵抗してくれ給えよ?」
残念ながら、リッチと戦闘開始!
◇
「さぁ、まずは吾輩の剣であり、盾である優秀な
眷属を見せてやろう!」
『デスナイト召喚』
床に描かれている魔法陣がレルムが杖を振り上げると、放たれた魔力に呼応して赤く光っていく。そして、魔法陣の中心から、なにかが姿を現そうとしてきた。
糸で何枚もの皮膚を乱雑に縫われたスキンヘッドの頭がせり出してきて、その目は赤く、感情を感じさせない。首元からは鉄光りを見せる漆黒のコートを着ているのが分かり、体格はまるでオーガのように巨漢だ。腕はゴリラよりも太く、盛り上がった筋肉はコートを羽織っていてもよくわかる。
明らかに高位のアンデッドだ。生気を感じさせない上に強者の恐ろしき威圧感もある。一目見ただけで分かる。あれは今の僕では敵わない。肌で敵の強さを感じるのだ。
しかし、僕は聖女である。対抗策はある!
「でも、召喚させるわけにはいきません。聖なる力よ、悪しき魔法陣を消し給え」
ぺたりと小さなお手々を床につけて神に祈る敬虔なる詠唱を唱える。
『落書き清掃』
カナタの身体から溢れる光は、まるで花が咲くように花びらを模って、部屋を埋め尽くしていく。リッチの描いた魔法陣は、魔力により描かれたお絵描きと判断されて、掃除魔法にやれやれ落書きは駄目よとばかりに消え去っていった。
傍目からは強力な浄化魔法により解呪されたように見えたが、内情は落書き清掃であった。なので魔力は霧散できないから、中途半端に魔法は発動し魔法陣による補強がなかったため、デスナイトは上半身だけが床からせり出してきた情けない感じになるのであった。
パタパタと手を振って、なんとか抜け出そうとするデスナイトだが、もはや召喚門は閉じているので、どうしようもなかった。ちょっと情けない。
「見ましたか、僕の浄化魔法によりタイラ」
「おのれぇっ、我が傑作のデスナイトにちょこざいなことを仕掛けてくれたな!」
フンスと胸を張るカナタに、レルムは怒りの形相で歯を鳴らして口を挟む。まさか召喚中に妨害されるとは思ってもなかったのだろう。
「上半身だけでは、いかに強力なモンスターであるタイラン」
「許さぬ、許さぬぞぉっ! デスナイトを作るのに掛けた膨大な時間と高価な触媒の数々を無駄にしおって! デスナイトを無駄にした代価は支払ってもらおうか! 覚悟せよ、聖女よ!」
僕のセリフを最後まで言わせてくれることなく、レルムは手に骨の杖を呼び出すと、杖を向けてくる。
「だが、我は魔導の叡智を持つ者。老いを覆し、不死となった偉大なる魔法使いなり。汝のような定命の者1人程度、相手にもならぬ、1人?」
自身の力ならば、カナタたちなどあっさりと倒せると自負しているレルムだが、セリフの途中でいつの間にか天音とまーちゃんがいないことに気づくが━━もう遅い。
レルムの後方から天音が猛獣のように飛び込んでいくと、頭蓋骨に膝を食らわす。その身体は神聖力により仄かに光っており、アンデッドであるリッチにとっては致命的な威力を持っていた。
「うぬっ!? こいついつの間に、我が背後をとったのだ?」
「魔法陣を作るのに集中しすぎですよっ! 魔法使いはいつも魔法を使う時に周りへの警戒を怠るから囮がいれば楽勝なんですよっ!」
驚くリッチに、天音はさらにその頭蓋骨を掴むと膝を押し付ける。護衛対象を囮と言いのけるメイド。この作戦をこっそりと告げた時に二つ返事で躊躇いなく頷いた護衛のはずの天音は全身でリッチを押し倒す。
「ジャイアントキリング、これからはリッチスレイヤーの天音と皆は噂して、この美貌から芸能界にスカウト、後に私もメイドをしていた辛い時があったとインタビューで語る未来の一撃!」
『カウカウクラッシャー』
訪れるであろう輝かしい未来を夢見て、ニョホホと笑い天音は神聖力を込めた一撃でリッチを床に叩きつけて、その頭蓋骨を落とした花瓶のように破壊するのであった。
骨が細かくバラバラと散り、リッチの手が力なく床に落ちる。高位のアンデッドであるリッチではあり、普通では倒せないはずの人外の化け物は遥かに格下の人間に倒された。
予想以上に作戦がうまくいったねと、カナタはふんふんと鼻息荒く深呼吸。雛が餌を求めてぴぃぴぃとお口を開けると、キラキラとしたお目々で叫ぶ。
「やったか!」
満を持しての心のこもった美少女の叫びである。もう、期待でワクワク、お胸をドキドキと震わせてのセリフだ。
テンプレと言うなかれ。このセリフを言える役は貴重で、しかも脇役であっても観客の目に留まる可能性の高い美味しい役なのだ。SNSとかで、テンプレを言った脇役の人とかでトレンドになる可能性もあるのだ。サイコロ先輩とか、最強爺(笑)とかとあっさりと倒されるキャラと同じ扱いだ。三流俳優アマガミカナタ、一度言ってみたかったセリフである。
ちなみに次に言ってみたいセリフは、ここは俺に任せて先に行けだ。このセリフは準レギュラークラスでないと言えないセリフなので先は長い。
「ふふふ、お嬢様と呼ぶのも今日限りかもしれません。横領したお金を使って、人に噂を広めさせる予定なので、そろそろこの━━けふっ!」
天まで伸びるほどに鼻を伸ばして、調子に乗る天音だが、倒したはずのリッチが突然腕を振り上げて、メイドの腹へと叩きつける。
ギャグでは済まない肋の折れる音が聞こえるとくの字になって天音は押し下がる。
「くっ、倒せなかった? いえ、復活した?」
苦しげに睨む天音の視線の先で、リッチがゆっくりと浮き上がる。バラバラになったはずの頭蓋骨はパズルでも組み合わせたように組み合わさって、元へと復元されていく。
「神聖力を使った攻撃ではアンデッドは再生はできないはずなのに……なぜ?」
完全に倒したと思っていた天音が脂汗を流しながら尋ねると、レルムは小馬鹿にしたようにカラカラと嗤う。
「バカ女め。我はそこら辺の有象無象のリッチとはタイプが違うのだ。ライフベッセンに魂を保管して、この体は魔力により操っている単なる幽体にしか過ぎぬ。ゆえに我は不死にして無敵」
「……ライフベッセン! 漫画とかで読んだことがあります。リッチの中には自身の身体と魂を分けた者がいると!」
リッチには2種類のタイプがいる。自身の身体の中に魂を保管しているタイプと、魂を他の器に保管しているタイプだ。このメリットデメリットは、前者は自身の身体と繋がっているためフルパワーで戦えるが神聖力により倒される可能性がある。後者は神聖力で倒される可能性はないが、自身の身体と魂が離れているため、魔力のロスが発生して弱くなる。そしてライフベッセンは瓶やオーブに封印されているので、見つかったら結構あっさりと倒されることである。
だが後者はライフベッセンを見つけられなければ倒されることがないため、極めて面倒な敵と言えよう。
「でも距離があるほど魔力のロスが大きいからライフベッセンは自身の身体の側に隠しているはず」
「ふむ、意外とリッチについて知っているのだな。その通り、我がライフベッセンはこのビル内にある。だが我に殺される前に、見つけることができるかな? このビルは30階、そして無数のオフィスルーム。さぁ、これから命をベットにした宝探しの始まりといこうか」
カナタたちへと、完全に再生したリッチは余裕の態度で両腕を広げる。
不意打ちでも倒せなかった恐るべきリッチを前に、カナタたちは顔を顰めてデスゲームが始まったようだと戦慄するのであった。
後ろでパタパタ手を振っているデスナイトが少し間抜けなので編集必須でもあった。




