表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白い結婚のまま、さようなら ~女好きな夫との離婚は決定事項です  作者: 白まゆら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/63

うん、真実を受け入れよう

 錯乱する私は、ふと自分の手を見つめました。

 もしかしたら……なんて思い、手のひらをグーパーグーパーと開いたり閉じたりします。

 それを見ていたジアス様が「フフ、どうしました?」とおかしそうに笑いました。

「いえ、獣人族と仰られましたが私にそのような力があるのかと思いまして……」

「ああ、ない方がほとんどですよ。末裔と言っても血はどんどんと薄まっていますし、力も弱まっています。残っているのは髪の色や瞳の色などといったように、色彩だけです。大きな能力が残っている者などないに等しいので、気にされる必要はありません」

 どうやら獣人族といっても特殊な力がある訳ではないようです。

 普通の人よりも少しだけ健康だとか長寿だとかそういった程度で、それは人間の範疇内だという事です。

 獣並みの力がある訳ではないのかと、ふと山賊に襲われた際に対峙してくれたジアス様の人間離れした速さと強さを思い出します。


 チラリと上目遣いでジアス様を見つめます。

「ですが、ジアス様は……」

 私の言いたい事を察知したジアス様が苦笑します。

「んー、そうですね。私には少しだけ残っているのかな⁉ ですが普段の生活においては何もないですよ。誰にも気付かれてはいませんし」

 そう仰ったジアス様ですが、きっと残っている同族の中でジアス様が一番血が濃ゆいのではないかと思いました。

 黄色の瞳が変化されるのが証拠ですよね。


 ジアス様のお母様はどうだったのでしょう?

 私は思い切ってお聞きする事にしました。

「ジアス様のお母様は、両目とも黄色だったのですよね?」

「ええ。ですが私のように力を出した事はありません。瞳の変化もなかったそうです」

 なるほど。親子といっても力が出るかどうかは個人差なのですね。では私の先祖や執事見習の方も、残っていたのは色だけだったのかもしれません。


「ただ、同族同士では色で確認する事ももちろんですが、それだけではなく、何かしら惹かれるものを感じます」

「惹かれる?」

「はい。私はクレイン様にお会いした時、とても惹かれました」

「!」

 カッと顔が熱くなります。

「番を感じる能力も、もうないと聞きますので、これはそういった物とは違うと思いますが、それでも私はクレイン様に惹かれ、好意を持ちました。クレイン様は何も感じられませんでしたか?」

 そう言われて私はますます顔が熱くなりました。


 確かにジアス様にお会いした時、素敵だと思いました。好みの顔だと。度々キュンともしました。

 まさかその感情が、同族同士の惹かれ合った感情だったというのでしょうか?

 ジアス様に惹かれていた事を気付かれていたというのも恥ずかしいのですが、それが種族として惹かれていたのも恥ずかしいものです。種族としてですよね。番ではなく……⁉

 獣人族の番とは、たった一人の伴侶で、唯一無二の存在だと聞きます。そういう事を仰られているのではないのですよね。


 困惑する私が一人で考え込んでいますと、ジアス様が苦笑されました。

「すみません。突然変な事を申しまして。ですが信じてくださって嬉しいです。このような突拍子もない事を口にして、普通なら冗談だと受け流されてもおかしくはないのに、クレイン様はちゃんと信じてくれた。凄く嬉しいです」

 頬を染めてそう仰るジアス様に、私の戸惑いは薄れていきました。

 この髪色でお父様に我が子だと信じてもらえず、さんざん悩みもしましたが、ジアス様との繋がりがこの髪色にあったのだとしたら、愛しさすら湧いてきます。


「私は、一人ぼっちではなかったのですね」

 髪をくるくると指で巻きながら思わず呟きますと、ジアス様がその髪を掴み、唇を当てました。

 髪にキスされたのだと分かって、ドキッとします。

「同族は皆、どこかで自分の色が珍しいと気になるみたいです。そうして己のルートを調べてしまう。そこでうっすらと自分には違う種族の血が混じっている事に気が付くのです。私の母やクレイン様のお母上のように、口伝で伝えられる者もいます。そして彼らは何となく繋がりを持つ。失われた血筋である仲間と」

 ドキドキと早鐘のように私の心臓が音を立てます。

「私は決してクレイン様を一人にはさせませんよ。だって貴方は私の番ですから」

 そう言って、ジアス様の広い胸に抱きしめてくださいました。


 ――涙が出ます。

 ジアス様の胸に飛び込めないと自分を傷物と称した私に、ジアス様は真実を話されて私を番だと仰ってくださいました。

 番を感じる能力はないと言いながら、私を番だと仰ってくださいます。

 もう何を仰ってるんですかと言いたくなりますが、嬉しさで涙が止まらず何も言う事ができませんでした。

 丸ごとの私を受け入れてくれるという事でしょう。

 番として、伴侶として。

 それが私の疑問のジアス様の答えですね。


 泣きながらフフフと笑う私に、ジアス様は「泣いていたのに、もう笑っているんですか?」と首を傾げます。

「はい。ジアス様のお心の広さに感動して」

「感動すると笑われるのですか? クレイン様は面白いですね」

「変ですか?」

「いえ、可愛いです」

 ジアス様はそう言って、私の唇に唇を落としました。


 突然ではありますが、嫌ではありません。

 私は素直に受け入れます。

 心がいっぱいに満たされた、そんな気持ちになりました。



「そうか、話したのか。どう思った、クレイン嬢?」

 夕食が終わって、ジアス様は公爵を談話室へと誘いました。

 そこで私に獣人族の話をした事を報告しました。

「嬉しかったです」

 公爵に感想を聞かれたので率直に申し上げました。

 嬉しい、その一言に尽きます。

 顔が赤い事はそっとしておいてください。


「そうか。ならば良かった」

「ヘイネス公爵も奥方様が獣人族の末裔だと知った時は、どう思われました?」

 談話室には公爵とジアス様と私しかいません。

 ですので遠慮なくお聞きします。


「感動した」

「え、感動ですか?」

「実は、妻は獣人族の力が少しだけ残っていたのだよ。結婚する前に一度本気で喧嘩した事があるのだが、その時に取っ組み合いになって力を発揮された。俺と対等に力比べができる華奢な令嬢がいるなんて、感動しかないだろう」

 うんうんと頷く公爵に、ジアス様は呆れています。

 ……と言いますが、華奢な令嬢と取っ組み合いをされたのですか、公爵? それはどうかと思いますよ。


 思わず目を細めると、ジアス様が肩をすくめました。

「それ一回だけでしょう。その後は力を発揮する事などなかったと聞いています」

「一回で十分だ。それで惚れた。文句あるか?」

「ありませんけど、単純過ぎると思いませんか?」

「思わないな。縁というものはそういうものだ」

 一人納得する公爵に、少しだけ呆れながらもそれほど奥様を愛していたのかと、ちょっと羨ましくなります。

 お母様もそういう方と知り合えていたら、どんなに良かった事でしょう。

 お父様を思い浮かべて少し悲しくなりました。


「クレイン、どうしました? 何か悲しい?」

 ジアス様が私の異変に気付いて、顔を覗き込んできます。

「いえ、大丈夫です。お母様を少しだけ思い出しただけです」

 正直に答えますと、察したジアス様が苦笑されます。

「クレインの母上はお強い方だったと聞いています。悲しみだけで生きられてはいないと思いますよ」

「そうですね。ありがとうございます、ジアス様」


 そう言って微笑み合う私たちを見ていた公爵が、いつものニヤニヤ笑いを浮かべます。

「何ですか、父上?」

 ジロリと睨むジアス様に、公爵は咳払いをされました。

「いや、いつの間に呼び捨てになったのかと思ってな」

「別にいいでしょう。クレインとはもう四年もの付き合いになるのですから」

「うむ、いいと思うぞ。今までがヘタレ過ぎだった。やっと人並みになったと思うと父さん、嬉しい♡」

 ドスッとジアス様の拳が、公爵のお腹にめり込みました。

 照れたジアス様が可愛いです。


 ジアス様に呼び捨てで名前を呼んでほしいとお願いしたのは、私の方でした。

 彼は、突然変えるのはおかしくないでしょうかと尋ねられましたが、私はその突然の変化が欲しかったのです。

 真実を知った今、気持ちを整理するためにも目に見えて分かる嬉しい変化があればいいなと思ったのです。

 それがジアス様からの呼び方というのは、ちょっと欲に走り過ぎたかもしれませんが。


 ジアス様を揶揄って遊んでいた公爵が「じゃあ」と私に矛先を変えてきます。

「クレイン嬢の家にいた執事見習の青年が、現在ケッセル国にいるのは聞いたかい?」

「え、いえ、そこまでは……。サビティ国の隣の国ですよね。初めてお会いした時に、確かそちらの国へ寄る途中だったかと。あ、もしかしてヘイネス公爵は彼に会いにケッセル国へ?」

「ああ。クレイン嬢に会いに行ったあの後、彼を探して再会したよ。彼はケッセル国の王弟殿下だった」

「え?」

 いきなり他国の王族が出てきました。


 昔、侯爵家で執事見習をしていた青年が、実は他国の王子だとか、そんな事ありえるのでしょうか?

 困惑している私の横で、ジアス様が公爵に「いいのですか?」と小声で問いかけています。

 あら、どうやらジアス様はご存知だったのですね。

 私がジト目を向けますと、ちょっとだけ狼狽えます。可愛い。

 そんな私たちの様子に気付いているのか、公爵はニヤリと笑いました。

「構わないだろう。いずれは分かる事さ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ