はいはい、断罪していきましょう
「まずはキャスカ嬢からだな。君は以前から、この国では禁止されている薬物を摂取しているね。今のおかしな言動は、その薬の所為だ。そして、それらを自ら飲むだけでは飽き足らず、友人知人にもばら撒いて彼らを自分の思い通りに操っている。君の机の引き出しに山のように薬が入っているのを、こちらで確認している。それに先程、自白もしてくれた。これについて異議はないな」
王太子が鋭い眼光を異母妹に向けますが、彼女はニヤニヤと笑っています。
何を言われているのか分かっているのでしょうか?
そして騎士の拘束が少しだけ緩まると、反論し始めました。
「それが何? 配ったのは最初の数回だけで、後は皆がお金を差し出してきたんだよ。私は買ってくれなんて一言も言ってない。でもあの薬は私しか持っていないから、頼むから売ってくれって。お金はいくらでも出すって言ってきたのは向こうからだ。でも薬の量は限られてるから、交換条件を出したんだ。私の言う事を聞いてくれた人にだけ売ってあげるって。そうしたら皆、競って頭を下げてきた。何でもするってね。だからジアス様との仲が上手くいくように協力してもらったんだ。ジアス様は忙しくてなかなか会えなくて寂しかったから。私ってば健気でしょう⁉」
異母妹の話を聞いていた王太子が、眉間に皺を寄せました。
「そこまでジアスに固執する理由は何だ?」
「は? 顔がいいからに決まってるだろう。後は家柄。公爵家ならあの女、クレインが悔しがるだろうと思ったんだ。あの女は自分が侯爵令嬢だと鼻持ちならなかったからね」
「クレイン嬢に対する当てつけで、ジアスを執拗に追い回したのか?」
「だったら何だよ?」
異母妹に睨みつけられた王太子は、ふっと表情を緩めました。
そうして私を抱きしめたままでいるジアス様に向かって、声をかけたのです。
「いや、良かったな、ジアス。心底、惚れられていた訳ではなかったようだ」
「そうですね。少しでも気持ちを持たれていたら気分が悪かったです」
安堵したように話す二人に、周囲は少しだけ引いています。
ちょっと酷い、という感じに。
けれど気持ちはよく分かります。
これほど迷惑をかけられたのです。ジアス様は異母妹に対して嫌悪感しか抱けないのでしょう。
王太子は異母妹に視線を固定すると、凛とした声を上げました。
「違法薬物使用により、キャスカ・マルシアス。いや、もうただのキャスカだな。貴様を地下牢に送る」
そう判決を下した王太子の命令に、騎士が再び異母妹の拘束を強めました。
「は? 何をするの? 離せよ!」
異母妹が暴れますが、王太子は「次に……」と今度は継母へと視線を送りました。
喚き暴れる異母妹は、そのまま騎士によって連行されました。
問答無用で連れて行かれた異母妹に、呆然とする継母とお父様。
そこに容赦のない王太子の声が響きます。
「ニコレット・マルシアス侯爵夫人、貴方もすでに侯爵夫人ではないので、今はニコレット夫人と呼ばせていただく。貴方はキャスカ嬢が常用している違法薬物をデカンテ国から仕入れていたね。その商人とはかなり親密な付き合いだったようだ」
王太子の言葉には、お父様が反応しました。
「ど、どういう事だ? 親密って、お前……」
「何よ、そんなの知らないわよ。貴方は長年連れ添った私より、あの胡散臭い王太子を信じる気?」
動揺するお父様が継母に詰め寄りますが、フンッと軽くあしらわれています。
けれど自国の王太子に向かって胡散臭いとは……継母も動揺しているのでしょうか?
これほどの衆人環視の中で言ったのです。しっかりと不敬罪です。
王太子はチラリと継母を見ましたが、それについては言及しないようです。話の腰はおりたくないといったところでしょうか。
そして言い合いをしているお父様と継母を黙らせるように、コホンと咳払いをします。
「ニコレット夫人、貴方はこの国の方ではありませんね。出身はケッセル国ですか?」
え? と継母を凝視します。
ケッセル国というと、あの、お母様と仲が良かったとお聞きした銀髪の王弟殿下がいる国でしょうか⁉
皆の視線を集める中、継母は王太子を睨みつけます。
「それが何だというのです? 出身がどこであろうと関係ないではないですか」
「ああ、薬には関係ないな。だがクレイン嬢を執拗に目の敵にする理由がそこにあるのではないか?」
「!」
王太子の言葉に、継母の表情が変わります。
私を虐めていた理由がケッセル国出身と関係があるとはどういう事でしょうか?
私はジアス様を振り返ります。
ジアス様は回した腕をそのままに「大丈夫、私がいます」と仰ってくださいます。
私は後ろから抱きしめているジアス様の腕を、そっと掴みました。
「な、何を仰っているんですか? ニコレットがクレインを虐めていたのなんて、そんなのはアレが私たち家族にとって邪魔だったからに決まっているでしょう。現にこうして私から爵位を奪った。アレは悪魔の子供です」
お父様が唾を飛ばして喚きます。
そうですか、お父様にとって私は悪魔だったのですね。
何も期待してはいませんでしたし、恨みしかありません。ですが、こう面と向かって言われると心に来るものがありますね。
私の僅かな反応に気付いたジアス様が、よしよしと私の頭を撫でてくれます。
「ああ、貴様の断罪は夫人の後だ。今は黙っていろ」
王太子がサッと手を上げると、騎士がお父様を捕えます。
「何をするんですか? 離してください!」
「黙っていろと言っている。それ以上、騒ぐなら猿轡を噛ませるぞ」
王太子の視線に、お父様は「ひっ」と言って口を塞ぎました。
「邪魔が入ったな、夫人。薬の出所は貴方の恋人、デカンテ国の商人だ。小遣い稼ぎのつもりで娘を使って貴族の令息、令嬢に配らせたのだろう。ああ、否定しても無駄だ。恋人は一足先に地下牢に泊まっている。商人の荷から証拠の薬も顧客名簿も見つけた。貴方との密会も自供したし証人も見つけてある。違法薬物取締違反で貴方も地下牢行きだ」
王太子の判決に、継母は血走った眼を送ります。
「それと先程の件だが……」
「黙れ! それは薬とは関係ないと言っただろう! 私がその娘を虐待したからって、お前らに何の関係がある⁉」
王太子が先程の話を再開しようとした途端、継母が王太子に掴みかかろうとしました。
ですが、虚しくもそれは騎士により封じ込められました。
羽交い締めされて床に取り押さえられた継母が、喚きたてます。
そんな継母の顔の前に、王太子がダンッと勢いよく足を置きました。
もう少しで顔を踏みつけるところだったように見えますが、それはわざとなのでしょう。
一瞬、沈黙する継母に王太子はニッコリと微笑みました。
「関係はあるな。私は貴様が思う以上にクレイン嬢を妹のように思っている。そんな存在が長年、不当に虐げられていたのだ。相手の精神を折るくらいはしてやらないと気が済まない」
そう言った王太子に、私が唖然としていると後ろでジアス様が「全く、あの人は……」とぼやいていました。
ですがそのお声は、何故か楽し気に聞こえます。
「その昔。マルシアス侯爵家に世話になっていた一人の青年がいた。その青年はケッセル国出身で、前マルシアス侯爵、クレイン嬢の母に当たるお方と仲が良かった。お前はその青年に懸想していたんだな」
カッと、一瞬にして継母の顔が真っ赤になりました。
え、それってつまり……。
お父様に視線を送ると、目を見開いています。
これは誰も知らなかった継母の過去のようですね。




