ふぇ、思いがけない真実ですか
その後、落ち着いた私は異母妹の資料に目を通しました。
異母妹のはジアス様や王太子に聞いていた通りの内容です。
彼女もまた、薬という怪しい物に手を出しているので侯爵家を追放されるのは間違いありません。
最後に継母の資料を読みます。
そこには、ハッキリとはまだつかんでいないようですが、怪しい動きを察知しているとの情報が書いてあります。
先日、王太子と話していたように異母妹の薬の出所は、継母なのかもしれません。
それをジアス様にお渡しして、公爵にも目を通していただきます。
「これは王太子殿下に渡した方がいいな。ありがとう、オーガ。これで先に進めそうだ」
「恐れ入ります。クレイン様が戻って来られるのを使用人一同ひたすら待っていた甲斐がありました」
そうしてオーガは一礼して、マルシアス侯爵家に戻って行きました。
これからの詳細は、また後日にと約束して。
あまりにも沢山の酷い情報に私の頭は錯乱して、オーガをエントランスホールまで見送ってあげる事もできませんでした。
残った私が脱力していますと、ジアス様がモナとケイティを呼んで私を部屋で休ませるように指示します。
「大丈夫です、ジアス様。ある程度は覚悟していましたので」
「それでも傷付かないはずはないでしょう。まさかこれほどの内容とは……。今は休息が必要です」
「あの、それならもう少しだけお時間いただけませんか? 今は一人になりたくないのです」
「え?」
「いけませんか?」
「いや、えっと……。分かりました。ではここで、もう少しお話していきましょうか」
「はい」
そしてジアス様が再び私をソファに座らせてくれたのを見て、公爵がニヤリと笑いました。
「じゃあ俺はオーガの書類の裏を取っておこう。絶対に言い逃れできないようにしておかなければ、いけないからな」
確かに、マルシアス侯爵家の者であるオーガの書類だけでは信憑性に欠けるかもしれません。
それが第三者であるヘイネス公爵が確かだと証明してくだされば、信用性が増すというもの。
私は公爵に頭を下げました。
「ヘイネス公爵、お手数おかけいたします」
「そう思うなら『お義父様』と呼んでくれないか?」
「え?」
私が目を丸くしますと、公爵はガハハと笑います。
隣でジアス様が「何を言ってるんですか⁉」と顔を赤くして叫んでいます。
ああ、いつものじゃれ合いですね。
「では、また後でな、クレイン嬢」
「はい、お義父様。行ってらっしゃいませ」
私もじゃれ合いに混ぜていただこうと揶揄うつもりでお義父様と呼んでみましたら、室内がシーンと静まり返りました。
いえ、公爵とジアス様はいつものように蹲っておいでです。
モナは「はうぅ」と両手を頬に当て、ケイティは生暖かい目を私に注いでいました。
あら、返答を間違ったかしら?
なんだか恥ずかしくなって頬を両手で押さえて俯いていたら、公爵のコホンという咳払いが聞こえました。
「では、夕食時だな」
そう言って、そそくさと出て行かれます。
モナとケイティもお茶の片付けと新しいお茶の用意をしてきますと言って、部屋から出て行きました。
残されたのは、私とジアス様の二人きりです。
あれ? 扉、閉まってます?
ジアス様と二人きりだというのに、モナがしっかりと扉を閉めて行ってしまいました。
年頃の異性を二人きりにしていいのかしらと扉を見つめていますと、ジアス様が隣に腰かけます。
「少しは元気、出ましたか?」
ジアス様の苦笑に私は「はい」と頷きます。
お父様の異常な嗜好にショックを受けていたはずの私は、いつの間にかジアス様と公爵の雰囲気に流されて元気になっていました。
先程までの喪失感が嘘のようです。
「ありがとうございます。お二人が居てくださって本当に良かったです。私一人ではこのような事実、受け止められなかったと思います」
「貴方の役に立てたのなら良かった」
ジアス様は微笑みながら、またもや私の頭を撫でてくれます。
ああ、気持ちいいですね。どうやら私は頭を撫でられるのが好きなようです。
今まで誰もそんな事をしてくれなかったからかもしれませんが、ジアス様の大きな手で撫でられると、それだけで全身から力が抜けてしまうのです。
目を閉じて撫でられていますと、ジアス様がおでこをくっつけてきました。
ちょっと吃驚してしまいます。ですが、嫌な気はしません。
そのまま受け入れていますと、ジアス様がホウッと熱い息を吐かれました。
「クレイン様は侯爵になられたら、どうしますか?」
「どう、とは?」
突然の問いに、首を傾げます。
「結婚は考えられていますか?」
ドキッとしました。それは……。
「……離婚したばかりですので、そこまでは何とも。とりあえずは侯爵のお仕事を頑張りたいと思っています。領民にも色々と迷惑かけていたと思いますので、安心して過ごせる領地造りに全力を注ぎたいと考えています」
「……そうですか」
私の答えにジアス様は返事をしてくれましたが、そのまま黙り込んでしまいました。
まさか、嫌われた⁉
狼狽える私は、思わずジアス様から離れてしまいます。
「クレイン様?」
「私、確かに今はまだ結婚を考えられる状態ではありません。ですが私だって女です。好きな人と結ばれたいとは思っています。だけど、それは……」
「まだ時期じゃない?」
そう言われてしまって、私は黙り込んでしまいました。
違います。時期とかそんなの本当は関係ありません。今すぐにでも、その胸に飛び込めるものなら飛び込みたいです。でも私は……。
「いいのでしょうか? 離婚した女がすぐに甘えてしまっても……。私は傷物ですよね?」
自分で自分を傷付けるような発言をしてしまいます。
だって、いくら白い結婚だったとしても私はつい最近まで夫がいた身なのです。
清廉潔白なジアス様の胸に飛び込んでいいような、そんな綺麗な存在ではないはずです。
少なくとも世間は許さないでしょう。
それにこれから、私の家族の悪事は世間に公表されてしまいます。
そんな私に関わって、ジアス様が嘲笑されるのは絶対に嫌です。
ポロリと涙を零す私をジッと見つめる青と黄色のオッドアイ。
ジアス様は黄色の瞳を指先で指し示します。
「私には獣人族の血が混じっています」
「え?」
いきなり聞きなれない言葉が聞こえました。
獣人族⁉
それは昔、この国にもいたとされる動物と人間の特徴を併せ持った種族。
魔法使いや魔物なんかと一緒に絶滅した、今はもういないはずの存在です。
その種族の血が、ジアス様に流れているという事でしょうか?
私はマジマジとジアス様を見つめます。
「そういえば、以前に金色に変色されて瞳孔が縦長に見えた事があります」
「そうですね。そういう時は獣人族の血が顕著に表れている時ですね」
微笑むジアス様に怖さは感じられません。
しかし黄色の瞳が獣人族を表しているとすると、公爵ではなくてお母様にその血が受け継がれていたという事でしょうか?
青色の瞳は公爵から、黄色い瞳はお母様から受け継がれたと以前に仰られたのを思い出します。
「実は、クレイン様にもその血が受け継がれているのをご存知ですか?」
「え?」
私も一緒なのだと言われて一瞬、驚きで動けなくなりました。
「え、ですが、私には黄色の瞳はありませんけど……」
「その銀髪が証拠です。多分、犬科なのかな。私はネコ科です」
そう言って私の髪を丁寧に撫でつけてくれます。
「私のこの髪は、先祖返りだと思うのです。家系図を辿ると一人だけ銀髪の方がいらっしゃったみたいなので。ですがお父様はこの髪を昔、侯爵家で働いていた執事見習の青年の物だと勘違いしていました」
「ああ、父上から聞いています。銀髪の青年が居たそうですね。多分その方はクレイン様と同じ獣人族の末裔でしょう。お母上はそれを知った上で招き入れたのでしょうね」
「招き入れたのは祖父だったようですが……。ではお母様も、自分が獣人族の末裔だと知っていたのですか?」
「ええ、その縁で我が公爵家と仲良くなったみたいです。私の母上がそうでしたので」
次々と明かされる真実に、私の脳は追いつきません。
この国には珍しいとされている銀髪。それがまさか、獣人族の血の証だったとは。
それに執事見習の銀髪の青年も同族だったようで、ジアス様のお母様とも繋がっていました。
これらの事実に、私はどう対処していいのか分からなくなりました。




