ムフフ、断罪日和です
その日は朝からとても良い日差しでした。
しかし私は外を散歩する暇もなく、メイドたちの手により徹底的に磨かれていました。
以前、王室からいただいたジアス様や公爵の瞳と同じ青い布で作らせたドレスを選び、胸元には誕生日にジアス様からいただいたブルーサファイアのネックレスを光らせます。
夜会開始の二時間前に城に赴き、王太子と作戦会議をいたしました。
王太子妃も同席してくださいます。三児の母になられた王太子妃は、ますますお綺麗になられています。
暫くの間、和やかに会話していますと私が代わりに嫁ぐ事になった元王女のお二人が訪れました。
お二人共王太子に似て、ゴージャス美人です。
「貴方がクレイン・マルシアス侯爵ね。想像以上に可愛らしいわ」
「お会いできて光栄です」
「そんなの私たちの方こそよ。まだ幼かったのに私たちの代わりに他国に嫁がせて悪かったわね。それもあんなろくでもない男になんて」
「唯一の救いは貴方が未成年であった事よね。清いままだったのでしょう?」
「当たり前よ。手を出していたら、それこそろくでなしじゃない」
「手当たり次第の女に手を出している時点でろくでなしよ」
キャッキャと盛り上がる元王女二人に圧倒されます。
これほど気持ち良く元夫をろくでなしと貶していただけるのは、気持ちがいいですね。
「お前たち、結婚して少しは淑女らしくなったのかと思ったが、全然変わらないな。クレイン嬢の方が余程、淑女だ」
「あら、確かにクレイン様は品があって淑女の鑑のような方ですが、お二人はこれでいいのよ。私は明るいお二人が大好き」
「そうよね、お義姉様。私たちもお兄様よりお義姉様が大好きよ」
呆れて見ていた王太子の苦言に王太子妃が反論しますと、王太子妃と元王女お二人がガシッと抱き合います。
こ、これほど王族の女性陣が明るい関係だとは思いもよりませんでした。ですが、この関係にはちょっと憧れてしまいます。
義理の姉妹でもこれほど仲良くできるものなのですね。私は異母妹とこんな関係にはなれませんでしたので、羨ましいです。
「クレイン、どうしました?」
キャッキャと遊ぶ三人を見つめていますと、心配したジアス様が声をかけてくださいました。
「いえ、羨ましいご関係だと思いまして」
素直に気持ちを吐露しますと、上の王女が「あら」と声を上げます。
「クレイン様も、もう私たちの姉妹よ。年は少し離れているけどね。可愛い末の妹だわ」
「そうよ。何か困った事があれば遠慮なく相談してちょうだい。まずは、今日の夜会ね。大丈夫、任せて。お兄様やジアス様にはフォローできない部分も、私たちなら楽勝よ」
「お義姉様の事はお姉様でいいけど、私の事はカンヌお姉様と。この子はリンお姉様と呼んでちょうだい」
「あら、私も名前を付けてほしいわ。マリリンお姉様でよろしくね」
羨ましいと口にしますと、私も姉妹だと仰っていただきました。しかも愛称呼びまで許されてしまいます。
王太子妃はマリリアンヌ・デイズ・エイワードなのでマリリン、上の元王女様はカレーヌ・ファルミン公爵夫人なのでカンヌお姉様、下の元王女様はガンディア国の第二王子の王子妃でリンダ・ガル・ガンディアなのでリンお姉様。
そんな言葉をいただいた私は嬉しくなってしまい、気が付けば頬が赤くなっていました。
頬を押さえてはにかみながらも、せっかくお許しいただいたお名前を呼ばせていただきます。
「あ、ありがとうございます、マリリンお姉様、カンヌお姉様、リンお姉様。私もクレインと呼び捨てにしてください」
するとお姉様三人は一瞬、呆けたお顔になり「キャー♡」と手を取り合って叫びました。
「やだやだやだ、この子、なんて可愛いの。ちょっとジアス様、よくもこんな可愛い子を今まで隠していたわね」
リンお姉様が興奮したまま振り返りますと、ジアス様が蹲っておりました。
ど、どうしました、ジアス様? いつものアレですか?
「……あー、なんか、うん、分かった。頑張ってジアス様」
「うん、応援してるわ」
「あなた、お二人の邪魔しては駄目よ」
お姉様三人の声援を受けて、ジアス様がノロノロと起き上がります。
「……ハハ、ありがとうございます。王太子殿下、そういう訳で邪魔しないでくださいね」
「何を言ってるんだ。こんなにも協力しているじゃないか」
よく分かりませんが、ジアス様が応援されている事は分かりました。
うん、私も応援していますよ、ジアス様。
そうして改めて今日の打ち合わせをしていますと、宴の時間となりました。
王太子と王太子妃は後ほど入場しますので、私たちは一足お先に会場に向かいます。
途中、お姉様方の旦那様、ファルミン公爵とガンディア第二王子と合流しました。
皆様、顔なじみらしく軽い挨拶の後、私も紹介していただきました。
お二人はとても紳士で、お姉様方も先程の明るい雰囲気から淑女の仮面を被られます。
ジアス様のエスコートで、お姉様方の後から入場しますと一斉に注目を浴びました。
久しぶり、いえ、サビティ国ではほとんど出席いたしませんでしたので、ほとんど初と言っていいほどの夜会の場で、心臓が踊り狂います。
しかしエスコートしていただいている手の上にジアス様が力強く、もう片方の手で握ってくださいますと、震えるほどの緊張がスッと落ち着きました。
流石、ジアス様です。
チラリとお顔を見ますと、ジアス様も私を見て微笑んでくれていました。
嬉しくなって微笑みを返します。
その様子に周囲が騒然としましたが、ジアス様を見つめるのに忙しいので気になりませんでした。
そして、ある一定の位置に到着しますと、皆様の歩みが停まりました。
ここで宴が始まるのを待つようです。
私たちが気になるようで、周囲には話しかけたそうな貴族がわらわらと集まって来ています。
私以外の皆様と話したいのだろうなと思った私は、ジアス様に「ご挨拶に行かれますか?」と尋ねました。
「いいえ、本日はクレインから離れません。そうお伝えしていたでしょう」
「はい。ですが、それでも挨拶しておいた方がいい方もいらっしゃるかと思いまして」
「まあ、クレイン。貴方は何も気遣わなくていいのよ。今日は私たちの側にいてちょうだい。絶対に誰かといるのよ、いいわね」
カンヌお姉様の言葉に、私は「はい」と素直に従います。
私を守ってくださる気、満々の皆様のご好意を無下にはできません。
ジアス様が給仕を呼んで、皆様にワインが配られます。
「クレインは、ワインは初になりますか?」
「はい。ですので体が受け付けるかどうか、少し不安です」
「フフ、だったら果実水もありますので、無理はしないでください」
「ありがとうございます」
ジアス様と二人でそんな会話をしていますと、皆様が生暖かい目で見つめてきます。
「なんて初々しい会話だろうね。可愛らしい」
「そうね。温かく見守りたくなるわ」
「僕らにも、あんな時代があったよね」
「フフ、懐かしいわ」
クスクスと笑われて、ちょっと気恥ずかしいです。
軽く乾杯してクイッと飲んでみます。
あら、思いのほか飲みやすいですね。
「これは我が公爵領の名産だよ。女性にも飲みやすいように口当たりを滑らかにしているんだ」
私が「美味しい」と呟くと、ファルミン公爵がそう教えてくださいました。
第二王子が一気に煽ると、おかわりをします。
「今年はブドウも豊作だそうですね。品質の良い物が沢山飲めそうだ」
するとジアス様が第二王子に話しかけます。
「ガンディア国でも、こちらのワインは人気だとお聞きしました」
「ああ、ヘイネス公爵領のチーズも人気だよ。今度見学に行かせてくれないか」
「ええ、喜んでご案内いたします」
おお、ジアス様が社交イコールお仕事をされています。
そんな姿を見るのは初めてなので、つい見惚れてしまいます。
本日は決戦の場だというのに、ジアス様の新しい一面を見られて、ちょっと浮かれてしまいます。いけませんね。反省です。




