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悪役に応募した三流役者。異世界での雇用でした  作者: バッド
一章 始まり

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22/52

22幕 お礼

「まずは改めて感謝をカナタ嬢。息子はまだ療養が必要なため、お礼を言うのは少し時間をいただければと存じます」


 応接室にて対面に座るカナタにクオーンが頭を深々と下げる。偽物なのに本物のようで困惑する美少女です。困惑しているので答えは決まってる。


「このケーキおかわりください。あ、ホールであるなら余りは持ち帰るので、よろしくお願いします」


 お茶請けに出された久しぶりのショートケーキにかぶりつくのみだ。前世はあまり甘いものは食べなかったけど、今世は大好きになりました。悲惨な食生活を過ごしていたせいということも理由にある。

 

 ふんわりとした柔らかい生クリームを舌にのせると、幸せの甘さが口内に広がり、イチゴが甘さを抑えるちょうど良いアクセントとなる。身体に痺れるほどの幸せが巡って、思わず涙しちゃうよ。5年ぶりのショートケーキ、二度と食べられないかもと思ってたから感動もひとしおだ。


 口元を生クリームでベタベタにして夢中になって食べる幼いカナタだが、そんな様子も可愛らしい美少女なので、外見ってとても大切ですよね。


 召使いがそんなカナタを微笑ましそうに見ながら、そそくさとショートケーキを持ってくるのを苦笑混じりに見ながら、クオーンは腕を組むと真剣な顔になる。


「これからカナタ嬢は、私が見つけ出した聖女としてお披露目をして頂く予定です。なので、聖女に相応しい服装をとお願いする次第でして」


「聖女……ですか? 僕が?」


 僕が考えた計画だけど、初めて聞きましたみたいにキョトンとした顔で首を傾げる。これから神聖魔法を使えない詐欺師の聖女作戦を始める予定なのだ。


「上級神聖魔法の使い手はかなり希少で、皆が聖者とか聖女と呼ばれています。反対に名乗らないと蔑まれますし、下手をしたら他の家門に攫われてしまうのですよ。顔を知られていれば攫われる可能性は極めて低くなります」


 野太い声で説明をしてくるクオーンだが、その表情に嘘くささはなく、演技のように見えない。これなら上手くいくだろうと、内心でムフフと含み笑いをしてカナタは頷く。


「えっと、わかりました。でも、服を買いたくてもお金がないんです。僕はスラム街の出身ですからね」


「もちろん、お金はこちらでお支払いしますのでご安心を。護衛をつけますので、街を楽しんでください」


 太っ腹なことを言いながら、半透明の水晶でできた薄いカードをテーブルに置く。


「これは無記名の電子マネーカードです。中にはお店の1軒や2軒は軽く買える金額が入っておりますので、ご自由にお使いください。盗まれることだけ注意していただければ、あとは問題ありません」


「……え!? ブティックを買える金額が入っているんですか? こんなのを持っていることが分かれば、狼の中に放り込まれた子猫のように襲われますよ?」


 にゃ~んと招き猫のように、ほっそりとした腕をクイクイと振ると、バターンと後ろで誰かが倒れる音がした。チラ見すると、メイドが仰向けに倒れて、プルプル震えているけど、そんなことよりもこのカードである。


 聖女作戦において、大まかな話は決めていたが、ここまで巨額の資金提供を受ける予定はなかった。精々1万ドラくらい貰えれば良かったのだ。この財産は本来は息子の物のはずだし、少しドン引きだよ?


 でも、柔らかな笑みでクオーンは首を横に振る。


「いいえ、この程度はお礼にも入りません。魔法付与もされていない普通の服はブランド物でも安いのですよ。今の我が家はこれくらいの金額は軽く出せるくらいに余裕があるのです。……最近の私の行いでね」


 デブクオーンの時を思い出し、沈痛で顔を顰めるクオーン。デブクオーンの時の記憶はカナタも読み込んでいるが、貪欲に金を集めていた。まるでその欲望に操られているかのように、合法、非合法関係なしに。


 いや、実際に操られていたことは判明している。が、そんな裏設定は知らないカナタちゃんなので、キョトンとして黙っている。


「ですので、遠慮なく使ってほしい。遠慮せずにね」


 クオーンの圧のある笑みに、コクリと頷くとカナタは部屋を退出するのであった。


 こんな大金を現実で使えるなんて、手が震えるよ!


           ◇


 カナタが部屋を退出すると、柔らかな笑みを浮かべていたクオーンの顔が、鋭い刃のように厳しくなると、後ろで待機していた権左衛門へと顔を向ける。


「権左衛門、命令だ。私が4年前に解散した騎士団をできるだけ集めるように。クオーン・シンが正気に戻ったと。それと裏で行っていた事業から全て手を引き、証拠を全て処分するように」


「はっ! 畏まりました。……では、やはりこれまでは精神を病んでいたのですか?」


 はっきりと聞く忠実な執事長に苦笑をしながら頷く。普通の執事長なら口にしないであろうに、ここまではっきりと口にする権左衛門だからこそ執事長をやらせているのだ。


「あぁ、そのとおりだ。だが精神を病んでいたわけではない。4年前のことを覚えているか? 私が騎士団を解散した時の頃を」


「はい。……たしか生贄魔法に手を染め始めた頃かと覚えております。ですが、精神を病んでいたわけではないとすると……まさか!?」


 話の流れから推測できる事柄に、権左衛門が驚きを露わにする。


「そのとおりだ。私が最初に生贄魔法を使った時、生贄魔法を教えた人物がいる」


 息子を助けるために東奔西走して、それでも解決策はなかったクオーンに、怪し気なローブ姿の男が声をかけてきた。禁忌魔法の生贄魔法を使えば息子は治ると。


「最初は人の命を生贄にする予定ではなかったのだ。捧げたのは、私の能力であった」


 生贄魔法は人の生命を生贄にすると思われているが、実際は違う。あらゆる物を生贄として捧げられる魔法だ。


 当時のクオーンは、そこでステータスを捧げることを決めた。クオーンのステータスは生贄に相応しい強い力であったので、効果があると魔法使いから言われたのだ。


 生命を奪うこともなく、それならばとクオーンは惜しげもなく、長年の努力の結晶である自身のステータスを捨てた。


「━━だが、それは罠であった。生贄魔法の魔法陣を描いたのは魔法使いであったが、そこに罠があったのだ。発動し、私のステータスは生贄とされたが、魔法使いはそれを己のものとして、私の精神を操った。そのことに気づいた私は抵抗をしたが、ステータスの低くなった私では抵抗することは難しく、闇に染まるように狂っていく事が自覚できたのだ。そのため、利用されないように当時の騎士団に解散を命じた。理由を説明しなかったため、戸惑っていたようだがな」


 魔法使いは最初からクオーンを嵌めるために現れたのだ。以降は、完全に狂ったクオーンは生贄魔法を使い、人を殺し続けたサイコパスとなっている。


「だが、それも聖女に助けられるまでだ。今の私は神聖魔法により解呪されて、正気に戻り力もまた昔に戻った」


 ここは嘘である。生贄魔法と言うだけあって、一度生贄にした物は戻ってこない。狂った精神も、ステータスも元には戻らないのだ。


 しかし、『記憶喰メモリーイーター』に記録されていた物は違う。正常な状態を記憶しており、クオーンは元の精神と肉体を取り戻した。


 カナタはそのことを不思議に思っており、まだまだ『記憶喰メモリーイーター』には説明されていない能力があると推測している。


 そして、生贄魔法を解呪した、不可能を可能にしたカナタは、奇跡の使い手である聖女と売り出すつもりである。


「何人騎士団が戻るかは分からぬし、ゼロの可能性もある。もう解散してからだいぶ経つのでな」


「そうでしょうか。あの者たちは当主様に恩義がございます。全員とは言いませんが、再び戻ってくる者たちは必ずいるはずです」


「そうだといいのだが。私の体調が完全に戻り、体勢を立て直したあとには……生贄魔法を使い私を陥れた魔法使い、いや、その裏にいる者たちに相応の礼をせねばな」


 怒れる獅子のように歯を剥いて、凄みのある笑みを浮かべてクオーンは思う。


 この身体は偽物だ。本物は死に、魂は次の世界に転生した。だが、それがなんだというのだ。この身体に宿る精神と記憶は本物と同じで、そしてクオーン・シンは本物と同じ行動をとる。


 これは神のくれたチャンスだ。たとえインスピレーションのためであっても、関係ない。

 

 多くの人々を人を操り殺させた者に、必ず報いを受けさせるとクオーンは心に誓うのだった。


 煮えたぎる怒りとともに。


         ◇


 そんなことは露知らず、おっさんとの記憶の同期をするつもりもなく、五感を共有するつもりもないカナタはリムジンに乗っていた。同期しない理由は簡単で、美少女の記憶におっさんの記憶を混ぜると危険だからです。清いお水にヘドロとか入れたくないよね?


「なんかおっさんをディスってませんか、カナタさん?」


「そんなことはありませんよ。これは差別ではなく区別です。誰だっていくらかっこいい石でも結婚したいとか人間は思いませんよね? 種族が違うんです」


「おっさんは有機物でもないんですね……カナタさん、前世のことを覚えてます?」


「僕の前世はシャム猫とかポメラニアンだったような気がします」


「MODを入れすぎるとバグりますよ」


「わんわん、にゃ~ん」


 セイと軽口を叩きつつ、カナタはふかふかのソファに寄りかかる。ふかふかすぎて、身体が潜りこんじゃいそうだ。


 外を見ると、まるで日本のような平和そうな光景が目に映る。


 国道なのか、6車線の道路には多くの車が走っており、ビルや店舗が立ち並び、人々が歩いている。スーツ姿のサラリーマンや、制服姿の学生たち。少し違うのは、鎧を着た人や、剣やら槍を持つコスプレのような人々も混じっているところだろう。


 スラム街とはあまりにも違う光景。この5年間、平民地区でも、スラム街に近い所にしか踏み入れることのできなかったカナタには全てが新鮮だ。


 ファンタジーらしい食べ物があるのだろうか。面白い娯楽はあるのだろうか。期待で胸を膨らませる。


 ワクワクして、外を眺めていると、車がほとんど揺れを感じさせずに停車する。

 

「お嬢様、ブティックに到着致しました」


「ありがとうございます。でもお嬢様はやめてくださいね」


 ドアを開けると、ガラス張りの建物が目に入る。センスのよい重厚ある建物で、いかにも一見さんお断りといったお店だ。ウィンドウに飾られている洋服は見る目のない者でも高価な物だと一目で分かる。


「さて、テンプレの買い物シーンでもやりますか」


 なにか面白いことがあると良いのだけど、薄笑いを浮かべて店内に入るカナタであった。


 

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― 新着の感想 ―
生贄魔法をosieta奴とその黒幕は、それを上回る悪役ムーブで罰しなければ。
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