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白い結婚のまま、さようなら ~女好きな夫との離婚は決定事項です  作者: 白まゆら


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喜、マリッサの思い

「ただいま、オーガ、アボラ、マリッサ、皆」

 満面の笑みで現れたクレイン様はローザにそっくりで、とても美しい少女に成長されていました。

 別れたのは十歳の時。すっかり大人になられたクレイン様が誇らしくもあり、また寂しくもあったのは致し方がありません。

「お帰りなさいませ、クレイン様」

 使用人一同、声を弾ませて主人の帰宅を喜びます。


「オーガさーん、アボラさーん、マリッサさーん」

 べそをかきながら抱き着いてきたのは、クレイン様と一緒に旅立ったモナです。

「長い間、一人でクレイン様を守ってくれてありがとう」

「滅相もないでーす」

 ベソベソと私に抱き着くモナの背中を、優しく撫でます。

 この子も大変な苦労をしたでしょう。よく頑張りましたねと労います。

 彼女たちの後から入って来たのは、ヘイネス公爵とジアス様、もう一人……ああ、彼がモナの言っていたリックですね。


 私はリックさんに微笑みます。

「貴方がリックさんですね。近衛騎士であったにも関わらず、その任を辞してクレイン様の専属護衛になってくださり、また此度はサビティ国からエイワード国に来てくださいました。長い間、主を守ってくださった事に感謝いたします」

「いえ、俺はクレイン様に助けてもらった身の上です。近衛騎士の隊長に目を付けられていた俺は、仕事にかこつけて命を狙われていました。そこを助けてくださり、また専属騎士として引き立ててくださったのもクレイン様です。生涯、忠誠を誓うのは当然です」

 そう、リックさんは命の恩人のクレイン様に忠誠を誓ってくれています。



 何でもリックさんは、近衛騎士の隊長が隊の資金を横領していた現場を見てしまったそうです。

 それを隊長に気付かれ、絶対に他言しないと約束させられたにも関わらず、仲間になれと強要されたのです。

 しかし騎士道精神溢れるリックさんには、そのような事は無理でした。

 いつしか鍛錬中に背後から剣が飛んできたり、夜の見回り中に何者かに襲われるようになったそうです。

 誰にも言えずに一人で躱しているのも限界に近付いたある日、いつものように襲われ対峙した際に、相手が去り際に放った矢の毒に倒れてしまったそうです。

 人の寄り付かない城の奥にある寂れた庭で、リックさんは一人意識を失いました。


 そんなリックさんを見付けたのがクレイン様とモナでした。

 汚れが付いたままの洗濯物をそのまま返されたので、二人で洗っていたそうです。

 洗濯場に行けば使用人に邪魔されるので忘れられた井戸を見付けて、そこでせっせと洗っていたとの事。

 王太子妃として嫁いだはずのクレイン様になんて事を……とサビティ国に憤りましたが、クレイン様自身が「もういいの」と仰るので忘れた事にいたします。

 それにサビティ国に対してはクレイン様が色々としてきたそうなので本人が納得されたのなら良しとしましょう。


 意識のないリックさんをお部屋に運ぶのは、幼いクレイン様と少女であるモナでは無理でしたし、誰かを呼んでこようにも彼女たちの言葉に耳を貸す者は誰一人としていませんでしたので、二人はその場にシーツやらクッションやらを運び込み、看病したそうです。

「王家に嫁ぐ者の必需品だよ」と言ってエイワード国の王太子殿下に結婚式当日に手渡されたものの中に、何故か解毒剤が入っていたのも役に立ったそうです。

 目覚めた時、自分を助けてくれたのが、まさか王太子妃とは思いもしなかったリックさんでしたが、クレイン様の内情を知って全てを打ち明けたそうです。


「でしたら、近衛騎士を辞めて私の専属騎士になっては如何? 四六時中一緒だから、流石にあちらも手を出しては来ないでしょう。一応これでも王太子妃です。私に何かあればエイワード国が黙っていません。虐めは許しても命の危機にさらされるような事は、あの宰相が許さないでしょう」

 使用人が王太子妃に虐めをしているのを、国の重鎮である宰相が見逃しているのかと驚いたそうですが、それを知っていて何も言わないクレイン様にも驚いたそうです。

 しかし、それを聞いてリックさんの騎士道精神に火が付きました。

 こんなにも幼く優しい少女が、侍女と二人で他国の宮殿で虐めにあいながらも必死で母国のために耐えているのかと感動したそうです。

 そしてそんな健気な少女を支えるのは、騎士である自分の役目であると。

 折しも彼女は自分の命の恩人だ。クレイン様に生涯仕えるのに何の躊躇いがあるというものか。

 リックさんはクレイン様に忠誠を誓い、将来母国に帰る事になってもついて行きますと約束したそうです。



 そうして、今エイワード国のマルシアス侯爵家のエントランスホールにクレイン様とモナと共に帰還したのです。

 爽やかに「よろしくお願いします」と挨拶する彼とは、いい仲間になれそうですね。


 私たちはヘイネス公爵親子に、改めてお礼を述べます。

 クレイン様が無事に帰宅できたのは、全てこのお二人のお陰なのですから。そして密かに私に復讐させてくださったのも……。

 まあ、非力な私では一発で終わる事ができなくて泣き叫び逃げ回る汚物を追いかけ、何度も険を振り下ろす羽目になりましたが、その狂気の時間をヘイネス公爵はジッと待ち続けてくれたのです。

 そして念願叶った後には「よくやった」という労いの言葉もかけてくださいました。

 人をこの手で殺した恐怖も、その言葉で霧散されたほどです。


「この度は、我が主人をお救いくださり誠にありがとうございます」

「幼い頃、守ると約束したからな」

 ヘイネス公爵のその言葉に、使用人一同感涙いたします。

 ローザが生きていた頃、平和だった時に交わした約束をカシック様は守ってくださったのです。

 そういえば幼いジアス様もお約束してくださっていましたが、それを覚えていたからこそ、これほどまでに力を貸してくださったのかしらとチラリとジアス様を盗み見しますが、彼の表情からはそれは読み取れません。

 ですが、この上なく愛しいという瞳でジッとクレイン様を見つめている姿には、約束を忘れたようには見えませんでした。

 きっと覚えてくださっていたのだと思います。


「随分と遅くなってしまったが、これでやっとローザとカリンに良い報告ができそうだ」

 クレイン様の事を最後まで心配してくださったまま、この世を去ったヘイネス公爵夫人、カリン様。

 親友だった二人の姿が思い浮かびます。

 公爵も二人の笑顔を思い浮かべているのか、優し気に目を細めます。

「だんな様がいなくなった今、自由の身でお二人のお墓に報告に行きたいですね」

 アボラさんが涙ぐみながらそう言いますと、クレイン様がジアス様の服の裾を引っ張りました。

「ジアス様、カリン様のお墓はヘイネス公爵領にあるとお聞きしましたので改めて参りたいと思いますが、お母様のお墓は王都にあるので今から行きたいのです。一緒に来てくださいませんか?」

「そうですね。行きましょうか。元気に帰ってきた姿を見ていただかないと」

 そう話してお二人は、今開いた玄関の扉を再度開いて出て行こうとされます。

「え? 今、戻って来られたばかりですよ。明日にでも改めては如何ですか?」

 オーガさんが驚いた声を上げますが、クレイン様とジアス様は笑顔で行ってしまわれました。


 モナとリックさんか後を追おうとしますが、二人は疲れているだろうと私はそれを止めて一人で後を追いますと、ヘイネス公爵が隣を歩いてきます。

「俺もローザに会いたいからな。一緒に行こう」

 公爵家の馬車で公爵家の護衛をそのまま連れて、私たち四人はマルシアス侯爵家を後にしました。

 ローザに、これで憂う事は何も無くなったのだという報告ができるのを信じて……。

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