うぇ、六年ぶりの姿です
「ねえ、クレイン、殿方たちは放っておいてご婦人方を紹介しましょうか? これから味方につけておいた方が良い方を紹介するわよ」
「よろしいのですか?」
「もちろんよ。いらっしゃい」
そうして私はジアス様に許可を取り、お姉様に連れられてご挨拶周りに行きました。
公爵、侯爵、伯爵のご夫人方の幾つかの集団に顔を出し、お姉様が妹分だと紹介してくれます。
「彼女はマルシアス侯爵ですわ。クレイン、ご挨拶して」
「はい。クレイン・マルシアスと申します。この度マルシアス侯爵を承継いたしました。後ほど改めてご挨拶いたします。よろしくお願いいたします」
「まあ、マルシアス侯爵って、あのサビティ国に嫁いでいた方よね。では侯爵を継ぐために戻ってこられたの?」
「はい」
「噂は、おば様方のお耳にも入っているでしょう。あちらの王太子が粗相しましてね。どうちらにせよ、正統な後継者がマルシアス侯爵家にはクレインしかいませんので、このような形になったのですわ」
「まあ、そうなのね。ところで貴方たちとは仲が良いの?」
「ええ。妹だと思っています。ねえ、クレイン」
「恐れ多い事ですが、そのように目をかけていただいております」
「フフ、ジアス様とも仲がよろしいのよ」
「あら、あの堅物の⁉」
「はい。面白いほどメロメロですよ」
あらあら、まあまあ、オホホと笑い転げる淑女たちに、ちょっと圧倒されます。
ですがお姉様方のお陰で、好意的に受け入れられています。
お姉様さまさまですね。
そうこうしていると、お姉様に紹介されたご婦人が扇で口元を隠しながら顔を近付けてこられました。
「元マルシアス侯爵が、いらしたみたいよ」
その言葉に反応して、入場口に視線を向けます。
六年ぶりに会うお父様は、かなり好き勝手に生きてらしたのでしょう。
膨らんだお腹と脂ぎったお顔、後頭部もかなり寂しい感じになっておりました。
反対に継母は、何かあったのか骨と皮だけのようにやせ細っていますが、目だけは以上にギラギラしています。
お二人共そんな様相ではありますが、衣装だけは高位貴族に負けないくらいの華美で高級な物を身に着けております。
そして異母妹は元の顔が分からないくらいの厚化粧に、これでもかというほど髪を盾ロールに巻いています。ドレスはふんだんにリボンが付いたピンク色と大派手です。
数日前にヘイネス公爵家に押し入った時は、声だけを聞いたので今の姿を見ていませんでしたが、あの時もこんな姿だったのかと思うと、ドン引きです。
正直、彼らを目の当たりにして幼い頃うけた虐待を思い出し、恐怖で体が震えるかと思ったのですが、残念感の方が強いのか割と平気です。
ホッと胸を撫でおろしていますと、肩に誰かの手が回りました。
「大丈夫?」
彼らの登場に心配してくださったジアス様が、様子を見に来てくださったようです。
お姉様の旦那様も一緒です。
「ジアス様」
「今はまだ、見つからないように顔を隠してください」
そう言って私の腰を優しく引いて、その大きな体でそっと私事、彼らの眼から隠してくださいます。
その優しさに思わず笑み崩れてしまいます。
ジアス様と旦那様方が、ご婦人たちに軽く挨拶をされます。
「あらあら、まあまあ、フフフ、お話は本当だったみたいね」
私たちの様子を見ていたご婦人のお一人が、楽しそうに仰います。
「はい。ですからおば様方、ご協力お願いいたしますね」
「もちろんよ。任せて」
お姉様の協力要請に他のご婦人も笑顔で頷いてくれます。
「お話、とは?」
ジアス様が不思議な顔をされますが、お姉様はそれを笑って誤魔化します。
「それよりも、クレイン様が侯爵位を継がれたのなら彼らはもう平民でしょう? 何故我が物顔でいらっしゃっているのかしら?」
「彼らには罪がありますの。ただ平民にするだけにはいかない程の。本日はそれをこちらでお話しさせていただきます。ですので彼らはご自分たちが平民になった事を知りません。もちろん、クレインがこちらにいる事も、ですわ」
「まあ、そうなのね。分かりました。全面的に協力いたしましょう」
おば様方は、にこやかに微笑まれますと周囲にいる貴族も巻き込んで私たちを円で囲んでくださいました。
これならばお父様たちに見つかる事は絶対にありませし、近付く事さえありません。
ちょっと楽しくなってきました。
ファルミン公爵が、私の腰を抱いているジアス様に話しかけます。
「例の如く、キャスカ嬢がジアス殿を探しているみたいですね」
それを聞いた私は人の隙間から異母妹を見つけます。
派手な姿の上に人が遠巻きに見ていらっしゃるので、とても見つけやすいです。
「ジアス様ー、貴方の婚約者のキャスカが来ましたよー。早く出て来てエスコートしてくださいなー」
大声でそんな事を叫びます。
ジアス様の顔からスンッと表情が消えます。
「もうジアス様ったら、居るのは分かってるんですからねー。そんなにかくれんぼが好きなの? だったら絶対に見つけるのでご褒美くださいねー。大きなダイヤモンドがいいなー」
無表情のジアス様に、皆様の憐憫の眼差しが集中します。
「……とんでもない娘に執心されたものね」
「どんどんと、酷くなっていませんか?」
「お気の毒に」
ご婦人方の慰めにハハハと乾いた笑いをするジアス様。
話には聞いていましたが、これほど酷いものだとは思いませんでした。
いつもこんな目にあっていたのかと思うと、本当に申し訳ないです。
私はジアス様の服の裾をツンッと引っ張ります。
「ジアス様、ごめんなさい」
「クレインが謝る事ではないですよ。それに彼女とは、もう他人なのですから気にしないでください」
「でも……。万が一見つかったら私が盾になりますから」
「え? クレインは王太子殿下の合図があるまで見つかったら駄目じゃないですか」
「大丈夫です。見つかっても負けません。絶対に守ります」
「ハハハ、クレインが守ってくれるんですか⁉ 私の立場がありませんね」
「いいんです。いつもはジアス様が守ってくださっているのですから、こんな時は私が頑張ります」
「心強いですね。でもクレインを守るのは私の役目ですよ」
「ジアス様、でも私……」
「ありがとう、クレイン」
ぱっぱらー‼
突如、ファンファーレが鳴りました。
王族の登場の合図です。
ハッと顔を上げますと、皆様の生暖かい視線が私とジアス様に集中していました。
お互いの顔が至近距離にあって私たちは、またやってしまったと慌てて距離を取ります。
しかし腰に回されていた手は、そのままです。
ニヤニヤ笑うお姉様たちに、あらあら、まあまあ、と扇で口元を隠すご婦人方。他の貴族たちも興味深そうに見ていました。
「若い方はいいわね。これは応援しがいがあるわ」
「こんな麗しいお二人の姿を見られて、目の保養になりましたわね」
「お式はいつかしら? 呼んでくださると嬉しいわ」
「ヘイネス公爵も、これで安心ですわね」
オホホとコロコロ笑うご婦人の笑い声に恐縮していますと「呼びましたかな?」と人の間からヘイネス公爵が現れました。
「父上、どこにいらしたのですか?」
「今日の事で陛下と打ち合わせをな。それよりも所かまわずイチャつくな」
「い、イチャついてなどいません。いつも通りです」
「アレをいつも通りと呼ぶなら、俺の目のやり場が困るではないか」
ヘイネス公爵の登場にドッとその場が和みます。
いえ、その前から和んではいたのでしょう。私たちの行動で……恥ずかしいです。
今から大変な事をしようという時に、これではいけませんね。気を引き締めねばと、私はグッと手に力を込めました。再び反省です。




